一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 恋炎消火

グラビトン捕獲に参加しなかったエルとフレーレ達…………


ベリー・エル(王国、兵士)    フルール・フレーレ(王国、兵士)
タイタン(人の心を無くした獣)


 王都奪還が失敗に終わり、一週間が経っていた。
 その作戦にエルとフレーレさんは参加していなかったのです。

「エルちゃん、タイタンさんをあのままにしておいて本当に良いの? このまま何もしないで本当に良いのー?」

 私はあの人と戦いたくありませんでした。
 まだ助けられると思っているんです。

「分かっているわよ、エルちゃんが彼を助けたいって思ってる事も。でももう一週間よ。もしこのままなにもせずに見ているだけなら、私が倒すわよ!」

 フレーレさんが倒す?
 そんな事は駄目です。
 フレーレさんだけが そんな傷を背負う事はありません!

「返事は明日まで待ってあげる。明日の朝、返事を聴きに行くわ。もしエルちゃんの返事が無かったのなら私は一人でも行くわよ。その時は……私とあの人の命は諦めなさい。 ……じゃあ、また明日ね」

 その問いかけはずるい。
 私には行く選択肢しかないじゃないですか……

 分かっている。
 このまま何もしなかったら、何も解決しない事も。
 フレーレさんは私の手で送ってあげてと言ってるんですよね?

 明日までに覚悟を決めなければいけない。
 行かなかったら後悔する。
 でも、きっと行っても後悔するだろう。

 それでも答えは最初から決まっている。
 行かない何てことは出来ない。
 行かないと二人共居なくなてしまう。
 でも、それでも躊躇ってしまうのだ。

 まだ随分と早い時間だけど、私はベットに入り目を閉じた。
 自分に行くしかないんだと言い聞かせ、そのまま無理やり眠りについた。

 時間があるのなら、このまま待ち続けたかった。
 でもあのまま王都を、あの人達だけの遊び場にさせちゃ駄目なんだ。
 帰りたがっている人は何人もいるから。

 此処での生活に馴染めなくなった者は、出て行くかそれとも暴動を起こすだろう。
 取り返せると信じていた人達が居なくなったら、もう国は、いや町としても維持が出来なくなる。

 もう余り時間はないでしょう。
 イモータル様達も、次の手を考えている。
 次は本気で行くつもりなんだ。
 誰かに殺されるぐらいなら私がッ!

 兵士として、そしてあの人を愛した者として、私は覚悟を決めた。
 何時の間にか眠りにつき、決断の朝が来ていた。
 土で作られた私の部屋の中に、フレーレさんが座っている。

「覚悟は出来た?」

 その問に私は頷いた。

「……行き……ます!」

 そして私達は二人で王国へと向かったのだ。

「ねぇエルちゃん。私ね、子供の頃はタイタンさんの事好きだったんだよー。今はもう違うけどね」

 辛かったのは私だけじゃ無かったんだ。
 フレーレさんだって好きだった人を殺したくはないはずだ。

「私は……もう……大丈夫……だから」

 私の、私達の恋を終わらせに、あの人を倒す!

 もう王国は目の前だ。
 正門にはグラビトンが居て、通る事は出来ない。
 彼はタイタンさんと違って、あそこから一歩も動きはしない。

 その門を潜ろうとする者だけにその刃が襲い掛かる。
 じゃあそこから入らなければ良いだけ。

 私達二人は王国の外壁を飛び越え、あの人を発見した。
 彼は堂々として、王国の中心に立っている。

 私とフレーレさんはべノムから話を聞いている。
 あの人がどんな事をするかも。

「エルちゃん、覚悟はいいわよね! さあ行くわよ!」

 私はあの人を真っ直ぐ見つめる。
 あの人もこちらを見つめている。

 今日が最初のデート。
 そして今日が最後のデートです!

 私達は建物の影に降りて密かに彼に近づいて行く。
 飛んでいたら射撃の的になってしまうから。

 私達二人は見つからないようにあの人の元へ走った。
 久しぶりの再会なんです、ギュッと抱きしめてあげますからね。

 この建物の角を曲がればその先に愛しいあの人が。
 私は躊躇わずその角を曲がった。

「待って! エルちゃん!」

 フレーレさんに肩を掴まれ、私は後へと倒された。
 その瞬間、瓦礫の弾丸が私が居た場所を通り過ぎて行く。
 簡単に近寄らせてくれないのですね。

「私が先に行くから、弾が来なくなったら来て」

 フレーレさんは、私が返事をする前に跳び出して行った。
 ヒュンと音がして瓦礫が飛んでいく。
 フレーレさんならきっと大丈夫だ。
 彼女を信じよう。

 何度か弾が通り過ぎ、その内に音が止んだ。
 出るなら今だ!

