一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
16 王城探索
べノムはイモータルに異界の男の事を伝えに行った…………
べノムザッパー(王国、探索班) タナカアツシ(異界から来た男)
イモータル (王国、女王) ガーブル (王国、親衛隊)
俺はアツシの情報を聴き、メギド様の状況を知る事が出来た。
城の中でメギド様は健在だった。
しかしどうするべきだろうか?
この国の王であるメギド様を倒す訳にもいかない。
一度イモータル様に相談しに行くべきだろう。
俺はまずイモータル様の元へと向かった。
どこにいらっしゃるのかといえば、この家の最上階である。
家の改修された時に、最上階を女王様の物として使って貰っていた。
しょせんは新しい城ができるまでの仮住まいだけどな。
屋上のその部屋には、子供達とほのぼのと遊ぶイモータル様の姿が見えた。
その隣には屈強そうな白髪の老人、ガーブルという男が立っている。
たった一人だが、いわゆる親衛隊というものだ。
戦争が終わってから引退したが、近衛兵が少なくなり最近復帰した奴だ。
俺も新兵の頃怒られた記憶がある。
睨みつけるそいつを無視し、イモータル様へと話しかけた。
「イモータル様、メギド様の情報が手に入りました。未だに玉座の間に居られる様です」
「誰か城に侵入したのですか? まだ助ける方法は見つかっていないというのに」
「いえ、タダの偶然なのです。じつは……」
俺は天使達が異世界の技術を呼び出そうと、その儀式が失敗した事。
更にその事故で変な奴を呼び出してしまった事を伝えた。
「なる程、しかし今までにも城に侵入しようとした者は居たのです。ですがその尽くが城に入ったと同時に殺されてしまいました。もしかすると、その方は何かあるのかもしれませんね。一度連れてきてください」
「分かりました。しかしそいつはエロい事しか考えない奴なんで、直接会うのは止めた方が良いかと」
「それでは代理でも立てましょうか。このガーブルに頼むとしましょうか」
「ハッ、お任せください女王陛下!」
この男が代理となるなら安心だろう。
この国に住むのならその内真実を知るかもしれないが、今はこれでいい。
俺は王に退席の挨拶を済まし、アツシのが居る地下の牢獄まで移動した。
どれほど反省したのかとアツシを見るも、何故か寛いでいるような気さえする。
「アツシ会いに来てやったぞ。どうだ元気か?」
「まあまあだ。ここの看守のお尻がプリプリしていて、結構眺めが良いからな」
そういえばここの看守の一人が、毎日移動願いを書いて来て困ってるって誰かが言ってたな。
まさかこいつの所為じゃないだろうな?
まあいい、今は代理となったガーブルに会わせなければ。
「ちょっとお前に頼みたい事があるんだ。どうだ、俺の言う事を聞いてくれればここから出してやるぞ?」
「危ない事じゃないだろうな? 俺は危険な所には行かないぞ!」
「大丈夫だ。ただこの国の王に会って貰うだけだぜ。危険な事は一切無い」
今はな。
まあこの流れだとアツシを城に潜入させる事になるんだが、そこは黙っていようか。
「分かった行ってやるよ。その代わりまた女の子紹介してくれよ!」
仕方ない、ラビットさんにでも頼んでみるか。
向うも気に入ってるみたいだしな。
「了解した、お前にはラビットさんをちゃんと紹介してやろう」
「違う! それは女の子じゃない! もっとこう若いお姉さんで頼む!」
「もう最後まで行ったんだろ? 責任は取ってやれよ、もしかしたら子供も出来るんじゃないのか?」
「最後まで行ってない! 隙を見て逃げ出したんだよ!」
そうなのか?
だが、一度紹介しているし、他に誰か紹介出来る奴が居たか?
