一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 王道を行く者達6

闘技場の賞品で伝説の武器が出ると聞きつけた…………

リーザ(赤髪の勇者?)      ハガン(リーザの父親)
マッド(元司祭)         リサ(前回の闘技場の王者)


 グルガンの町宿屋の中、三人が集まで話し合いをしていた。
 マッドが興奮しながら闘技場の話をしている。

「闘技場なんですよ闘技場。闘技場に今度伝説の武器が賞品で出品されるんですよ! 黒水晶の剣と言うんですがね、勇者様が使ったとされる国宝なんですよ! もうすんごいんですから!」

「へ~、教会にあるのが勇者の剣じゃなかったんですか~?」

 マッドの話を全く信用もしていないリーゼが、適当にマッドをあしらっている。

「あれも勇者の剣で、こちらも勇者の剣なんです! どちらも勇者様が使ったと言われる聖剣で……」

 勇者と言われる人が触った物は、もう何でも伝説にしてたのかもしれない。
 そうだとしたら何の力も無いただの剣が、そこら中に祭られているのだろう。
 それが本物であれ如何であれ、今持っている魔物の角の剣より強く無いのなら使えもしない。
 一応その大会の内容を、ハガンがマッドに聞いていた。

「それで、その剣とやらは優勝しなければもらえないんだろ? その闘技場で何度勝てば優勝なんだ?」

「まず予選で篩にかけられ、本選で四回勝てば優勝ですね。私達三人が本選に進めれば、がぜん有利になりますよ」

 二人共マッドの実力がどれ程なのかをまだ知らない。
 一瞬燃え上がるだけの魔法で戦えるのだろうか、あまり期待はできないだろう。

「ああ、それと受付は今日までなので気を付けてくださいね。夜までやっていませんから、昼までには済ませておきましょう」

「行きましょうよハガン、どうせ他の情報はないんだし」

「そうだな、受付とやらに急ぐとするか」

 マッドの提案に乗り、三人は闘技場の受付に急いだ。
 町の中央にデカデカト見える闘技場の前。
 迷う必要もなく到着すると、その入り口近くに参加の受付が設けられている。
 だが人は並んでおらず、ただ受付の男が一人居るだけである。
 リーゼはその男に話しかけ、参加をする意思を示す。

「すみません、私達伝説の剣が貰える大会に参加したいんですけど、受付をお願いします」

「あ、すみません、ちょっと参加人数が多くて、昨日で受付終了しちゃったんですよね」

 受付の男がそんな事を言っていた。
 時間には間に合ったが、人数制限に引っかかった様だ。
 大会に参加できなければ、その商品とやらも手にははいらない。

「……仕方ない、別の町に行くか」

「そうね、泥棒する訳にもいかないし、別の物を探しましょう」

「待ってください、きっと大丈夫です! 勇者様なんですから、剣に導かれて絶対出場出来るはずなんです!」

 別の町に向かおうとしている二人に、マッドが反論している。
 その剣をどうしても手に入れさせたい意思を感じた。
 だとしても、受付は終了して大会に参加できる手段はない。

「おいマッド、受付が終わっているのにどうやって出場するんだ?」

「受付のおじさん、如何にかなりませんか?! 此方の人は勇者なんですよ! 参加させた方が色々話題になるでしょう!」

「なりませんね」

 マッドの必死の説得にも、受付のおじさんが無理だと言っている。
 名前も信用もないのに、いきなり勇者と言われても、きっと誰も信じないだろう。
 マッドの声がギャアギャアと響き、そんな騒ぎを聞きつけた三人の男が近づいて来る。
 三人共上等な鎧を身に纏い、立派な剣を腰に差している。
 動きやすい皮の鎧を着たリーゼ達とは大違いだ。
 特に敵意もなく、ただ心配しているらしい。

「どうかされましたか?」

「おお、貴方はノートブックさん! それにバラクーダさん、もう一人はレイノルドさん! お二人共、この方達は町で有名な戦士の人ですよ! この大会にも出場しているはずです!」

