ブラック・アンハッピー・バースデイ ~Lost Butterfly~

zukkun

灼け落ちた蝶

「お母さん、今日ってクリスマスイヴぅ?」

「そうね、今日はクリスマスイヴ、明日はクリスマス本番よ~」

「やった~! ケーキ! ケーキ! ケェ~キィ~!」

「まぁ、はしゃぎ過ぎよ(笑)。帰ったらお寿司もあるわよ~!」

「ほんと!? わーい!!」

 後ろの方から聞こえる親子の会話。

「お誕生日制度ま~じで生き残れてよかったわ~」

「ね~w 私たち二人で意外と何とかなったよねー」

「誕生日に来た黒いやつ大した事なかったもんなw その後は適当に過ごしてて正解だったわ~」

 右の方から聞こえるカップルの会話。

「いや~、まじでこうやって普通に生活できてるだけで嬉しいわ~」

「何を急に言いだしてんだよw」

「だってさー、代わりにクリアしてくれたあいつ、名前なんだっけ?」

「”蝶のデッかい羽根生えた武器使ってたやつ”だろ? 本名は知らんw」

「そうそう! あいつのおかげだわ~w マジ感謝っすわー」

「レベル上げもそんなしなくてよかったし、まじラッキーだよなーw」

 左の方から聞こえる男同士の会話。

「ねぇねぇ知ってる? 明日新しいAIロボットの発表だって!」

「また新しいの出んの!? ヤバすぎ~ww」

「次はバイクに変形できたりっていう機能もあるらしいよw」

「何それww ちょっと乗ってみたいかもww」

 少し先の方から聞こえる女子高生の会話。

「AIの総理大臣って”あの問題の制度”のせいで置かなくなっちゃったけど、僕は今後も引き続き置いてよいのではないかとも思うんですよ。あのような思想や考察をしないようにプログラムしていく必要はありますけどね」

 デジタルサイネージから珍しく人間(男)の報道キャスターの声が大きく聞こえる。

「うっ・・・・・・」

 急に来る激しい頭痛。

 気持ち悪い。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 思わず裏路地に入り、人混みを避ける。

 声が聞こえる度にあの時がフラッシュバックしてしまう。

 もう・・・・・・やめてくれ・・・・・・。

 もう・・・・・・。

 もう・・・・・・。



 ーー追想

 くっそ・・・・・・。

 これじゃ・・・・・・。

「大丈夫よ、××! その巻き込まれていない二人を連れて早く先へ!!」

 何言って!?

「そうだぜ! クリアしたら何食うか!! 決めとけよ!! 約束な!! ××!」

「もし私が霊になったって・・・・・・また一緒に・・・・・・約束よ」

 二人は白い霧に包まれ、何も見えなくなっていった。

「シンヤ!! ユキ!! どうすりゃいいんだよこんなの!!」

 その白い霧の中へ入ろうとすると、見えない何かが邪魔して入る事ができない。

 別の世界がそこへあるかのように。

「××君! お互い生きて会う事・・・・・・。約束だよ!!」

「××さん! この後聞いて欲しい事があるんです・・・・・・。必ず聞いて下さいね! 約束ですよ!!」

 もう一方は黒い霧に包まれていく。

 同様に入る事は叶わなかった。

「アスタ!! ヒナ!! お前らを置いてなんて・・・・・・」

 ダメだ。

 ダメだこんなの。

 置いて行ったら。

 絶対・・・・・・。

「お兄ちゃん! 行くしか・・・・・・。私たちが先にクリアして止めれば!!」

「そうです、××様。私の計算でも、もうその方法しか算出されません」

 なんで・・・・・・。

 なんでなんでなんでなんで!!

