一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
15 王道を行く者達3
戦争から十七年後。
リーゼ達は、魔族に対抗する術を求め旅をしていた。
ハガンが魔物にやられ負傷、一か月間の休養中…………
リーゼ(赤髪の勇者?) フラム(依頼人)
リーゼはハガンの傷の回復を待っていた。
医者からはハガンの脚の回復には、一月かかると聞かされている。
ただそれ程の滞在費を持ってはいなかったのだ。
このままでは破産して先に進む事も出来なくなってしまう。
何かしらの儲け話を見つけなければならなかった。
「一月もこの町に居るのは、ちょっと出費がかかり過ぎよねぇ」
武器の加工、生活費、幸いな事に宿の代金は、鉱山の皆が支払ってくれていた。
それでも食料や水、他にも色々と金は掛かる物である。
あの魔物の角を加工して武器にするつもりなのだが、それをするにもお金がかかるのだ。
今手持ちの武器は使い込まれた普通の剣しかないし、教会で獲得した剣は、もう折れて使い物にならなくなっている。
昔から使っていた武器はあるのだが、この武器で魔族と戦うには、覚悟と命を賭けても死しか返っては来ないだろう。
「まずは仕事を探さないとかなぁ」
とは言え、リーゼにはこの町に当てが無かった。
この町の知り合いと言っても、魔物討伐を依頼をして来た人物ぐらいだろう。
滞在費を工面して貰っておいて迷惑はかけたくなかったのだが、生活が出来なくなれどうにもならないのだ。
「駄目元で鉱山の人達に話を聞きに行こうかしらねぇ」
リーゼは鉱山に向かい、少し前に依頼を受けた、ノーグの居る場所に向かってみる事にした。
魔物が討伐され、平和になった鉱山。
その場所では、もう仕事をし始めている者達が大勢居たのだった。
人々に聞き込みをしてノーグを探すと、事情を話してはみたが……
「残念ながら今依頼できるような物はないなぁ」
ノーグに話を聞いたのだが、魔物退治などの仕事は無いらしい。
鉱山の仕事なら有るらしいのだが、流石にリーゼには出来そうもなく、その仕事は諦めざるを得なかった。
これでは如何にもならないと、リーゼは町の人に話を聞き、ギルドと言う所で仕事を受けれると聞きつけた。
  そのギルドだが、元はただの何でも屋だったのだが、最近は魔物退治の依頼なども積極的に受け付け討伐を続けている。
力のあるものは魔物を討伐することにより、多額の報酬を得たりと中々に盛況しているらしい。
そしてそのギルドへと、仕事を貰いに向かったのだった。
町中を探し、リーゼはギルドの証である剣のマークを見つけると、そこには煉瓦造りの建物が見える。
リーゼも何度かギルドには行った事があるのだが、何処も殆ど変わらない雰囲気をかもしだしていた。
大きなテーブルや観葉植物で飾り付けられ、中は酒場と兼用になっているのか、大勢の冒険者が酒盛りをしていて煩く騒いでいる。
若干雰囲気が明るくなるようにと調整されているらしい。
冒険者がリーゼを見かけると、子供は帰りなとか言われてたが、リーゼは気にせずに奥に進んで行く。
正面奥の受付に着くと、黒髪を肩まで伸ばした切れ目のお姉さんが、リーゼに接客をしてくれた。
「あら、どうされました? お仕事ですか?」
「ええ、ちょっとお金が必要なの。いい仕事はないかしら?」
「依頼ボードを見ない所をみると訳ありでしょうか? お一人で受けられたいのなら軽いものでいいのでしょうか?」
「ええ、出来れば危なくない軽いものでお願いね」
「では選ばせていただきますので、少々お待ちください」
受付から依頼の資料を渡され、パラパラと捲り確認している。
失せ物探し、猫探し、恋人募集などと訳の分からない物まであるが、リーゼはその中の一枚をえらびだした。