いっそ部下の誰かに頼んで見るか。
「女の方は何とかしよう。それじゃあ出してやってくれ」
男の看守が牢の鍵を開けた。
「あの子はどこに?」
アツシは女の看守を探していたのだが、だが彼女はここには居ない。
もう移動願いが受理されたと聞いている。
今頃別のエリアで働けて喜んでいる事だろう。
「アツシ、こっちだ。付いて来い」
俺達はアツシを連れて、最上階の部屋へと向かった。
「なぁ、その王様ってどんな奴なんだよ? 爺さんなのか?」
イモータル様は代理を立てると言っていた。
俺が変な事を言ったら不味いだろう。
「付いてくれば分かる事だ。楽しみにしておけ」
「ふーん、別に爺さんなんて興味無いけどな」
上手くごまかせたか?
もうすぐ最上階だ。
「俺は先に挨拶をしに行く。お前は少しまっていろよ」
「ああ、分かった」
俺はアツシを部屋の前で待たせ、イモータル様に報告しに行った。
「分かりました。それでは代理のガーブルにお願いしましょう。彼なら威厳たっぷりですから」
「お任せください女王陛下! きっちり演技してみせます!」
「あの、大声を出したら不味いので、少し静かにしてくださいね」
「ハッ! 了解しました!」
少し心配になるが、たぶん大丈夫だろう。
もう着替えを済ませて、赤い鎧を着て、剣を杖替わりにしている。
「それではアツシを呼んで参ります」
俺は外で待たせていたアツシを呼び寄せ、その間にイモータル様は奥の部屋へと隠れられた。
入り口の扉をノックさせると、部屋から声が聞こえた。
王になりきっているガーブルの声だ。
「入れッ!」
俺達が部屋の中に入ると、余りにも似合い過ぎのガーブルが椅子に座っていた。
アツシは余りの迫力に目を逸らしている。
無理も無い、雰囲気だけで熊も殺しそうだ。
「お前がアツシか? 単刀直入に言おう。お前城に行って、俺が言う物を取って来い。行かなければ一生奴隷としてこき使ってやるぞ」
「俺もついて行ってやるからアツシも行くよな? 早く頷けよ」
「城って俺が来た所だろ! あんな所入ったら死んでしまうわ! 絶対お断りだ!」
これが本物の王であったら、即座に打ち首にでもされかねない事を言っている。
今後はそれなりの対応が出来るように教えてやらないとな。
「ほう、どうやら此処で死にたいらしいな」
ガーブルが剣を抜き、アツシの前に突き出している。
流石に止めるべきか?
動ける準備をしておくか。
「お前、女が欲しいらしいな? もしお前が城から宝物を持ち帰ったのなら、お前に我が娘をくれてやろう」
「俺は騙されないぞ! あんたの娘なら三十は超えてるはずだ! そんなの俺と合う訳ないだろ!」
「確かにそれを超える者もいるが、一番下は十六になったばかりだ。顔も俺に似てとても可愛らしいのだぞ」
いや、あんたに似たら可愛いと言えないんじゃねぇのか?
そうツッコミを入れたいのを我慢するが、アツシも気づいたらしい。
「あんたの娘じゃ期待は出来ない……な……」
「これを見てもそれが言えるかな?」
ガブールは胸のアクセサリーを外すと、その中に入っていた絵を見せた。
アツシはそれに見入っている。
そんなに気に入ったのか?
「やる、待っててくれ直ぐに持ってくる」
アツシが部屋の扉から跳び出し、外へと向かって行く。
「本当に娘を渡すのか? あいつは中々クレイジーな奴だぞ?」
「うむ本当だ。あいつがもし本当に宝を持ち帰る事が出来たのなら、ちゃんと与える積りだ。家の娘も中々クレイジーな奴でな、二十人の男達をボコボコにして誰も貰い手が無いのだよ。此処で貰い手が現れるのならそれはそれで嬉しい事だ」
アツシにとってもこれはチャンスなのか?
