異世界をスキルブックと共に

気のまま

決戦準備13

骨で出来た囲いに嵌め込んだ魔石が光り出した瞬間、先程まで普通に見えていた囲いの向こう側の林が歪んで見えだした。
これは・・・空間が歪んでいるのか?
取り敢えず今動かすと良くなさそうだからこの現象が収まるまでは様子をみるか。
俺がいったいどういう仕組みで動いているのか観察していると突然囲い中、歪んだ空間から一つの腕が現れた。
俺は驚き急いで囲いの側から飛び退いたが囲いの中から出てきた腕はそのまま足、身体へとどんどんその姿を現していった。
なんだゴブ朗・・・なのか?
囲いから現れたその姿は俺が良く見知っているゴブ朗ではなかった。
全身を茶黒い装備で固め関節の隙間からはゴブリン特有の緑色の肌が見える。
出てきた骨の囲いと相まってそれは完全に悪役の風貌をしていた。
その後ろからは同じような茶黒い装備に包んだ狼型の魔物や人間達が続々と姿を現し続けている。
これはどこかの魔王の手先だろうか?
そして皆何故か身体に刻まれたタトゥーを見せるように装備を調整してある。
確かに赤黒いタトゥーが映えて格好良いがこれ何も知らない一般人が見たら悲鳴を上げて逃げ出すレベルだぞ?
あの拠点で和気藹々としていた雰囲気は完全にゼロだ。
どうしてこんな感じになったんだ?
正義の味方みたいに白く輝く装備を作れば良かったのだろうか?
取り敢えず白い金属が見つかったら作ってみるか。


《ふむ、転移装置は無事に成功したな。主様よどうだ?皆似合っているだろう?主様のお手製と聞いて皆気合いを入れて着込んでいるぞ》


あ、ああ、皆確かに似合っているぞ。
ダークファンタジーが好きなタイプにはウケること間違いなしだ。


《そうか、全員聞いたか?主様が我らの事を褒めてくれたぞ。だがこれで満足はするな!我らは漸く主様の軍隊らしく姿が整っただけだ。我らはまだ何も為していない。大事なのはこれからだ。我らが功績を残し、万人がこの我らの姿を見て主様の名を思い出し歓喜に名を叫ぶぐらいにならなければ意味がない!!お前らにその覚悟はあるか?》


「《おお!》」
《声が小さいぞ!!》
「《おお!!!》」


そのかけ声を聞いてゴブ朗は満足したのか皆を引き連れ物資を貯蔵しているであろう拠点へと向かい始めた。
確かにゴブ朗は指揮を取り集団の士気を上げるのが上手いようだ。
だがなゴブ朗、万人が俺の名を歓喜に叫ぶ状況とはなんだ?
そんなの想像するだけで胃が痛い。
確かにお前らの王になると言ったが出来るだけひっそりと暮していたい。
それにお前ら敵の拠点の近くだから気を遣ったのか会話もかけ声も全部念話だったよな?
俺達は聞こえているが端から見れば茶黒い装備に身を包んだ集団が無言でめっちゃ装備を打ち鳴らしテンション上げている状況だからな?
俺が敵ならこれを見た瞬間我先に逃げ出す自信がある。
俺はゴブ朗達が向かっている拠点の兵士達の冥福を祈りながらゴブ朗達の後を追った。


その中間拠点は元々あった集落をそのまま利用しているのか周囲に柵を巡らせただけの簡単な作りをしていた。
中央の広場では運び込んだ物資や馬車の交換を行い順次ナミラ平原へ向けて出発させている様子が窺える。
それにしてもこの拠点進軍している帝国軍に比べ守りが薄くないか?
拠点の中の魔物も少ないしどうも襲撃される事を余り考えていない気がする。


