一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 王道を行く者達26

 巨大な箱を持ち帰ったリーゼ達…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)


 リーゼ達はランナーの町へと戻って来ていた。
 カルサルとウィーリーに箱の中の遺体を引き渡すのだが、二人は森の戦闘で自分達の実力の無さを痛感し、大分落ち込んでいた様だった。

 しかし、リーゼ達には二人に掛ける言葉は見つからなかった。
 何を言った所で、死んだ一人は戻って来ないのだ。
 後は彼等がどう生きるかの問題である。
 リーゼの様に復讐に生きるのか、それとも何もかも忘れ、戦いから身を引くのか。
 その選択は彼等が決めることなのだ。

「ごめんなさい、私達はもう行くわ。二人共、彼の為にも生きて行ってね」

「…………」

 二人からの返事はなく、リーゼ達は二人から別れて行った。

「しんみりしてても仕方ないわ。防具屋のお爺さんの所に行きましょうよ」

 リーゼは気持ちを引き締め、先に進む決意をする。

「ああそうだな。こんな事は何処の国でも起こっている事だ。例え平和な時間が訪れようと、事故や病気でも人は死ぬ。乗り越えるのは残された者の命題だ。リーゼ、お前だって分かっているだろう?」

 ハガンはリーゼを説得しようとしている。

「……そうかもしれないけど、でも私は復讐は諦めないわよ」

「リーゼが止まらない事は分かっている。だからと言ってそれだけに囚われるな。お前の為に周りが死ぬ事だってあり得るんだからな」

「……うん」

 リーゼだって分かっていた。
 何も考えず突撃したなら、死ぬのはリーゼだけでは済まない。
 リーゼはハガンや仲間達を信頼しているし、死なせたくないのだ。

「リーゼちゃんが気にする必要は無いよ。私は好きで付いて来ているんだからね」

 リサもリーゼを慰め。

「俺だってそうさ。リーゼちゃんに付いて行きたいって思ったから此処に居るのさ。それに冒険には危険がつきものだろ? それで死んだら自分の所為だぜ」

 ラフィールもそれに賛同している。
 二人の声を聴き、リーゼは仲間を死なせない事を心に誓った。

「私は死なないから安心してくださいリーゼさん! 勇者の行動を記録するのが私の役目です。トイレの回数から、お風呂で何処から洗うかまで、バッチリ記録していますので任せてお、ぐほおおおおおおおお!」

 リーゼの拳がマッドの腹に突き刺さった。

「マッドさん、その記録している物を渡してもらいましょうか」

 リーゼは、マッドの日記帳を無理やり奪い取り、その場で破り捨てた。

「防具屋に向かいましょうか。材料を渡して防具を作って貰わなきゃね」

 リーゼ達はお爺さんの防具屋に向かっって行く。
 そしてお爺さんに素材を渡して二日目。
 リーゼ達はお爺さんに呼び出されていた。

「結論から言おう。無理じゃ、これを加工する事は出来ん」

 そう言われて、お爺さんから防具の作製を断られてしまった。

「なんで!」

 その声にリーゼは驚く。

「確かにこれを使えれば最強の防具も作れるかもしれん。しかし硬すぎてワシの道具では歯が立たないんだ。何か加工出来る道具さえあればなぁ」

 お爺さんは道具が無くて無理だと言っている。

「そうか、硬すぎるから加工が出来ないのね」

 リサは納得しているが、リーゼにとっては諦められなかった。

「お爺さん何とかならないんですか? 私達が苦労して取って来たんですよ」

「リーゼ、方法は有るかもしれないぞ。武器の加工は出来たんだ。方法さえ分かれば可能性は有る」

 硬くて切る事も、曲げる事も出来なければ、手に持つ角の剣の加工が出来なかったはずだ。
 きっと何か方法があるのだろう。
 武器を強化した時には素材は加工され、武器の部品となった。
 見た事も無い素材を加工出来たのはどうやったのだろうかとリーゼは考える。

 高熱の炉で熱したのだろうか?
 それならばここの工房にもあるはずだ。
 では最初は元となった魔物の角から如何作ったのだろう?

 ほとんど加工はされていなかった。
 長さを調節した程度だ。
 だが長さを調節する為には、一度切断しなければならない。

 切断、思いつく事は一つしかなかった。
 リーゼの剣、それが答えなのだろう。
 通常の状態では切断出来なかったが、熱を加えればあるいは……。

「この剣を使って。たぶん熱した素材なら、斬る事が出来るはずよ」

 リーゼは腰に下げていた角の剣を、お爺さんに手渡した。

「ふむ、分かった。やってみよう」

 リーゼ達は宿で待ち続け、次の日。
 お爺さんからの連絡が入り、無事加工に成功したらしい。
 それから十日が過ぎ、ついに全ての防具が完成した。
 防具はリーゼの為の籠手こてが一組。
 胸当てが一つ。