これが成功したら、アツシが今まで叶えたかった願いが叶う分けだ。
「おい、べノム早く来いよ! あの子が待ってるんだからさ!」
アツシが戻って来た。
城から何を持ってくるかまだ説明もしてなかったからな。
説明は……まあ道中にでも放してやるか。
「じゃあ行ってくる。期待して待っててくれ!」
「おい慌てんな。行って来るぜガーブル」
「気を付けて行ってこい」
俺とアツシは城の前に到着した。
俺は城門を一歩ふみだし中へ入ろうとするが……。
頭上に雷撃が落ちて来る。
すぐさま体を後へ反らし、その雷撃を避けた。
やはり俺は入れないらしい。
「俺は無理だったらしい。アツシ、どうやらお前にしか出来ない様だぞ。お前は選ばれた存在だっ。一人で宝物庫へ行って、宝をどれでも良いので出来るだけ沢山取って来てくれ」
「任せてくれ、この選ばれし男タナカアツシ、無事に宝を持って来てやろう!」
そしてアツシが城門の中へ一歩踏み出すと、ドカーンっと少し遠くから音がした。
アツシだと雷撃の距離が遠くなるのか?
その雷撃を見たアツシが、俺の方を見ている。
「……無理じゃね?」
「諦めるのは早いぜ。色々と試して見るか」
俺はアツシの体をよく見て、アツシの体に変身してみた。
姿形共に完全に一致している。
その状態の俺は、城門の中へと一歩踏み出した。
ドカーンっと雷撃が来る。
だが頭上には現れず、遠くでその音が鳴るのみだった。
これはなんだろうか。
俺だと駄目で、アツシだと良いのか?
キメラ化して無いから……というのは無いな。
何人かそんな奴も城に挑戦している。
その尽くが失敗しているはずだ。
性別じゃないし、後は……異世界人だからか?
それも無い。
それなら俺が変身しても意味が無いはずだ。
アツシが俺と違う所……何だ?
歳ぐらいしか思いつかないぞ。
若ければ良いのか?
そんなはずは無いと思うが。
やるだけやって見るか。
俺はもう一度変身魔法を使いルキ様に体を変えた。
その姿で、城門から足を踏み入れる。
雷撃の音が聞こえてこない。
やはり年齢なのだろう。
子供を溺愛していたあの人らしい事だ。
ならここは俺が行くしかないよな。
危険は無いとはいえ、子供達だけに取りに行かせる訳にはいかない。
「アツシ、お前は此処で待っていろ。宝は俺が取って来る」
「待てべノム、俺も行くにきまってるだろ! あの娘は俺の嫁にするんだからな!」
アツシが城の中へと走って行く。
別に入るのは構わないのだが、宝物庫の場所知らないだろうに。
走るアツシを追うように、雷撃がその後ろを追って行く。
だがかなり距離があるし、当たらないのなら大丈夫だろう。
今の内に宝を運び出すとしよう。
俺は地下にある宝物庫へと向かい歩き出した。
地下へと続く階段を降り、宝物庫へと到着する。
雷撃が来ないのならば楽な仕事だ。
宝物庫の鍵は閉まっている。
管理者が持っていたはずだが、その男はもう死んでいる。
たぶんこの辺りに……。
周りを見渡すと、焦げ付いた死体が幾つも置き去りにされている。
俺は手を合わせ、それらしい死体を探ると、宝物庫の鍵を発見した。
鍵には傷もなく、変形も見られない。
これなら使えるはずだ。
俺は宝物庫の鍵を開けて、その中を覗いてみた。
中には金や宝石、色々な絵画が置いてある。
宝剣や歴代の王の絵なんてものもあった。
これが有れば多少でも国が潤うはずだ。
「よし、後は持ち出すだけだな」
俺が部屋に入り、宝物に手を伸ばそうとするのだが、そこへアツシが走り込んで来た。
後ろには強烈な雷撃を従え、このまま入れば色々な物が危ない。
「そこが宝物庫か! 宝を寄越せええええええええ!」
「待て、こっちに来るな! お前が来ると宝物庫に被害が……」
アツシは俺の言う事も聞かず、宝物庫に侵入してしまう。
ガシッと金塊を二つ手に持つと、城の外へ逃げ帰って行った。
しかしこの中にあった絵画や、燃えそうな物が幾つか破損してしまったらしい。
外で待ってれば良いものを、わざわざ壊して行くなと言いたい。
だが、持ち出せと頼んだのはこちらで、報酬の為に危険を冒して頑張っている奴に悪気はない。
もう諦めるしかないのだろう。
俺も金塊を持てるだけ持ち、この城から脱出した。
この金でブリガンテから物資が買える。
少しは王都の復興に役に立つだろう。
べノムザッパー(王国、探索班) タナカアツシ(異界から来た男)
イモータル (王国、女王) ガーブル (王国、親衛隊)
俺はアツシの情報を聴き、メギド様の状況を知る事が出来た。
城の中でメギド様は健在だった。
しかしどうするべきだろうか?
