一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 王に呼ばれた男

カールソンを置き去りにした二人、べノムに怒られカールソンの元に戻った…………


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員)   ドラキア(赤髪の勇者?)


「エルさん、戻って来てくれたのですね。この私の為に!」

 違いますカールソンさん、任務の為です。

「へー、結構痩せて見れる様になったじゃないの」

 まだ少し太っているけど、中々カッコいいんじゃないですかね?

「おや、やっと私の魅力に気付いたのですね。ではお茶でも致しますか?」

「私と付き合いたかったなら、私に勝つことねー」

 フレーレさんが拳を握っています。
 勝てれば恋人ですよ、カールソンさん頑張ってくださいね。

「い、嫌だなぁ、いつもの冗談じゃないですか。本気にしないでくださいよ」

「ふーん、それじゃあ帰りましょうか」

「待ってください、お二人共! 実は勇者が現れたのです。赤い髪で男、そして煌びやかな鎧を着て、大きな剣を持っていました。先ほど王城に呼ばれて行きましたよ」

 勇者が現れた?
 王城に呼ばれたなら本物なのだろうか?
 城門前で待ってみましょうか。
 そこには勇者を一目見ようと、野次馬が溢れかえっていた。

「出てきましたよ、ほら、あの人です」

 門から出て来た男を見ると、確かに言われた通り派手な男ですね。
 歳は三十には届いてないと思います。

「行ってみましょうよ、ちょっと話を聞いてみたいわー」

 フレーレさんが勇者の元に走って行きましたよ。
 そのまま右の拳を勇者にぶつけ……目の前で止めましたか。
 躱せなかった勇者にがっかりしていますね。
 あっ、戻ってきましたよ。

「あれ偽物じゃないの? なんか弱そうよ」

 フレーレさんより強い人はそんなに居ないでしょうね。
 とは言え魔王を倒すのなら、そのぐらい避けれると思いますが?
 やっぱり偽物だったり?

「あれ、勇者さんがこちらに来る様ですよ」

 拳を向けられて怒ったのでしょうか?

「なあ あんた達、結構強そうだし俺のパーティーに入らないか?」

 貴方は弱そうですね。
 しかしパーティーですか、仲間になれって事でしょうか。

「実は王様から一つ依頼を受けてな。俺一人でも大丈夫なんだが、仲間がいた方が安全だろ? それに報酬は山分けだぜ。乗らない手はないだろ」

「報酬はお幾らなんでしょうか?」

 カールソンさん、値段を聞いても貴方は役に立たないんじゃないですか?

「この国の貨幣で五千万だぜ、すごい破格だろ」

「受けましょうお二人共! 私達が付いていたなら敵はいませんよ!」

 カールソンさん、勝手に受けて貰っては困るのですが。
 それにそんな金額を出すとなると、相当手ごわい相手なのではないですか?

「受ける受けないとかの前に、それはどんな依頼なのよー? 分からなきゃ答えようがないわ」

「そこまで大きな依頼じゃないんだぜ。マリア―ド方面にある洞窟に、何匹か魔物が住み着いたんだとよ。そいつを退治すればオーケーなのさ。魔物は亀の様な外見で動きも鈍いから簡単に倒せるんだと」

 簡単に倒せるなら依頼なんて出さないはず、きっとこれは勇者を試しているのでしょう。
 実は相当に難しい依頼だったりするのかもしれないですね。

「エルちゃんまあ良いじゃないの、この人の実力を見るチャンスよ。 ……路銀も無いしね」

 そう言えばそうだ、この旅費はカールソンさんがお金を払うのだ。
 お金が無ければ私達が払わないとならない、でも私達が仕事して稼いだら意味ないんじゃ?
 まあいいです、勇者の調査も仕事の内ですからね。
 私は渋々頷き、その依頼を受ける事に決まった。

「どうやら決まった様だな。俺はドラキアだ、よろしくな」

「よろしくお願いします、私はカールソンです。そしてこちらがエルさん、隣がフレーレ様ですよ」

「様? 何処かのお姫様なのかい? よく見ると気品がある様な?」

「私はただの雇われ者よ、お姫様じゃないわー」

 実はフレーレさん、お姫様と言われても不思議じゃないぐらいの人なんですよ。
 レアスさんと二人で家出して、兵士に志願した変わり者ですけど。
 私の家も貴族階級に連なりますが、最下級で、ほとんど平民と変わらないです。

「で、フレーレは格闘戦だよな、他は何が使えるんだよ?」

「エルちゃんは剣を使えるわ」

 能力の剣は使わないでおこうか。
 腰にある擬装用の剣を使うとしましょう。

「それじゃそいつは?」

 ドラキアさんがカールソンさんを指さしている。
 カールソンさんは、ただの重し、ですかね?