《さてお前ら準備はいいか?》
「《おお!》」
《うさ吉、索敵は問題ないか?》
《うん、大丈夫だよ。全部入ってる》
《ミノタウロスお前は敵が逃げ出さないように裏へ回れ、巳朗お前達で漏れがないように補助しろ》
《了解した》《あいよ》
《先にゴブリンウルフの混成部隊を専攻させる。その後カシムとエレナ、そしてリンはオルドとジャックから各4人ずつ人間達を借り小隊で敵を殲滅しろ。》
「了解」「了解しました」「了解したよ!」
《オルドとジャック達の部隊はその後うさ吉の部隊とうち漏らしがないように索敵、殲滅を行い物資の確保を行え》
「了解した」「了解しました」
《熊五郎、お前は俺と大将取りだ》
《ああ、わかった》
《他に何か気付いたことがある奴はいるか?》
《索敵にもあまり人数が引っかからないからそんな気合い入れなくても大丈夫なんじゃない?》
「駄目だ、今回はマリアが不在のため予知による補助がない。我が主様は俺達全てが少しでも傷つくことを嫌う。今回は小さな拠点落としだ。死ぬことはおろか負傷することすら許さん。各自細心の注意を払い攻略しろ。又手に負えない相手がいた場合は迅速に報告、自分で対処しようとするな。いいな?」
「おお!!」
「では行くぞ!!」


そのゴブ朗の言葉を合図に各自指示通りに動き出した。
まずウルフに乗ったゴブリン部隊が走り出したのだが拠点の入り口を守っていた人間達に襲いかかるのかと思ったらそのまま柵を越えて中に入っていった。


「な、なんだ!?狼?」
「いや!上にゴブリンが乗っているぞ!!敵だ!!敵襲!!てき・・」


柵を跳び越していったウルフたちに気を取られていた門番達は直ぐに後から来たリンとエレナに首を刎ねられている。
以前から思っていたが何故あんな細腕で首を簡単に飛ばすことができるのだろうか?
余りの勢いにいまだ首は地面へと落ちてはいない。
この世界は筋力以外にもスキルやレベルの補助があるのだろうがいったい何処まで強化することが出来るのだろうか?
いずれ試してみたい。
そうこうしていると集落の中は既にパニック状態である。
逃げ出している人間も中には見受けられる。
魔物もこちらの襲撃に応戦してきているがどうも動きが単調だ。
何か理由があるのだろうか?


「いったい何事だ!!この守護兵長の私がいる拠点で騒ぎを起こすな!!」


そう言いながら拠点の中にあった天幕から出てきた男がいた。
自分からこの拠点の大将だと名乗ってくれるとは有り難い。


《熊五郎!!》
「グガァァァァァァッ!!」


そうゴブ朗が声を掛けた瞬間、拠点の中をもの凄い大音量の声が響き渡った。
これは・・・熊五郎の威嚇か?
それにしても音量がデカすぎる、あいつ間違いなく拡声器を装備しているな。
離れている俺ですら耳が痛いんだ、周囲にいた人間達は堪ったもんじゃないだろう。
その証拠に殆ど大部分の人間が恐慌状態になったり失禁して気を失っている者すら見える。
これ初めから熊五郎が威嚇していたら終わっていたんじゃないか?


《人間というものは軟弱だな、エレナ、人間は皆こんなものなのか?》
「大部分はこれと似たようなものかと思われます。私も生前は熊五郎の威嚇で一歩も動けませんでした。
ですが中には英雄と呼ばれる者達も存在します。決して油断なさらない方が良いと思います。」
《そうか、皆この程度なら主様のお力を知らしめる事が楽になるんだがな。一応注意しておこう。うさ吉残りはどうだ?》
《もう殆ど殲滅済みだよ。ただ魔物勢のスケルトンには威嚇が効きづらいみたいだね。まだ動いているのがいるよ》
《エレナ達は残りを殲滅して回れ。オルドとジャックは物資の確認だ。馬は一度殺せ。巳朗そっちはどうだ?》
《何人か来たけど全員問題なく殺したぜ。》
《そうか死体を収納したら中央に集合しろ、全て回収し次第主様に転移で纏めて拠点へと運んで貰う》
《了解したぜ》


そう言うとゴブ朗は視線を落とし目の前に失神している守衛長と名乗った男の首を刎ねた。

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