一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

1 プロローグ3 神に見捨てられた子供

その子達は親に売られた奴隷だった…………


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「待って、助けてええええ、やだぁ死にたくない、ああああああああああ……」

 もうあの子の悲鳴は聞こえない。
 目の前で友達が死んでも誰も助けてはくれない。
 この世界は不平等だ。

 あの子もきっと救いを求めていただろう。
 それとも、もし僕の手を伸ばせば助かったのだろうか。
 でもそんな都合のいい事が起こる訳がない。

 あの友達を見捨てたからこそ僕達は生きているんだ。
 この小さな子供の手、妹の手を握るのが精一杯なんだ。

「早くッ、追いつかれちゃう!」

「お兄ちゃん待って!」

 ここで捕まったら二人共殺される。
 僕と妹を追って大勢の大人達が追って来る。
 走る度に息が上がり、足を上げるのだけでもきつすぎる。
 僕と妹の体は、逃げる前からボロボロだった。

 あそこは地獄。
 悲鳴を聴きたいが為、自分の娘に命令して、僕たちの腕をナイフで突き刺し、骨を砕き、鞭を打つ。
 僕達は唯一の肉親の母親に売られ、そこの地獄に流された。

 逃げる僕達の目には、美しい帝国の町並みが見えている。
 でもこんな子供が逃げているのに、誰一人手を貸してはくれない。
 それどころか、道を歩く人々は、このボロボロの姿を見るだけでが汚いと罵しっている。

「あそこに隠れよう、急いで!」

「うん」

 僕達は、止まっていた馬車の荷台へと跳び込んだ。
 そしてこの馬車で、この国から逃げ出そうとしていた。

「じゃあ出発しますよー急いで乗り込んでください」

 馬車の業者が出発の合図を告げた。
 もうすぐ、この地獄から抜け出せるはずだった……

「待て、そこの馬車ちょっと荷台を調べさせてもらう」

 空間が凍りつく。
 逃げ道はここには無い……
 そして荷台のシートがめくられて。

「見つけたぞ、捕まえろ! 一人も逃がすなよ!」

 妹だけでも助けようと、妹を馬車から突き飛ばした。

「早く逃げて、急いで!」

 ただ助けたかった。
 でもその行為に妹は耐えられず、馬車の下で転がるだけだった。
 そしてまた絶望が始まるのだろう。
 あの家に着いた時、僕達は殺されるかもしれない。
 あの名前も知らない貴族の家で。

「おい、その子達をどうする気だ?」

 ハッとその人を見つめた。
 もしかしたら正義の味方なんじゃないのかと。

「誰だお前、名を名乗れ」

「これから死ぬ者に名乗る必要はない」

 シルクハットをかぶった紳士風の男は、追って来た大人達を全員殺し、僕達は生き残った。
 神様は僕達を助けてくれたんだと、そう思った。
 ほんの一欠片の希望が手に入ったのだ。
 でもその男の人は笑顔を浮かべ、僕にこう言った。

「もしこの妹の命が欲しければ、俺の言う事を聞くんだよ?」

 そしてまた、命しか助からなかったただの絶望が訪れる。
 この世界には神様は居ない。

「これからお前は王国に潜入して俺の命令を聞け。そうだ名前を聞いていなかったな。お前の名は何だ?」

「僕は……グラント、妹は助けてくれるんだよね?」

「ああもちろんだ。お前が俺の命令を聞いていさえすれば贅沢もさせてやろう」

「約束だよ」

「ああ、約束だ。俺達は約束は破らない。だがもしお前が約束を破ったら……」

「待っていてリーン。絶対助けてあげるからね」

 その男の子は王国の兵となり、時は流れてあの戦争が起こる。
 今俺は、タイタンと名を変えててしまった。
 それはこの身が人ではなくなった悲しみと、人と言うものに絶望してしまったからかもしれない。
 戦いが終わった後、あの男と妹の姿も見ることなく、ただ命令だけ聞き続けていた。


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「兄の命が欲しければ俺の言う事を聞くんだ」

 その言葉に、小さな子供の私は従うしかなかった。
 子供の頃から厳しい訓練を受け、帝国の兵にまでされてしまったのだ。
 そして私はハガンという男と組まされ、一つの仕事を任されることになる。
 ハガンの話はとても勉強になり、その内私は恋を覚えたらしい。

 戦争が始まり、私達はそれに紛れ帝国を出ていった。
 兄の事は気になっているが、戦争の中に居て死ぬつもりはなかった。
 家族の為と戦争に出た者が、その一時間後には死んでいる世界なのだ。
 思いだけでは生き残れはしない。

 その戦争も終わり、帝国の中を探したが兄は見つからなかった。
 手掛かりもなく、私とハガンは旅をした。
 行方不明の兄を探す旅に。

 でもその旅も終わりを迎えた。
 私に命が宿ってしまったのだ。
 兄の事はもう忘れよう。
 危険な旅をして、この子を死なせる訳にはいかないから。
 その時間は長く続き、今までの時間がまるで嘘の様に、とても幸せの時間が訪れた。

 でもその時間も終わりを迎え、何時か私は死に果てた。
 後悔はあるけれど、子供の幸せを願い私はいくよ。
 兄さん、生きているなら私の子供を助けてあげて。
 そんなリーンのその願いは、風に飛ばされ空に溶けた。


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 私は人間が嫌いだった。
 ただ嫌いだっただけで、別に何もする積りは無かったのだ。
 あの時までは。

 そうあの日、小さな子供が俺を追いかけ殺そうとするまでは。
 私はただ町を歩いていたのだ。
 突然網を投げつけられ。

 腕をもがれ、脚を裂かれ、殴られ押さえつけられた。
 隙を見て逃げ出したが、俺の怒りは収まりはしない。
 もう人間は慈悲も無く殺すとしよう。
 こんなゴミは死ねばいい。

 だがどうやって殺し尽くすか……
 そうだ、人を殺す生物を、人の手で作らせてしまおうか。
 そう思いついた私は、別の世界の自分を使い、キメラと言う人を殺す事だけに特化した生物を作り上げた。

 しかしあの戦争は見物だった。
 人がバタバタと死んで心が躍った。
 もう少しで世界は変わる。
 人の居ない世界にきっと変わる。

 だがそんな時分、計算外の事が起きてしまう。
 有ろうことか、人が人を捨てようとしたのだ。
 そいつ等は人を捨てる事を望み、俺の前に来た。
 私は望み通り化け物にしてやった。
 魔族と恐れられ、無駄に強くなった奴等。

 それでも奴等はまだ人のつもりでいるらしい。
 もう時間が無いとも知らずに。

 最初に改造した五人は、もうすぐ人として死ぬ。
 私の体を使ったのだ、その代償として人としての意識を失い、壊すだけの化け物に代わるだろう。

「地獄の宴が始まるぞ。悶え苦しみ全員死ぬがいい!」

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