この国の王であるメギド様を倒す訳にもいかない。
一度イモータル様に相談しに行くべきだろう。
俺はまずイモータル様の元へと向かった。
どこにいらっしゃるのかといえば、この家の最上階である。
家の改修された時に、最上階を女王様の物として使って貰っていた。
しょせんは新しい城ができるまでの仮住まいだけどな。
屋上のその部屋には、子供達とほのぼのと遊ぶイモータル様の姿が見えた。
その隣には屈強そうな白髪の老人、ガーブルという男が立っている。
たった一人だが、いわゆる親衛隊というものだ。
戦争が終わってから引退したが、近衛兵が少なくなり最近復帰した奴だ。
俺も新兵の頃怒られた記憶がある。
睨みつけるそいつを無視し、イモータル様へと話しかけた。
「イモータル様、メギド様の情報が手に入りました。未だに玉座の間に居られる様です」
「誰か城に侵入したのですか? まだ助ける方法は見つかっていないというのに」
「いえ、タダの偶然なのです。じつは……」
俺は天使達が異世界の技術を呼び出そうと、その儀式が失敗した事。
更にその事故で変な奴を呼び出してしまった事を伝えた。
「なる程、しかし今までにも城に侵入しようとした者は居たのです。ですがその尽くが城に入ったと同時に殺されてしまいました。もしかすると、その方は何かあるのかもしれませんね。一度連れてきてください」
「分かりました。しかしそいつはエロい事しか考えない奴なんで、直接会うのは止めた方が良いかと」
「それでは代理でも立てましょうか。このガーブルに頼むとしましょうか」
「ハッ、お任せください女王陛下!」
この男が代理となるなら安心だろう。
この国に住むのならその内真実を知るかもしれないが、今はこれでいい。
俺は王に退席の挨拶を済まし、アツシのが居る地下の牢獄まで移動した。
どれほど反省したのかとアツシを見るも、何故か寛いでいるような気さえする。
「アツシ会いに来てやったぞ。どうだ元気か?」
「まあまあだ。ここの看守のお尻がプリプリしていて、結構眺めが良いからな」
そういえばここの看守の一人が、毎日移動願いを書いて来て困ってるって誰かが言ってたな。
まさかこいつの所為じゃないだろうな?
まあいい、今は代理となったガーブルに会わせなければ。
「ちょっとお前に頼みたい事があるんだ。どうだ、俺の言う事を聞いてくれればここから出してやるぞ?」
「危ない事じゃないだろうな? 俺は危険な所には行かないぞ!」
「大丈夫だ。ただこの国の王に会って貰うだけだぜ。危険な事は一切無い」
今はな。
まあこの流れだとアツシを城に潜入させる事になるんだが、そこは黙っていようか。
「分かった行ってやるよ。その代わりまた女の子紹介してくれよ!」
仕方ない、ラビットさんにでも頼んでみるか。
向うも気に入ってるみたいだしな。
「了解した、お前にはラビットさんをちゃんと紹介してやろう」
「違う! それは女の子じゃない! もっとこう若いお姉さんで頼む!」
「もう最後まで行ったんだろ? 責任は取ってやれよ、もしかしたら子供も出来るんじゃないのか?」
「最後まで行ってない! 隙を見て逃げ出したんだよ!」
そうなのか?
だが、一度紹介しているし、他に誰か紹介出来る奴が居たか?
いっそ部下の誰かに頼んで見るか。
「女の方は何とかしよう。それじゃあ出してやってくれ」
男の看守が牢の鍵を開けた。
「あの子はどこに?」
アツシは女の看守を探していたのだが、だが彼女はここには居ない。
もう移動願いが受理されたと聞いている。
今頃別のエリアで働けて喜んでいる事だろう。
「アツシ、こっちだ。付いて来い」
俺達はアツシを連れて、最上階の部屋へと向かった。
「なぁ、その王様ってどんな奴なんだよ? 爺さんなのか?」
イモータル様は代理を立てると言っていた。
俺が変な事を言ったら不味いだろう。
「付いてくれば分かる事だ。楽しみにしておけ」
「ふーん、別に爺さんなんて興味無いけどな」
上手くごまかせたか?