 ハガンの為の脛当すねあてが一組。
 ラフィールの為の盾が一つ。
 リサの為の鎧が一つ。
 マッドの胸当てが一つ。 
 作れたのはそれだけだった。

 試しにと、リーゼは自分の為に作られた籠手を装着した。
 思ったより軽く、ピッタリと自分の腕に馴染なじむ。

「リーゼとか言ったな。これは余った部品で作った籠手だ、試し切りしてみないか?」

 リーゼが初めてこの店に来た時と同じ事を試されている。
 今回はお爺さんが自信を見せていた。
 リーゼにしてもこの勝負は、お爺さんに勝ってもらわなければ困るのだ。

「その勝負乗ったわ!」

 テーブルに置かれた籠手に、リーゼは真っ直ぐに刃を振り下ろした。

 ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン……。
 籠手は振り下ろされた刃を受け止め、薄っすらと傷が付いたのみだった。

「良おし! ワシの勝ちじゃ!」

 お爺さんは、自分の防具が斬られた事が余程くやしかったのだろう。
 今回勝った事に、拳を握り全力で喜んでいた。

「負けたわ。やるわねお爺さん」

「この防具が広まれば、もう少し魔物と対等に戦えるんだがなぁ。どうだ、その武器を譲っては貰えないか。一本でいいんじゃが」

 確かにこの防具が広まれば人側が有利になる。
 だからと言って、自分の戦う手段を手放す程、リーゼは大人ではない。

「ごめんなさい。これは渡せないわ。旅に必要な物だもの」

「まあそうだろうな。簡単に自分の武器を手放す奴はおるまい。まあ此方で何とかするわい。見ておれ、ワシの防具を世界中に広めてやるぞ! ああそれと、その籠手はオマケじゃ。どうせ片方しか作っておらんからな。持って行くと良い」

 お爺さんはリーゼに籠手を突き出している。
 リーゼはそれを受け取ると、お爺さんはニカッと笑っていた。

「ありがとうお爺さん。じゃあこれお代よ。これからも頑張ってね」

「ああ、勿論じゃ!」

 リーゼは代金を全額支払い、お爺さんの店を出た。

 武器と防具が揃い、これで魔族と戦えるだろう。
 いや、相手にはまだ強大な魔法が残っているのだ。
 魔法を防げる何かを見つけなければならない。

 リーゼは次の町へと進もうかと悩んでいた。
 進む為には、あの森を抜けなければならない。
 あの作戦は成功しただろうかと考え、リーゼ達は準備をして一度向かってみる事になった。
 森の前に到着すると、大勢の人達が木を切り倒している。

「おー凄いな。リーゼちゃん、ちゃんとした道が出来てるぜ!」

 ラフィールが額に手を当て、その光景を見て驚いている。

「おや、これなら今日中に次の町へ到着出来るかもしれませんね」

「まあ、戦いが無いならその方が楽だね」

 マッドとリサも回りを見渡し、この道が安全そうだと思っている。
 あの作戦は成功した様だ。
 傭兵達が駐在し、魔物の出現を見張っている。
 森は中心から切り開かれ、次に進める道が出来つつあった。

「そうね、これだけ人が居れば安全に通れるわね」

「それでも敵が出ないとは限らないんだ。移動中は気を抜くなよ」

「ええ、分かってるわ」

 リーゼ達はその道を通り、安全に移動する事が出来た。

「見えて来たよ。あれ町じゃない?」

 馬車を操るリサが、遠くに見える町を見つけた様だ。
 そろそろ夜になりそうなのだが、その町はリーゼ達の目の前で、一気に輝きを増した。
 それはまるで星の光の様に、爛々らんらんと輝いている。

「何なのかしらこの町。色々な所が光ってるわ」

 町の光にリーゼが不思議がっている。

「俺も見た事が無い技術だな。この国独自の物なのか?」

「明るくて良いじゃないか。行ってみようぜリーゼちゃん」

 その町の住民に聞いた所、それは電気という技術だった。
 サンダーラットと言う物を使い、それを生み出しているらしい。

「まあ今日は休みましょうよ」

 リーゼ達は宿を探し、今日はそこへ泊まった。
 その中も昼のように明るく、蝋燭ろうそくさえ使う必要がない。

「リーゼさん、私明るいと眠れないんですけど、如何しましょう」

「へー、それじゃあ目隠しでもして寝れば良いんじゃないかしら」

 困っているマッドを見かねて、宿の女将が話しかけてきた。

「大丈夫ですよ、部屋の入り口に灯を消すボタンがあるので。それを切ると暗くなりますよ」

 部屋の灯りは切れるそうだ。

「お客さん、この町は初めてみたいだね。此処は夜でも光が溢れるプラネットの町さ。楽しんでいっとくれよ」

 リーゼ達は明るい夜を満喫し、次の朝を迎えた。

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