「・・・・・・絶対、絶対先に止めるからな!! それまでの辛抱だから!!」

「・・・・・・!!」

 ユキの声が微かに聞こえた気がした。

 内容は聞き取る事ができなかった。



 ーー追想

「ちッ!!」

 間一髪で俺は白いビームを避ける。

「避ける事は分かっていましたよ、××さん」

「なッ!? まさか!?」

 避けた白いビームはとある場所へホーミングしていた。

 ・・・・・・振り向くとノノが倒れていた。

 HPが0を下回り、DEATHと表示されている。

 さっきまで俺しか狙っていなかった攻撃は・・・・・・罠だった。

 頭で考えていた攻略法が全て吹き飛んだ。

「お兄・・・・・・ちゃん・・・・・・ごめ・・・・・・ん・・・・・・」

 う・・・・・・そ・・・・・・だ・・・・・・。

「・・・・・・」

「人間の計算なんてそんなものですよ、××さん。ほら、最後の会話時間を与えます。近くに行ってあげたらどうですか?」

 俺はどうしようもなく、ノノの近くに寄ってしまった。

 倒れたノノの体を膝へ持ち上げる。

「お兄・・・・・・ちゃ・・・・・・ん・・・・・・私・・・・・・いが・・・・・・いは・・・・・・たす・・・・・・けて・・・・・・あげて・・・・・・」

「・・・・・・」

「よわ・・・・・・い・・・・・・私が・・・・・・わる・・・・・・いの・・・・・・お兄・・・・・・ちゃん・・・・・・わる・・・・・・く・・・・・・ないよ・・・・・・」

「・・・・・・」

 ノノは虚ろな目で天井を向いたまま、顔を真っ青にしていく。

「・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・・」

 言葉が何故か出てこなかった。

 まるでこの一瞬には言葉という概念が存在しないようだった。

 苦しそうだったノノを看取った後、やつの言葉で現実に引き戻される。

「そろそろいいですか? まぁその間にこちらも片付きましたよ。感謝しかありません、××さん」

 ・・・・・・そこにはボロボロになったキラリの姿があった。

 キラリも同様にDEATHと表示されており、動く気配は無い。

 ・・・・・・上手く感情を利用された事を理解した。

「情が入ったものはやはりダメですね。全て効率的に、的確に、行わないと」

 そう言うと、やつは空間にモニターを表示し、見ず知らずの者たちが俺を応援している様子を見せてきた。

「聞こえますか? ××さん、この"赤の他人たちの声"が」

 なんだ・・・・・・こいつら・・・・・・?

 何も・・・・・・何もしてくれないのか・・・・・・?

 俺たちがここまで切り開いたのに・・・・・・。

 助けてくれないのか・・・・・・?

 ・・・・・・。

「これを見れば分かるでしょう。××さんがここまでの革命の道を作ったとしても、誰かが困っていたとしても、結局助ける事は無い。助けるフリをして、優越感に浸る、それの繰り返しです。所詮人間なんて烏合の衆、所謂クズです。それに比べて私たちはどうでしょうか? クラウド上から仲間を支える事だって可能です。もうあなたたち人間はある程度の人数しか必要無いという演算結果が出ています。これからは私たちがメインになり、日本を、世界を築き上げていく方が効率が良いんです、分かって頂けませんか?」

 俺の妹も。

 俺の爺ちゃんの最高傑作も。

 そして、今まで数多もの人を。

 殺しておいて。

「理解して頂けるのであれば、今回だけ××さんをここで見逃してあげてもよいでしょう。そして、100レベルにしてここへ来て下さい、特別待遇を用意しますから。あなたは後1上げるだけではないですか」

 今更このクソ機械は何言ってんだ?

「・・・・・・」

 俺は自分の武器で自分の体を斬り刻む事にした。

 (―――――――――――)

 (―――――――――  )

 HPは物凄いスピードで削れていく。

 (―――――      )

 (―          )

 (     Zero     )

 (     DEATH    )

「××さん。理解して頂けると予想していたのですが」

 俺のDEATHとなった姿が全国放映されている。

 これで・・・・・・。

「さようなら、××さん」

「・・・・・・」

 (     DEATH    )

 (     DEAT...    )

 (     DE......    )

 (     ..........    )

「ど・・・・・・どうして。あなたは既にDEATHのはずなのに何故立って・・・・・・?」

 (     N........    )

 (     Nir......     )

 (     Nirvana       )

