一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

16 キメラ殲滅戦

 この大陸にある三国、マリア―ド。ブリガンテ。ラグナードの国の三国が、今後の対策として、会議をしている。主に最近力を増してきた、王国という国の話だった。彼等はその国を魔王や魔族等と呼び、その力に警戒している。王国から脱出した者を、積極的に招き入れ、王国の秘法である、魔法というものを取り入れていく。各国は思惑を巡らせ、そして会議が終わった。そんな中、べノムはアスタロッテを、王国へと送り届けようとしていた。言う事を聞いてくれないロッテに、べノムは観念して、元の姿を晒した。その姿を見ても、特に驚かなかったロッテに何となく調子が狂うべノムだが、二人はそのまま王国へと帰還した…………


メギド(王国、国王)        グラスシャール・ボ・レアス(王国、貴族、兵士)
ランツ(王国、兵士)        べノムザッパー(王国、探索班)
アスタロッテ(べノムの家の居候)  バール(王国、兵士)


 メギドはべノムからキメラの子供の話を聴き、それに戦慄した。

「キメラの子供だとッ! まさか既存種と交配したのか!」

 キメラ同士の交配は確認されていないが、現存の種と交配をしたとなると、倍々で増えて行く事になる。
 もし猫や犬等の様に、同時に何匹も子供を産むのなら、世界はキメラで溢れてしまう。
 一年も放って置いた、今頃はどれだけ増えている事だろうか。
 この事を知ってしまった今、もう放って置く事は出来なかった。
 べノムが帰ったのち、メギドはタイタンを呼び寄せ、この事を相談して今後の対策を検討していた。

「よし、班を編成しキメラ退治に向かうぞ。人が居る所にはなるべく人に近い形の者を向かわせ、それに対処させるんだ」

 あまり国を手薄にする分けにもいかず、三人一班で三組を編成し、各地に向かった。
 一班、べノムを隊長とした三人。
 二班目、イモータルを隊長とした三人。
 もう一班はメギド自身で指揮する事になった。

 一人はレアス、蝙蝠の翼を持ち、口には鋭く尖った歯がある、物凄い再生能力がある女性だ。
 実は彼女は貴族なのだが兵士として志願し、キメラ化の手術を受けている。
 本名はグラスシャール・ボ・レアスと言う。
 二人目はランツ、顔は人間のそれだが体は赤く変色し、高熱を放つ事が出来る男である。
 そのメギドの班は北に向かい、野に居るであろうキメラを探した。

「そう簡単には見つからないな。レアス、其方はどうだ?」

「いえ、何処にも見当たりませんわ」

 空中から見ていたレアスに聞いてみるが、地上には何もなく、ランツの方を見ても首を横に振られた。
 キメラはこの辺りには居ないらしい。

「仕方ない、ここで一度休憩を取るか」

「…………待ってくださいメギド様。遠くの方から此方の方に向かって来る集団があります」

「あれは……キメラの集団だ!」

 レアスが何かを発見した集団、動物の群れだろうかとメギドはそれを確認した。
 それは既存種では見たこともない様な大きさの、一体で五メートル以上の巨大な牛のキメラだ。
 それが三十匹ほど群れで此方の方向へ突撃して来る。
 このまま進んで行けば、王国へと辿り着くだろう。

「不味いな。全員急いで戦闘用意だ!」

「了解致しました」

「ハッ、いつでも大丈夫ですメギド様!」

 レアス、ランツがそれぞれに返事をして、戦闘が始まった。
 向かって来るのは強大な肉の波で、それに呑み込まれたならただでは済まない。
 それでも立ち向かわなければとメギド達三人が立ち向かった。

「うおぉ、これはッ…………俺の炎でも食らえッ!」

 ランツは突進を躱しながら一体を焼くが、脚が少し焦げる程度しかダメージがないらしい。
 炎ではダメージを負わないのだろう。

「こんなのを相手に出来ませんわ!」

 レアスも空中から何度か攻撃を仕掛けたが、相手の怒りを買っただけだった。
 堅さも随分とありレアスの攻撃力ではダメージを与えられない。
 このまま物理攻撃を続けていては拉致があかないと、メギドは二人に命令を下す。