「この辺りかなぁ」
依頼内容は、居なくなってしまった猫の捜索である。
先ずは資料に書いてあった場所に行き、依頼者に事情を聞きに行く事にした。
リーゼはギルドの職員に連絡を入れてもらい指定の場所に着くと、その場に待っていたのは裕福そうな初老の女性であった。
彼女は中々派手な格好をしていて、高そうなアクセサリーをつけている。
成功すれば依頼料を弾んでくれるかもしれないと、リーゼは気合を入れている。
「貴女が依頼人の、フラムさんです?」
「ええ、フラムは私ですが。 ……貴女が依頼を受けてくれた人でしょうか?」
「はい、ギルドから依頼を受けました。リーゼといいます。確認ですけど猫探しですよね? その猫ちゃんが何処で居なくなったのかを教えてくれませんか?」
「ええ、詳細にお話致しますので、必ずマリアンテーゼちゃんを探してください!」
マリアンテーゼ、それが猫の名前なのだろう。
フラムさんから話を聴くと、二日ほど猫の姿が見えずに、仕方なくギルドに依頼をしたのだそうだ。
何時居なくなったのかは分からないらしいのだが、その猫は屋敷で飼われているらしく、家の外には出た事がないらしい。
リーゼはフラムに、気になった部分を聞き始めた。
「猫なら家の中隠れていたりしないんでしょうか? 小さな隙間に隠れて居たり、よくありそうですけど」
「一応使用人と一緒に家中を探し回ったんですよ。それでも見つからなくて、ちょっと困ってしまいまして。ああ、マリアンテーゼちゃんったら、一体何処へ行ったのかしら…………」
猫は放し飼いになっていたのだろうか?
その辺りの事も聞いてみるべきだと思い、リーゼは質問を続けた。
「その猫ちゃんは家から自由に出入り出来たのです?」
「いいえ、家から出る事は出来ないと思います。窓を開け放っていても、一度も外には出ようとしませんでした。最近野犬に襲われそうになったので、たぶんその所為かと」
フラムから猫の特徴を詳しく聞き出すと、猫は黒色でまだ小さく、何処にでも入り込めてしまえる大きさらしい。
まだ家の中に隠れているのかもしれないとリーゼは考え、一度屋敷へ案内してもらう事になった。
「この屋敷です。どうぞお入りください」
「おじゃましま~す」
フラムの案内で屋敷に到着すると、その屋敷はそこそこ大きい豪邸で、二階建ての屋敷であった。
横幅も広く、部屋数も多そうである。
この屋敷を細部まで探すのは、一人ではとても骨が折れそうだった。
まずは玄関から、念のために壺や花瓶、傘立ての裏も探していく。
「マリアちゃん居ませんか~?」
「流石に此処には居ないと思いますわよ。その辺りは何度か探しましたので」
フラムは探したと言っていた。
二日も出て来ないとなると、何処かに閉じ込められている可能性が高い。
分かり易い場所は、捜索から外しても良いだろう。
「フラムさん、使用人込みで家には何人いますか?」
「家の使用人ですか? 私を含めて六人ですね。え~っと、主人は帰っていませんので、五人でしょうか」
詳細を聴いてみると、依頼人のフラムさん、旦那さん、フラムさんのお子さんが一人、メイドが二人、料理人が一人、合計が六人だった。
猫が此処に来ないとも限らないので、メイドを一人玄関を見張らせておく事にした。
まずは一つ、玄関は完全に居ない場所を確保出来た。
玄関を進み、エントランス。
天井には大きなシャンデリアが有る。
家の中心に、二つ階段が左右に続いていた。
あまり見た事は無いが、お城の様な作りなのだろう。
一階の広間を丹念に探すが、目的の猫は見つからない。
メイドをもう一人一階部分を見張らせて、二階部分に移動した。
二階部分は一階が見下ろせる作りとなっていて、歩ける部分が壁沿いに続いている。