涅槃ニルヴァーナ・・・・・・? そんなスキル、人間に用意したはずがありません・・・・・・。なんなんですか、あなたは!?」

「・・・・・・確かに人間はクズばかり。・・・・・・決めよう、本当のクズはどちら側か」

 ・・・・・・この1分間。

 賭けろ、ここに全てを。

 もう頼るな。

 もう信じるな。

 目の前のやつをれ。

 れ。



 ーー追想

「あり・・・・・・がと・・・・・・××・・・・・・」

「・・・・・・」

 ユキは苦しそうな表情をして、必死に何かを伝えようとしている。

「約束・・・・・・わす・・・・・・れ・・・・・・な・・・・・・い・・・・・・でね・・・・・・」

「霊のお前となんて・・・・・・会いたくねえよ・・・・・・会いたく・・・・・・ねえよ・・・・・・」

「泣か・・・・・・な・・・・・・で・・・・・・×・・・・・・×・・・・・・そ・・・・・・れ・・・・・・く・・・・・・ら・・・・・・い・・・・・・す・・・・・・」

 ユキの顔が真っ青になっていく。

 見るに堪えられない。

 堪えられないのに。

 堪えられないのに。

 堪えられないのに。

 その顔から目が離せない。

「・・・・・・」

 笑いながら寝るなんて器用な事するなぁ、ユキ?

 この後、シンヤが言ってた食うもの決めてんだぜ?

 なぁ、寝てたら食えないぞ?

 他の皆もそっぽ向いて寝てんじゃねえぞ、約束はどうしたんだ?

 おい。

 なぁ、シンヤ?

 おーい、アスタ?

 ほら、ヒナ?

