一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 砕け壊れた天使の像

教会の地下に閉じ込められた五人、出口を探し洞窟の中を彷徨(さまよ)う…………


マルファー(王国、近衛兵長)    ルーキフェート(メギドの養子)
ラヴィ―ナ(メギドの養子)     アンリマイン(メギドの養子)
ラム(王女様方の友達)


 どうやらアンリマイン様が起きられた様だ。

「おはよぉ」

「おはようございます、アンリ様。皆さんを起こして先に進みますよ」

 まだ眠そうにしていますが、余りゆっくり出来る状態じゃない。
 手持ちの食料もなく、水がほんの少ししかない。
 もう時間があまりないでしょう。

 人は三日水を飲まないと死ぬと言われている。
 今から三日がリミットだとすると、今日と明日辺りまでしか動けないでしょう。
 それを過ぎたら動くことも出来ず、誰にも知られることもなく……

 いや、まだ諦めるには早すぎますから、そういう想像はやめましょう。
 大丈夫、私達は助かります。
 希望を抱くことこそ生きる活力になるのですから。

「マルファーお水ちょうだい」

「ルキ様、もう水はほとんどないのです。少し我慢してください」

「じゃあお水出すね、行くよウォーターボール!」

 ルキ様が作り出した水は、空中に集まり丸い玉になって留まっている。
 魔法で作った水とはいえ、ちゃんと喉を潤す事もできるのです。
 しかし私の苦労は一体……でもこれで生き残る可能性が広がった。

 私達はその水を飲み、地下の迷宮を先に進んで行った。
 迷いながらも進み、今までとは違う感じの部屋が見えている。
 でもそれは、透明な板で仕切られていて、先には進ませてもらえない。
 私が剣をで殴ってみるが、相当硬いらしく弾かれてしまう。
 斬撃も同様に駄目みたいですね。

「ここは通れないようです。他の道を探しましょう。此処からは進めません」

 だがラヴィーナ様はその板に右の掌をくっつけると、逆の腕を引きその勢いで掌を押し出す。

「はあっ!」

 透明な板がバカ―ンと弾け跳び、道が通れるようになった。

「フレーレお姉ちゃんに教えて貰ったのっ!」

 ラヴィ―ナ様に何教えてるんだあの人は……
 しかしそのおかげで助かりましたけど。

「とにかく助かりました、これで進めますね」

 作りの違う部屋の中は、神殿の様になっている。
 その中央に人と同じぐらいの天使の像があり、崩れてバラバラになっていた。
 周りには柱があるだけで、他には特に何もない。

 出口は……この空間の三階位の高さに、どこかに通じていそうな別の通路があった。
 柱を登って行けば、何とかたどり着けるでしょうか?

「皆さん少し待っていてください。私が登って見て来ますので」

「うん」「分かったっ!!」「まってるわぁ」「はーい」

 しかし……中々……上がれない……キツイ!
 結構な時間が掛かったが、私はその場所へ無事到着することができた。

「ぐはっ、はぁ、はぁ」

 下を見下ろすと、かなりの高さとなっていた。
 お子様達が登るのは大変そうですね。
 仕方ありません、服と装備を結んで繋げていけば、一階分以上にはなるでしょう。
 子供ならばきっと登って来れるでしょう。

 私は服を脱ぎ、つなぎ目を確かめ、ガッチリとしたロープを作った。
 流石にパンツまでは脱げないですけどね。

 ロープを垂らし下を見たが、待たせていた子供達がいなくなっている?!
 いけない、急いで降りないと!

「マルファー遅い、服脱いで何やってるの?」

「あれ? 何で先に居るんですか?」

 不思議な事に、何故か三階の通路にルキ様が存在していた。

「ルキちゃん、大人の男の人には色々あるのよぉ」

「色々ってなにー」

「マルファー変態だっ!」

「違いますよ! 登りやすい様にロープを作ったんです! というかどうやって登って来れたのですか?」

「アンリちゃんの魔法で飛んできたのっ!」

 ああ、そんな事が出来たのですね。
 言ってくれれば良いのに。
 いえ、聞かなかった私が悪いですね。
 はぁ、兎に角この洞窟から脱出しなければ。
 続く道は上り坂で、このまま行けば外に出られるかもしれない。

「よし出口だ!」

「やったねっ!」「帰れるわぁ。」「楽しかった!」「お母さん心配してるかなー?」

 そこにあるものは、私も見たことがあるものでした。
 王国の中にあった入って来た教会と同じ風景です。
 しかしそれは時代を超えた様にボロボロに崩れていたり、植物の蔦がからまっていたりしている。

 ただ一つ気になる場所があります。
 地下で崩れていた天使の像が、この場所では崩れずに残って存在していた。
 その天使の像は、目を閉じて祈る様な恰好をしている。
 この像の顔は、あのシスターとそっくりなのです。
 一応触れてみるけど、特に変わった所はないでしょう。

 ほんの軽く触っただけなのですが、髪の部分がパキッと折れ、少しだけ頭の部分禿げてしまった。
 髪の一本一本を再現するとは、どれ程の技術なのでしょうか。
 それとも前にイモータル様に聞いた石化の薬の効果だったり?

