一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 王道を行く者達25

 森の魔物退治に向かったリーゼ達、途中で仲間と逸れてしまった…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
ゲイル(森の中で出会った傭兵)    カルサル(森で出会った三人組の一人)
バラック(森で出会った三人組の一人) ウィーリー(森で出会った三人組の一人)


 リーゼ達は野犬を追い払ってこの森を見渡すが、まだ戦闘は激しく続いている。 

「私達だけでは魔物との戦闘はキツイわ。別の人達と合流しましょうよ」

「いや、大丈夫。俺達だけで十分だ。魔物なんて俺達の剣で斬り伏せてやるぜ」

 赤い髪の男は自身をみなぎらせてそう言っている。

「お二人共、俺達の活躍を見たでしょう。任せてください」

 青い髪の男も、何一つ心配していないらしい。

「そうよ、私達に勝てない敵はいないのよ! 安心して付いて来て!」

 黄色い髪の女は、自分の方が強いと思っている様だ。

 全員がリーゼの提案を拒否をして来た。
 自分の腕に自信はあるらしい。
 だが、自信だけで勝てるほど、魔物は甘くないのである。

 今この瞬間も赤い男の頭上から、三つ目の大蛇が襲って来ている。
 それをゲイルが迎撃し、剣で両断しているのだ。
 その下にいた赤髪の男が、蛇の血で更に赤く染まってしまう。
 髪が赤いのが幸いして、そんなに変わってない。

「うわッ! 敵が来ているなら言ってくれよ! 服が血だらけじゃないか!」

「服なんて気にしているなら帰った方がいいですよ」

「ちょっと貴方、カルサルに酷い事言わないでよね! カルサルは領主の息子でお金持ちなんだからね!」

 赤い男はカルサルと言うらしい。
 青髪がバラック、金髪がウィーリーと紹介してくれた。
 金を持っていい装備をしているから強い訳ではない。

「ごめんなさい邪魔をして。じゃあ自分達の身は自分で護ってね。私達も必死だから」

 リーゼの忠告を三人は聞いてくれず、リーゼは素直に謝った。
 言い争ってる暇は無かったから。

「来た!」

 ガサッと動く森の中から、リーゼが敵を発見した。
 それは犬か狼なのかと、先ほどの野犬と形は同じでも、全く違うものである。
 顔には目も耳も鼻もない。
 ただ口があるだけの魔物だった。

「お嬢ちゃん、こっちからも敵だ」

 ゲイルの方にも来ていた。
 同じ魔物が出現している。

「こ、こっちにも来た! い、行くぞ皆!」

「お、おう」

「い、行きます!」

 三体目が現れた。
 あの三人で一体を対処して貰わないと困る。
 リーゼが一体、ゲイルが一体、そして残り三人で一体。
 これ以上増えられても対処出来ないだろう。
 他の魔物が来る前に、即座に排除しなければならない。

 その犬型の獣の一体が、大きく口を開けてリーゼを襲う。
 リーゼは剣を振り、その体を切断しようと試みるが、獣は剣に噛みつき動かなくなってしまう。

 一本の剣を封じられても、まだリーゼにはもう一本の剣があった。
 剣を噛んだ獣の頭を狙い、二本目の剣を突く。
 必中であると思われた一撃は、外れてしまったのだ。

 獣は剣に咬みついたまま体を回転させ、リーゼの持っていた剣を奪ってしまう。
 その動きで突きの一撃も外れてしまった。

「グアオオオオオオオオ!」

 獣は奪った剣を吐き捨て、もう一本の剣を奪おうと接近して来た。
 大きく口を開き、リーゼの腕ごと噛み砕こうと口を閉じてしまう。
 リーゼは噛みつかれそうなその腕に、魔の意識を集中していた。
 自身の魔力を一点に集中し、一気に解き放つ。

「ファイヤー!」

 炎を飲み込んだ獣は、臓器を焼かれ暴れまわり、その場で絶命してしまう。
 ゲイルはと確認するが、彼方は問題ないらしい。
 放っておいても大丈夫だろう。
 問題は三人の方だと、リーゼは奪われた剣を拾い、三人の元へ駆けよった。

「く、来るなッ!」

 獣は三人の武器を奪い、残りは赤髪のカルサルの剣一本のみであった。
 魔物は武器を奪い、じっくりと始末しようとしているのだろう。
 他の二人はというと、爪で腕を切られて戦力外となっている。

「どうやら間に合った様ね」

 獣はリーゼに狙いを変え、大地を蹴って飛び掛かる。
 また剣を咬み付こうと狙っている。
 剣に咬みつかれ体を回転させようと獣が動きだす。
 しかし、リーゼはもう動きを見極めている。

「それはもう見たわ!」

 剣を咬みつかれたと同時に、リーゼが二本目の剣を一本目の剣の水平に放った。
 獣の下顎(したあご)が切断され、咬みつく事はもう出来ない。

 よろよろと倒れた獣に、ゲイルが剣を振りかぶって走って来ていた。

「とおおおおおりゃあああああああ!」

 ゲイルは倒れた獣に剣を叩きつけ、その命を絶った。
 敵を倒し尽くしたリーゼ達だが、周りの音がなくなっている。
 辺りに人の気配はなくなり、この班は孤立したらしい。
 この場に居ては不味いと、直ぐに前線に走り出した。