シャンデリアの上も確認してみるが、やはり何も無く、エントランス部分は完全に居ない事が分かる。
リーゼは玄関からメイドを広間に呼び寄せ、二人で広間部分を見てもらった。
次は一階の右の扉から通路に出て行く。
通路も探したが何も無く、一つ目の部屋の前。
「フラムさん、ここはどんな部屋ですか?」
「はい、ここは主人の書斎になっておりますわ」
書斎は隠れやすそうだ。
それでもきちんと整理されていれば、それほど探すのに苦労はしないだろう。
リーゼは部屋の中に入り、棚の中なども見て行くが、猫の気配はない。
猫に荒らされるのが嫌だったのか、中に猫を入れなかったのかもしれない。
「フラムさん、もしかしてこの中には猫を入れないようにしてありましたか?」
「ええ、一度入って粗相をしてしまって、それからは二度と入れるなと言われて、扉は開けないようにしていました」
「そうですか、ではこの場所も居ないと」
隣の部屋は物置だと言っている。
探すのは大変かもと思ったが、整理されていて探すのは容易だった。
隠れられるスペースも探してみるが、特に何も見当たらない。
「此処にも居ませんね。皆さんが探しても見つからないとなると、何時もは行かない場所かもしれませんね」
「そうかもしれませんね。しかし私達も随分と探したのですよ。もしかしたら連れ去られたんじゃ?」
「まだそうと決まってませんよ。屋敷の中を全て見てから考えましょう」
「ええ、そうですね」
隣の部屋からは使用人の部屋が続くが、引き出しの中までも見ても猫の姿はなく、今度はエントランスから左の通路を進んで行く。
左側の一つ目の部屋に入ると、その部屋はダイニングになっている。
大きなテーブルがあり、窓の近くには花瓶、それには綺麗な花が活けてある。
花瓶の中、テーブルの下も見たが…………何もいない。
ダイニングの隣の部屋は、キッチンになっていて、調理器具などが置いてある。
料理人の人も、部屋の外に待っていてもらう事にしたが、猫は見当たらなかった。
「ここも居ないっと。一階部分はこれで全部ですか?」
「ええ、一階部分はこれで全部ですわ」
「他に収納出来る様なスペースとか、地下部分もありませんか」
無いと言われ、リーゼは二階部分を探した。
二階部分は子供部屋、寝室、リビング、衣装部屋と続く。
まずは衣装部屋を見に行き、中へと入ってみる。
部屋の中には、フラムの物と思われるドレスがズラリと掛けられている。
服の入った箱なども有ったが、猫は居ない。
他に見るべき所が無かったので、次のリビングを見る。
テーブルには、トランプやチェスがあったが、他に隠れるような場所は無い。
後はソファーがあるだけだった。
寝室に入り、天蓋付きのベッドが置いてあった。
後はタンス。小物入れ。ゴミ箱。等。
ベッドの下も探すが、やはり猫は居ない。
最後は子供部屋を見た。
「ここが最後ですか?」
「もう一つ上に部屋がありますわ」
「そうですか、分かりました」
子供部屋に入ると、中には子供がいて、玩具で遊んでいる。
「ここに居れば、直ぐ分かりそうなんだけど?」
子供に猫を見なかったかと、聞いてみたが、知らないと答えられてしまった。
玩具箱が有るが、玩具で遊んでいるのだから、中に猫が居たら分かるだろう。
この屋敷の最後の部屋。
一番上の部屋に行ってみるが、行くのには梯子を使い登らなければならないらしい。
登ると、そこは暗い屋根裏部屋だった。
この部屋はあまり使われてはいないらしい。
聴くと普段は梯子を外してあり、登る事は出来ない様にしてあると。
その為この部屋は調べていないらしい。
リーゼは手持ちのランタンに灯りをともし、部屋の内部を探す。
床には誇りが溜まって、子供の足跡と、猫の足跡がくっきりと見える。