「カールソンさんは何かしら? ……マスコット?」

 フレーレさんはそんな風に思っていたんですか?
 マスコットにしては可愛さが足りない気がします。

「マスコットにまで金は払えないぜ? それでいいかい?」

 カールソンさんにお金が入らないと、結局私達が旅費を払うのでしょうか?
 後で倍にして新聞社に請求するとしましょう。

「仕方ないわねそれでいいわよ」

「えっ、ちょっと、分け前を……」

 戦力外なのにお金を要求するんですか?
 カールソンさんに出来る事と言ったら、せいぜいキメラの餌として囮で使うぐらいですよ?
 まあそれをやって死んでもらっては ほんの少し困るのですけど。

「分け前で揉めるのは後にしてほしいぜ。得物に逃げられても困るからな」

「そうねー、じゃあ行ってみましょうかー!」

 張り切るフレーレさんに押されて、私達は馬車を走らせている。
 用意はできているからそのまま洞窟へ向かっている。

「なあ あんたフード取って顔ぐらい見せたらどうだ? 仲間だろ」

 私に言っているのだろう。
 フレーレさんはフードを被らなくてもおかしな所はない。
 少しばかり面倒だけど、髪の炎を抑えましょうか。
 ちなみにフードが燃えないのは熱を抑えているからですよ。

「……これは、中々かわいい子じゃないか」

「駄目ですよ! エルさんは私を愛しているんですからッ!」

 そんな覚えは過去から未来まで永劫的にないのです。
 ドラキアさんが見てない所で、ぶん殴ってやりましょうか。
 諦めてはくれないと思いますけど……

「まあ気にするなよ。俺の趣味じゃないからな」

 否定されるのも何となく嫌ですね。

「おっと、早速敵が来たぜ、あんた達の実力を見せて貰おうか」

 私達の方が見たいのですが、まあ良いでしょう。

 どうやら野盗が出たらしい。
 このぐらいなら力を使う必要はないでしょう。

「じゃあドラキアさんはカールソンさんを守っていてね」

 相手は七人。
 私とフレーレさんが敵の中心に突っ込む。

 一人目。
 野党の一人が、フレーレさんの正面から斬り付けて来る。
 フレーレさんは体を捻り、交差して掌底を顎にぶつけた。
 その一撃で野盗の脳が揺らされ、グラりとその場で倒れてしまう。

 二人目。
 一人がフレーレさんの背中を狙い、斬り付けて来ていた。
 フレーレさんだけでも充分ですが、私がその剣を反らし、首を斬り付けた。
 二人目はそれで落ちた。

 三人目。
 背中を狙った一撃と同時に、フレーレさんの腹を貫こうと動いて来た。
 しかしそこにはもう居ない。
 フレーレさんは体を回転させ、気絶した最初の一人の後ろに回っていた。

 気絶して倒れこむ寸前、その相手を押し、野盗の突きはその気絶した一人が受けた。
 その剣を引き抜く間を与えず、フレーレさんは背中越しに寸勁を放つ。
 私を狙っていた一人に、その相手が吹き飛び盾となる。

 四人目。
 ぶつかって転んだ二人を見逃さず、私が二人を斬り付けて次の五人目。
 私が斬り付けている隙を狙い二人が襲う。
 でもフレーレさんは、それを許さない。
 背中に肘を打ち込み、斬り付けて来たもう一人の目の前に、その相手を飛ばす。
 その一人は怯み、私は相手が怯んだ隙に胸を貫いた。

 そして七人目。
 七人目はドラキアさんに向かって行った。
 ドラキアさんは相手の剣を受け、力比べをしていた。
 ……そのまま暫く動かない。

 フレーレさんが、その一人の後ろに歩いて行き、野盗の頭を蹴り飛ばした。
 手加減していた様で、敵の頭が残っていますね。
 それでも首の骨が折れてもう助からないですが。

「二人共やるじゃないか、俺が手を貸すまでもなかった様だな」

 う~ん、この人やっぱり弱そうだ。
 依頼の敵と戦えるのでしょうか?
 ここまで来たから仕方がないけど、もしかしたらフレーレさんと私しか戦力にならないかもしれませんね。

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