一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 体重がマッハでやばい

 三人は花を探し旅を続ける…………


ベリー・エル(王国、兵士)        フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)


「あっ、町があったわよー。あそこに降りましょうよ」

「そうですわね、あの町で砂漠の事を聞いてみましょうか」

 ! そうでした、これは任務でした。
 危うくグルメ旅行と勘違いする所でしたよ。
 うん、これは任務です。
 任務任務。

 そう思いなおした私達は、その町に到着した。
 町の名前はスイーツの町、なんだか美味しそうな名前ですね。

 名前になっているだけあり、様々なお菓子が町の至る処で売られているみたいです。
 情報を集める為にもと、私達は露天のお菓子を買いに行った。
 そう、情報を集める為に!

 お店で買ったのは、名物とうたわれているクッキーだ。
 クッキーをパクッと口に入れると、その美味しさが伝わって来る。
 サクッとして中からとろけるゼリーが爽やかなクッキーだ。

 ゼリーが入ってる事で、口がパサパサになる事も無い。
 十点満点中八点をあげましょう。

 その味に満足した私は、フレーレさんの腕を引っ張った。
 そして、近くにあった店を指さす。
 あれを見てくださいフレーレさん、あそこにプリンが売ってますよ!

 私達はその店に向かい、そしてプリンを買って食した。

「あら、これは美味しいですわね。プルンとしていて濃厚な味です。後味も爽やかでこれは素晴らしいですわ」

「見て! あっちにはアイスクリームが売ってるわよー!」

「な、何ですって!」

 果てしなく続く食のロードに、私達は目を奪われ続けている。
 計二十種類、多くの物を食べ尽くし、私達は満足した。

 ふう、満足しました。
 じゃあ別の町へ行きましょうか。
 私はフレーレさんの体を持ち上げようとするのだけど。

「待ってエルちゃん、何か忘れている気がするの。えっとー、何だったかしら?」

 そうでした、お菓子の誘惑に負けて、また任務の事を忘れる所でした。

「……任務」

「ああ、そうでした。任務をこなさなければ」

 この町は危険です。
 このままでは私達の体重が増えてしまう。

「あれを見て! 噂に聞いたチョコレートパフェよ!」

「な、なんですってえええええええええ!!」

「……おお!」

 いや、そうじゃない。
 いやでもパフェ食べてからでも……。
 はっ、と気付いた時には、目の前にあったパフェが空になっていた。

「み、見てください。あれは東方の国にしかないと言われていたアンミツですよ!」

 あ、アンミツ!
 この地方じゃ食べられないと思っていた幻の甘味。

 いやいやいやいや、駄目です駄目です。
 これ以上は絶対駄目です!
 もう駄目なんです!
 私は二人の手を掴み止めた。

「え? 何? お腹が膨らんで、プクプクになっちゃうってー? ……確かにちょっと食べすぎよねー、で、でも、もう一つだけ……」

「そ、そうですわ。後一つ食べたら聞き込みを開始しましょうか」

 わ、私は待っていますね。
 ごくり。

「エルちゃんは来ないのね? 私達はちょっと行って来るから、少し待っててね」

「エルさん、少々お待ちくださいね。直ぐ食べて来ますので、おほほ……」

 自分達でも分かっているんだろう。
 しかしこの町のお菓子はレベルが高く、一度食べたら他の物も食べてみたくなってしまう魔性のお菓子だ。
 ぷっくりお腹の為にもそろそろ我慢しなければならないでしょう。

 私は二人を待った。
 我慢して待った。
 太らない為に待った!

 そして満足そうな顔をしてお二人は戻ってきました。

「美味しかったわー。エルちゃんも来たら良かったのに」

「ええ、もう二度と味わえませんのよ? 今からでも行きませんか?」

 私は首を振った。
 もうこれ以上は食べません。
 もう満足したみたいなので、それでは情報を集めましょうか。

 満足した二人と聞き込みを開始すると、それは五人目で大体の場所が分かった。
 この町から北西に行くと砂漠が見えて来るらしい。
 そこにある町で、花の伝説があるのだとか。

 情報を聞き終え、早速向かおうとする私達だけど、そこで何かが聞こえて来る。
 カンカンカンと、町の中に何かの音が鳴っている。

 何だろう? 何かの警鐘?

「魔物が町の中に入ったぞ! 外に居る者は建物の中に避難しろ!」

 随分と大変な事に出くわしたらしい。

「これは私達の出番の様ねー!」

「ええ、幾らでも相手をしてあげましょう!」

 私達は走り、敵の居る場所に向かった。
 敵は獅子の頭を持つ大猿で、その体は人よりも大きい。
 肘から先が無くなっていて、その代わりに巨大な五本の爪が伸びていた。

 その魔物の周りには幾つもの死体が散乱し、傭兵達や警備の者達と戦いを繰り広げている。
 ですが私達三人の敵ではありません。
 さあ皆さん行きましょう!

「ごめんエルちゃん。走ったらちょっと気持ち悪くなっちゃった。うッ、吐きそう……」

「わ、わたくしも、ちょっと動けません。エルさん、ここは任せましたわ……」

 二人共食べすぎなんですよ!
 さてはさっきの店で、他の物も食べて来たんですね!
 私は戦って来ますので、何処か隠れていてください!

 私は気分が悪くなっているフレーレさんとレアスさんから離れ、敵の下へと急いだ。
 私は直ぐに敵の前に立ちはだかり、炎の剣を創り出す。
 相手の爪は私の剣より長いようで、まずは遠距離から様子見しましょうか。

 剣向けから炎を飛ばし、獅子頭を直接狙った。
 獅子頭はその爪で炎を刻むと、空気中に炎が霧散して消えてしまう。

 クッ、あの爪、魔法を刻む事が出来るのですか?!
 結構厄介ですね。

「行くぞ! 俺達の維持を見せてやれ!」

「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」

 戦っているのは私だけじゃない。
 傭兵の何人かが突っ込むのだけど、獅子頭はそれを紙屑の様に斬り裂いている。
 しかしそれでも何人かは獅子頭の体に接近して、剣を振るい傷を与えていた。
 中々根性がありますけど、それは切り傷程度しかダメージを与えられない。

 良し、私も行きます!