「ここかしら?」
床の足跡を追うが、部屋の中で動き回ったのか、途中でぐちゃぐちゃになり、何処に行ったのかは分からない。
他に有る物は、机が一つと、窓が一つ。
他は何も無い。
「机の中には……居ないわね」
窓を開けて外を見るが、この屋敷の屋根があるだけだった。
…………そこで何か聞こえた気がした。
リーゼは、耳を澄まし、ゆっくりと待った。
「ニィ」
待ち続けていると、何処からか猫の鳴き声が聞こえた。
何処かで力なく鳴いている。
もう一度ゆっくりと待ち、猫の鳴き声を聴いた。
どうも屋根の上では無いらしく、この部屋の中から小さな鳴き声が聞こえる。
「上?」
上を見上げても何もなく、天井の梁ぐらいしかない。
「まさか天井の梁の上に乗って、降りられなくなったのかしら?」
屋根裏部屋に昇る梯子を外し、梁に立てかけ上に登ってみた。
梁の上には猫の足跡が残っている。
だが、猫は見当たらない。
「声はするのに居ない? まだ上?」
流石に梁の上で、梯子をかけるのには勇気が居る。
一度下に降りて、フラムさんに五メートルほどのロープを三本用意してもらった。
まず梯子の真ん中辺りに、片方にロープを結び、そのまま垂らしておく。
梁の上に再び上がると、ロープを体に巻き付け、反対側を柱に括り付ける。
「これでバランスを崩しても、何とかなるわね」
梯子を梁の上に引っ張り上げ、柱に立てかけた。それから梯子についたロープを柱に回し、梯子の逆側に結ぶ。
梯子はガッチリと固定され、充分な強度があるようにみえる。
「大丈夫よね」
梯子の状態を確かめて途中まで登り、もう一つのロープを一番上の梁に回し体に付ける。
それから最初のロープを体から外して、一番上の梁を見渡す。
梁の上を見渡し、よく見ると小さな猫がいて震えている。
かなり衰弱していたがまだ息はあるらしい。
リーゼは急いで猫を降ろし、その事をフラムさんに報告した。
これで依頼は無事に終わる事が出来た。
後で聞いた話では、子供が見つからない様に屋根裏で遊んでいたらしい。
その時に猫が登ってしまったのだろうと言っていた。
フラムさんには感謝され、あの猫をよっぽど可愛がっていたのか、かなりの額を払って貰えた。
「これで武器は何とかなるかしら。あの角を加工してもらわなくちゃね」
リーゼ達は、魔族に対抗する術を求め旅をしていた。
ハガンが魔物にやられ負傷、一か月間の休養中…………
リーゼ(赤髪の勇者?) フラム(依頼人)
リーゼはハガンの傷の回復を待っていた。
医者からはハガンの脚の回復には、一月かかると聞かされている。
ただそれ程の滞在費を持ってはいなかったのだ。
このままでは破産して先に進む事も出来なくなってしまう。
何かしらの儲け話を見つけなければならなかった。
「一月もこの町に居るのは、ちょっと出費がかかり過ぎよねぇ」
武器の加工、生活費、幸いな事に宿の代金は、鉱山の皆が支払ってくれていた。
それでも食料や水、他にも色々と金は掛かる物である。
あの魔物の角を加工して武器にするつもりなのだが、それをするにもお金がかかるのだ。
今手持ちの武器は使い込まれた普通の剣しかないし、教会で獲得した剣は、もう折れて使い物にならなくなっている。
昔から使っていた武器はあるのだが、この武器で魔族と戦うには、覚悟と命を賭けても死しか返っては来ないだろう。
「まずは仕事を探さないとかなぁ」
とは言え、リーゼにはこの町に当てが無かった。
この町の知り合いと言っても、魔物討伐を依頼をして来た人物ぐらいだろう。
滞在費を工面して貰っておいて迷惑はかけたくなかったのだが、生活が出来なくなれどうにもならないのだ。
「駄目元で鉱山の人達に話を聞きに行こうかしらねぇ」
