一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

1 腹ペコ三人衆

 イモータルは書物を読みメギドを救う方法を探していた…………


ベリー・エル(王国、兵士)        フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士) イモータル(王国、女王)
べノムザッパー(王国、探索班)


 王城から持ち帰られた書物の中で、イモータルはメギドを救う手立てを探していた。
 何日も掛けて何度も読み返し、蜘蛛の糸よりも細い希望を見つけ出した。
 しかし希望と言うには余りにも不確かな物である。

「もしこれが有るのなら、あの人は助けられる」

 それはラグナードより遥か北方の砂漠に咲くと言われる花の雫である。
 百年に一度咲くガイアフラワーの朝露を飲ませると、あらゆる病が治るのだそうだ。
 しかしその場所に向かう為には、ラグナードの北にある海を越えて、その先にある砂漠へむかわなければならない。

 これはただの伝説でしかない。
 そして百年が何時なのかも分かっていない。
 ただの伝説。
 だがイモータルはそれでも手を伸ばした。

「べノムを呼んでください」

「八ッ!」

 イモータルは親衛隊ガーブルに話しかけ、探索班のべノムを呼ばせた。
 その知らせで、直ぐにこの部屋へやって来た。

「イモータル様お待たせいたしました。べノムザッパーただいま参上いたしました。それで、え~っと、何か御用でしょうか?」

「はい、べノムさんの班の人員を貸して欲しいのです。お願い出来ませんか?」

「御命令してくだされば、幾らでもお貸いたしますよ」

「これは国の為ではありません。私のわがままなのです。ですからお願いなのです」

「貴方はこの国の王の一人で御座います。命令さえあれば、俺達はどんな事でもやり遂げて見せましょう。ですから国の王として御命令をお願いします」

「友達として聞いては貰えないんですね……」

 イモータルは少し残念な気持ちになった。

「俺の部下も友なんですよイモータル様。命令もなしに危険な場所に行かせられませんからね」

「……そうですね。ではべノム、北の大陸に兵を派遣し、ガイアフラワーの伝説を調べて来なさい」

「了解しました!」

 べノムが部屋を退出していった。

「頼みますよ……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 べノムは命令を遂行する為人員を探していた。
 自分が行っても良いのだが、そうなればロッテはついて来るだろう。
 結局馬車の旅になるなら、別にべノムでなくても良い。

 そして旅をするなら必然的に人型に近い人物が良いと、エル、フレーレ、それとレアスにも頼む事になる。
 三人共一度旅には出ていて、実力的にも問題はないはずである。
 エルの部屋に向かったべノムは、丁度よく集まっていた二人にもついでに話すと。

「……うん……行く」

「別にいいわよー」

「お二人が行くのならば、わたくしも行ってもよろしいわよ」

 三人ともあっさりと受け入れ、旅の準備をするようだ。
 エルとレアスは飛行能力がある。
 フレーレを抱えて行けば、そこまで時間は掛からないだろう。
 そして三人が旅の準備を終えて、いよいよ出発の時が来る。

「三人で旅行なんて久しぶりよねー」

 エルが頷いている。

「ええ、楽しみですわ。美味しい物を食べ回りましょうか」

 三人が楽しそうに騒いでいる。
 一応任務だという事を分からせたほうがいいのかもしれないと、べノムは注意を促した。

「お前等、これは任務なんだからな。分かってるんだろうな?」

「ああうるさいですわね。そのぐらい分かっていますわ。からすは少し黙ってください」

「もう良いから、べノムあっち行っててー」

 エルも頷(うなず)いている。
 この三人相手だと、言い合いをしてもべノムに勝ち目が無いだろう。

「もう良いから早く行っちまえ。じゃあ俺はもう行くからな。三人共問題は起こすなよ」

 べノムはその場を飛び立ち、この三人の旅の無事を祈った。
 ……主にやり過ぎない事を。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 べノムが居なくなって、私達エルは出発しようとしていた。

「やっと行ったわね。私達がそんなに信用出来ないのかしらー」

「あんな鴉(からす)は放っておけば良いのです。準備も出来ましたし、もうそろそろ出発致しましょう」

「……ん!」

 私はその言葉に頷き、ガシッとフレーレさんを掴んだ。
 
 お二人共さあ出発しましょう。
 ここから楽しい旅行ですよ。
 そう張り切って私達は、防寒具を着ながら北の山を軽く越えて、海を渡る為にラグナードに到着した。

 飛んでいる間に敵と遭遇したら戦う手段が無いのですが、港町にまで特に何事も無く終えた私達は、船旅まで終了して北の大陸にあるアロマローズの町に到着しました。
 平和っていいですよね。

 ですがここからが本番です。
 まずは美味しい物を食べて、のんびりしながら行きましょう!
 私は店の看板をビシッと指をさした。

「そうね、まずはお腹を満たさなくっちゃダメよねー」

「確かにそうですね。腹が減ってはいい仕事ができませんもの。それでは行ってみましょうか」

 私達は美味しそう物がある店に入り、シェフのおすすめの物を注文した。
 出て来た物はパンとシチュー、平穏な味の平凡な料理だった。
 私としては充分美味しいのですが。

