一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 王道を行く者達11

 戦争から十七年後、 無人島に流されたリーゼ達、島の探索を済ませ洞窟に足を踏み入れる…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)


 無人島三日目の朝。
 結局ラフィールの発見した洞窟以外は、特に目ぼしい物は見つからず、傭兵達と合同で洞窟探索を開始する事になった。
 八人が非戦闘員で、それにガットンとマッド、もしもの為に傭兵が二人拠点に残っている。
 残りの十人が洞窟を探索し、引き続きリーゼとハガン、それにラフィールの三人がチームを組んだ。
 残りが三人と四人でチームを組むらしい。

 洞窟の中は暗く、松明に灯を付けて進んでいる。
 二人が手を広げると、やっとぐらいの大きさだ。
 風の流れがあるし、空気が無くなる様な事はない。
 松明が不意に消えてしまったのなら、そこは空気の密度が薄く、人間では行けない場所になるだろう。
 もしガスが溜まっていたら爆発してしまうが、そこまで気にしていては洞窟探索が進まない。

「今の所何もないようね」

「あいつ一体だけとは限らないだろ? リーゼちゃん、油断するなよ」

「ここが住処だとすると、あいつの仲間が要るかもしれないな」

 かなりの時間を歩き、少しずつ地下に下って行っている。

「分かれ道よ、どっちに行く?」

 左右に続く道を四人チームが左に進み、リーゼ達と残り三人は右側を進んで行く。

 グルルルルッっと奥で鳴き声が聞こえている。
 何処か近くに敵が居るのかもしれない。
 道が分かれてからずっと一本道で、ここで襲われても剣で断ち切れるだろう。

 もし炎が敵に見えていたのなら、もう気づかれているはずだ。
 何処からともなく襲って来てもおかしくない。
 だが、いくら進んでも、敵の姿は見えてこない。

「ぐぎゃあああああッ」

 後から悲鳴が聞こえ、松明が落ちる音がした。

「上だッ! 天井に張り付いているぞッ!」

 傭兵の声が上がり、リーゼは上を見上げた。
 バッと首を上げると、上に潜んでいた敵と目が合ってしまう。

「やば……ッ」

 リーゼの目の前に、獅子の顔が迫って来る。

「風よ吹き返せッ!」

 獅子が空気を噛み砕く。
 危うい所でラフィールの風が、リーゼを後に吹き飛ばしていた。

「助かったわ!」

「お礼ならキスでいいぜ」

 リーゼは答えない。
 そんな事を言い合ってる場合じゃないのだ。

 敵は二体。
 前と後ろ、後ろは任せるしかないだろう。
 後は一人がやられて、ハガンともう一人が戦っている。

 松明を持ってるのは二人で、ラフィールと傭兵組の一人だけだ。
 しかし今その一人がやられ、残っているのはラフィール一人しか立って居ない。

 松明を持っているラフィールは、あまり戦力として期待は出来ない。
 それに、ラフィールにはやられてもらっては困るのだ。
 火が無くなれば逃げる事も難しく、松明を置いて戦っても良いが、逃げる時に拾えるかは微妙だった。

「来なさい、刻んであげるわ!」

 獅子が飛び掛かって来ていた。
 しかし直進するだけの敵なら、リーゼの剣の餌食である。
 顔の前に剣を構え、しゃがみ込みながら一体を両断した。

 一体を倒すが、後はまだ戦っている。
 手伝おうにも二人が戦っているだけで、洞窟の広さがギリギリで、とても手を出せない。

「魔物如きにやられてたまるかッ!」

 戦っていた傭兵が飛び出し、剣を頭に当てるが、獅子のたてがみがそれを弾き、そして傭兵の体を鎧ごと噛み砕いた。

 ハガンが獅子の顔面を蹴り付けると、食い付いた傭兵を諦めて後に飛び退のいて行く。

「おい、死ぬなよッ」

 ハガンが目線を獅子から逸らさず、倒れた男へと叫ぶ。
 しかし見るからに重症で助かりそうもない。
 ここにマッドが居たなら……

 いや、マッドが居ても、彼の命の方が危ない。
 マッドには攻撃手段もなく、戦いの経験がまるでないのだ。
 襲われたら簡単に死ぬだろう。
 拠点に居た方が彼の為である。