リーゼは鉱山に向かい、少し前に依頼を受けた、ノーグの居る場所に向かってみる事にした。
魔物が討伐され、平和になった鉱山。
その場所では、もう仕事をし始めている者達が大勢居たのだった。
人々に聞き込みをしてノーグを探すと、事情を話してはみたが……
「残念ながら今依頼できるような物はないなぁ」
ノーグに話を聞いたのだが、魔物退治などの仕事は無いらしい。
鉱山の仕事なら有るらしいのだが、流石にリーゼには出来そうもなく、その仕事は諦めざるを得なかった。
これでは如何にもならないと、リーゼは町の人に話を聞き、ギルドと言う所で仕事を受けれると聞きつけた。
  そのギルドだが、元はただの何でも屋だったのだが、最近は魔物退治の依頼なども積極的に受け付け討伐を続けている。
力のあるものは魔物を討伐することにより、多額の報酬を得たりと中々に盛況しているらしい。
そしてそのギルドへと、仕事を貰いに向かったのだった。
町中を探し、リーゼはギルドの証である剣のマークを見つけると、そこには煉瓦造りの建物が見える。
リーゼも何度かギルドには行った事があるのだが、何処も殆ど変わらない雰囲気をかもしだしていた。
大きなテーブルや観葉植物で飾り付けられ、中は酒場と兼用になっているのか、大勢の冒険者が酒盛りをしていて煩く騒いでいる。
若干雰囲気が明るくなるようにと調整されているらしい。
冒険者がリーゼを見かけると、子供は帰りなとか言われてたが、リーゼは気にせずに奥に進んで行く。
正面奥の受付に着くと、黒髪を肩まで伸ばした切れ目のお姉さんが、リーゼに接客をしてくれた。
「あら、どうされました? お仕事ですか?」
「ええ、ちょっとお金が必要なの。いい仕事はないかしら?」
「依頼ボードを見ない所をみると訳ありでしょうか? お一人で受けられたいのなら軽いものでいいのでしょうか?」
「ええ、出来れば危なくない軽いものでお願いね」
「では選ばせていただきますので、少々お待ちください」
受付から依頼の資料を渡され、パラパラと捲り確認している。
失せ物探し、猫探し、恋人募集などと訳の分からない物まであるが、リーゼはその中の一枚をえらびだした。
「この辺りかなぁ」
依頼内容は、居なくなってしまった猫の捜索である。
先ずは資料に書いてあった場所に行き、依頼者に事情を聞きに行く事にした。
リーゼはギルドの職員に連絡を入れてもらい指定の場所に着くと、その場に待っていたのは裕福そうな初老の女性であった。
彼女は中々派手な格好をしていて、高そうなアクセサリーをつけている。
成功すれば依頼料を弾んでくれるかもしれないと、リーゼは気合を入れている。
「貴女が依頼人の、フラムさんです?」
「ええ、フラムは私ですが。 ……貴女が依頼を受けてくれた人でしょうか?」
「はい、ギルドから依頼を受けました。リーゼといいます。確認ですけど猫探しですよね? その猫ちゃんが何処で居なくなったのかを教えてくれませんか?」
「ええ、詳細にお話致しますので、必ずマリアンテーゼちゃんを探してください!」
マリアンテーゼ、それが猫の名前なのだろう。
フラムさんから話を聴くと、二日ほど猫の姿が見えずに、仕方なくギルドに依頼をしたのだそうだ。
何時居なくなったのかは分からないらしいのだが、その猫は屋敷で飼われているらしく、家の外には出た事がないらしい。
リーゼはフラムに、気になった部分を聞き始めた。
「猫なら家の中隠れていたりしないんでしょうか? 小さな隙間に隠れて居たり、よくありそうですけど」
「一応使用人と一緒に家中を探し回ったんですよ。それでも見つからなくて、ちょっと困ってしまいまして。ああ、マリアンテーゼちゃんったら、一体何処へ行ったのかしら…………」
猫は放し飼いになっていたのだろうか?
