一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 進撃のグレモリア

 勇者の一人、グレモリアを捕獲し事情を聞いた。


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員)   グレモリア(王国に戦いを挑んだ勇者の一人)
メギド(王国、国王)


 ベリー・エルの自宅。
 連れて来たリアを、私の家に泊める事になった。

 リアはカールが掛かった茶髪で、私よりも少し年上でしょうかね。
 普通にしていれば可愛らしい人です。
 でも仲間と離れて寂しい思いをしているのでしょう。
 今は大人しく、ロープで縛られたまま眠っていますよ。
 ちょっとだけ、たんこぶを作ってですが。

 私の家でリアはちゃんと休めたでしょうか?
 少し可哀想なので私のヌイグルミ貸してあげますね。

 私はベットに寝ているリアの横にヌイグルミを飾り、起きないようにゆっくりと部屋を出た。
 私はフレーレさんと一緒に隣の部屋で休みます。
 下半身は縛って無いので、トイレもなんとかなりますよね?

 次の朝。
 ピカピカ光る太陽が眩しく光っています。
 一応この人も勇者の一員なので、勇者担当とか言われた私達が帝国まで送らないといけないんでしょうね。
 はぁ、すっごく面倒です。
 一人で帰ってくれませんかね?

 ベノムの連絡を待っていると、リアがいる部屋から音がする。

 もう起きたのでしょうか?
 行ってみましょう。

 私が部屋に入ると、リアさんは少し怯えている。

「やっぱり私拷問されちゃうの? 何でもするから助けてよ。わ、私の体にいたずらしてもいいわよ」

 私は一体どう思われているんでしょう?
 女同士とか問題外なんですけど。
 これもべノムが変な事を言ったせいです。
 今度べノムに昼食でも奢ってもらいましょうか。
 私は首を横に振り、その案を否定した。

「やっぱり拷問されるのねッ、お願いだから止めてよ。奴隷にして貰っても良いですから」

「いえ……しない……から」

「イエスッ?! 死なない程度にいたぶるからぁ?! この悪魔、きっと天罰が降るわよ!」

 どうしよう、話を聞いて貰えない。
 う~ん、フレーレさんを呼んで来ましょうかね。

 私は部屋から出てドアを閉め、フレーレさんを呼びに行く。
 後ろからは、リアの罵声が聞こえている。

「私の体は自由に出来ても、心までは奪われないんだから……」

 そんな騒がしい騒ぎを聞きつけ、呼びに行く前にフレーレさんが来てくれた。
 行く手間が省けましたね。

「また騒いでるのね。昨日気絶させたのが、そんなに気にくわなかったのかしら?」

 まあそうですよね、真夜中までずっと叫んで眠れなかったから、ついやってしまいました。
 しかし、このまま帰したら何を言われるか分からない。
 何とか宥(なだ)めたいところですが。

「そうだわー、べノムって確か変身魔法使えたじゃないの? メギド様に変身して貰って話してもらいましょうよ」

 私は頷き、べノムを待つことにした。
 お茶をすすりながらべノムを待ち、暫くすると空から飛んできた。
 私はべノムに事情を説明して、変身してと頼むのですが……

「俺がメギド様を演じろと? そんなこと出来るかよ、バレたら俺が罰されちまうわ!」

「このまま帰して王国の悪評が広がったら如何するのー? 私は今忠告したわよ」

 もう諦めてください。
 忠告されて何もしなかったなら、それも問題になります!

「チッ分かったよ、今回だけだからな。絶対誰にも言うなよ!」

 魔法を使い、べノムがメギド様に化けています。
 その姿は完全に瓜二つでしょう。
 もし見つかったら私達も危ないかもしれません。
 ひっそりやるとしましょう。

「じゃあ行って来る。あの女を説得すればいいんだろ?」

 手を振りべノムが中に入って行きました。
 私達は扉の隙間から覗き込んで二人の状況を探っている。
 さてどうなるんでしょう。

「ちょっと邪魔するぞ」

「ああメギド様、私を助けに来てくれたのですね。あの二人は酷かったんですよ、何もしていない私に酷い事を……」

 私達が拷問でもしたような言い方ですね。
 ただ縄で縛って気絶させただけなのに。
 ……まあ酷いですかね。

「ほら、今縄を解いてやるから、じっとしていろよ」

「メギド様、もう私……我慢が出来ません……」

 トイレにでも行きたかったんですか。
 そう思っていた私だけど、どうやら違うことを企んでいるようです。
 私のベッドにべノムを押し倒し、リアは服を脱ぎ始めた。

「メギド様大丈夫です、直ぐ済みますから。ほらジッとしていてくださいね」

「待て、何で脱ぐ! だ、駄目だぞ、俺には妻と子供が要るんだからな!」

 あああああああ、私の家で何をしようとしてるのですか!

「大丈夫です、私は気にしませんから。ほら、もう大きくなってるじゃありませんか」

「ちょっと待て、変な所を触るな! ふ、二人も外に居るんだぞ!」

 もうダメです我慢出来ませんよ!

「見せつけてあげましょうよ、私達の愛をねっ」

「待て待て待て、おわああああああ!」

 ガチャ タッタッタッタッタッ ゴイーン!

 私は迅速に扉を開け、リアの頭を殴って気絶させました。
 この暴走女は、もう私の家には入れませんからね!