「走るわよ、止まったら死ぬと思って!」

「了解だ。三人も付いて来い!」

「ちょ、待ってくれよ!」

「お、置いてかないで!」

「待ってー!」

 敵の死骸を目印に、踏み荒らされた草の道を通り抜ける。
 何時でも対応出来る様に、リーゼは剣を抜いていた。
 目前に大蛇が出現するが、止まる分けには行かない。
 リーゼは走りながら大蛇を両断し、落ちた大蛇の頭をゲイルが剣で潰して行く。

 そのまま走り続け、そこに何かあった。
 四角い白い箱である。
 こんな場所に置いてあるのが、似合わない箱である。

「待って!」

 リーゼはその前で足を止た。
 何となく嫌な予感がしたからだ。
 続いていた足跡は、あの箱の方向へと続いている。

「別の道を行きましょう。わざわざ罠に掛かる必要は無いわ」

 ゲイルも頷いている。
 しかし青髪のバラックが、その箱へと……。

「誰かの置き忘れだろ、こんな物気にしてたら永久に追いつけないぞ」

 バラックがその箱へ手を置いた。
 ほんの一瞬だった。
 バラックが手を置いた面が開き、箱が回転するとバラックの体は飲み込まれてしまう。

「ぎやああああああああああああああああああ!」

 バラックの悲鳴が聞こえる。
 リーゼは急ぎ箱に剣を振り下ろすが、極限の切れ味がある剣でも箱には弾かれてしまう。
 そして、バラックの悲鳴が終わった。

「いやあああああああああああぁぁバラックウウウウウウゥゥゥゥ!!!!」

 ウィーリーが箱に手を伸ばそうと手を……カルサルがそれを止めた。

 リーゼはこの箱に、倒せるイメージが湧いてこなかった。
 触らなければ何もしない様だが。

 圧倒的強者への敵討ちが簡単に出来るのなら、リーゼは苦労していない。
 諦めて貰うのが一番の手だが、二人は納得しないだろう。

「三分だけ付き合ってあげる。それで勝てなければ諦めて。貴方達がそれでも残ると言うのなら、私は貴方達を置いて先に進むわ」

「分かった……その三分で仇を討つ!」

 カルサルが宣言した瞬間、走り出し箱に斬りかかる。
 だがやはり剣は弾かれてしまう。

 箱の面が開き、今度はカルサルがその箱に狙われていた。
 それを見たゲイルに引っ張られ、カルサルは命の危機を回避する。
 開いた箱は閉じ、また箱は動かなくなった。

 ダメージを与えるには、あの箱の中の本体を叩くしかないだろう。

「ゲイルさん、箱に石を投げてみて」

「うむ任せるがいい」

 ゲイルは手頃な石を掴むと、箱に向かって思いっきりぶつけると箱が開いた。

「ファイヤー!」

 炎が箱の中に吸い込まれた、中から何かが焦げた臭いが辺りに漂う。
 もう一度ゲイルが石を投げるが反応はなくなった。
 たぶん死んでいるのだろう

「倒せたわね」

 カルサルとウィーリーが箱の前で泣いている。
 リーゼは待ってやりたかったが、二人に声を掛け先に進ませる様にうながした。

「バラックさんも皆さんに生き延びて欲しいはずです。この場に居れば、また犠牲者が出てしまいます。お別れを告げて先へ進みましょう」

「でも……」

「いやよ……」

「お前達に何かあればバラックも悲しむだろう。ここに留まるより、先に進んだ方が安全だ。それとも二人で家に帰るかね?」

 魔物を倒してきたとはいえ、その道が安全だと保障するものは何もない。
 何よりこの二人にそれだけの勇気はなかった。

「行こうウィーリー、俺はまだ死にたくないんだ……」

「……バラック、天国で私達の事を見守っていてね」

 リーゼ達は四人となり、戦いの前線に追いついていた。
 そこは森の中に開けた広場となる場所だ。
 大勢が集まり空を見上げ、魔物の動きを見極めている。
 リーゼはその中に仲間の一人を発見した。

「ハガン!」

 そこには逸れていたハガン達が居たのだ。

「リーゼ無事だったか。心配していたぞ。いいか、合図が来たら体を低くして伏せるんだ」

「何?」

「来たぞおおおおおおおお!!」

 遠くから合図の声が上がる。
 言われた通りにリーゼ達は地面に伏せると、その近くを巨大な鳥が通り抜けて行った。

「ここはアイツの巣なんだそうだ。あいつを倒せれば、この依頼は八割終わる」

 そこからは総力戦となった。
 ある者は弓で、ある者は魔法で、怪鳥を叩き落そうと狙っている。
 それが使えない者は、敵が来る合図をしたり、敵の応援が来ない様に見張っていた。

 この戦闘にリーゼの出番は無かった。
 今までの戦闘で魔力は尽き、避けるだけしかできはしない。
 多くの魔法や矢の雨が降り、そして怪鳥が空から落ちて行く。
 落ちた怪鳥は、その自重で絶命した。

「リーゼ、何か見つかったか? こちらは殆ど収穫は無かった」

「あるには有ったんだけどね……」

 リーゼはハガンに事情を話した。

「そうか……連れが亡くなったのか。その男の為にも、その箱とやらは持ち帰るとしようか。俺達の目標の一つは防具の素材だ。この作戦から離脱して、町へと戻るとしよう」

「分かった」

 リーゼは戦っていたラフィール達仲間を呼び寄せ、町に戻る事を伝えた。
 ゲイルはこの場に残り、戦いを続けると言っている。

 リーゼ達は別れを告げると、帰りに倒した箱を回収し、町へと戻って行った。
 箱は意外と軽く、二人でも運べるぐらいの重さで、それ程苦労はしなかった。

「これで防具が作れればいいのだけど」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品