一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 王都奪還作戦

奪還作戦が開始される…………


べノムザッパー(王国、探索班) タイタン  (人の意識を失った者)
アスタロッテ (べノムの部下) べーゼユール(居候天使1)
グーザフィア (居候天使2)  イモータル (王国、女王)


 あれから三日後、作戦の日が来た。
 まずは俺がタイタンを引きつけ、その間にグラビトンを何とかする予定である。
 そして時間が来て作戦開始の狼煙が上がった。
 べノムはあの馬鹿タイタンの相手をしなきゃならない。
 王都に向かった俺は、中を確認するが、やはり瓦礫の山だ。
 辛うじて無事な建物もあるが……

 端から見渡して行くが、奴を探すまでも無かったらしい。
 王都の真ん中で、俺の方を見上げていやがる。
 タイタンと戦うなんて初めてだが、別に倒す必要は無い。
 ここは一回ぶん殴って、後は逃げていれば良いだけだ。
 俺はただの囮ってやつだ。 

「さあタイタンさんよぉ、今日は俺が相手だ、掛かって来いや!」

 とはいえ、こいつの力で掴まれたら終わりだ。
 握り潰されてひき肉にでもされちまうだろう。
 正面からの攻撃は避けた方が良いな。

「じゃあ後からだな!」

 俺が後に回り込むが、タイタンは反応出来ていない。
 速度で俺に敵うはずもない。
 背後から、タイタンの頭を素手でぶん殴ったのだが、殴った手が痛くなるぐらいで、こいつには全く効いてないようだ。
 叩いて治るならと思ったが、俺の力じゃやっぱり無理だったらしい。

「かッてぇなッ!  うをッと!」

 タイタンが腕を振り回し、俺に反撃して来ていた。
 躱すのは簡単なのだが、その拳に当たらずとも、体に激しい風圧が来る。
 当たったら一発でも危ない。

 しかしこいつに遠距離攻撃はないはず。
 離れていたら安心……だよな?

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 タイタンが咆哮を上げている。
 その姿には人の自我などまるで感じない。

「完全に獣だな。だがその方が動きを読み易いかもな! ほらこっちだ、俺に付いて来いよ!」

 挑発に乗って、タイタンが追って来ている。
 その手には瓦礫。
 物理かよ!

「やべッ!」

 タイタンがその瓦礫を、力いっぱいこっちに投げた。
 ただの投石だが、その速度はとてつもなく速い。
 俺は反応出来なかったのだが、瓦礫は俺から反れて後方に抜けて行く。
 
 これは見て避けられる速さじゃないぞ。
 俺が例えどれ程速く動けても、反応出来なければ意味が無い。
 何度も瓦礫を投げ、俺を撃ち落とそうとしている。
 見て避けられないなら、投げる前に方向を見極めるしかねぇ!

 腕を振る角度を見極め、飛んで来る場所を予測する。
 その前にその場所から離れれば良いと、目を離さずタイタンの動きを見極めた。
 俺はそのまま、建物への被害を減らそうと、出来る限り何も無い場所へと移動する。
 ここなら町への被害が抑えられるか?
 このまま避ける事に集中しよう。

 だが避けるのにも注意が必要だ。
 グラビトンの所に流れ弾が飛んで、味方が死んだとか話にならない。
 
「まあゆっくりしようぜ。俺達結構仲良かっただろ?」

 奴の答えが帰って来る。
 タイタンが投げ放つ瓦礫は、俺が居た場所を通り抜けた。
 投げられる瓦礫を全て躱し、それを何度も繰り返す。

「当たらねぇって。ほら大人しく止まれよ」

 俺ははタイタンの動きから目を逸らさない。
 怒ったタイタンは、握っている瓦礫を握り潰し、散弾のつぶてを投げ付けた。

 細かい石粒が多く、どうにも軌道が読み切れない。
 細かな砂も、あの速さだと凶器になってしまう。
 砂粒の散弾が俺に迫り、体中に浴びてしまった。

「うぐおッ、足が! クソッ!」

 俺の足の感覚が無い。
 そろそろ逃げるべきか?
 悩みだした俺に、同じ攻撃が、もう一発来る!
 逆の腕を振りかぶり、瓦礫の散弾が……。
 直ぐにここから動かなければ!

 俺は体を右に傾け、右に旋回し、その攻撃を躱した。
 だがその方向に、運悪く一粒の弾丸が向かっている。
 その一粒が、俺の左腕へと突き刺さった。

 腕からは血が流れ、動かせもしない。
 これはもう撤退するべきかもしれねぇ。

 だが今逃げたら別の部隊が危険に晒されてしまう。
 この距離を続けている限り、俺の方が不利。
 だったら近距離で攻撃を躱すしかねぇだろう。

 一回攻撃を食らったら終わり。
 だが当たらなければ良いだけの話だ。
 一気に距離を詰め、俺はタイタンに接近戦を挑んだ。

「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 両足と左腕が使えねぇ。
 だが気にする必要もない。
 俺はただ避けるだけだ!
 何も問題ねぇ!

