一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 王道を行く者達22

天才防具職人を探すリーゼ達…………


リーゼ(赤髪の勇者?)  ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)     リサ (リーゼの叔母)
ラフィール(傭兵)


 賞品の籠手を作ったという天才防具職人を探す為、町中で聞き込みを開始したリーゼ達。
 その店の場所はまだわかっていない。

「リーゼ何処を探すんだ」

 ハガンも分かってるはずだがリーゼに聞いてくる。
 テストのつもりなのだろうか。

「その防具職人が有名な人なら、人に聞いて回ればすぐ見つかるわ。もし誰も知らなかったのなら大会の主催者を訪ねればいいわね。賞品に出すぐらいだもの、その人の店ぐらい知っているでしょう」

「なら俺は聞き込みしてくるよ、一時間後に町の宿で会おう」

 ラフィールが離れて行き、近くの人達に声を掛けていた。

「私達も行きましょうか、宿屋集合ね」

「それじゃあ私はハガンさんと一緒に……」

「リサさんは私と行きましょうね」

「それじゃあ俺はあっちに行く。また後でな」

「ああじゃあ私も行きますよ。それじゃあリーゼさん、また後で」

 ハガンとマッドも離れて行き、残ったのはリーゼとリサだけだ。

「リーゼちゃんって結構ファザコンよね。ちっとも親離れできてないんだから」

「違うわよ。もし子供でも作られて、この旅を諦められても困るってだけ。ハガンは大事な戦力だもの」

「ふ~ん、まだお父さんと一緒の部屋で寝泊まりしてるのに~?」

「あれはリサさんが変なことしないか見張ってるの」

「じゃあそういう事にしておきましょう」

 本当に違った。
 リーゼは二人の戦力を失いたくないだけだった。
 適当に話しをきり上げ、道行く人に話しを聞いた。

「それならここを真っ直ぐ行って、突き当りを右に行くとすぐだよ」

 聞き込みを開始すると、その一人目で当たりを引いたようだ。
 リーゼとしても、こんなにあっさりと見つかると思っていなかった。
 相当有名な人物なのだろう。
 だが集合時間までは時間がある。
 リーゼはどうしようかと考えている。

「リーゼちゃん、まだ時間はあるし一度そこに行ってみましょうよ。もしかしたら違う所かもしれないし」

「う~ん、そうしましょうか。どうせ暇だし」

 リーゼはリサの提案に乗る事にした。
 言われた場所に向かうと、民家と同じぐらい武具店があった。

 中を覗くと、背の低い太ったお爺さんが居るようだ。
 そのお爺さんは、天才というより熟練と言った方が似合いそうな人物だが。
 まず話を聞いてみようか。

「こんにちは、お爺さん。すみませんが、貴方が天才防具職人さんですか?」

「いや違うよ。そいつはワシの孫の事だな。あいつは天才だとか言われて調子に乗っとるんじゃ。
買うのならワシのをを買っていきなさい」

 話の通りなら、このお爺さんが師匠なのだろう。
 その天才が師匠を超えたとも考えられるが、そこまでの開きは無いだろう。
 いっそこの人で妥協してもいいかもしれない。
 まずこの人の防具を見てみようと店を見回した。

 飾り付けまで気を使った天才と言われた人の防具とは別物で、店に置いてある防具はどれも飾りっけの欠片もないようだ。
 作り方を見ても、とても師弟の関係とは思えない。

「あの~、その職人の人とは師弟の関係じゃないんですか? かなり違っている気がするんですけど」

「もちろん私が教えたんだ。だが奴は飾りを付けた方が売れると言い出し、ワシとは別の道へと進んでしまったんだよ。武具に飾りなど不要の物。防具は命を守ってこそ防具だ。飾りを付ける暇があったなら、より頑強がんきょうになる様に工夫した方が良いのだ」

 確かにそうなのだが、商売としては飾り付けていた方が売れるんだろう。
 何方が間違っているとも言えない。
 しかし実戦を想定して作ってあるのなら、こちらの防具の方が良いのかもしれない。
 一度試し斬りをしてみたいとリーゼは手に取った。

「お爺さん、一つ防具をください。お手頃価格で、一番自信のある物を」

 お爺さんが用意してくれた物は、片手のみの籠手だが、片手のみでもそれなりに需要はあるそうだ。
 籠手を買い取り、カウンターの上に置いた。
 そしてリーゼは躊躇いも無く剣を抜く。

「おい待て! 一体何をする気だ!」

「お爺さん、危ないから退いていて」

 剣を上に構えたリーゼを見て、何をするか理解したお爺さんが離れて行く。

「たああああああああ!」

 ギィィィィン

 相当に気合を入れて剣を振り下ろすと、籠手が激しく音を立てている。
 暫くして音が収まると、その籠手の半分ほどが切断された。

 天才の防具より強い気がしている。
 頑強さを売りにしているのだから当然なのだが、この剣をここまで防ぐ防具は初めてだった。
 防具作りを頼むのなら、この人でもいいだろう。