「レアス、ランツ、能力だけでは駄目だ。魔法の詠唱を唱え、自身の能力を増幅しろ。その間俺が敵を抑える!」

「了解しました!」

「お任せを!」

「ではやるぞ。 …………オールライトニング!」

 メギドはキメラ全体に雷を落とし、敵の注意を引き付けた。
 あわよくば何体か倒せるかもしれないと思っていたが、その巨大のキメラは一体も倒れない。
 だが敵の全体はメギドを追い掛け、空中に居たメギドに向かい、有り得ない攻撃を仕掛けた。
 後方に居た牛のキメラが、仲間の体を踏み台にして、砲弾の様に空に舞う。
 巨大な物量と速度はかなりのもので、油断して居たら危なかっただろう。
 空中を移動しそれを躱し、メギドは時間を稼いでいる。

「さあ、始めろッ!」

 肉の波から脱出したランツが、集中して魔法を開始する。

 ……煉獄よ……地獄の業火よ……彼の地より来たれ……燃え盛り……焼き殺せ……

「ディアボロス・フレイム!」

 突如空中から巨大な溶岩の弾丸が降り注ぐ。
 ズドドと落ちる炎の球は、逃げるキメラの背に落ちた。
 だがキメラ達はバラバラに逃げ初め、四体を討伐するだけに留まってしまう。
 逃げ惑うキメラの群れに、続けてレアスが詠唱を唱えだす。

 ……熱き血よ……燃える血潮よ……全て纏めて……吸い尽くせ……

「ブラッディアス・アッシュ!」

 群れの中心に黒い塊が現れた。
 重力を持つように、キメラ達を引き寄せ、引き寄せた者の命を吸い尽くす。
 カラカラに干からびた物体のみが、大地に転がった。残り十八体。

「もう一度だ!」

 メギドが叫ぶが、今度は魔法を放った二人が狙われる。
 魔物はメギドの元から一斉に離れ、魔王などと呼ばれた男に自由を与えた。

「俺を無視するのか、なら俺が特大のをくれてやるぜ!」

 メギドの魔が増幅され、大空には黒雲が現れた。
 

 ……雷鳴よ……轟雷よ……天を貫き……闇より舞い踊れ……黒き闇の……名を示す……

「デッド・プラズマ!」

 大地が割れ、黒色の雷が天に昇る。
 多くのキメラ達を貫き、尚も天を目指し突き抜けて行く。
 十三体を焼き焦がし、残りはあと五体。
 だが、全力で魔の力を使った三人にはもう戦う余力は残されていない。

「くそッ、もう魔力が」

「此方も使える魔力は少ないですわ」

「私も、使える魔力はほとんどありません」

「だがこのまま進ませるのは不味い。二人共、少し無理をしてでも数を減らすぞ」

 一年でこれだけ増えたとなると、この場で逃がすのは不味いだろう。
 魔力は無くても、能力は使まだ使えるのだ。
 残りはたかだか五体だけと、メギドはその判断を選択した。
 その判断に二人は頷き、引き続き戦闘を続けていく。

「敵は巨大だ、その脚を狙え」

「「了解」」

 三人は戦いを続けるのだが、敵を殲滅する前に、三人の体力が限界に来てしまった。
 五体を相手にして、一体を倒すのがやっとであった。

「もう無理ですわ、撤退いたしましょうメギド様。このまま戦っていてはこちらがやられてしまいます!」

「クッ、もう少しの処で…………」

「残念ですが、我々にはもう戦う力がありません。メギド様、この場は諦め、もう一度再起しましょう。直ぐに対処出来れば王国にも被害はでないでしょう!」

「そうですわメギド様。我々が今倒れてしまっては仕方ありませんもの」

 二人とも肩で息をして、立っているのも辛そうだった。
 このまま戦闘を続ければ誰かが死んでもおかしくはないだろう。

「敵の戦力を舐めていたか。仕方ない、ここは一旦退くぞ!」

 レアスの指示を聞き、メギドは撤退を受け入れた。
 メギドは仲間の二人浮かし、空から戦域を脱出して行く。

 メギドは城に戻り残り、やって来るであろうキメラの数匹に対処する為兵を置くと、残りの二班の帰りを待っている。
 だが来るはずだったあのキメラ達は、この国にはやって来ず、何処かへと消えていたらしい。
 人の気付かない間に、また仲間を増やして行くのだろう。
 もはやキメラ討伐はこの世界にとっての脅威と言っていい。
 定期的にやらなければ、この国も危ない事になるかもしれない。
 メギドはこの先の事を考え、敵の探索や殲滅を目的とした部隊を作る事を思いついた。

