一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 国王会議

王国の領土にある町を見回る為、なるべく驚かさない様に、その姿を変化させる魔法を覚え、べノムは各地を飛び回っていた。ある町に到着したべノムは、酒場で変わった事が起きて居ないかと聞き込みをした。その酒場の親父の話で、町中に盗賊が出たと聞くと、べノムはそれを追って、山の中へと入って行った。盗賊の女と出会い、べノムは軽く相手をしていると、その場に大きなキメラが出現した。そのキメラと戦い勝利を収めると、盗賊の女が昔の上司の娘だと聞いてしまった。べノムはその女を保護すると、王国へと帰って行った…………


ハルトン(マリア―ド舞国、王)     マリーヌ(ブリガンテ武国、王)
ラグナード(ラグナード神国、王)    
べノムザッパー(王国、探索班)     アスタロッテ(王国、軍人の娘)


 戦争から一年後。

 王国の北、山脈を挟んだ北の地。
 ラグナードとマリア―ドの国境の南。
 この大陸にある五国の王の為に造られた宮殿がある。
 大きな円のテーブルを挟み、三人の王がその席についていた。
 兵士や護衛はこの場には居らずないらしい。

「このままでは不味い、魔王達にこれ以上好き勝手させるのは不味い」

 そう言ったのはラグナードから南東、王国と帝都から東にある、山沿いを南下していくと着く国。 マリアード舞国の王ハルトンだ。
 長い髪を後ろに縛り、王と言うより武人と言った感じである。
 良く祭りをやっている平和な国で、平和な国であるからこそ、危険には敏感に反応している。
 王国は子供を攫うと言う噂もあり、隣の国である自分達に、何時牙を向くのかと恐れていた。

「まあ待ってください。この一年何もなかったのです。このまま見守った方が良くありませんか? 下手に手を出したら帝国の二の舞ですよ?」

 それに答えた別の王。名前をマリーヌと言って、女性の王である。
 このマリーヌ王は、王国の力を侮ってはいない。
 帝国の兵は何処よりも多く、それを破ったとなると、下手に手を出す事が出来ない事を知っているのだ。
 この女王の国は、王国の西にある国、ブリガンテ武国と呼ばれる国である。
 武術に長けた国で、年中格闘技の大会が盛んに行われている。

「子供を攫うと言う噂もあるそうですな。真偽はどうなのですかな?」

 ラグナードの王。
 その名は国の名前と同じ、ラグナードだった。
 その国は安全な位置に国を構えている為か、まだ王国の脅威は感じていない。
 そんなラグナードの問いに答えたのは、マリア―ドの王ハミルトンだった。

「事の審議は分からぬが、旅の行商人の話では、旅の連れの子供達を連れ去られたそうだ」

「その行商人とはどのような方なのでしょうか? お教え願いますか、ハミルトン王」

「ガタイの良い男だった。あまり良い身なりの者とは思えなかったな。しかしマリーヌ王は、随分気にされているらしい。行商人の話まで聞くのですかな?」

「真偽も分からぬ話では、国を動かす身としては何も出来ないでしょう?」

 マリーヌは考えを巡らせている。
 身なりの良くない者が、子供達を何人も連れて旅に出るのかと。
 子供達を自分の子供じゃなく連れと呼び、連れ回す。
 旅芸人を思い浮かべ否定する。
 こんな時代に易々と旅を出来る芸人など知りはしない。
 芸人なら芸人と言えば良かったのに、それをしなかったのならば…………

「まあまあお二人とも、藪を付いて鬼どころか、魔王を出す事もありますまい。このまま静観致しましょう。あの国がどう動こうとも、我が国には関係ないですからな」

「貴方の所は地理的に安全だからそんな事を言ってられるのです! 私の国とマリーヌ殿の国、何方かが戦になれば、貴方の所も無関係では居られないのですよ!」

 ラグナードはそれを気にもしていない。

「大丈夫なのですよ。魔城には元々斥侯がおりましてね、戦争準備などまるでしていないのです。慌てて軍を動かす事もありますまい」

 ハルトンは驚いた。ラグナード王の事を見誤っていたのだ。
 何度も会った事があるが、そんな事をする人物だとは思っていなかった。
 お前まさか、最初から王国を狙っていたのか。と言いかけて、それを止めた。

