無欲、転生させられ世界をとる

makoch

覚悟

 毎日すくすくと育っていきこの世界に産まれてから半年程度が経過した。
 今日はいつもなら父が帰ってくる時間に帰ってこない。
 母は心配そうに扉を見ている。

 ガチャン、ガチャガチャ

 扉が開いた音が聞こえた。母は警戒しながら扉に向かっていった。

 そこにいたのは左腕に赤く染まった包帯を巻き、息も絶え絶えで瀕死の状態の父だった。

 「あ、あなた……大丈夫!?今すぐ手当てするから。」

 そう言って母は「『応急回復』おうきゅうかいふく」と発した。
 驚くことに言葉を言い終わったら父の左腕が温かな緑の光に包まれた。

 この世界には魔法があるのか……

 父の呼吸がだいぶ落ち着いたのが分かった。

「あなた、何があったの?」
「いつも通りに魔物たちの定期討伐をしていたんだが、今日は様子がおかしかった。」
「どんな風に?ゆっくりでいいから教えてちょうだい。」
「あぁ、もちろんだ。治療してくれてありがとう。
 それでな、討伐開始から3時間程経過して各班が集合する時間になっても2班が1人も来なかったんだ。」

 俺は嫌な予感がした。

「まさか、2班が全滅するほどの凶悪な魔物が……」
「そのまさかだ……2班が担当していたエリアを捜索に向かったところ、巨大な熊がリーダーの『アルス』を貪っているところに出くわした。」
「そう、アルスさんが……」

 アルスさんは度々家にきて俺のことを可愛がってくれた……もうすぐ結婚式を挙げると言っていたのに。

 「俺は頭に血が上って何も考えず斬りかかったんだ。奴はその体躯たいくに見合わない速度で反応して、俺にその太い腕を振り下ろした。」

 父は重々しくつぶいた。

「間一髪のところで左腕に持っていた盾で致命傷は免れたんだが、その時に腕を持ってかれた……」
「無事で良かったわ。」
「まだ仲間が10人程で奴を追っている。俺も戻らないと……」
「あなたはもう休みなさい。」

 母は魔法で父を眠らせた。

 俺はこのときこの世界の厳しさを知った。
 それと同時に強くなろうと決意した。
 

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