 どうやらマッドが知っている程度に有名人らしい。
 その三にマッドが状況を伝え、受付の男に口利きしてくれているが反応は悪い。
 だがリーゼとハガンは、これをチャンスと捉えていた。

「チャンスって案外近くにあるのね!」

「ああ、そうだな」

 二人が何か相談している。
 それは悪だくみと言っても良いだろう。

「なああんた達、ここで受付出来ても、俺達の実力では上を狙うのは難しいんだ。記念にあんたらと戦ってみたいのだが如何だろうか?」

「なるほど、今後の為に上の実力を知りたいというのですね! いいでしょう、いつでも掛かって来てください!」

 ハガンの提案に快く応じてくれたノートブックが、剣を抜き構えを取っている。
 そして他の二人もそれにならった。

「やったねハガン!」

 そんな優しい男達に、リーゼが嬉しがっている。
 その男達は三対三で戦ってくれるらしい。
 宜しくお願いしますと、リーゼが角の剣を二本抜いた。
 短剣よりやや長く、扱いやすいサイズにしてして貰った剣である。
 当然切れ味は…………。

「お手柔らかにお願いしますね~」

「ええ、どうぞどうぞ」

 リーゼが手を振り男に挨拶をすると、ワザと腕を大きく上げ、剣を上げながらがヨタヨタと走った。
 男が油断し、ゆっくり剣を合わせると、リーゼが男の剣の根元を断ち斬る。
 リーゼが下手なフリを止め、瞬時にもう一人の剣を使えなくしてしまう。
 流石に三人目の男は気合を入れてリーゼを見たが、そこを狙ったハガンが、後頭部を蹴り付けた。
 その優しい男達は、残念ながら敗れ去ってしまう。

「ねぇおじさん。今三人分の試合が空いちゃったよ? 良かったら私達を代わりに入れてくれないかな?」

「わ、分かりました。だから剣を向けないでください」

 リーゼが優しくお願いしたらだろう、受付のおじさんが出場を認めてくれた。
 男達が抗議しているのだが、武器の無い二人と、倒れている男ではどうしようもないだろう。
 今回は諦めて貰おう。

「勇者様なのに、リーゼさんって結構あくどいんですね」

「魔族と戦うと言うんだ、リーゼには多少卑怯でも生き残る術を教えている」

 ハガンの答えにマッドはなる程と頷いている。
 男達は意外にもシード選手で、リーゼ達は本選から出場する事になった。
 本選は明日の昼から開催で、三人は今日武器の手入れをして休息を取っている。

 そして試合当日の闘技場控室。
 あの三人からの報復などは特になく、一回戦が始まろうとしていた。
 トーナメント表だと、一回戦でマッドとリーゼが当たるらしい。
 ハガンはというと、リーゼとはトーナメント表で、真逆の位置にいる。

「当たるとしたら決勝だな。リーゼ、油断はするなよ」

「分かっているわ。もしハガンと当たっても全力でぶつかるんだから、覚悟しといてね!」

 控室前では二人が励まし合っていた。
 だが二人の近くにはマッドの姿は見えない。
 どうやら別の控室になったらしい。
 煩くなくて良いと二人は感じている様だ。

 試合頑張って始まり三戦目。
 ついにリーゼとマッドが戦う時が来た。
 案内を受けたリーゼが東、マッドは西からの出場となる。

「選手の方はゲートにお集まりください」

「これは日頃の恨みを晴らすチャンスかしら? 徹底的にやってやるわ!」

 案内人により呼び出しが掛けられ、リーゼが会場に進んで行く。
 少しだけ酷い目に会わせてやろうと心に誓い、リーゼは中央にある武舞台へと進んで行く。
 武舞台に立ち、そして試合開始の合図が掛かった。

「第三試合、試合開始!」

 審判の始まりの合図を受け、リーゼが二刀を構えている。 

「マッドさん、覚悟してくださいね!」

 杖を構えたマッドが、その一歩踏み出し走る。
 ……かと思われたが、その場でうずくまった。

「ぐうをぉぉおう、おぬぁかぐわぁいとぅあいぃんでぇうぇすぅぅぅ。うごっけませ~ん!」

 試合が始まると、マッドがワザとらしく演技をしていた。
 リーゼは構わずに突っ込み、剣を握った拳で殴り付ける。
 もしかしたら刃にあたってスッパリ逝くかもしれないが、全く気にしなかった。