「凄いなその剣、ワシの防具がここまで壊されたのは初めてだ」

 この剣に少し興味を持ってくれている。
 話をするにも丁度良い機会だろう。

「お爺さん頼みがあるんです。材料は取って来るから、私達の防具を作って貰えませんか? 是非お爺さんの防具が欲しいんです!」

「なるほど、その武器で試す所をみると、その武器より凶悪な者と戦うのだろうな。オーダーメイドとなると、それなりに高く付くが、まあ任せておくがいい!」

 高くなる。
 リーゼ達は賞品の防具を買った所為せいで、あまりお金が無かった。
 隠しても仕方がないからと、リーゼは正直に打ち明けることにした。

「お爺さんごめんなさい。私達はお孫さんの籠手をゆずって貰う為に大金を出してしまって、殆どお金が無いの。出来れば凄くまけてもらうと助かるのだけど……」

「ワシも生活があるからな、素材を持ち込むとはいえタダには出来ないぞ。防具作りにも結構時間も金もかかるんだからな。まあ金を溜めたらまた来ておくれ」

 リーゼとリサは、買い取った籠手の代金を払い、店から出た。
 結局天才防具職人は居なかった。
 どうやら別の店を出したらしい。
 その場所を教えて貰えたが、もうすぐ集合時間だ。
 捜索を切り上げ、習合場所である宿に戻る事にした。
 リーゼ達が到着すると、指定した宿には皆が戻って来ている。

「リーゼちゃん聞いてくれ、俺探していた職人と友達になって俺の為に全身鎧をプレゼントしてくれたんだ。ほら見てくれ、凄いだろ!」

 宝石の類は見当たらないが、デザインとしてはとても良い物だろう。
 丁度良い所にお金が転がり込んできた。
 これを売れば防具の製作費に当てられそうだ。

「それじゃあそれ売っちゃいましょうか」

「は? 駄目だよ! これは友情の証なんだから、売るなんてとんでもない!」

 売るにしてもサイズが大きすぎて、買い手が居ないかもしれない。
 それにこんな物を持って旅など出来はしない。

「でもこれ邪魔よね? サイズも大きすぎて着れないし、売れ残ったからプレゼントされたんじゃないの?」

「そんな事は……ない……よ?」

 ラフィールが目を逸らした。
 そんな気がしてきたのだろう。
 だが芸術品としたら優秀だ。
 売れさえすれば大金が手に入る。

 貴族や王族に知り合いが居れば良いのだが、残念ながらリーゼにその知り合いは居ない。
 バザーに戻って売れれば良いのだが、此処からバザーまで行って、売って帰って来るのにどれ程の労力が要るのか……

「まあいいわ。それは後で考えましょう」

 リーゼ達は情報交換をして、事のあらましを話した。

「ふむ、その爺さんに俺達の防具を作らせようって事だな。材料は持ち込むとはいえ製作費をどうに
かしないとな」

「そうなのよ。この防具が売れれば丁度いいんだけど、売るのも大変そうだわ」

「駄目元でギルドに行ってみよう。いい仕事があるかもしれないし、この防具の事も載せて貰えれば誰か連絡がくるかもね」

 リサの提案でギルドへ向かう事になった。

 ギルドとは、仕事を斡旋してくれる組織なのだが、厳つい男達のたまり場と化している。
 此処に鎧のサイズに合う人が居れば話は早いのだが、居たとしても金が無いと話にならない。
 ギルドの中には鎧のサイズに合いそうな人はチラホラと見かける。
 だが装備から推測すると、そんな金を持っていそうにない。

「まあ地道に依頼を受けるとするか」

 ハガンはそう言ってるが、この中にだってチャンスはあるはずだ。
 リーゼは依頼書を見渡して確認している。
 盗賊退治、魔物退治、材料の調達、人物の護衛。

 色々あるがこの中から選ぶべき物。

 盗賊退治は宝を山分けとかさせて貰える訳でもなく、きっちり報酬のみを支払われる。
 宝は国の管理下に置かれて、もしネコババでもしようものなら盗賊の仲間として一生追われる事になるだろう。

 魔物退治。
 いつもとやっている事は変わらない。
 町の周辺にいる魔物を狩るだけだ。
 材料の調達、武器防具の材料を求め、鉱山まで取りに行く。
 これはバザーの時に一度やっている。

 そして護衛、推測だが人の護衛ならそれなりに身分の高い人間、または金を持ってる人物。
 犯罪者の護送など色々あるが、当たりを引く可能性はゼロじゃない。
 これを選ぶ事にしよう。

「この護衛にするわ。もしかしたらお金持ちと知り合いになれるかもしれないでしょ?」

「じゃあ決まりだな。さっそくこの依頼を受ける事にしようか」

 リーゼ達はその依頼を受け、依頼主の元へと向かった。

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