異世界をスキルブックと共に

気のまま

とあるゴブリンのお話2

気づいたら俺は別の場所に立っていた。
目の前にはまたあの存在がいる。
だが以前に感じた恐怖は一切ない。
ただわかるのは目の前の存在が俺の命に代えても仕えなければならない主人だということだ。


「俺の言っていることがわかりますか?」


目の前にいる主が俺に語りかけてくる、なんて甘美な声なのだろうか、声を聞くだけでこの身が震える。
俺は大きく頷きながら肯定の声を出す。
ふと視界に何か写り周囲を見渡すと他も森の外周部に生息するウルフと角ウサギがいた。
この2匹も自分同様に主の紋章が刻まれているため新たに主に仕える仲間だろう。
俺は静かに主人の次の言葉を待った。


「俺に従属していることは理解していますか?」


「はい」


「召喚前の生前の記憶はありますか?」


「あります」


「俺、君たちを殺したけど従えますか?」


「はい」


俺は主の言葉にすぐに返事を返す。
生前俺が主の前で見せた姿を思い返すだけでも恥ずかしくなる。
生前は主のことが何一つ理解できずただただ恐怖していただけだ。
主に仕えることこそが至高だというのに。
この世界にはまだまだ多くの存在がこのことを理解していないだろう。
いずれこの世界全てに理解させる必要がある。
俺は他の2匹と確認し合いながら寝床から移動する主の後を追った。


今日は主と共に探索に行くらしい。
主の探索の準備を待っていたがどうも主は探索を手ぶらでいくみたいだ、大丈夫なのだろうか。
さらに驚いたことに主が自分のため土で剣を作ってくれた。
あまりの嬉しさに手が震える。
試し切りをしたがあまりの堅さと切れ味に驚いた、以前持っていた木の棒とは雲泥の差だ、これならこの森のほとんどの物を切り倒せるだろう。
他の2匹が羨ましそうな顔で見ているが絶対に渡さない。


問題が発生した。
探索に出たのはいいが主の森を進む速度に全然ついて行けない。
探索は周囲を警戒しながら鬱蒼と生い茂る草木をかき分け時に切り倒しながら進むのだが主のその速度が尋常じゃない。
主はちゃんと警戒も行いながらさらに通った場所はきちんと草木が折られ自分たちが通りやすいようになっている。
それなのに追いつけない。
主は自分たちが遅れていることに気づき歩を緩めてくれ、しかも自分らに合わせてこれからゆっくり探索をしていこうとまで言ってくれる。
あまりの主の優しさに涙が出そうになる。
しかしそれ以上に自分の不甲斐なさに怒りが沸き起こる。
今の俺たちは主に迷惑を掛ける存在でしかない、いない方がマシだ。
俺たちは自分の存在意義を見いだせないまま主の後を追った。


その後接敵した後も俺たちに出番はなかった。
俺たちが獲物を見つけるより先に主が見つけ捕獲してしまったのだ。
俺たちが役に立てなかった事実に項垂れていると主が捕獲した獲物の止めを刺すように指示してきた。
主が捕獲した獲物の止めをさせないわけがない、何か意味があるのか?
俺たちはよくわからずにその捕獲された獲物を殺した。
その瞬間確かにこの身が強くなったことが実感できた。
どういうことだろうか?生前にも魔物を殺したことがあるがここまで強くなった実感はなかった。
ほかの2匹も同様に強化されたようだ。
この時初めて主のやりたいことが理解できた。
主は俺たちを強化したいのだ、今の状態だと何の役にもたたないから・・・
俺たちもこのままでは嫌だった。
俺たちは主の役に立つため強くなることを心に決め主の指示の下我武者羅に魔物を狩っていった。


次の日も俺たちは主の指示の元強化に励んでいた。
だがある時を境に魔物を倒しても強くなっている感覚がなくなった。
俺たちは急いで主に確認するとLVというものが上限に達したのかもしれないと言っていた。
これ以上強くなれないのかと俺たちが絶望していると主が急に本を出し座り込み読み始めた。
どれくらい主は本を読んでいただろうか?絶望に頭が働かない。
立ち上がった主から出てきた言葉は強化が出来るかもしれないとのことだった。
俺は強化と言う言葉に藁にもすがる思いで主に強化を申し出た。
まず試しに俺に強化を施してくれるみたいだ。
主が手を俺に向けて何かを行っている、次第に身体が熱くなってきた。
駄目だ・・意識がたも・・て・・な・・


目が覚めると景色が変わっていた。
なんだ?力が漲る、今ならなんでもできる万能感がある。
詳しく調べてみるとどうも進化しているみたいだ。
他の2匹も驚いている。
当然だ、種族の中でも数百匹の中から希に進化できる個体が現れるかどうかだ。
主はこれを自分の意思で行ったのだ、まさに神の如き行為だ。
俺は主の凄さに改めて驚愕しながら他の2匹にも強化を勧める。
進化したら凄いぞ?
2匹も慌てて主のほうに駆けだしていった。
おそらく2匹も問題なく進化できるだろう。


これから主の元にはいろんな物や生物、この世のありとあらゆる物が集まってくるだろう。
俺たちはその中で主を支えて行かなければならない。
まだだ、まだまだ強くなる必要がある、主を支える為には全然足りない。
俺は今後の主が為すであろう王道に思いを馳せながら寝床を出た。

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コメント

  • 4step

    ゴブリンいいやつだった

    0
  • ウォン

    やべぇゴブリン目線面白いね

    0
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