もうすぐ最上階だ。
「俺は先に挨拶をしに行く。お前は少しまっていろよ」
「ああ、分かった」
俺はアツシを部屋の前で待たせ、イモータル様に報告しに行った。
「分かりました。それでは代理のガーブルにお願いしましょう。彼なら威厳たっぷりですから」
「お任せください女王陛下! きっちり演技してみせます!」
「あの、大声を出したら不味いので、少し静かにしてくださいね」
「ハッ! 了解しました!」
少し心配になるが、たぶん大丈夫だろう。
もう着替えを済ませて、赤い鎧を着て、剣を杖替わりにしている。
「それではアツシを呼んで参ります」
俺は外で待たせていたアツシを呼び寄せ、その間にイモータル様は奥の部屋へと隠れられた。
入り口の扉をノックさせると、部屋から声が聞こえた。
王になりきっているガーブルの声だ。
「入れッ!」
俺達が部屋の中に入ると、余りにも似合い過ぎのガーブルが椅子に座っていた。
アツシは余りの迫力に目を逸らしている。
無理も無い、雰囲気だけで熊も殺しそうだ。
「お前がアツシか? 単刀直入に言おう。お前城に行って、俺が言う物を取って来い。行かなければ一生奴隷としてこき使ってやるぞ」
「俺もついて行ってやるからアツシも行くよな? 早く頷けよ」
「城って俺が来た所だろ! あんな所入ったら死んでしまうわ! 絶対お断りだ!」
これが本物の王であったら、即座に打ち首にでもされかねない事を言っている。
今後はそれなりの対応が出来るように教えてやらないとな。
「ほう、どうやら此処で死にたいらしいな」
ガーブルが剣を抜き、アツシの前に突き出している。
流石に止めるべきか?
動ける準備をしておくか。
「お前、女が欲しいらしいな? もしお前が城から宝物を持ち帰ったのなら、お前に我が娘をくれてやろう」
「俺は騙されないぞ! あんたの娘なら三十は超えてるはずだ! そんなの俺と合う訳ないだろ!」
「確かにそれを超える者もいるが、一番下は十六になったばかりだ。顔も俺に似てとても可愛らしいのだぞ」
いや、あんたに似たら可愛いと言えないんじゃねぇのか?
そうツッコミを入れたいのを我慢するが、アツシも気づいたらしい。
「あんたの娘じゃ期待は出来ない……な……」
「これを見てもそれが言えるかな?」
ガブールは胸のアクセサリーを外すと、その中に入っていた絵を見せた。
アツシはそれに見入っている。
そんなに気に入ったのか?
「やる、待っててくれ直ぐに持ってくる」
アツシが部屋の扉から跳び出し、外へと向かって行く。
「本当に娘を渡すのか? あいつは中々クレイジーな奴だぞ?」
「うむ本当だ。あいつがもし本当に宝を持ち帰る事が出来たのなら、ちゃんと与える積りだ。家の娘も中々クレイジーな奴でな、二十人の男達をボコボコにして誰も貰い手が無いのだよ。此処で貰い手が現れるのならそれはそれで嬉しい事だ」
アツシにとってもこれはチャンスなのか?
これが成功したら、アツシが今まで叶えたかった願いが叶う分けだ。
「おい、べノム早く来いよ! あの子が待ってるんだからさ!」
アツシが戻って来た。
城から何を持ってくるかまだ説明もしてなかったからな。
説明は……まあ道中にでも放してやるか。
「じゃあ行ってくる。期待して待っててくれ!」
「おい慌てんな。行って来るぜガーブル」
「気を付けて行ってこい」
俺とアツシは城の前に到着した。
俺は城門を一歩ふみだし中へ入ろうとするが……。
頭上に雷撃が落ちて来る。
すぐさま体を後へ反らし、その雷撃を避けた。
やはり俺は入れないらしい。
「俺は無理だったらしい。アツシ、どうやらお前にしか出来ない様だぞ。お前は選ばれた存在だっ。一人で宝物庫へ行って、宝をどれでも良いので出来るだけ沢山取って来てくれ」
「任せてくれ、この選ばれし男タナカアツシ、無事に宝を持って来てやろう!」
そしてアツシが城門の中へ一歩踏み出すと、ドカーンっと少し遠くから音がした。
アツシだと雷撃の距離が遠くなるのか?
