一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
28 ブリガンテへの伝令1
マリア―ドとの戦いが終わりブリガンテに接触を図る…………
メギド(王国、国王) ベノムザッパー(王国、偵察班)
アスタロッテ(べノムの部下) グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)
グラビトン(王国、門番兼大臣)
王国の王メギドに呼ばれ、べノムとアスタロッテが王城に参上していた。
何の様だろうかと、二人は言葉を待ち続けた。
「よく来てくれた二人共。実はお前達にはブリガンテ国との交渉の使者になって欲しいのだが、頼まれてくれないだろうか?」
「俺は兎も角、なんでロッテの奴も? こいつは軍人ですらありませよ?」
「子供の頃の話らしいのだが、アスタロッテは親に連れられて、ブリガンテの城に行った事があるそうだ。向うの王とも面識があるらしい」
ロッテはメギドの子供達と遊んでいる時に、話を聞きつけて志願したらしく、べノムが行くのなら私も行くと言い張っていた。
「ああ、それとアスタロッテは兵に志願したから、これからお前の部下な。まあ宜しくやってくれ」
「は?」
これからは四六時中二人一緒という事だろう。
べノムは一度気の迷いで惚れそうにもなっているが、毎日顔を突き合わせるのは多少気が引けている。
「よろしくねッ!」
アスタロッテが無駄に明るく返事をしていた。
「あ~、分かりました。え~と、それで、ブリガンテに行く使者は俺達二人ですか?」
「あまり大勢で行って怖がらせても仕様がないからな。それともう一人呼んでいる、もうそろそろ来るはずだが」
メギドがそう言うと、グラスシャール・ボ・レアスが、何時の間にかゆっくりと歩いて来ていた。
彼女は王国の貴族の娘で、現在は兵に所属している。
そんな貴族体勢も、二度もの戦いにより、殆どの家が潰れているも同然なのだが。
「メギド様、グラスシャール・ボ・レアス、御呼びにより参上いたしました」
「王の呼びつけに送れて来るとは、中々肝の据わった奴ですよね」
べノムはこのレアスとは何度か会った事はあるが、そこまで親しくはなかった。
昔メギド王に呼ばれて同行したパーティーで、一度話しかけたぐらいだろう。
「あら、レディーは遅れて来るものですわ。そこを待つのも殿方の甲斐性ですのよ。そうでございますよね、メギド様?」
「そうかもしれんが、一応今度からは気を付けるのだぞ。あまり目立った事をすると罰を与えなければならなくなるからな」
「はい、今後は気を付けますわ」
たぶんこの性格は、その育ちがそうさせたのだろう。
横に居るアスタロッテとも交流がある様だが、べノムとしてはこの二人と旅をするのは、そうとう骨が折れるだろうと感じてしまう。
「この女の事はそれはいいですが、それでメギド様、ブリガンテでどんな交渉を?」
「そちらが攻めて来なければ、こちらは何もしないと。もう一つが、こちらと貿易がしたいのなら、王国内では護衛をしてやると言っておいてくれ。勿論荷の検査はして貰うがな」
こちらの事が分からなければ、またマリア―ドの様に攻めて来る国が出て来るだろう。
メギドとしてはマリア―ドにも使者を送りたかったが、まずは戦争をしていないブリガンテから様子を見る事にしたらしい。
「それでは三人共、ブリガンテへ向けて出立しろ」
「分かりました、では行って参ります」
「行ってきま~す」
「仰せのままに」
メギド王の命を受け、三人のブリガンテへの旅が始まる。
ブリガンテは帝国より更に西、馬で六日ぐらいは掛かるだろう。
それは魔物も居ない野を飛ばせるのならばだ。
べノムだけならば空を駆ければ二時間もあれば着くだろうが、流石に一人で乗り込む訳にはいかない。
「二週間の旅だ、食料と水、あとは馬も俺が用意しておく。それぞれ必要な物を用意したら正門に集まってくれ。一時間後にそこに集合だ」
二人と別れ、べノムは馬の確保に向かった。
城の厩舎で二頭立ての馬車を借り、食料の確保に向かう。
水と食料、ロープや薪等を買い、馬車に積み込んだ。
そして全ての準備が完了し、べノムは正門に向かった。
「また彼奴遅れてるじゃねぇーか!」
すでに予定の時間から三十分も遅れていた。