 俺の接近を見て、タイタンが瓦礫を投げようと振りかぶる。
 その腕が振り切られるより速く接近すれば良いだけだ。

「おおおおおおおおおおお!」

 奴の手から瓦礫が投げられた。
 しかしもう俺はそこには居ない。

 今俺が居る場所は、タイタンの顔前。
 厳つい顔に睨みを利かせ、タイタンの背後に回った。

 俺を追い裏拳が迫るも、体を低く下げて地面に降りた。
 多少掠って痛みが走るが、今は気にしていられねぇ。

 大振りの蹴りを躱して頭上へあがり、掴み来る巨大な掌を更に躱した。
 高く飛び、もう一度背後へ回るも、タイタンは体ごと後へ倒れこんで来る。
 そんなスローな動きでは当たってやろうとも思わない。

 地面に寝そべるタイタンが、空中にいる俺を見つめている。
 タイタンの掌が地面をえぐり、強引に武器を見つけ出す。
 そして俺に目掛けて、終わりなく投げつけて来た。

 その攻撃の礫に、この場所では駄目だとタイタンの頭の方向へと移動する。
 しかしタイタンの奴は体を転がし、頭の位置を変えて行く。
 だがそれぐらいの速さなら俺なら如何とでもなる。
 頭の上の位置をキープし、暫くするとタイタンの動きが止まった。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 タイタンの雄たけびが上がる。
 怒っているのか、倒れたまま自分の腕をバシバシと地面に叩きつけている。
 このまま続ければ時間を稼げるかとも思っていたが。

「ぐあああああああああああああ?!」

 その瞬間、俺の体が大地の槍に貫かれた。

 こんな……技を……持っていやがった……のか……
 意識が……持っていか……れる。
 ここで……目を閉じたら……もう二度と……帰れない。

 力が入らねぇ……

 どうにか土の槍を切断し、空中に浮かび続ける。
 こんなフラフラなスピードでは、きっと撃ち落とされるのだろう。
 もう……俺には……生きる手段が……無い……
 奴から逃げきる前に、俺は意識を失った……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 作戦があると聞き、ロッテは天使の二人に頼み、べノムをコッソリ追い掛けて来ていた。
 この場所に到着した時、べノムは空から落ちて来てた。
 それでも私は間に合った。
 この場所に居る事が出来たんだ!

 空から落ちたべノムは死んでいない。
 回復したら助けられる!

「アーク・グラビティ!」

 私は天使の知識を使い、重力の魔法を放った。
 その効果で、タイタンさんの体が地面に沈む。
 だけどその力は凄まじく、魔法をくらっても立ち上がろうと足を踏ん張っていた。
 私では時間稼ぎしか出来ない。
 ベールさん達、早くべノムを回復して!
 そう長くもたないよ!

 タイタンさんの体が、少しずつ立ち上がっている。
 後どれくらいもつのだろ。
 一分持てば良い方だろうか?
 刻々と時間が過ぎ、もう駄目かと思った頃。

「応急処置は終わりました! もう無理です。この場を離れましょう!」

 グーザフィアさんが私を掴み、空に飛び上がるも、私が使った魔法は解除出来ない。
 このままギリギリまで発動しないと。

 ベールさんが瀕死のべノムを担ぎ、空へ舞い上がる。
 魔法の範囲外となり、使っていたの魔法は消滅してしまう。
 解放されたタイタンさんが、立ち上がってこちらへ何かを投げ飛ばした。

 大丈夫だ、もうかなり離れた。
 もう届かないはずだ。
 私はそう思った。
 でも……。

 私達の直ぐ横を何かが通り抜けて行った。
 当たったらたぶん粉々になって死ぬかもしれない。
 空は駄目だと私は指示を出す。

「下に降りて! 外壁に隠れれば見えないよ!」

 私の言葉を聞き、全員が低空で外壁へと隠れた。
 相手からは見えないはずだ。
 もう王都の外なんだ。
 追って来ないよ……ね?

 逃げながら様子を見ているが、追って来る気配はなかった。
 まさかタイタンさんは、あんなになっても、まだ王国を守っている積りなんだろうか?
 何と戦ったのかさえ分かっていないのに……

 グラビトンさんの方はどうなっているだろう?
 気になるけれど、助けに行けるほど私は強くない。

 横たわるべノムを見つめ、その体に魔法を掛けた。
 今度は他の二人には手を出させない。
 私がべノムを助けてあげる。
 一生恩に着せてあげるからね!

 それから何時間か経った後、べノムが無事に目を覚ました。

「うげぇ、頭が痛ぇ。何だ、どうなったんだよ?」

「起きたのべノム、私が助けてあげたんだよ!」

「私達ですよ。ねぇグーザフィアさん」

「そうね」

 天使なんだから気を使ってくれても良いのに!

 べノムはまだ動けないでいる。
 体が貫かれたんだ、生きていた方が不思議だよ。 

「作戦はどうなった? 成功したのか?」

「分からないよ。私達も必死だったから。でもきっと大丈夫よ。人がいっぱい居たもの」

「そうだな、きっと大丈夫だな」

 私達は新しく出来た町へと戻り、イモータル様に報告をした。

「べノム、貴方は良くやってくれました。今日は休み、その傷を癒しなさい」

「イモータル様、作戦はどうなったんですか! 王都奪還は成功しましたか!?」

「……いえ、成功はしませんでした。途中からタイタンの妨害が有ったと聞きます」

「やはり俺の所為か。もう少し戦えていれば!」

 べノム、死んじゃう所だったんだよ?!
 貴方の所為じゃないから!

「違うでしょ! べノムは死にかけてたんだよ! あのままだったら、もう死んでたじゃないの!」

「そうです、貴方の所為ではありません。たった一人に任せてしまった私の所為です。本当にごめんなさい」

「違います、イモータル様の所為でもありません。ただ運が悪かっただけですよ。はい、もうおしまい。じゃあ帰ろうべノム」

「ああ、そえじゃあ失礼します」

 私達は自分の家となる洞窟に帰った。
 今度行く時は最初から付いて行く。
 反対されても絶対だ。

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