その雷撃を見たアツシが、俺の方を見ている。
「……無理じゃね?」
「諦めるのは早いぜ。色々と試して見るか」
俺はアツシの体をよく見て、アツシの体に変身してみた。
姿形共に完全に一致している。
その状態の俺は、城門の中へと一歩踏み出した。
ドカーンっと雷撃が来る。
だが頭上には現れず、遠くでその音が鳴るのみだった。
これはなんだろうか。
俺だと駄目で、アツシだと良いのか?
キメラ化して無いから……というのは無いな。
何人かそんな奴も城に挑戦している。
その尽くが失敗しているはずだ。
性別じゃないし、後は……異世界人だからか?
それも無い。
それなら俺が変身しても意味が無いはずだ。
アツシが俺と違う所……何だ?
歳ぐらいしか思いつかないぞ。
若ければ良いのか?
そんなはずは無いと思うが。
やるだけやって見るか。
俺はもう一度変身魔法を使いルキ様に体を変えた。
その姿で、城門から足を踏み入れる。
雷撃の音が聞こえてこない。
やはり年齢なのだろう。
子供を溺愛していたあの人らしい事だ。
ならここは俺が行くしかないよな。
危険は無いとはいえ、子供達だけに取りに行かせる訳にはいかない。
「アツシ、お前は此処で待っていろ。宝は俺が取って来る」
「待てべノム、俺も行くにきまってるだろ! あの娘は俺の嫁にするんだからな!」
アツシが城の中へと走って行く。
別に入るのは構わないのだが、宝物庫の場所知らないだろうに。
走るアツシを追うように、雷撃がその後ろを追って行く。
だがかなり距離があるし、当たらないのなら大丈夫だろう。
今の内に宝を運び出すとしよう。
俺は地下にある宝物庫へと向かい歩き出した。
地下へと続く階段を降り、宝物庫へと到着する。
雷撃が来ないのならば楽な仕事だ。
宝物庫の鍵は閉まっている。
管理者が持っていたはずだが、その男はもう死んでいる。
たぶんこの辺りに……。
周りを見渡すと、焦げ付いた死体が幾つも置き去りにされている。
俺は手を合わせ、それらしい死体を探ると、宝物庫の鍵を発見した。
鍵には傷もなく、変形も見られない。
これなら使えるはずだ。
俺は宝物庫の鍵を開けて、その中を覗いてみた。
中には金や宝石、色々な絵画が置いてある。
宝剣や歴代の王の絵なんてものもあった。
これが有れば多少でも国が潤うはずだ。
「よし、後は持ち出すだけだな」
俺が部屋に入り、宝物に手を伸ばそうとするのだが、そこへアツシが走り込んで来た。
後ろには強烈な雷撃を従え、このまま入れば色々な物が危ない。
「そこが宝物庫か! 宝を寄越せええええええええ!」
「待て、こっちに来るな! お前が来ると宝物庫に被害が……」
アツシは俺の言う事も聞かず、宝物庫に侵入してしまう。
ガシッと金塊を二つ手に持つと、城の外へ逃げ帰って行った。
しかしこの中にあった絵画や、燃えそうな物が幾つか破損してしまったらしい。
外で待ってれば良いものを、わざわざ壊して行くなと言いたい。
だが、持ち出せと頼んだのはこちらで、報酬の為に危険を冒して頑張っている奴に悪気はない。
もう諦めるしかないのだろう。
俺も金塊を持てるだけ持ち、この城から脱出した。
この金でブリガンテから物資が買える。
少しは王都の復興に役に立つだろう。
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