この場に到着していない人物が一人居る。
それは王城にへも遅れて来たあの女だった。
「落ち着いてよべノム。何かトラブルがあったのかもしれないでしょ?」
「あらお二人共、如何なさいまして?」
何時の間にかレアスが現れていた。
べノムは正門の入り口を見ていたはずなのだが、その姿は確認できなかった。
キメラ化しているとは聞いているのだが、べノムとて全ての人間の能力を把握している訳ではない。
「おめぇを待っていたんだよ!」
「あら、そうなのですか? 私はずっとこの場に居りましたよ」
レアスの姿が霧の様に掻き消える。
「あのな、そんなもんが見て分かるか! 居たなら姿を現しやがれ!」
「あらあら短気な人ですわねぇ。先ほども言いましたが、レディーを待つのも男の甲斐性なのですのよ。それに随分と口が悪いですわね」
女と言い合いをしていても、時間が過ぎるばかりだった。
べノムは言い合いを諦め、出発しようとするのだが……
「そんな言い合いしてるより、いっそ戦ってどっちが上か決めて見たら?」
アスタロッテが二人を更に煽るが、べノムとしては女を虐めるのは趣味ではなかった。
「流石に女をボコボコにすんのは気が引けるんだが? 何時までもここに居てもしょうがねぇ。もうそろそろ出発しようぜ」
「もしかして私に勝てるおつもりでしたの? いいですわ、手加減してあげますので掛かっていらっしゃいませ」
べノムの顔が引きつっている。
しかしただの挑発だと思って、まだ耐えている。
「ま、まあ俺も悪かったよ。俺も少し言い過ぎたらしい。だから、さっさと行こうじゃねぇか」
「謝ってくださいますの? ではそこに跪いて私の靴を舐めて、二度と逆らいませんと宣言しなさいな」
「よし、殺すッ!」
その言い分を聞き、流石のべノムもブチ切れてしまう。
相手が女性だという事も忘れて、二人の戦いを開始した。
「行くぞオラァ!」
「待て、ここで戦うんじゃない、やるなら町の外でやれ」
べノムがレアスに突っ込もうとするのだが、そんな騒ぎを聞きつけたグラビトンが、べノムの頭を掴んで止めた。
べノムはグラビトンに摘ままれて、町の外に放り出された。
門前から追い出された二人は、まだ険悪な状態が続いている。
「さあ、続きを始めましょう」
少し空中に浮き上がりながら、レアスが自分の爪を伸ばして構えている。
此処で戦わない事も出来るが、この女は後々ネチネチと言ってきそうな感じだった。
「泣いて謝っても、もう俺は知らねぇぞ? そのままぶん殴ってやるからな!」
「お~やれ~」
ロッテには少し黙って欲しかったが、こんな奴だから仕方がないだろう。
そうべノムは諦め、レアスと言う女に集中した。
「さあ行きますわ。黒くて気持ち悪い男め! 私の力に平伏しなさい!」
レアスの体が掻き消え、べノムは辺りを見回している。やはりレアスの姿は見えない。
「反則くせぇぞおい!」
レアスの体が、空中でスーッと現れた。
「まだ何もしていませんのに、もう降参ですの? 随分と口だけのお方ですこと。裸になって謝るのなら……やっぱりいいですわ。そんな物を見ても気持ちが悪いだけですから」
「うっせぇ! 今からやるんだよ!」
べノムがレアスの横に一瞬で移動し、右肩を蹴りつけた。
だがその蹴りは虚しく空中を蹴り、レアスの姿は、また掻き消えている。
べノムの攻撃の隙をついて、レアスは体を現し、べノムの背中から爪で切裂いた。
「ッいって~なぁ、このスケ女が!」
攻撃する際には、体を戻さないと駄目らしい。
それに気づき、べノムの作戦は決まった。
べノムは辺りを探すし、上空を見た。
上には居ない。
左右上下と確認するのだが、レアスの姿は確認出来ない。
「ここですわッ!」
べノムの背中が、爪によりまた切り裂かれる。
しかしその状況をべノムは待っていた。
この一撃を最初からを受けるつもりで待っていたのだ。
「後から攻撃が来たら、その方向に打撃を撃つッ!」
べノムの速さがあったからこそ、その攻撃が間に合った。
腹に一撃を入れられ、レアスが悲鳴を上げた。
「あがッ……」
だが、そこからが続かなかった。
レアスの姿が消え、何も攻撃してこなくなる。
一分経ってもにも、まだその姿が見えない。
空を見上げても姿は無く、下を見てもアスタロッテしか見えない。
だがよく見ると、その影にレアスが潜んで、何かの準備を……?