「これがおすすめなのね……」

「シェフを、シェフを呼びなさい!」

 元貴族のお二人にはあまり評判は良くなかったようです。
 レアスさんが騒いでいると、奥から料理を作ったシェフが出てきました。

「貴方がシェフなのですか! これはお勧めと呼べるレベルではないでしょう! どういうことか説明なさい!」

「お客さんすいませんね、今お勧めと言われても、これしか出せないんですよ。町の外も海も魔物が出る様になって、取れる動物も魚も減ってしまたんです。値段が高騰こうとうしてしまって、うちの様な小さな店では、扱う事も難しくなってしまったのです。ですから、勘弁してもらえませんか?」

「クッ、こんな所にも魔物の影響が?!」

 キメラの出現は王国の所為でもあるので、レアスさんは文句を言うのを躊躇ためらっている。
 一年程度で此処まで繁殖するとは、恐るべき繁殖力ですね。

「ねぇ、私達でこの辺りのキメラを退治しちゃおうかー」

「構いませんが、どれだけの数が居るのかも分かりませんのよ? それに何時までも此処に留まる訳にもいきませんわ」

「う~んそれじゃあ、今日だけにしましょうかー?」

「ん……分かっ……た」

 私達は出されたシチューを食べ、どうせならという事でギルドに寄って依頼を受けました。
 本当は海のキメラを退治して魚料理を食べたかったのだけど、正直言って海での戦いは全員苦手です。

 甲板に出て来るのなら対処出来るのですが、海の中に潜られると途端に不利になってしまいます。
 なので今回は町の外での戦いを行います。
 ついでに動物を狩って料理を作って貰いましょう。

 そして私達三人は、それぞれバラバラに得物を探すことになりました。

「……!」

 ハッ、あれは野牛だ!
 あれ一匹居れば、お肉料理がたっぷり堪能たんのう出来る。
 そう思い、私は手に炎の剣を出現させてそれを追いかけのですが、それを追う奴がもう一匹居たらしいです。

 ワニの頭をしたヒョウの体を持つ奴で、背中から炎が燃えている。
 敵が炎に耐性を持っているなら、私とはあまり相性が良くないです。
 でもスピードは私の方が上です。
 まずは牛を狙い、空中から滑降かっこうして、野牛を仕留めます!

「……ハッ!」

 一撃で野牛を倒し、崩れ落ちたのは良いのですが、倒した野牛をワニが狙っています。
 牛に飛び掛かり、私の得物を食い荒らそうと迫っていた。
 私のお腹の為にもそれは絶対させない!
 私は炎の大剣を振り、その動きを阻止した。

 ワニはその攻撃で、こちらを敵と認識した様だ。
 唸り声を上げて威嚇いかくしている。
 野牛の前に立ち塞がる私に、ワニは躊躇ためらいなく飛び掛かって来た。

 一瞬で終わらせてあげます!
 飛び掛かるワニの頭から、炎の大剣で一刀両断……出来ない!
 口の先が少し切れただけでした。

 攻撃に失敗した私は、このままでは地面に倒されるてしまう。
 そうなっては勝ち目が無い。

 それなら!
 私は自分の剣を放棄ほうきし、自分から地面に倒れ込んだ。
 敵の下を滑る様に飛び抜け、敵の攻撃を回避しました。

 大した事は無いですが、脱出した際に足の爪で肩を切られてしまったらしいです。
 ワニの背後にでた私は、もう一度剣を作り出し、ワニに向かって振り被った。
 その攻撃は、ワニの尻尾を切断するに留まってしまう。

 頭以外はもろいらしい。
 それならそこを狙うだけです!

 私は剣をワニへと投げつけるのだが、それは軽くかわされてしまった。
 好機と見たかワニは走り、体勢を崩した私へと迫って来る。
 私は炎の翼で飛び上がり、その攻撃を躱すと、襲い来たワニの背中に乗り降りた。

 私の炎が効かない様に、私にもまた炎は効かない。
 私は手を空に上げると、そこにまた炎の大剣を出現させる。
 刃を下へとひるがえし、両手で背中へと突き立てた。

「シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ワニの呼吸が止まり、私は勝利した。
 そして……一番重要なのは牛です!

 かなりの重量で重かったですが、モテるだけの肉を斬り裂き、私は町へと持ち帰った。
 他の三人も戻って来ていて、それぞれの得物を持ち帰り、先ほど寄った店に食材を持ち込んだのでした。

「本当に余った部分は貰えるのですか!」

 シェフのおじさんは食材に喜び、料理をしてくれるみたいです。

「ええ、その代わり料金は無しね」

「勿論ですとも!」

 そして一時間が経ち、テーブルに並べられたのはステーキ、燻製ビーフ、ビーフシチュウ、他の数々の料理が並べられている。

「来たわー、早速頂きましょうよ」

「ええ、たっぷりと堪能いたしましょう」

 私達は料理を残さず食べきり満足して、この町を飛び去った。
 そうこの日から私達のグルメの旅が始まったのです!

 ……あれ? なんか違う気がします。

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