 傭兵達に続き、私も獅子頭に剣を振る。
 その剣は片手の爪で受け止められてしまった。
 相手の力は強く、私の力でも押し返されてしまっている。
 これでは十秒持たない!

 だがそこへ、私のフォローに傭兵達が参戦した。
 私の剣に自分の剣を重ね、そのまま相手の爪を押すと、獅子頭と私達の力が拮抗したのだ。
 片腕を押さえたのは良いけど、獅子頭には、もう片手が残っていた。
 だがそれは此方には向かわなかった。
 別の相手を狙い、その爪を振るっている。

「今だ! 背後を狙え!」

 傭兵の何人かが背後に回り、獅子頭に剣を突き立てたが、体毛に阻まれてしまう。
 剣は殆んど刺さっておらず、相手にダメージを与えられない。
 そのまま獅子頭の反撃が始まる。
 片腕をブンブンと振り回し、私の方にも攻撃が来る!

「……クッ!」

 私は剣を手放し、その場から脱出したのだけど、逃げ遅れた者達が刻まれている。
 倒された傭兵達が地面に転がっていく。
 相手は中々強い。
 ここが町の中じゃなければ、もう少し戦い方があるんだけれど。

 一度戦法を変えてみましょうか。
 この場に居るのは私一人では無いんです。
 正面は傭兵に任せるとしましょう。

 私はこの場から離れ、背後を狙い隙を窺う。
 獅子頭は傭兵達の相手をして、この私から目線が外れた。
 タイミングが来た!

 その隙をつき、私は背後から獅子頭に迫る。
 狙うのは肘から上。
 爪がいくら硬くても、腕の部分はそこまで硬くないでしょう!

「はああああああ!」

 獅子頭が此方に振り向く前に、私は獅子頭の左腕を斬り飛ばした。
 残るはもう一本です!

「チャンスだ! 押せ押せ!」

 片腕を無くした獅子頭に傭兵達が攻め立てて行く。
 だがそれを無視して、自分の腕を斬り飛ばした私に迫って来ている。
 力負けするのは分かっているけど、それでもその攻撃を剣で受けた。

「ぐぅ……!」

 力に押され、私の体は地に沈む。
 しかし硬直した獅子頭に、傭兵達は剣を突き立てた。

「グガアアアアアアアア!」

 真面に剣を食らい、声を出すが、まだ倒れそうにも無いかった。
 込められた力は増して、私は膝をついていしまう。
 もう無理だ!

 その場から離脱し、もう一度爪を受け止めた。
 また傭兵達が背中から剣を……。
 これを繰り返せばその内倒れてくれるだろうか?
 でもその前に、私の体力が無くなってしまいそうだった。

 相手の攻撃は続き、私は次の攻撃は避け、もう一度躱す。
 だが不運な事に、建物がそれを邪魔をしてしまう。
 爪が迫り、それをまた剣で受け止めたのだ。

 もう体力が無い私は、どんどん押されて肩に自分の剣が食い込み始める。
 剣を消せれば良いが、そうしたら爪が私を引き裂いていてしまうだろう。
 かなり危険な状態だったけど、どうやら助けが来たらしい。

 ドゴーンと、その音と共に、獅子頭が吹き飛んでいく。
 その頭に何かがぶつかったのが見えた。

「あー、吐いたらスッキリしたわー。それじゃあ始めましょうか!」

 それはフレーレさんの蹴りだった。
 ……けどレアスさんは居ない。
 まああの人は吐かないでしょうね。
 それよりも。

「グアオ……」

 フレーレさんの攻撃を受けたというのに、獅子頭がフラフラと立ち上がる。
 あの攻撃をを耐えるとは、かなり耐久力があるのでしょう。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 そして雄たけびを上げて突進して来た。
 私達も走り、片腕の爪に対処する。
 止めるのは一瞬で良い!

 ガッと爪を押さえると、敵の心臓辺りに、フレーレさんの鋭い横蹴りが突き刺さる。
 獅子頭の動きが止まり、ひざから崩れ落ちていく。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 傭兵達の雄叫びが上がり、この町の代表らしき人物が私達の前に現れた。

「おおお、貴方達はこの町の英雄です。さあ皆の者、宴の準備じゃ! 菓子を持ちより食べ放題にしましょう。さあ存分にお食べてくださいませ!」

 とてつもない勢いで、私達の前にお菓子が並べられる。
 多くのケーキやクッキー、チョコや飴に至るまで、この町全てのお菓子でしょうか?
 凄く美味しそうな物でしたけど、これ以上旅を遅らせる訳にはいきません!
 私もそんなに太りたくないですから!

「要りま……せん!」

 私はきっぱりと断ると、残念そうなフレーレさんとレアスさんを掴み、この町から逃げ出した。

「ああ、お菓子が……エルちゃんもう少し居ても良かったんじゃないの?」

「そうですわ、見た事も無いお菓子が沢山ありましたのに……」

 私は首を振る。
 そんな事をやっていたら永久に町から出られません。
 あんな量のお菓子を食べていたら、プクプクになって戦う事も出来なくなっちゃいますよ!

 私のジェスチャーが通じたのか、二人は言葉を失って黙り込みました。
 一か月後の自分でも想像したのでしょう。

 でも、もう一度食べたいな。
 任務の帰りにお土産を買っていきましょう。

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