「そうだな、べノムにでも任せてみるか」

 新たな隊の隊長されるべノムだが、時間は少し戻り、べノムの班が出発する時刻。
 今回一緒に行動する仲間と合流する為、王城の門で待っていた。

「何でお前が此処に居るんだよ」

「あら、貴方と私の仲じゃない、昨日あんなに愛し合ったのに。私はもう貴方と離れられないの」

「え?! 隊長、お世話になった上司の娘さんに手ぇ出しちゃったんですか? それは流石に不味いですって」

「してねぇからッ!」

 言い合いしているのは、べノム。アスタロッテ。バールの三人。
 これが今回一緒に行動をする仲間であった。
 その一人、バールという男は、両手両足がが槍の様になり、刺突を得意としている男だ。
 三メートル程なら腕を伸ばし、突き刺す事も出来る能力を持っている。
 その身体能力は高く、攻撃よりも防御に特化した男であった。
 その額には一本角を持っている。

「メギド様に頼み込んだの。あの人は私が居ないと駄目なんだって。良いでしょ、私だって役に立つのよ?」

 どうやら王に直接頼んだらしい。
 こんな事を言っているが、アスタロッテもべノムをからかっているだけで、全く本気では無いはずである。
 実際は面白そうだったからと、付いて来たのが本音だろう。

「俺の班だけ戦力大幅ダウンじゃねーかよッ! こんなんで勝てるのか?!」

 言い争っていても仕方がないと、言いたい事は我慢して、べノム達は戦場へ向かって行く。

「くそッ、もう行くぞ」

「出発、お~」

「了解で~す」

 アスタロッテが手を突き上げて、ポーズを決めている。
 凶悪なキメラと戦うと言うのに、呑気なものだった。
 バールも了解と言い、べノムに続く。

「まずはキメラを探さねぇとな。俺が近くを見て来るから、このまま真っ直ぐ進んでくれ」

「分かりました。じゃあ、軽く進んどきますね」

「がんばー」

 それぞれに返事をし、このべノムは東に向かった。

「さて、何処に居やがるかねぇ。 ……ん? あれか?」

 五分もしない内に、べノムの隊はキメラを発見する。
 遠くから見えている限りでは、結構な大きさがありそうだ。

「まずは二人を。 ……いや一人でも良いんだが」

 悩んでいる内に逃げられても困ると、即断即決して、べノムは二人を呼びに行った。
 二人と合流したべノムは、見つけたキメラの居た場所へと向かって行く。
 その場所近くへ案内すると、遠くにキメラの姿が見え始める。

「ほら、あいつだ」

 べノムがキメラを指さし、二人もそれを確認した。
 蜥蜴の様な皮膚、大きな尻尾、二本足で歩き、手が小さいが口が物凄く大きい。
 蜥蜴がそのまま大きくなった感じだろう。

「さて戦闘だ、お前等気合入れて行くぞ」

「もっちろん!」

「はいはい、じゃあ行きましょう」

 二人も覚悟を決めて進んで行くのだが。

「ねぇべノム……いつまで進むの?」

 五分ほど歩いて進んだが、まだ目的の場所にたどり着かない。
 姿が見えていると言うのに随分と遠い。
 近づく分キメラの大きさは巨大になっていく。

「……もう少しだ」

 足を進ませて行くが、敵の姿が大きくなるばかりで、まだたどり着いてはいなかった。

「ねぇ、まだかしら?」

 更に五分ほど進んだが、随分とおかしな雰囲気になって来ている。
 あのキメラの大きさが、この世界で見た事がないレベルのものになっていたのだ。

「……あの隊長……あのキメラ、大きさが可笑しくありませんか?」

「…………」

 バールが聞きたくも無い指摘をしてきていた。
 あのサイズは地上の動物ではあり得ない大きさだろう。
 昔いたとされる恐竜と呼ばれた生物に近いかもしれない。

「……わかった、俺が少し見て来る」

 べノムがゆっくりと飛び進む。
 キメラの近くまでたどり着くと、思わず「でけぇッ!」と叫んでしまった。
 その声に反応し、蜥蜴のキメラが此方を振り向いた。
 蜥蜴のキメラは思ったより遥かに大きく、立ち上がると十五メートル程にはなるだろう。