「残念だったわね、流石にエルちゃんも怒ったみたいね」

「ざ、残念じゃねぇよ」

 ベノムもベノムです、私のベットで何をしようとしているんですか!
 お気に入りの布団がもう使えないじゃないですか!
 べノムにはベットと布団を弁償して貰いますからね。

「はっ、私は何を? ああメギド様、あまりに凄くて気絶してしまったみたいです。私は大丈夫ですのでもう一度いたしましょう」

「いや、もういいから服を着ろよ」

「それは残念です。私はまだまだいけますのに」

 まだやろうとしているのかこいつは。
 ちょっとお仕置きをしてやろうかと構えますが、コンコンコン、家のドアが叩かれました。

「ここにべノム隊長はいらっしゃいますか?」

 入って来たのは伝達役の兵士の様だ。
 一応知っている奴で、バールという男です。
 女に見境が無いと噂されている奴で、あまり近づきたいとは思いません。
 呼んだ覚えもないというのに、緊急の用事なのでしょうか?

「おうここだバール、何の用だよ」

「え?」

 あ、迂闊に返事をしたから正体がバレたじゃないですか。
 任務が最優先なのは分かりますけど。

「ん? メギド様」

「あ、いや、これは違うんだ。ほら俺だろ」

 べノムが変身を解いて兵士の前で素顔を晒していた。

「ああ、変身していたのですか、メギド様に化けてイタズラとかしたら、上官でも捕まりますからね? もし俺が言ったらどうなるか、分かっていますよね?」

「わ、分かってるって、そんな事はしないから」

 目が泳いでますよべノム、もうリアにイタズラしましたからね。

「貴方達、私を騙したのね! メギド様以外の人に体を許すなんて……でも顔も体もメギド様だったわね。これなら不倫じゃないし良いのかしら?」

 顔と体がメギド様なら良いんですか?
 どうしましょう、止めた方が良いんでしょうか?
 このまま行ったらロッテさんが悲しむかもしれませんね、やっぱり止めるとましょう。

「えっと隊長、この人何を言ってるんですか?」

「いや、頼むから気にしないでくれ。 ……で、どうしたんだよ?」

「じつは先日の勇者の一行がまた現れたのです。リアを返せと叫んでいましたよ。その人の仲間なんじゃないですかね?」

「私の仲間が来たのね……」

 この人の仲間が取返しに来たんですね。
 送る手間がはぶけますから、丁度いいので帰って貰いましょうか。
 リアさんもどうやら素直について来てくれる様ですし。
 皆で王都正門に到着すると、門前にはリアの仲間が二人居ただけでした。

「マードック殿、リア殿がおりましたぞ!」

「リアッ! 助けに来たぞ。今日こそ取り返して見せる!」

 二人で来るとは中々根性がありますね。
 良い感じなので帰ってください。

「ほら、行けよ」

 べノムに背中を押され、リアさんが一人で二人の元に向かっていきます。

「マードック、助けに来てくれてありがとう。私は無事よ」

「さあリア、一緒に帰ろう。皆が待ってるんだ」

 これで送って行かなくても大丈夫ですね。
 一つ手間が省けました。

「リア殿怖かったでしょう、早く帰りましょう」

「ええ、そうね」

「さあ、早くこっちに。あいつ等の気が変わらない内に急いで!」

「でも駄目なのよ、私はもう運命の人を見つけてしまったの。私はこのべノムと愛し合ったのよ! 
彼ったら凄かったの、私に馬乗りになって気絶するぐらい凄かったんだから」

 いや、馬乗りになったのは貴方でしょう?
 気絶したのは私が殴ったからです。

「彼ったらどんな物にも変身出来るのよ、こんな便利……ゴホン、素敵な人はいないのよ!」

「おいコラ、俺は何もしてねぇからな?!」

「君は騙されているんだ! いやまさか、リアを洗脳したのか! くそう何て事なんだ」

 洗脳なんてしていません。
 この人の素がこうだっただけでは?

「リア殿、元に戻ってくだされ! 家族が心配なさっていますぞ!」

「マードック、貴方とはもう終わったのよ、私の事は忘れてちょうだい。それじゃあバイバイ」

「ま、待ってくれぇ、リアァァァァァ!」

 え?
 この人王国に残るんですか?
 べノムはロッテさんに何て言い訳をするんですかね……
 まあ私には関係ない事ですけどね。

「おのれぇ、貴様! 俺と一対一で勝負しろ!」

 どうやらマードックって人がべノムに勝負を申し込んだみたいですね。

「いいけど、俺が勝ったらこいつを連れて帰れよ」

「貴様の思い通りになんてさせんぞ! 絶対取り返してやる」

 この人も話を聞いてくれないタイプの人らしい。

「さあ行くぞッ、うおおおおおおおおお!」

 マードックが剣を構え走る、しかしもう決着はついている。
 ベノムがあり得ない速さで、相手の剣を両断している。

「はい、俺の勝ち。んじゃ連れて帰れ」

「こ、この借りは必ず返すからな! 覚えていろよ!」

 マードックさんが逃げて行きます。
 ちょっと待ってください、リアを連れて行く事を忘れていますよ。
 ちゃんと持って帰ってください!

 私は手を伸ばして止めようとするも、華麗に撤退して消えて行った。
 これは次のチャンスを待つしかないんでしょうね……

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