異世界をスキルブックと共に

気のまま

出発前2

振り返るとそこにはポチが広場の一角に座っていた。
まさかお前が今喋ったのか?


「(ポチ、お前が行くなんて珍しいな、どういう風の吹き回しだ?)」
「何、我もたまには主様と行動を共にしたいと思ってな。それに今回は移動が長いのだろう?松風以外となると我が適任だろう)」
「えらく今日は饒舌ですね、いつもあまり喋らないくせに。主様と行動を共に出来る機会が来てテンションが上がっているんですか?)」
「(巫山戯た事を抜かすな、我はいつも通りだ)」


ああ、良かった。
基本ポチは会議の時もあまり喋らないし、普段の時も喋っているのを見たことがない。
嫌われているのかと思ったがそうか無口なだけだったのか。


「(それでポチ以外には誰が行くんだ?必然的にお前の上に乗るんだろうからあんまり大勢は無理だな)」
「(大丈夫だ、マリアを連れて行く。あいつとは狼同士気が合うしな)」


ここでもまさかの初耳だ。
俺はマリアがポチと和気藹々と喋っている姿なんて見たことないぞ?
それにしても俺のお供と言えばエレナだが、今回は連れて行かなくていいのか?


「(主様が招集した朝の会議にも顔をみせん奴には発言する資格はない)」


おっと、意外と厳しめだな。
だがまぁたまにはエレナもゆっくりするのがいいんじゃないだろうか?
今日だって寝床から出てきていないのだから日頃の疲労が溜まっている可能性がある。
さて、話も纏まったことだしこれで朝の会議は終了だな。
俺がそう会議の終了を告げようとした時、ジャックが手を上げて喋りだした。


「あの、少し報告があります。よろしいでしょうか?」


報告?ああ、いいぞ話してくれ。
しかし昨日から何か変わったことがあったのだろうか?


「早朝モーテン達から報告がありました。あの後無事に王女様方を王城に届けたそうです。」


おお、それは良かった。
さすがに王都の中なのでもう捕まることはないと思ってはいたが無事に届けられたなら上々だろう。


「ですがその後王女が誘拐されていたという事実、さらに第1王女が未だ誘拐されままで今回のナミラ平原の決戦で帝国に何かしら利用されるという情報に現在王城は混乱状態らしいです。この後既にナミラ平原へ向かっている軍へと情報は伝えられるそうですが決戦時に多少軍の全体の士気が落ちることは止めようがありません。」


何だと?では王女を助けたことは無駄だったのか?


「いいえ、ご主人様が王女を助けていなければ決戦時にその情報が晒され現在の状況よりもパニックになり軍は壊滅的な士気の低下が起きる可能性がありました。ご主人様の行動は間違っていません。さらに現在王城が混乱していることからモーテン達の報償や王女救出の祝いの宴や周知等は決戦が終わって落ち着いた後に行われるようです。」


良かった、俺の行動は間違ってはいなかったか。
それにしても王女様救出の報酬は決戦の後か。
確かに王国の行く末を決める大事な決戦の前に他の事に余力を割いている暇はないよな。
でも決戦の報酬に俺達がその救助された王女の1人を貰ってしまったらややこしいことにならないか?
だがまぁ全ては決戦に勝ってからの話だ。
取り敢えず俺達に現状できる事はなさそうだからこの話は置いておこう。
さてこれで大体話は纏まったな。
皆忙しい中来てくれて有り難う、
また何かあったら連絡する。
俺は皆にそう伝えると各自広場から解散していった。
現在残っているのはポチと俺だけだ。


「ウォン!!」


ああ、そうだな。
何を言っているか全く分からないが取り敢えず頷いておく。
王都を出発する前にちょっとエレナを起こしに行きたいんだがいいだろうか?
マリアと合流しないといけないしな。


「ウォン!!」


ああ、有り難う。
さっきと同じようにしか聞こえないが恐らく了承してくれたと信じよう。
俺はそう1人納得しながらエレナの寝床へと向かった。


エレナの寝床に着くと入り口付近にマリアとリンが中の様子を伺っていた。
ちょうど良かった、エレナはまだ起きないのか?