「それまでッ試合終了」

 結局リーゼが殴る前に、審判に試合を止められてしまう。
 聞こえないフリをして殴っても良いと考えはしたが、次の試合で審判に目を付けられても困るので、やめておいた。
 リーゼとハガンの二人は順調に勝ち上がり、準決勝が始まる。
 ハガンの相手は、前回優勝したリサと言う女だった。

「リーン!」

 リサと言う女はリーゼの母親と、リーンと瓜二つだった。
 少し色黒だったが髪も赤く、見間違う程にその姿は似ていた。
 叫んだハガンの言葉に、リサはピクリと反応している。
 リーンの事を知っているのかもしれない。 

「あんた、リーンを知っているのかい?」

 確かにリーンは死んだのだ、反応からすると別人の様だが……。

「リーンじゃないのか?」

「リーンは私の姉だよ、十ほど違うけどね」

 よく見れば少し若く、こんな場所で肉親に会えるとは思っていなかった。

「あんたがリーンとどんな関係か知らないけど、私は手加減するつもりは無いからね!」

 リサは剣を構え、ハガンを見据えている。

「あんた、よくそんな体で勝ち残れたもんだね? 一体どうやったんだいッ!」

 質問を発した瞬間、リサが飛び出した。
 ハガンには防ぎようも無い頭を狙い、大きな剣を振りかぶる。
 体を捻らせそれを躱すが、リサの攻撃は止まらない。
 ハガンが後に下がりながら避け、右、左と剣が空を斬り裂く。
 そして真上からの一撃。

 ガイィィン!

 ハガンが右脚を蹴り上げ、足の裏でその剣を止めると、ハガンとリサの力が拮抗した。

「案外やるもんだねッ!」

「…………!」

 二人の動きは止まるのだが、しかしリサは力比べを投げ出し、自分の剣を上に戻した。
 それにより、ハガンのバランスが崩れ、リサはそこを見逃さずに剣をもう一度上から振り下げた。

ハガンは無理やり一歩前に出て、リサの剣の付け根が肩に食い込むが、傷を気にせず逆側の肩をぶつけている。
 二人の体勢が崩れ、そして二人は地面に倒れこんだ。

 幸いなのか、ハガンがリサの上に馬乗りになり、額に気合を入れ、リサの顔面にぶつけた。
 昏倒するリサの体の上から、横に回転し、その勢いで立ち上がる。
 そして急ぎ剣を持つ手を踏みつけた。

「参った……」

 武器を持つ手を踏みつけられたリサは、簡単に降参をしてしまった。
 審判が勝負を止めて、ハガンがこの戦いを勝利で収めた。
 勝利の歓声が上がるが、今ハガンにはどうでも良かった。

「後で話しがある、俺の控室に来てくれ」

 次の試合が開始される前の休憩時間。
 もうこの控室には三人だけしか残されていない。
 ハガンはこのリサという女に、リーンの事を話さねばならなかった。
 リーザの事と、リーンが殺された事を。
 
「そう、リーンは死んだんだね」

 リサはリーンの事でそれほど驚きはしなかった。
 むしろ子供が居た事に驚いているようだ。
 あの戦争の中では生きていた事の方が不思議で、リサにしてみれば今更と言った感じだろう。   リーゼもリサの顔には驚いていて、少し前の記憶が蘇ってきていた。

「あ、あの、少しだけ……一回だけでいいから。 ……お母さんって、呼んでも……いい……?」

「……ええ、良いわよリーゼ」

「お母さん……」

 リサが返事をすると、リーザが飛びつき泣きだしてしまった。
 思う存分泣きはらし、目の前の人が別人だったと思い出す。
 パッと体を放し、笑顔をリサに向けた。

「ありがとう」

 リサは思わず、もう一度リーザを抱き寄せた。

「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く