その辺りの事も聞いてみるべきだと思い、リーゼは質問を続けた。
「その猫ちゃんは家から自由に出入り出来たのです?」
「いいえ、家から出る事は出来ないと思います。窓を開け放っていても、一度も外には出ようとしませんでした。最近野犬に襲われそうになったので、たぶんその所為かと」
フラムから猫の特徴を詳しく聞き出すと、猫は黒色でまだ小さく、何処にでも入り込めてしまえる大きさらしい。
まだ家の中に隠れているのかもしれないとリーゼは考え、一度屋敷へ案内してもらう事になった。
「この屋敷です。どうぞお入りください」
「おじゃましま~す」
フラムの案内で屋敷に到着すると、その屋敷はそこそこ大きい豪邸で、二階建ての屋敷であった。
横幅も広く、部屋数も多そうである。
この屋敷を細部まで探すのは、一人ではとても骨が折れそうだった。
まずは玄関から、念のために壺や花瓶、傘立ての裏も探していく。
「マリアちゃん居ませんか~?」
「流石に此処には居ないと思いますわよ。その辺りは何度か探しましたので」
フラムは探したと言っていた。
二日も出て来ないとなると、何処かに閉じ込められている可能性が高い。
分かり易い場所は、捜索から外しても良いだろう。
「フラムさん、使用人込みで家には何人いますか?」
「家の使用人ですか? 私を含めて六人ですね。え~っと、主人は帰っていませんので、五人でしょうか」
詳細を聴いてみると、依頼人のフラムさん、旦那さん、フラムさんのお子さんが一人、メイドが二人、料理人が一人、合計が六人だった。
猫が此処に来ないとも限らないので、メイドを一人玄関を見張らせておく事にした。
まずは一つ、玄関は完全に居ない場所を確保出来た。
玄関を進み、エントランス。
天井には大きなシャンデリアが有る。
家の中心に、二つ階段が左右に続いていた。
あまり見た事は無いが、お城の様な作りなのだろう。
一階の広間を丹念に探すが、目的の猫は見つからない。
メイドをもう一人一階部分を見張らせて、二階部分に移動した。
二階部分は一階が見下ろせる作りとなっていて、歩ける部分が壁沿いに続いている。
シャンデリアの上も確認してみるが、やはり何も無く、エントランス部分は完全に居ない事が分かる。
リーゼは玄関からメイドを広間に呼び寄せ、二人で広間部分を見てもらった。
次は一階の右の扉から通路に出て行く。
通路も探したが何も無く、一つ目の部屋の前。
「フラムさん、ここはどんな部屋ですか?」
「はい、ここは主人の書斎になっておりますわ」
書斎は隠れやすそうだ。
それでもきちんと整理されていれば、それほど探すのに苦労はしないだろう。
リーゼは部屋の中に入り、棚の中なども見て行くが、猫の気配はない。
猫に荒らされるのが嫌だったのか、中に猫を入れなかったのかもしれない。
「フラムさん、もしかしてこの中には猫を入れないようにしてありましたか?」
「ええ、一度入って粗相をしてしまって、それからは二度と入れるなと言われて、扉は開けないようにしていました」
「そうですか、ではこの場所も居ないと」
隣の部屋は物置だと言っている。
探すのは大変かもと思ったが、整理されていて探すのは容易だった。
隠れられるスペースも探してみるが、特に何も見当たらない。
「此処にも居ませんね。皆さんが探しても見つからないとなると、何時もは行かない場所かもしれませんね」
「そうかもしれませんね。しかし私達も随分と探したのですよ。もしかしたら連れ去られたんじゃ?」
「まだそうと決まってませんよ。屋敷の中を全て見てから考えましょう」
「ええ、そうですね」
隣の部屋からは使用人の部屋が続くが、引き出しの中までも見ても猫の姿はなく、今度はエントランスから左の通路を進んで行く。
左側の一つ目の部屋に入ると、その部屋はダイニングになっている。
大きなテーブルがあり、窓の近くには花瓶、それには綺麗な花が活けてある。
花瓶の中、テーブルの下も見たが…………何もいない。
ダイニングの隣の部屋は、キッチンになっていて、調理器具などが置いてある。
料理人の人も、部屋の外に待っていてもらう事にしたが、猫は見当たらなかった。
