一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

20 眠れない日々

王国に残ったグレモリア、また報告をしに城に向かった…………


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員)   グレモリア(王国に戦いを挑んだ勇者の一人)
メギド(王国、国王)        グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)
べノム・ザッパー(王国、探索班)  イモータル(王国、女王)


 王国の中の王の自室。
 私とフレーレさん、それにべノムは、リアを連れて来ていた。
 室内にはメギド様とイモータル様が中良さそうに寄り添っていますね。
 リアが帰らないなら、それはそれで報告しないとならないのです。
 勝手に他国の者を住まわせる訳にはいかないし、スパイの可能性もあるでしょう。
 いやスパイはリアでは無理でしょうか?
 その判断は上に任せるとしましょう。

「それで、もう帰る気はないんだな? まあ良い、どうやら懐かれた様だし、お前が面倒を見るんだぞ」

「えぇ、俺がですか? もう何人か変なのが住み着いてるから勘弁して欲しいんですが」

 リアはべノムが面倒を見させられる事になったらようです。
 別の女を住まわせたりして、ロッテさんは良いんでしょうか?
 険悪なことになりそうな気がするんですが……

「ごめんなさいメギド様、貴方とは遊びだったの。あの夜の事は忘れないわっ」

「は? この女は何言ってるんだ」

 その話に口を出したのが、そのリアでした。
 妙に誤解を与える言葉に、イモータル様が驚いている。

「どうゆう事なのかしらメギド? まさか浮気したの?」

「え? いや、俺は何もしていないよ! モーたん、違うから! 本当だ! 信じてくれよ!」

「イモータル様、この人妄想癖があるからー、きっと妄想ですよ?」

 フレーレさんがリアの口を手で塞いでいます。
 これ以上ややこしくなるのは嫌ですからね。

「へ~、そうなの? もし私以外に変なことしたら、分かってるのよね?」

「しないしないしないしないしないしないしないしない!」

 フレーレさんが止めてくれなかったらどうなっていたことでしょうか。
 夫婦喧嘩で国が無くなったら嫌ですよね。
 ピリピリとした空気が、物理的にイモータル様の周りに巻き起こっています。
 この後メギド様は大変でしょうが、頑張ってもらうしかないですね。

「もう分かったから早く下がれ! 今日はもう緊急しか受け付けないからな!」

 今日はイモータル様に掛かりっきりになるんでしょう。
 頑張ってくださいメギド様。
 私応援していますね!
 部屋から追い出された私達は、城の中を歩いて話している。

「本当に俺の家に来るのかよ? ちょっと勘弁して欲しいんだが。エル、お前の所で面倒みろよ。空き部屋あるんだろ?」

 私は首を振り否定しました。
 もう絶対嫌ですから。

「はぁ、仕方がねぇ。ロッテに挨拶させて、同じ部屋にして貰おう」

 城から出てべノムの自宅に向かっています。
 家に着き挨拶をすると、普通にロッテさんの機嫌が悪くなっていますね。

「で、べノムにくっ付いているその人は誰? べノムってそんな趣味だったんだ、へ~」

 このままでは私達にまで被害が及んでしまいます。
 早く帰った方がいいかもしれません!

「いや違うぞ、このリアって女は、この家で面倒見る事になったんだ。だからお前の部屋で面倒見て貰おうと思ってだな」

「自分の部屋で面倒見れば良いんじゃないの? 毎日いい思いが出来るんでしょ?」

「べノム、この人は誰なの? 私と貴方の愛の巣には必要無いわ。出て行って貰いましょうよ!」

 リアがロッテさんを煽っています、そろそろ逃げないと。

「本当に違うからな!」

 フレーレさん、今の内に帰りましょう。
 私はフレーレさんを引っ張りこの場を去る事にした。

「お邪魔みたいだからー、私達先に帰っているわねー、じゃあサヨウナラ」

「待てッ、お前等のせいだろ! 最後まで説明して行け!」

 去ろうとした私達ですが、結局腕を掴まれて連れ戻されましたよ。
 私達がロッテさんに説明すると、一応何とか納得して貰えたみたいです。
 リアがべノムを狙っているのは事実ですから、ロッテさんには注意してもらいましょう。

「あの~、べノム隊長。ちょっと良いですか」

 昨日来た伝令のバールが、家の入り口にやって来ています。
 また勇者が来たんですか?

「じつはまた勇者が来ていまして、今度は四十人程……」

 当たりました、やりましたよ私!
 ……全然嬉しくないですけどね。

「これは根本から断たないと駄目だな。つか如何するよ? ラグナードの王様脅す訳にもいかないし、このまま倒し続ければ賞金の金額が上がっていくんだよな?」

 本当に如何しよう。
 これは戦争ではないです。
 表立ってラグナードを攻める訳にも行かないし、出来たとしても相当大掛かりになります。
 何日かかるか分からない山越えのルートを行くにしても、飛べる人はあまり居ないですから大変です。

 迂回ルートは何方にしても他国を通らないと進む事は出来ないですし、暗殺は不味いです。
 失敗すれば、ラグナードとマリア―ドの連合軍が攻めて来るのでしょう?
 戦争になれば大勢が死にます。
 それは避けたいですね。

