最強暗殺者、冒険者になる

kou(こう)

最強暗殺者、雇い主と(肉体言語で)『OHANASI』する 後編


   「模擬戦は俺ん家の庭で行う。30分後に庭に来い。それまでは準備期間とする。ま、せいぜいボコボコにされる準備でもしているんだな!ハッハッハッハッハ!!」

ーーよし。これで娘にかっこいいところを見せられるぞ


   そう小声で言っていたのが聞こえたような気がしないでもないが当主の名誉のために忘れることにする。

    「30分か...まずは部屋に装備を取りに行こう」

   ありがたいことに俺は住み込みで働かせてもらっている。

    俺は部屋に向かって歩き出した。




  

   ハッハッハ!!我が名はイーサン!

オリュンベール家4代目当主だ!

    私は今とても機嫌がいい。

  娘にかっこいいところを見せられるからだ。

   その事を娘に報告しなければ!


    「入るぞ!我が娘よ!」

    「いや、待ってくれ。今着替えてーー」

    あっ。

    ガチャ。

    「...父上?場合によっては首が消える事になるが。言い訳はあるか?」

     「ない。ただ1つ言わせて欲しい。
そのおっぱーー」
 
     「母上に報告してくる」

     「ギャアアアア!!待って、待ってくれ!!社会的に死んじゃう!」
    
 「何を言ってるんだ。もう死んでいるぞ」

     
     「...えっ?」

     




   「久しぶりにこいつらを着るな」

   俺はクローゼットから暗殺時に着るローブや短剣を取り出していた。

    防具は、5年前から愛用している無地の黒コートやブーツ、ズボン、グローブ等だ。一見、ただのボロい防具だが、高度な『隠蔽』が施されていてわかりにくいが、着用者の気配をかなり薄める効果がある。4つ集まればほぼ分からない。

     短剣も5年前から愛用している物だ。

銘は『トワイライト・ダガー』

こちらは装備者の『影』を消す能力がある。

どちらも暗殺向けの装備だが、魔物討伐の時にも着けている。

その他にも細かい装備(アクセサリー等)をつけているが割愛する。


 「あと時間までは...10分か。少し剣を磨こう」

  布に油を垂らし、短剣を丁寧に磨き上げていく。   

   前に暗殺者の先輩から言われたことがある。
  
    『どんな武具にでも魂が宿っているんだ。例えば同じ武器を使っていても、適当に使うのと丁寧に使うの。お前が武器だったらどっちがいいか?丁寧に使っていたら剣も俺に応えてくれる。そう思うんだ』

     この先輩は、冷酷に人を暗殺していたが
武器に対する感情だけは本物だった。

   過去を思い出していたらもうあと5分だ。

   庭に向かうとしよう。
  



   庭には、もう屋敷のメイドや、夫人、近所の人たちも集まっていて、既に賭け事が始まっている。

  「ああ、レインか」

  「あれ、アリス様。イーサン様は?」

  「あのゴミの事か。多分そろそろ来るぞ」

  

   「ハァ...ハァ...やあレイン。じゃあ模擬戦を...」

   そこにはボロボロのイーサン様の姿があった。


  「...あの、アリス様。イーサン様に一体何が...」

  「気にしなくていい。それより早くあのゴミをボコボコにしてくれ」

  「あ、はい」

     一体何が起きたんだ...ロクでもないことが起きたのは確かだ。

    「はあ、父上。回復魔法掛けとくぞ」

    「ありがとう!我が娘よ!」

    一気に元気になったな...




    そしてアリス様がすっ、と立ち上がる


   「じゃあルールの確認だ。どちらかが降参するまで、又は私が戦闘不能と見なすまでは勝敗は決さない。いいか?」
  
     「はい」 と俺。 「ああ」とイーサン様。

    「それじゃあ...試合、開始!!」

    今、戦いの火蓋が切って落とされた。

   

  俺は全部の武器、防具の効果を使って瞬時に気配と影を消す。

    腰の愛剣がなんとも頼もしい。
  

  俺は無音歩行術を使い、音を立てないようにして歩く。

    同時に幻惑魔法を使い、自分の幻影をイーサン様の目に写した。
するとイーサン様はーー

 
    突然、虚空を剣で斬り始めた。


    アリス様と夫人のイーサン様を見る目が絶対零度まで落ちているが、気にしないことにする。




そしてゆっくりとイーサン様に近づいていき、


背後からそっとイーサン様の首筋に愛剣を添えた。

   
  


「勝者、レイン!」

     はあ、無事に勝てたか。よかった...
久しぶりの戦闘で緊張したな。






     

    「勝者、レイン!」

   えっ?何が起きた?

    「...説明するとな。父上は全くレインに気づかず、真後ろまで接近されて首筋に剣を添えられた」

   えっ?

     「ねえ、あなた?」

    いつもは愛しい我が妻の声が今は恐怖でしかない。
 
      「あなた、S級冒険者よね?なのに突然虚空を斬りはじめて。頭、どうしちゃったの?」

    ぐはっ!

       「父上。まさかレインの能力を把握しないまま模擬戦をしたのか?アホか?」

    がはっ!

       「もうやめてくれ...それ以上俺のハートを抉らないでくれ...」

     





 
      「...まあ、さすがは『私のレイン』といったところだな!」

      わ、私の...?

      「あら、アリス。レインに恋しちゃった?私が魅了する方法、教えてあげようか?」

      「こ、恋などしていない!...でも魅了する方法は教えてくれ...」

       「うふふ。私はいつでも私はアリスを応援しているわ」

       
       「あの...」

                   



                     「「あなた(父上)は黙って?」」

   
   「ハイ...すみませんでした」









    「あの...イーサン様。」

     「...少し放っておいてくれ」

     そういったイーサン様の目から一滴の雫が零れた。

     



 

コメント

  • kou(こう)

    イーサン、酷い扱いですが、いつかイーサンの武勇について詳しく書く(時が来たら)ので安心してください(笑)

    0
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