「私が行くわ!」

 倒れた兵士の代わりに、リーゼが前に出た。
 角の剣があれば、どれ程硬い体毛でも両断して倒す事が出来る。
 だが獅子は壁を蹴り上空に潜むと、暗闇に潜み見えなくなった。
 上方を警戒してるが、獅子は簡単に降りてこない。

「ラフィール、合わせて! ……行くよ、ファイヤーッ!」

「風よッ、標的に吹けッ!」

 昨日敵を落とした合体魔法だ。
 リーゼの炎の魔法に風が絡まり、その威力が倍化される。
 天井に当たると炎が更に巨大になり、敵のいた場所に弾けた。
 その炎の光で天井が照らし出され、隠れていた敵の居場所があらわになる。

「移動しているぞッ、リーゼッ上だッ!」

「同じ事をしてッ」

 二度と同じ事をしないように、リーゼは上に気を張っていた。
 りーぜが剣を振り上げ獅子の首を落とすが、獅子の体の勢いが落ちずにリーゼを吹き飛ばす。

「リーゼッ大丈夫かッ!」

「げほっ、大丈夫、生きてるわ」

「彼奴は?」

 倒れた兵士を見るが、もう息をしていなかった。
 兵士の胸元を見ると、ロケットペンダントがあり、開けてみると女の人の写真が入っている。
 ラフィールがペンダントを外し、最初に襲われた兵士の方も見てみるのだが彼は何も持ってはいなかった。
 彼の身元は分からない。
 家族にも知られずに、ひっそりと朽ちていくのだろう。

「機会があるならこのペンダントを渡しといてやる。じゃあな戦友達」

 奥に進むと行き止まりで、そこは翼ある獅子の巣になっていた。
 大人は居ない様だが、子犬サイズの魔物の子供が唸っている。
 天井も確認するが、他に潜んでは居ないようだ。

「どうしよっか?」

「殺しておこうぜリーゼちゃん。後々面倒になるかもしれないぜ」

 子供を殺すのは気が引けるが、もし何か月もここにいるとなると、こいつは敵として仲間を襲うだろう。

「お前達がもし気が引けると言うなら、俺がやってもいいぞ?」

 生き残った傭兵の一人が、剣を抜いている。

 獅子の親を殺して、子供がここにいる。
 そんな状況に、あの魔族に自分がされた事を思い出した。

「私達は何時までもこの島にいるわけじゃないでしょ? 放って置いても平気よ。子供なんてすぐ死んじゃうわ」

「もしこの先一週間でも島に居る事になったら、俺が殺し来るからな」

 兵士が言う事にも一理ある。
 その時は止めようがないだろう。

「その時は仕方がないわ。どうぞご勝手に」

 リーゼはあの魔族もこんな気持ちだったのかと思っている。
 そうだとしても許す事など出来ない。
 リーゼが手持ちの干し肉を、獅子の子供の前に投げ捨てた。

「じゃあね、バイバイ」

 獅子の子供が干し肉に噛り付き、嬉しそうにニャーと鳴いた。
 分かれ道まで戻り、左の道に進んで行く。
 別れた四人のチームは大丈夫だろうかと心配している。

 左側の道を進むと、また分かれ道があった。
 四人のチームは右側を進んだ様だ。
 別れた道の壁に、印がつけてある。
 行き違いになる事もある、状況を知らせるために、生き残った傭兵が右側に進んでくれるらしい。

「もし敵がいそうなら逃げるんだぞ? 一人じゃキツイからな」

 ハガンの言葉に頷き、傭兵は右側に進んで行く。
 リーゼ達は左を進み、先ほどより洞窟の幅が広がっている様だ。
 随分歩きやすくなっているが、まだ奥が見えてこない。
 相当広い洞窟なのだろう。

「そうだリーゼちゃん、お礼のキスがまだだったろ? 今なら大丈夫だぜ!」

 先ほど助けられた時に言っていた事だ。
 ラフィールがリーゼに迫るが、ハガンは何も言わない。
 恋愛は自分達で決めれば良いと思っている様だ。
 リーゼは仕方がないと思い、今の内に済ませる事にした。