 倒し続ければいつか来なくなるかもしれませんが、それより先に卑怯な手を使って来る者も出るでしょう。
 そうなれば被害が出る恐れがあります。

 なら元となった記事が、完全に信用出来ない物だったならどうでしょう?
 もし誰が見ても信用出来ない物を王様が信じたとするなら、その王様が国民から非難されるはずです。
 そうなれば部下が勝手に間違った等と言って、取り下げるかもしれません。

 う~んと、少し考えが浮かびました。
 ここはカールソンさんに犠牲になって貰いましょう。
 ラグナードで出鱈目な記事を連発させて、元の記事の信用を無くしてしまいましょうか。

 幸いべノムは変身魔法が使えます。
 カールソンさんとも面識があるし、成り済ます事もできるでしょう。
 そしてカールソンさんに成りすまし、適当に文章を書いてもらいましょうか。
 私はその作戦をべノムに、紙と筆で伝えました。

「まあ、やってみる価値はあるな。良いだろう、この作戦で行くぞ。俺一人なら逃げるのも簡単だからな」

 べノムは早速行動に移り、ラグナードに向かったようです。
 べノムのスピードなら一日で往復も出来るでしょう。
 作戦は決行され、二週間もすると勇者は現れなくなりました。
 どうやら成功したらしいです。

 その後べノムに聞いた話では、朝昼晩と記事を書きまくり、それを町中にばらまいたのだとか。
 三日もすると誰も信用しなくなり、六日もすると賞金が取り消された様です。
 一週間後には出鱈目な記事をバラまいた罪で、兵に追われる様になったのだとか。

 勇者はもう来ないから安心出来ますね。
 ただ、リアを取り返しに来た二人は別です。
 洗脳して攫われた等と言っていたので、きっとまた取返しに来るでしょう。

 もういっそこちらに引き込みましょうか?
 若い男の方はリアに執着していましたし、女で釣れるかもしれません。
 もちろん私達は見るだけですから、べノムにやってもらいましょう。

 問題はもう一人の方です。
 やはり賞金の為に参加したのなら、必要なのはお金でしょうか?

 確認の為にもリアに尋ねてみましょう。
 私はフレーレさんと一緒に、リアを訪ねる事にしました。

 そして尋ねたべノムの家。
 ガチャっと玄関のドアを開けて中を覗き込むと、中はやっぱり険悪な雰囲気になっていました。

「ロッテさん、そこちょっと邪魔なのでどいて貰えません? べノムの隣は私が座るから」

「リアさんは立って居ればいいでしょ、此処は私の指定席だから!」

「あら、べノムを何とも思っていないのなら良いじゃないですか。私は裸で抱き合ったりもしたんで
すよ」

「べノムは私のペットだから大事にするのは当然でしょ! それに聞いたわよ。貴方が勝手に裸になって押し倒したって。もしかして貴女痴女なの?」

「はああああああああああああ?!」

 バタンっと、私は家の扉を閉めた。
 タイミングが悪い様ですね、また今度にしましょうか。

「待てお前等、俺を助けてくれ! ずっと寝ていないんだ、もうフラフラで倒れそうなんだよ」

 まさかお二人を相手に毎晩ですか?
 そんな事を私に言われても知りませんよ。

「夜中じゅう喧嘩していて、うるさくて眠れないんだ。俺が仕事している間に寝ていやがって、夜眠る気配もねぇんだ。もう俺死ぬぞこの野郎!」

 思ったものとは違う様です。
 しかしべノムに倒れられたら、従えている探索班が潰れてしまいます。
 リアさんは、元の相手に戻って貰えれば一番良いのですけど無理ですよね?

 いっそべノムをロッテさんと結婚させて……
 ダメですね、メギド様の時も躊躇ちゅうちょが無かったですし。

「べノムが別の家を借りたら~?」

「何で自分の家を追い出されにゃならんのだ! 出て行くなら二人だろ!」

 二人共絶対出て行かないと思いますよ?

「そうだわ、二人以外に恋人を作っちゃえば二人の仲も変わるんじゃない?」

「誰とだよ、そんな奴いないぞ」

「ならいっそ、私とでも……」

 フレーレさん、そんな感じだったんですか?
 ちょっとビックリですよ。

「いや、ちょっと撲殺系は無理」

「うわ、振られちゃったわー、残念ね」

 全然残念そうじゃありませんね、揶揄からかってるんですかね。

「じゃあエルちゃんで」

 絶対嫌ですと、私は首を横に振り拒否しました。

「それでわたくしの所に来たと? 分かりましたわ、その恋人役引き受けて差し上げましょうか」

 レアスさんが引き受けてくれるとは思いませんでした。

「ダメ元だったけど、本当に良いのー?」

「ええ、べノムの泣き顔が目に浮かぶ様ですわ。うふふふふ」

 頼む相手を間違えたかもしれない。
 そう思った私ですけど、ちょっと面白そうなので見てみましょう。

「では早速参りましょう。きっと面白くなりますわね。ああ、楽しみですわ。うふふふふ」

 これは逆効果にならなければ良いのですが。

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