「では何もせずに放って置けと? 相手の力は未知数なのですよ?」

「いいえ、やれるべき事はやるべきなのでしょう。軍備の強化や、王国から脱出した魔導士達の確保などをね。向うが魔法を使えるのに此方が使えないのでは不利ですからな。魔法という力は是非皆で分け合いましょう」

 ラグナード王の提案を、他の二国の王も了承した。
 敵を知るためにも、魔法の力は必要だと感じたからだ。
 そして王国を出た者達は、三国から誘いを受ける事となる。
 ある者は金で、ある者は権力で、三国は競い合う様に、魔法の力を手に入れていく。

 三国会議が終わり、マリア―ドの王ハミルトンは、帰りの馬車の中に居た。

「……ラグナードの奴め、俺が気づかないとでも思ったのか。レイト、今直ぐ国に戻れ。国の中に、ラグナードの間者が居る可能性が高い。直ぐに戻れ。直ぐにだ!」

 レイトと呼ばれた兵士は、はい、と返事をし、逸早く自国に急いだ。


 同じく、マリーヌ王が乗る馬車の中。

「行商人は奴隷商人だったのかしら? だとすると、攫ったと言う話は嘘? ラグナードの動きも気になるし、動くのは早いかしら? 私の国にもラグナードからの人物が来ているのかしらね?」

 マリーヌ王は考えを巡らせながら、馬車を急がせた。


 ラグナードは、三国共同で魔王退治など御免だった。
 魔王の力は斥侯からの文で知らせを受けていた。
 王国がそれ以上行動を起こさない事も知らせから分かっている。

「この期に何方か一つでも魔王に潰されてくれれば面白いのだがね。魔王は動きはしない。もし何処かの国が亡びるのならば、それは私が貰ってあげましょう。ふはははは!」

 ラグナードだけはゆったりと自国の城へと向かって行く。
 これから起こる事を予測し、全力で楽しもうとしているようだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 場面は変わり、べノムとアスタロッテは歩いて王国に向かっていた。
 徒歩ではまだまだ時間が掛かりそうなそんな道中に、べノムはロッテを見つめている。

「ロッテ、ちょっと目を瞑っててくれないか? ちょっとばかり近道をする」

「何ぃ。キスでもすんの? はい、ちゅ~」

 ロッテはちゅ~とか言って、唇を突き出して来ている。

「ちげーよ! ちょっと三十分ほど目を閉じてろって言ってんだよ!」

 ロッテには口説いていると思われているのかもしれない。
 しかしべノムの今の姿は、本来のあるべき姿ではないのだ。
 変身を解いてその姿に戻ってしまえば、たった三十分でも十分王国に戻れるのだが、アスタロッテが黙って三十分も目を閉じてはくれないだろう。

「良し、じゃあ此処で一時間ぐらい待っていてくれ。直ぐ戻って来るからよ」

「嫌よ! もし魔物でも出たら怖いじゃない。私に魔物の餌に成れって言うの?」

「だったら三十分目を瞑っていろって。それで帰れるんだからよ」

「ハッ、まさか三十分で私の体を好きにするのね。でも私を助けてくれたんだから、ちょっとぐらいなら」

「しないからッ! 早くしてくれ、俺は急ぐんだよ!」

「じゃあ理由を言ってよ。理由さえ聞ければ、納得出来れば瞑ってあげる」

 べノムは少し悩んでいる。この女に本性を見せるべきかと。
 だが王国に道到着してしまえば嫌でも色々な姿を見る事になるのだろう。
 国に連れて帰るなら隠しても意味はない。