「ここも居ないっと。一階部分はこれで全部ですか?」
「ええ、一階部分はこれで全部ですわ」
「他に収納出来る様なスペースとか、地下部分もありませんか」
無いと言われ、リーゼは二階部分を探した。
二階部分は子供部屋、寝室、リビング、衣装部屋と続く。
まずは衣装部屋を見に行き、中へと入ってみる。
部屋の中には、フラムの物と思われるドレスがズラリと掛けられている。
服の入った箱なども有ったが、猫は居ない。
他に見るべき所が無かったので、次のリビングを見る。
テーブルには、トランプやチェスがあったが、他に隠れるような場所は無い。
後はソファーがあるだけだった。
寝室に入り、天蓋付きのベッドが置いてあった。
後はタンス。小物入れ。ゴミ箱。等。
ベッドの下も探すが、やはり猫は居ない。
最後は子供部屋を見た。
「ここが最後ですか?」
「もう一つ上に部屋がありますわ」
「そうですか、分かりました」
子供部屋に入ると、中には子供がいて、玩具で遊んでいる。
「ここに居れば、直ぐ分かりそうなんだけど?」
子供に猫を見なかったかと、聞いてみたが、知らないと答えられてしまった。
玩具箱が有るが、玩具で遊んでいるのだから、中に猫が居たら分かるだろう。
この屋敷の最後の部屋。
一番上の部屋に行ってみるが、行くのには梯子を使い登らなければならないらしい。
登ると、そこは暗い屋根裏部屋だった。
この部屋はあまり使われてはいないらしい。
聴くと普段は梯子を外してあり、登る事は出来ない様にしてあると。
その為この部屋は調べていないらしい。
リーゼは手持ちのランタンに灯りをともし、部屋の内部を探す。
床には誇りが溜まって、子供の足跡と、猫の足跡がくっきりと見える。
「ここかしら?」
床の足跡を追うが、部屋の中で動き回ったのか、途中でぐちゃぐちゃになり、何処に行ったのかは分からない。
他に有る物は、机が一つと、窓が一つ。
他は何も無い。
「机の中には……居ないわね」
窓を開けて外を見るが、この屋敷の屋根があるだけだった。
…………そこで何か聞こえた気がした。
リーゼは、耳を澄まし、ゆっくりと待った。
「ニィ」
待ち続けていると、何処からか猫の鳴き声が聞こえた。
何処かで力なく鳴いている。
もう一度ゆっくりと待ち、猫の鳴き声を聴いた。
どうも屋根の上では無いらしく、この部屋の中から小さな鳴き声が聞こえる。
「上?」
上を見上げても何もなく、天井の梁ぐらいしかない。
「まさか天井の梁の上に乗って、降りられなくなったのかしら?」
屋根裏部屋に昇る梯子を外し、梁に立てかけ上に登ってみた。
梁の上には猫の足跡が残っている。
だが、猫は見当たらない。
「声はするのに居ない? まだ上?」
流石に梁の上で、梯子をかけるのには勇気が居る。
一度下に降りて、フラムさんに五メートルほどのロープを三本用意してもらった。
まず梯子の真ん中辺りに、片方にロープを結び、そのまま垂らしておく。
梁の上に再び上がると、ロープを体に巻き付け、反対側を柱に括り付ける。
「これでバランスを崩しても、何とかなるわね」
梯子を梁の上に引っ張り上げ、柱に立てかけた。それから梯子についたロープを柱に回し、梯子の逆側に結ぶ。
梯子はガッチリと固定され、充分な強度があるようにみえる。
「大丈夫よね」
梯子の状態を確かめて途中まで登り、もう一つのロープを一番上の梁に回し体に付ける。
それから最初のロープを体から外して、一番上の梁を見渡す。
梁の上を見渡し、よく見ると小さな猫がいて震えている。
かなり衰弱していたがまだ息はあるらしい。
リーゼは急いで猫を降ろし、その事をフラムさんに報告した。
これで依頼は無事に終わる事が出来た。
後で聞いた話では、子供が見つからない様に屋根裏で遊んでいたらしい。
その時に猫が登ってしまったのだろうと言っていた。
フラムさんには感謝され、あの猫をよっぽど可愛がっていたのか、かなりの額を払って貰えた。
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