 いや、今はそんな事よりも、ここから脱出しなければ。
 四人を連れて教会を出ると、そこは森の中でした。
 出て来た教会は、ボロボロで今にも崩れそうな感じです。
 究極の魔法とか言っておいて、この地下には何も無かったじゃないですか。

「ここは?」

 教会を出ると、ここが森の中だと気づきました。
 私達は帰りの道を探すのですが、王国の方向が分かりません。
 まだ夜になっていないのが救いでしょうか?
 そういえばアンリ様が、飛翔の魔法を使っていた。
 風を操り、下から吹き上げる事で体を浮かせる魔法です。

「アンリ様、空から何かあるか見てもらえませんか?」

「わかったわぁ」

 アンリ様が空へと飛び上がり周りを見渡すと、何かを発見したらしいです。

「お城が見えるわぁ!」

「おお、それは僥倖ですね!」

 子供達の前では言えないが、私も腹が減って死にそうだ。
 やっと帰れる。

 しかしこんな場所にこんな物があったのか?
 何度かこの場に来た事があるが、全く気付かなかった。

「じゃあ王国に帰りましょうね」

「いこー」「おっけーっ!!」「いきましょぉ」「はーい」

 私達が王国に到着する頃には、夕方を超えて夜になりかけていた。

「マルファーッ、貴様今まで何処に言っていたのだ! 何度か捜索隊も出したのだぞ!」

 正門にいたグラビトンが怒鳴って来ている。
 流石に二日程も居なくなっていては心配するに決まっているな。

「まさか貴様、王女様方に劣情を抱いて! それはいかんぞ!、王女様方はまだ子供なのだ!」

 グラビトンは何を言っているんだろう。
 私がそんな人間に見えていたのか?

「違いますよ、教会の女に地下に監禁されていたのです。もちろん王女様方は全員ご無事ですよ」

「おおルキ様、ラヴィ―ナ様、アンリ様、それとラム嬢ですな。やはり可愛いですなぁ。おーよしよし。ほら飴をあげましょう」

 グラビトンはもしかして危ない人だったのか?
 今後の付き合い方を考え直さないと。

「マルファー、私はただ子供が好きなだけだ。変な勘違いをするんじゃあないぞ」

「あー、はい、そうですね」

「貴様ッ、疑っているな! 良し、今度飯と酒を驕ってやる。俺ととことん飲もうじゃないか!」

 買収でしょうか?
 まあ飯代が浮くからいいのですけど。
 しかし戦ってる時はなかなか恰好良いのに、かなり勿体ない人だ。

「さあメギド様がお待ちだ。急いで城に戻るがいい」

 城門前にはべノムが待ち構えていた。

「マルファー、待っていたぞ。王女様方を良く守ってくれたなぁ。じゃあ俺は愛するロッテの所に戻りたいからもう行くな。じゃあまたな!」

 この二日で何があったんだ?
 凄く気になる。
 しかしもう行ってしまった。

「おお、三人共ご無事で良かった。このタイタン心配しておりましたぞ。これからは私をパパと呼んでもよろしいですぞ」

 タイタンさん、パパになりたいなら、エルさんにでも頼んでみたらどうでしょうか。
 きっと受け入れてくれるでしょう。

「マルファー、良く子供を守ってくれた。お前はこの国の英雄だ。さあ娘の誰かと結婚して、この国の王になってくれ」

 メギド様の発言に俺は驚いた。

 え?
 私が王に?
 本当に?

 でも王女様はまだ子供で……

「何を言っているのマルファー、私達はもう子供じゃないわ」

 ルキ様が大人に……ん?
 なんだこれ?
 もしかしてこれは夢なんじゃないのか?

 そこで私は気付いた。
 これが究極の魔法と呼ばれる物なんじゃないかと。
 しかし何処からこれに掛かったのだろうか。

 地下の柱を上っている時は本当に辛かった。
 あれが夢とは思えないから、ならその先だろうか?
 朽ちた教会のあの像が怪しい。

 あの像の場所に戻らないと、私は急ぎボロボロの教会に向かった。
 同じように像に触れてみると、パキリと髪が割れ落ちる。
 その瞬間、妙な世界から私の意識が戻ったらしい。

「起きたっ! ねぇ大丈夫?」

「大丈夫ですよ、皆さんも大丈夫な様ですね」

 ラヴィ―ナ様の顔が見える。
 どうやら教会の中で倒れていた様だ。
 触った者を夢に落として、気づかなければそのまま夢の中とは。
 恐ろしいと言えばそうだが、一度気づいてしまえばどうという事はない。

 地下にあった天使の像は、昔夢から目覚めた者が壊したのだろう。
 しかしこの程度で究極とか言われてもなぁ。
 私は像を壊そうと剣を構えたが、あのシスターの顔がチラついて、その気をなくした。

「さあ皆さん王国に帰りましょう」

 王国に到着するとグラビトンが待ち構えていた。

「マルファーッ、貴様今まで何処に言っていたのだ! 何度か捜索隊も出したのだぞ!」

 正門にいたグラビトンが怒鳴って来る。
 流石に二日程も居なくなっていては心配するに決まっている。

「まさか貴様、王女様方に劣情を抱いて! それはいかんぞ、王女様方はまだ子供なのだ!」

 グラビトンは何を言っているんだ。
 私がそんな人間に見えていたのか?

「違いますよ、教会の女に地下に監禁されていたのです。もちろん王女様方は全員ご無事ですよ」

「おお、ルキ様、ラヴィ―ナ様、アンリ様、それとラム嬢ですな。やはり可愛いですなぁ、おーよしよし、ほら飴をあげましょう」

 あれ?
 もしかしたらまだ夢の中なんじゃ?
 いや止めよう、こんな事を考え出すと何方が夢かすら分からなくなる。 

「ほら、メギド様が待たれているぞ。急いで戻るのだ」

 しかしこの日を境に、王国の民達が奇妙な夢を見始める。
 夢の中に天使が現れたと。

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