「やばい! ……間ッに合ええええ!」
べノムがレアスの元に急ぎ、その拳を振り上げた。
しかし先に発動したのはレアスが用意していた魔法だった。
「ダークネス・アッシュッ!」
レアスが魔法を放つと、べノムの前に小さな黒い玉が現れた。
体を反らし、それを躱すが、自分の体ごと玉に吸い寄せられている。
体が黒い玉に覆われ、体力と精気が吸い取られて行く。
「残念でしたわね、少し遅かったですわ。まあ手加減してありますので、暫くすれば動けるようになりますわ。そのまま大人しく這いつくばっていなさいな。おほほほほ」
「ちく…………しょう……めッ」
「決着もついたし、もう行こっか~」
べノムはアスタロッテに引きずられ、馬車に押し込まれてしまう。
馬車の中でアスタロッテに回復魔法を掛けてもらい、やっとの事で動けるようになった。
べノムは後でアスタロッテから聞いたが、実はメギドがアスタとレアスに言いつけ、相手の力を見極める戦いをさせたらしい。
王城でレアスが遅れて来た時から、相手の掌で踊らされていたのだろう。
「では負け鴉さん。私少し眠りますので、後はお任せしましたわ」
いや、もしかしたら、全部素でやってたのかもしれない……
「次やる時は、ぜってぇ泣かしてやるからなッ!」
「あらあら、負け鴉さんの遠吠えなのかしら? 五月蠅くって眠れませんわ。今から二戦目を始めてもよろしくってよ?」
「やってやらぁ! お前の攻撃は見切ったからな、もう覚悟するんだな!」
「じゃあ、二戦目ふぁいとー」
アスタロッテがコップを鳴らし合図をすると、二人の第二戦目が幕を開けた。
メギド(王国、国王) ベノムザッパー(王国、偵察班)
アスタロッテ(べノムの部下) グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)
グラビトン(王国、門番兼大臣)
王国の王メギドに呼ばれ、べノムとアスタロッテが王城に参上していた。
何の様だろうかと、二人は言葉を待ち続けた。
「よく来てくれた二人共。実はお前達にはブリガンテ国との交渉の使者になって欲しいのだが、頼まれてくれないだろうか?」
「俺は兎も角、なんでロッテの奴も? こいつは軍人ですらありませよ?」
「子供の頃の話らしいのだが、アスタロッテは親に連れられて、ブリガンテの城に行った事があるそうだ。向うの王とも面識があるらしい」
ロッテはメギドの子供達と遊んでいる時に、話を聞きつけて志願したらしく、べノムが行くのなら私も行くと言い張っていた。
「ああ、それとアスタロッテは兵に志願したから、これからお前の部下な。まあ宜しくやってくれ」
「は?」
これからは四六時中二人一緒という事だろう。
べノムは一度気の迷いで惚れそうにもなっているが、毎日顔を突き合わせるのは多少気が引けている。
「よろしくねッ!」
アスタロッテが無駄に明るく返事をしていた。
「あ~、分かりました。え~と、それで、ブリガンテに行く使者は俺達二人ですか?」
「あまり大勢で行って怖がらせても仕様がないからな。それともう一人呼んでいる、もうそろそろ来るはずだが」
メギドがそう言うと、グラスシャール・ボ・レアスが、何時の間にかゆっくりと歩いて来ていた。
彼女は王国の貴族の娘で、現在は兵に所属している。
そんな貴族体勢も、二度もの戦いにより、殆どの家が潰れているも同然なのだが。
「メギド様、グラスシャール・ボ・レアス、御呼びにより参上いたしました」
「王の呼びつけに送れて来るとは、中々肝の据わった奴ですよね」
べノムはこのレアスとは何度か会った事はあるが、そこまで親しくはなかった。
昔メギド王に呼ばれて同行したパーティーで、一度話しかけたぐらいだろう。
「あら、レディーは遅れて来るものですわ。そこを待つのも殿方の甲斐性ですのよ。そうでございますよね、メギド様?」
「そうかもしれんが、一応今度からは気を付けるのだぞ。あまり目立った事をすると罰を与えなければならなくなるからな」