 キメラがべノムを見つけ、「グガァァァァ」と吠えると、敵意の感情を表した。
 一歩あるく毎に、大地が揺れるような音を出し、此方に襲い掛かって来る。
 五メートルはあるかと思われる口を大きく広げ、べノムに噛みついてきた。
 だがべノムの速さの前には、鈍間な亀の様なものでしかなかったのだ。

「デカいだけじゃ、俺の敵じゃねぇよ」

 べノムは自身の外套がいとうで敵の皮膚を斬り刻むのだが、相手の体がデカすぎた。
 何度も繰り返すが致命傷には程遠いらしい。
 それでも痛みが有る様で、蜥蜴は激しく暴れ出す。
 敵意を向けた蜥蜴のキメラは口を広げて、何度も何度も噛みついて来ていた。
 べノムはそれをヒラリと躱し、その体に浅い傷をふやしていく。
 キメラは構いもせずに、更に噛みつき、べノムはそれを上に避けると。

「ワンパターンな奴…………ッおうわぁぁぁぁッ!」

 突然べノムの上から、巨大な尻尾が物凄いスピードで振り抜かれた。
 何とかそれを躱したのだが、風圧のみでバランスを崩してしまう。
 そこへもう一度尻尾が叩きつけられた。
 その攻撃をまともに食らい、べノムが地面に叩きつけられる。

「ぐはあぁぁぁ…………」

 人の身であれば死んでいただろう強さだが、べノムはそれでも生き残った。
 それでもダメージが大きく、まだ動くことが出来ずにいた。
 大蜥蜴による追撃が来る。
 動けないべノムに向けて、その身を貪ろうと巨大な口を開け迫って来た。
 絶望的な状況で、何者かの声が聞こえてくる。

「エクスブレイズ!」

 それは女の声で、ここには女は一人しか居ない。
 彼女の放つ魔法の力は、蜥蜴の眼前で炎を爆発させる。
 その目に炎の熱が伝わると、大蜥蜴は思わず怯み、二歩ほど下がって行く。

「私役に立つでしょ!」

 アスタロッテは親指を突き出し、笑顔でべノムを見つめる。

「やるじゃねーか。 …………じゃあ、反撃開始だなぁ!」

 べノムはロッテの手を借り体を起こし、その間にバールもこの場に追いついた。

「バール! 俺の付けた傷をお前の槍で抉ってやれ!」

「了解、隊長!」

 バールは腕を槍に変え、様々な傷の上から更に槍を突き刺す。
 一メートルも刺さると、次の傷を突き刺していく。
 大蜥蜴は尻尾を振り回して二人に対応するが、二人の動きは素早く、捕らえる事が出来なかった。

「この野郎、そんなものを二度と食らうか!」

 何度も何度も攻撃を繰り返していると、やがて大蜥蜴は敵わないと見て、後を振り向き全力で逃げ出した。
 だがアスタロッテはタイミングよく大蜥蜴の頭の上を爆発させ、大蜥蜴のバランスを崩して地面に倒れさせる。
 倒れた大蜥蜴は、もう三人の的でしかなくなっていた。

「悪いが逃がさねぇぜ、これ以上大きくなられたら、たまらねぇからな」

 大蜥蜴は容赦無く切り刻まれ、突き刺される。
 成す術もなく最後の咆哮を上げて、大蜥蜴は動かなくなった。

「はぁ、こんなのが何体も増えてるとは思いたくねぇな」

 三人共体力がもう無い。

「お前ら、一度城に戻るぞ」

「そうっすね」

「おっけー」

 体力がすべてなくなる前に、三人は城へと戻った。

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