「ケンゴ様、それが・・・」


ん?どうかしたのか?


「はい、エレナさんは一応起きてはいるみたいなんですが外に出ようとしないんです」


なんだ、エレナはもう起きているのか。
それにしても外に出てこないとはどういうことなのだろうか?
俺がマリア達に促されるまま寝床の中を覗くとそこはいつものエレナの寝床ではなかった。
中は物が散乱し、各所では破れた毛皮が落ちている。
それになんだろう?空気が重たい気がする。
俺は中の異常を気に掛けつつ中に入った。
おーい、エレナー起きてるかー?
俺がそう声を掛けるが一向に返事がない。
いったいどうしたというのだろうか?
寝床の奥に進むと寝床の端に毛皮に包まれた物体が座っていた。
エレナだ。
どうした?具合でも悪いのか?


「ケンゴ様・・・私は見捨てられるのでしょうか?」


そう俺に呟くエレナの顔は悲壮感に包まれていた。
ああ、なんだ昨日の事を気にしていたのか、
俺がお前を見捨てる?そんなことするわけないだろう。


「ですが私はケンゴ様の言いつけを守らずまた相手を威圧してしまいました。これから全員でケンゴ様を支え国を作っていくと決めたばかりなのに私は・・・」


うーむ、気にしすぎな気がするがエレナじゃなくても人間昨日言って直ぐに実践に移すのは難しいと思うぞ?


「ですが・・・」


そもそもなんでエレナは拠点の住人以外威圧するようになったんだ?
カシム達の話では昔はそんな感じじゃなかったんだろう?


「はい、私がケンゴ様に蘇生して頂いた後ゴブ朗先輩達にケンゴ様が唯一の存在でありその存在を正しく理解出来ない者は皆不幸なのだと教えられました。理解できない者に死を持ってケンゴ様の存在を知らしめる事や武力を使い相手を迎合することは不幸な者達にケンゴ様の素晴らしさを教える為の必要な行動だと何度も教えて頂きました。最初は私も少し疑問に思っていたのですがケンゴ様が素晴らしい存在なのは確かですし、神の使者様だと聞いた時はゴブ朗先輩達の言うことが正しいのだと思い今まで行動してきました」


あいつらなんてことをやってたんだよ。
これじゃあどこぞの悪徳宗教とあまり大差ないぞ?


「ですがこれらの行動はケンゴ様の意に沿わない行動だと先日の会議で私達に教えて頂きました。それなのに私はそれを、ケンゴ様の思いを裏切るような行動を取ってしまいました。ジャックの言うとおりケンゴ様に見限られてもおかしくはありません」


いやだから考えすぎだ。
一度のミスで見限っていたら俺の周りは誰も居なくなるし俺なんかミスだらけだぞ?
それにお前達は俺を唯一の存在だと言うが俺からしてみればお前ら1人1人が全て大事な替えの効かない唯一の存在だ。


「ケンゴ様・・・」


だから気にするな。
ジャックがフォローしたしミスしたと後悔するならもう二度と同じ過ちをしなければいい。
それになエレナ、俺はお前の笑った顔が好きだぞ?
たまにしか見せないがとても綺麗な笑顔をしている。
昔はもっと笑っていたし、周囲も笑顔にしていたんだろう?
俺はそんなエレナが見ていたい。
だからそんなことで悲しい顔なんかせずに笑っていてくれ。
俺がそう言いながら座って俯くエレナの頭を撫でるとエレナは恥ずかしそうにさらに顔を伏せてしまった。
うんうん、そういう恥ずかしがっている顔を魅力的だ。
これからはエレナのもっと多くの表情が見れるだろう。
俺もエレナ達がずっと笑っていられるように頑張らないとな。
俺はそう心に決めながら寝床の外で心配しているマリアとリンを安心させるために未だ恥ずかしがっているエレナを連れ寝床から外に出た。

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