「はい、今後は気を付けますわ」
たぶんこの性格は、その育ちがそうさせたのだろう。
横に居るアスタロッテとも交流がある様だが、べノムとしてはこの二人と旅をするのは、そうとう骨が折れるだろうと感じてしまう。
「この女の事はそれはいいですが、それでメギド様、ブリガンテでどんな交渉を?」
「そちらが攻めて来なければ、こちらは何もしないと。もう一つが、こちらと貿易がしたいのなら、王国内では護衛をしてやると言っておいてくれ。勿論荷の検査はして貰うがな」
こちらの事が分からなければ、またマリア―ドの様に攻めて来る国が出て来るだろう。
メギドとしてはマリア―ドにも使者を送りたかったが、まずは戦争をしていないブリガンテから様子を見る事にしたらしい。
「それでは三人共、ブリガンテへ向けて出立しろ」
「分かりました、では行って参ります」
「行ってきま~す」
「仰せのままに」
メギド王の命を受け、三人のブリガンテへの旅が始まる。
ブリガンテは帝国より更に西、馬で六日ぐらいは掛かるだろう。
それは魔物も居ない野を飛ばせるのならばだ。
べノムだけならば空を駆ければ二時間もあれば着くだろうが、流石に一人で乗り込む訳にはいかない。
「二週間の旅だ、食料と水、あとは馬も俺が用意しておく。それぞれ必要な物を用意したら正門に集まってくれ。一時間後にそこに集合だ」
二人と別れ、べノムは馬の確保に向かった。
城の厩舎で二頭立ての馬車を借り、食料の確保に向かう。
水と食料、ロープや薪等を買い、馬車に積み込んだ。
そして全ての準備が完了し、べノムは正門に向かった。
「また彼奴遅れてるじゃねぇーか!」
すでに予定の時間から三十分も遅れていた。
この場に到着していない人物が一人居る。
それは王城にへも遅れて来たあの女だった。
「落ち着いてよべノム。何かトラブルがあったのかもしれないでしょ?」
「あらお二人共、如何なさいまして?」
何時の間にかレアスが現れていた。
べノムは正門の入り口を見ていたはずなのだが、その姿は確認できなかった。
キメラ化しているとは聞いているのだが、べノムとて全ての人間の能力を把握している訳ではない。
「おめぇを待っていたんだよ!」
「あら、そうなのですか? 私はずっとこの場に居りましたよ」
レアスの姿が霧の様に掻き消える。
「あのな、そんなもんが見て分かるか! 居たなら姿を現しやがれ!」
「あらあら短気な人ですわねぇ。先ほども言いましたが、レディーを待つのも男の甲斐性なのですのよ。それに随分と口が悪いですわね」
女と言い合いをしていても、時間が過ぎるばかりだった。
べノムは言い合いを諦め、出発しようとするのだが……
「そんな言い合いしてるより、いっそ戦ってどっちが上か決めて見たら?」
アスタロッテが二人を更に煽るが、べノムとしては女を虐めるのは趣味ではなかった。
「流石に女をボコボコにすんのは気が引けるんだが? 何時までもここに居てもしょうがねぇ。もうそろそろ出発しようぜ」
「もしかして私に勝てるおつもりでしたの? いいですわ、手加減してあげますので掛かっていらっしゃいませ」
べノムの顔が引きつっている。
しかしただの挑発だと思って、まだ耐えている。
「ま、まあ俺も悪かったよ。俺も少し言い過ぎたらしい。だから、さっさと行こうじゃねぇか」
「謝ってくださいますの? ではそこに跪いて私の靴を舐めて、二度と逆らいませんと宣言しなさいな」
「よし、殺すッ!」
その言い分を聞き、流石のべノムもブチ切れてしまう。
相手が女性だという事も忘れて、二人の戦いを開始した。
「行くぞオラァ!」
「待て、ここで戦うんじゃない、やるなら町の外でやれ」
べノムがレアスに突っ込もうとするのだが、そんな騒ぎを聞きつけたグラビトンが、べノムの頭を掴んで止めた。
べノムはグラビトンに摘ままれて、町の外に放り出された。
