異世界をスキルブックと共に

気のまま

歌姫

「声を奪われた歌姫ですか?」
「はい、お客様はこの歌姫が声を奪われた事件をご存じないのですか?」
「ええ、王都には最近初めて来たものでそういう情報には疎いのですよ」
「そうでしたか、実はこのサラ・リヴァイスは数年前までこの王都で知らない人は居ないほどの有名人だったんですよ。その歌声を一度聴けば天にも昇る程も高揚感を覚え、万人が涙するとまで言われていました」
「それはすごいですね」
「ええ、さらに彼女には巷で歌を聴いた後、身体の調子が良くなったり怪我が治ったりと数多くの噂もあり市民の人達は畏敬の念を込めて天の歌姫と呼んでいました」


歌声一つで身体の調子が良くなったり怪我を治したり出来るとは凄いな。
これも何かスキルの影響だろうか?スキルブックには歌声スキルなんて見あたらなかったが。
俺は受付の男と会話を続けながら彼女に鑑定を掛ける。


「ですが彼女の栄華はそう長くは続きませんでした。嫉妬か誰かの陰謀かは分かりませんがとある貴族が主催するパーティーの席で彼女が飲んだ飲み物に毒物が混入しておりその毒物が彼女の喉を焼き、その日から彼女は声を失いました。四方八方彼女の喉を治すために多くの金銭を掛け医者や薬を取り寄せたりしましたが誰1人として彼女の喉を治すことはできませんでした」


可哀想に。
やはり彼女のステータスにはユニークスキルとして「歌唱」があった。
歌の種類や歌い方によって対象者に数多くの恩恵や弊害を与える事が出来るらしい。
凄いな俺の付与スキルと違って対象者にデバフも掛けれるのか。
悪用した話も出なかったし恐らく良い人なんだろう。


「その後は奴隷に落ちるまで早かったですね。薬を探すために多額のお金を借りるが喉は治らず支援者や応援していた人達は喉が治らない彼女を見限り家族さえ彼女の収入を当てにしていたのか喉が治らぬ事に憤慨し家から追い出し彼女がここに来たときはそれはもう酷い状態でしたよ」


なんだろう、この世界ではユニークスキル持ちは必ず不幸になり奴隷に落ちるのだろうか?
今のとこ俺以外100%奴隷だ。
確かに俺は神の幸運が働かないぐらい不幸な気がするがまだマリアやリン、そしてこの子よりは運がいいのだろう。


「彼女が奴隷に落ちたときの金額も金額でしたし声も出せない、特に目立ったスキルもないので性奴隷の道しか残されていなかったのですが頑なに性奴隷だけは嫌がりまして、会話もままならないのですがどうにか労働奴隷で購入してくれる人を探していたんですよ」
「アルカライムで聞いたんですが売れない奴隷は鉱山で働かせると言っていたんですが彼女は鉱山には行かせなかったんですか?」
「実は私が彼女のファンでして鉱山に向かわせるのは躊躇われたんですよ。それに鉱山に行くと何割かの人は崩落や労働後肺をやられて命を落としてしまいますしそうなると二度と彼女の歌声が聴けなくなると思ったんですよ」
「そうですか、ですがそんなことしてこの店の偉い人に怒られないんですか?」
「あぁすみません、申し遅れましたね。私はこの店の店主をしているグレイブと申します。以後お見知りおきをお願いします」
「店主さんだったんですかこれは失礼しました。それでこの奴隷は売って頂けるのですか?」


恐らく彼女が声が出ない原因は喉が焼けて声帯が働かないせいだろう、恐らく回復魔法で治るはずだ。
治らなければ最悪一度声帯を切除し部位欠損と同じく治してやれば間違いないだろう。


「売っても良いですが条件が有ります」
「お聞きしてもいいですか?」
「彼女を労働奴隷として扱うこと、そしてできる限り彼女の声が戻る方法を探すこと、この2つです」
「その程度であれば構いませんよ」
「簡単に仰いますね。結局私には彼女を救うことは出来ませんでした。必ず彼女の声を取り戻す手段を見つけてくださいね」
「わかりました。それで彼女の値段はいくらですか?」
「無料でいいですよ。そのかわり彼女が声を取り戻すことが出来たら1度だけ私に彼女の歌を聴かせてください」
「無料でいいんですか?彼女の借金額は結構多かったんでしょう?」
「いいんですよ。彼女の歌がまた聴けるのであれば安い物です。それにお客様であれば彼女を治すことが出来そうですしね。今日入り口に居た獣人の子アルカライムの訳ありの奴隷の子でしょう?」


凄いなこの店主。
少ない情報からそこまで予想するとは驚いたな。
中々どうして侮れないな。
アルカライムの奴隷商とはえらい違いだ。


「わかりました。彼女の喉が治ったら必ず貴方の元に一度歌を聴かせに来ますよ。それに彼女も貴方には感謝しているでしょうしね」
「そうだと嬉しいんですがね」


そう店主はにかみながら言うと彼女の手を取りながらこちらに連れて来た。
俺にはそれがまるで大事な恋人を扱うような仕草に見えた。
必ず治療してこの人の前に連れてこよう。
俺はそう心に決めながら店主と一緒に奴隷達の契約をするため奥の部屋へと移動した。



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