「……分かった、あんまり見せたくないんだが。 ……驚いて逃げるんじゃないぞ?」

 べノムはゆっくりと集中して、自身の変身を解除する。
 人の姿だったものが消え失せ、黒に変わった男が現れた。
 その姿にロッテは驚いているが、あまり気にしてはいないらしい。

「すごーい、貴方魔族だったのね。 ……もしかして私食べられちゃうの? 性的に」

「人間なんて食わねぇよ。エロい事もしねぇからな! もう良いから俺に抱きつけよ。直ぐ王国へ連れて行ってやるからよ」

「だったら巣へ連れ帰って、私の体を貪るのね? 私ったら酷い事されちゃうわ」

 べノムはもうどうでも良くなって、嫌がりもしないロッテを抱きかかえた。
 そのまま空へ飛び上がり、大空を自在に舞って行く。

「おおお速ーい。べノムって便利よね~」

 怖がらないのは嬉しいかったが、どうにも調子が狂ってしまっていた。
 ロッテはすご~い、速~い。
 とか言って騒いでいたが、べノムは適当に返事をして王国に急いだ。

 王国の正門に着くと、門前には門番であるグラビトンが居る。
 彼がこの場所に居るのは不思議じゃない。

「俺は急ぐから通らせてもらうぜ!」

「通るね!」

「はっ? それ誰だ?!」

 グラビトンの言葉に答えず、二人は横をすり抜け王城に飛び進む。
 そして王城でメギドを探し出し、べノムはキメラの子供の事を報告したのだった。
 その話にメギド王は驚き、動揺している。

「キメラの子供だとッ! まさか既存種と交配したのか!」

「はい、どうやらそのようです。直ぐに対処しないと不味いかもしれません。それと、ちょっとご相談が……」

「なんだ、その隣の女の事か? 結婚でもしたいのなら勝手にしてくれ。今はキメラの事に集中したい」

「いや、そうではなくてですね。何か元上官の娘が迷っていたらしく、悪さをしてたのを遠くの町で見つけてしまったんですが、どうしましょうかメギド様?」

「王様初めまして! 私アスタロッテって言います。どうぞよろしくね!」

「おい、気安いぞお前! 普通にキッチリ挨拶しとけや!」

 メギドは自身の前で言い争う二人のやり取りに、若干呆れているらしい。
 だが気を取り直し、ロッテの今後を決めたらしい。 

「……今は時間がない、べノム、その娘の事はお前に任せよう。恋人にするなり嫁にするなり勝手にするがいい。お前の家で面倒をみてやれ」

「え、俺がですか?! 流石に同性の方が良くないでしょうか?!」

「今この国が不味い状況なのはお前も分かってるんだろ? 親兄弟を殺されてる奴等が大半だ。財政的にも普通に厳しいだろう。何処にも押し付ける事はできない。見つけたお前がキッチリ責任をもって養ってやれ!」

「いや、俺だってそんなに金持ってる訳じゃ……いえ、やらせて頂きます」

 王の顔がこれ以上煩わせるなといっている。
 べノムは王に抵抗するのを諦め、それを受け入れた。
 どの道王に逆らったとしても無駄だっただろう。

「後でまた呼ぶかもしれない。家で待機しといてくれ」

「はい、承りました。おい行くぞロッテ!」

「はいは~い。王様、ありがとうございます!」

 二人は王の部屋から退出し、べノムの自宅へと歩き出す。
 その道中…………

「なんで俺が、お前の面倒を見なけりゃならんのだッ」
 
「良いじゃない。ほら美少女よ私、ムラムラしちゃうでしょ。襲っても良いのよ?」

「うるせーよ。何処が美少女なんだよ! 美少女だったらそれらしくしてやがれッ! はぁ、これから騒々しくなりそうだぜ」

 そんな事を言い合いながら、べノムは自分の家に向かって行った。

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