 建物の陰から飛び出し、暴走する彼に向かって行く。
 そこにはフレーレさんが彼と見つめ合っていて、顔と顔がくっつきそうだった。

 彼の拳がフレーレの顔面へと迫り、フレーレさんはそれを大きく移動しそれを躱す。
 彼の拳が大地に突き刺さると、周りに衝撃が広がる。
 巨大な穴が開き、飛び散る大地の破片が私達を襲う。

 でもこの程度の攻撃でやられたりしない。
 破片を躱し、私はついにあの人の前に立てた。

 手が震える。
 まるで初めて実戦に出た時と同じだ。
 でも彼はそんな事など気にもせず、私達に襲い掛かる。

 私は炎を纏う剣を出現させ、来る拳を躱し斬った。
 痛かったのだろうか、彼の表情が更に怒りの形相へと変わって行く。

 振りかぶった巨大な拳が私に迫る。
 でもいいんですか?
 今日のデートは私だけじゃなくて……

 鋭く放たれた拳をすり抜け、フレーレさんの掌が、タイタンさんの体に触れた。

「はああああああああああああ!」

 体の捻りのみで打ち出されたそれは、分厚い皮膚を通り抜け、内臓へとダメージを与えたのだ。
 徹しと呼ばれる技術。
 それは分厚い鎧を通過して、内臓にダメージを与える技なのだ
 昔そうフレーレさんに聞いた事があります。

 彼が苦しみだし、今度はフレーレさんに向かって行く。
 
 私から目を離すなんて許さない!
 炎の剣が彼の背中を斬り裂いた。
 彼の分厚い体毛が燃えるが、斬撃のダメージはそれほど無かったみたいだ。
 そんな炎に焼かれた彼だが、まだ私の事は見てくれない。

 私は剣を捨てて彼の背中に飛びついた。
 抱きしめるにはちょっと手が届かないけど、このぐらいは許してくださいね。

「ああああああああああああああああああああああああ!」

 私は叫んだ。
 体から全力の炎が燃え上がる。
 そして彼の体を炎が包み込んだ。

 彼が暴れている。
 でも離してあげません。
 彼が暴れて背中を地面へとぶつけようとすると、私は仕方がなく、その体を手放した。
 どうやら抱擁ほうようの時間は終わったらしい。

 私はそこから抜け出すと、彼が大きな雄たけびを上げた。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 そしてバンバンと地面に腕を打ち付け……

 この技はべノムから聞いていた。
 地面から大地の槍が来る!

 私達は全力でジャンプし、大きく飛び上がる。
 途中でフレーレさんを捕まえ、更に高く上がった。
 随分と高く飛んだのだけど、フレーレさんの目前で槍が止まっている。
 一秒遅かったら死んでいたかもしれない。

 彼の周りに生えた槍。
 彼が倒れたまま此方を見つめている。
 私はフレーレさんを放し、炎の剣を持って彼の胸へと飛び込んだ。

 その胸に私の剣が突き刺さると、思いの丈をぶつける様に、力いっぱいに押し込んだ。
 目頭がが熱い。
 視界が歪む。
 彼の腕が私を潰そうと締め付けている。
 その力で自分の胸へと剣が入っていってるのに。

 楽に……してあげます。

「はあああああああああああああああああああ!」

 炎の剣が彼の体の中を焼いて行く。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」

 彼の悲鳴が聞こえる。
 きっと後一分持たないだろう。
 これで最後なんだ言わなきゃ。

「私は……貴方の事が好きでした。 ……ありがとう。……そしてさようなら……」

 彼の腕から力が消えて、一瞬だけ彼の顔が笑っていた様な気がした。

 私は声を上げて泣いた。
 彼の思い出が頭を過る。
 でもそれを振り切り、力の限り炎を燃やし、彼の体を墨へと変えた。

「終わっちゃったね」

 はい……もう十分泣きました。
 私の恋はこれで終わりです。

 もうこの恋はもう二度と叶う事は無い。
 じゃあ戻りましょう、あの町に。

 私の恋の物語は、この壊れた瓦礫の中で終了したのだ。
 永遠に訪れぬ未来を見つめ、ただ悲しさが溢れるだけだった。

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