「じゃあラフィールさん、こっちに来てくださいね」

「お、おう」

 自分で言っておいて緊張してるのだろうか。
 リーゼが目を瞑り、顔を上げ、ラフィールが顔を近づけて……

「あの、リーゼちゃん? 首に剣を当てるのやめてくれないか?」

 リーゼがラフィールの首に剣を当てている。
 この剣の切れ味なら、そのまま続ければ首が落ちるだろう。

「大丈夫ですよ、キスしたいならそのまま続けてくださいね」

「あッ、ごめんやっぱりなし! 早く進もうぜ!」

 どれだけ歩いただろうか。
 明らかに島の大きさより、長く歩いている。

「見て! 明かりが見えるわ!」

「よし、行くぞ」

「もしかしたら島から出れるんじゃないか」

 三人が出口に走り洞窟の外に出ると、島の中では見た事もない場所に出たようだ。

「出れたはいいが、如何するよこれ?」

 ラフィールが目の前を見る。
 目の前には崖、遙か下には川が流れ、崖の向う側に進むには十メートルは跳ばないと進めない。
 他に進めそうな道もなく、進むには橋でもかけるしかないだろう。

「ラフィール、お前の風で飛べないのか?」

「少しぐらいなら何とかなるかもしれないけど、これは無理だぜ」

 外の状況を見ると、もうあと数時間で夜になりそうだった。
 一度島の拠点に戻り、他のチームの帰りを待った。
 どうやら向うにも敵が何匹か居たらしく、その怪我をした仲間にマッドが回復魔法を掛けている。

 向うのチームも出口らしきものを発見したが、とても人間が通れる様な大きさではなかったと言っている。
 どうにか穴を広げる事が出来たなら、この島の外に出れるかもしれない。

 頑張って全員で掘るか、あの谷を越えるしかない。
 二十人いれば如何にかなるだろう。
 しかし、掘った先が谷の底という可能性もある。
 リーゼ達が行った崖側の対策もしておいた方が良い。

「崖の先の木にロープでも掛けれないかしら」

「だがロープがないぜ」

 ラフィールの言う通り、確かに此処にロープはないのだが……

「ロープなら森の蔦を編み込めば行けるんじゃないか?」

 森の中には、それらしきつたを何度も見かけている。
 行けるかもしれない。

「待て、ロープが作れるのなら、もう一つ良い方法がある。木を橋にするんだ。加工出来れば二十人も居れば運べるだろ?」

「ロープは何処で使うの?」

「木材の頭に縛り付けて、伸ばして行くんだ。そうすれば安全に橋を架ける事が出来る。問題は洞窟の中に、木材を運べるかどうかだが、狭い場所さえ抜ける事が出来れば、後は何とでもなる」

 やる事が決まり、全員に了承を得て、明日の朝取り掛かる。


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 朝になり、二十人全員で行動を開始しした。
 木材の加工し、それを運んで行く。
 洞窟は木材の運搬をギリギリでこなせる広さがあり、崖の間に橋を作る事に成功した。

「ここから先はどうなってるか分からない。崖の先は魔物の巣窟って事もある。俺達はこの先に向かうが、他の者は光が見えた穴を掘り進めていてくれ」

 この先に進むのは四人で、リーゼ、ハガン、ラフィール、マッドも同行するとの事だ。

「ところでリーゼさん、それなんですか?」

 マッドがリーゼの後ろを指さす。
 何かある様だ、リーゼが振り向くと……

「あ、あなた付いて来たのね!」

 後には干し肉をやった獅子の子供がついて来ていた。
 リーゼがそれに気づくと、獅子の子供が懐いた様に体を摺り寄せた。

「どうやら懐かれたみたいだな? しかしこいつを飼う事は出来ないぞ。大人になった姿を見ただろう。あんなのを養う金は無いからな」

 ハガンの言う事は分かった。
 育てられなくなって捨てると、野生化して、いずれ人を襲う。
 かと言って、育てた子供を自分で殺すのは、リーゼには心情的に出来ないだろう。
 此処で殺すのが最善なのだが、リーゼには出来なかった。
 子供を平手で殴りつけ、それを追い払う。

「帰れええええッ!」

 リーゼが怒った顔を見せると、獅子の子供が逃げて行った。

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