門前から追い出された二人は、まだ険悪な状態が続いている。
「さあ、続きを始めましょう」
少し空中に浮き上がりながら、レアスが自分の爪を伸ばして構えている。
此処で戦わない事も出来るが、この女は後々ネチネチと言ってきそうな感じだった。
「泣いて謝っても、もう俺は知らねぇぞ? そのままぶん殴ってやるからな!」
「お~やれ~」
ロッテには少し黙って欲しかったが、こんな奴だから仕方がないだろう。
そうべノムは諦め、レアスと言う女に集中した。
「さあ行きますわ。黒くて気持ち悪い男め! 私の力に平伏しなさい!」
レアスの体が掻き消え、べノムは辺りを見回している。やはりレアスの姿は見えない。
「反則くせぇぞおい!」
レアスの体が、空中でスーッと現れた。
「まだ何もしていませんのに、もう降参ですの? 随分と口だけのお方ですこと。裸になって謝るのなら……やっぱりいいですわ。そんな物を見ても気持ちが悪いだけですから」
「うっせぇ! 今からやるんだよ!」
べノムがレアスの横に一瞬で移動し、右肩を蹴りつけた。
だがその蹴りは虚しく空中を蹴り、レアスの姿は、また掻き消えている。
べノムの攻撃の隙をついて、レアスは体を現し、べノムの背中から爪で切裂いた。
「ッいって~なぁ、このスケ女が!」
攻撃する際には、体を戻さないと駄目らしい。
それに気づき、べノムの作戦は決まった。
べノムは辺りを探すし、上空を見た。
上には居ない。
左右上下と確認するのだが、レアスの姿は確認出来ない。
「ここですわッ!」
べノムの背中が、爪によりまた切り裂かれる。
しかしその状況をべノムは待っていた。
この一撃を最初からを受けるつもりで待っていたのだ。
「後から攻撃が来たら、その方向に打撃を撃つッ!」
べノムの速さがあったからこそ、その攻撃が間に合った。
腹に一撃を入れられ、レアスが悲鳴を上げた。
「あがッ……」
だが、そこからが続かなかった。
レアスの姿が消え、何も攻撃してこなくなる。
一分経ってもにも、まだその姿が見えない。
空を見上げても姿は無く、下を見てもアスタロッテしか見えない。
だがよく見ると、その影にレアスが潜んで、何かの準備を……?
「やばい! ……間ッに合ええええ!」
べノムがレアスの元に急ぎ、その拳を振り上げた。
しかし先に発動したのはレアスが用意していた魔法だった。
「ダークネス・アッシュッ!」
レアスが魔法を放つと、べノムの前に小さな黒い玉が現れた。
体を反らし、それを躱すが、自分の体ごと玉に吸い寄せられている。
体が黒い玉に覆われ、体力と精気が吸い取られて行く。
「残念でしたわね、少し遅かったですわ。まあ手加減してありますので、暫くすれば動けるようになりますわ。そのまま大人しく這いつくばっていなさいな。おほほほほ」
「ちく…………しょう……めッ」
「決着もついたし、もう行こっか~」
べノムはアスタロッテに引きずられ、馬車に押し込まれてしまう。
馬車の中でアスタロッテに回復魔法を掛けてもらい、やっとの事で動けるようになった。
べノムは後でアスタロッテから聞いたが、実はメギドがアスタとレアスに言いつけ、相手の力を見極める戦いをさせたらしい。
王城でレアスが遅れて来た時から、相手の掌で踊らされていたのだろう。
「では負け鴉さん。私少し眠りますので、後はお任せしましたわ」
いや、もしかしたら、全部素でやってたのかもしれない……
「次やる時は、ぜってぇ泣かしてやるからなッ!」
「あらあら、負け鴉さんの遠吠えなのかしら? 五月蠅くって眠れませんわ。今から二戦目を始めてもよろしくってよ?」
「やってやらぁ! お前の攻撃は見切ったからな、もう覚悟するんだな!」
「じゃあ、二戦目ふぁいとー」
アスタロッテがコップを鳴らし合図をすると、二人の第二戦目が幕を開けた。
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