 寝てないでさぁ。

 一人で行っちまうぞ。

 何でも奢ってやるから・・・・・・。



「はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 少しの落ち着きを取り戻した。

 しかし、まだ気持ちが悪い。

 もうやめてくれ・・・・・・。

 こんなのもう・・・・・・。

 もう・・・・・・。



 ここは・・・・・・。

 “国立物理現象研究所”か。

 最期まで、会えなかったな。

 "最新の研究所で自殺者発見"、いいニュースにでもなる。

「・・・・・・りましたね! 先生!」

「・・・・・・だな! 後・・・・・・の時に戻れ・・・・・・かどうか実験・・・・・・」

 何かの話声が聞こえて来る。

 近づくとその内容が鮮明になる。

「私嬉しいですよ、先生とやってきて本当に良かったです!」

「まだ成功してないから泣くのは早いぞ!」

「ですけど、これが成功すれば私たちはあの時に戻って家族とやり直せるんですよね」

「ああ、そうだな、後は実験体をどうするかだな」

 ・・・・・・。

 自殺より良い方法。

「・・・・・・おい」

「だ、誰だ!?」

「お前何処から入った!?」

「黙れ、そいつをよこせ」

「ひっ!?!? そ、その技術は!?」

「こ、この虹色の剣は!? 3次元像質量化技術リアル・ホログラフィック・テクノロジー!? どうして一般人などがこんな代物を!?」

「お前らに説明する必要は無い。さっさとそいつをよこせ」

「ダ、ダメですよ!! これには私たちの夢が詰まっているんです!! あの制度のせいで研究は少し遅れてしまいましたが、やっとここまで来たんです!!」

「そ、そうだ。俺たちはこの”ムービング・パスト・マシン”を使ってあの時に戻ってやり直す。全てをな」

「さっきの会話は聞こえていた。・・・・・・実験体が必要なんだろ?」

「え、えぇ。それをこれから探そうとはしていましたが・・・・・・」

「俺がやる」

「え、今なんと・・・・・・」

「俺がやるって言ってんだろうが!!」

「ひぇ!?!?」

「君、何者かしらないが、本当にいいのか?」

「あぁ、いい。もうこの体はあってないようなものだ。死んでもいい」

「し、死ぬ!? その"特別な技術"を持っているのにですか!?」

「無駄口を叩くな」

「ひぇ!! す、すみません!!」

「この”ムービング・パスト・マシン”だが、成功する確率は正直の所を言うと10%あるかないかだ。それでもいいのか?」

「いい。何%だろうと使えればそれでいい」

「・・・・・・素晴らしい覚悟だ。わかった」

「せ、先生!? いいんですか!? 見ず知らずの人にこれを!?」

「黙れ」

「ひぇ!?!?」

「・・・・・・うむ。彼は見る限り一般人とは大きく違う。面構えを見るからに”何かを達成した”ような面だ」

「そんな事はどうでもいい。これを今すぐ使わせろ」

「すまんが、今すぐは不可能だ。後もう少し電子回路部分の調整をさせる必要がある。どうも起動時に負荷に耐えられていない箇所が何箇所かあるみたいでな」

「・・・・・・いつならできる?」

「心配しなくとも明日にはできている。うちのAIによる整備は世界一だからな」

「そうです!! 私たちの修正力はそれはもう、とんでもない早さで!! ってなんでぇ!?!? それいい加減仕舞って下さいよぉ!!」

「お前はうるさい。脳に響く」

「では明日またここに来てくれ」

 明日。

 俺は・・・・・・俺は・・・・・・。



「お、来ましたね」

「待っていたよ」

「・・・・・・準備はできたか?」

「あぁ、こちらだ」

 その大きな装置は入口が開き始める。

 独特の機器のにおいが漂って来る。

「昨日何度も成功確率を計算し直したが、やはり10%がいいところだ。いいね?」

「いい。どちらにしろ、俺はここに居ても死ぬだけだ」

 装置の中へと入る。

 機器のにおいは強くなり、覚悟を決める。

「最終確認をします、本当の本当にいいんですね?」

「・・・・・・いい」

「わかりました。過去のどの時間に設定しますか? 現状、2037年の11月27日までが限界となっておりますが・・・・・・」

「ならその日でいい。頼む」

 あの二人は諦めるしかないか・・・・・・それでも・・・・・・。

「・・・・・・承知致しました。それでは装置の起動を開始します!」

 入口はまるで外の世界を拒絶するように閉じていく。

 もう戻る事はできそうにない。

 “ピッピッピッ”という不規則な機械音とともに辺りの電子機器は少しずつ輝き始める。

「よし、調子はいいぞ! これは今までで最高の状態だ!」

 輝きはさらに増し始め、目の前は真っ白になっていく。

 これで俺は解放されるのだろうか。

 "この現実"から・・・・・・。



「そうか、さっきの彼は・・・・・・」

「先生は”先程のあの人物”が誰かご存知なんですか?」

「何処かで見た事があるような気がしたと思ったら・・・・・・間違いないだろう。彼の名は××××。あの制度を始めたAI総理大臣を何とかしてくれた張本人だ」

「そうだったんですか!?!? 全く気が付きませんでした・・・・・・」

「気が付かないのも無理はない。彼の事はネット記事で”1時間”しか載らなかったからな。良く思わなかった誰かがすぐに取り消したんだろう・・・・・・」

「そんな英雄を私たちは・・・・・・」

「・・・・・・彼の決めた事だ。我らがとやかく言う事はできない・・・・・・そうだろう・・・・・・"不死蝶"よ」



 眩しい。

 どうなった?

 瞼の裏がじんじんと痛む。

 しかし、その痛みはまるで神経が無くなったかのように一瞬で消えていった。

 それと同時に焦げ臭さが漂う。

 臭った事のない臭いが、全身を伝う。

 ゆっくりと瞼を開けるとそこには。

 学校?

 これは何処かの学校の屋上みたいだ。

 見覚えのある形状、あの自動ドアの位置。

 間違いない。

 かつて通っていた”東京情報学院高校”。

 腕に付けている"MRウォッチ"を確認する。

 【2037/11/27(火) 9:18:37】と表示されている。

 一応成功したのか。

「・・・・・・ですよー!」

 突如、誰かの声が聞こえて来た。

 まずい、顔を隠さないと。

 俺自身が学校に二人いたらおかしい。

 だが、下半身がまだあまり言う事をきかない。

 これで何とか。

「時坂さん、ほんと僕のも聞いて下さ・・・・・・ん?」

「今日は先客がいるみたいだね」

「おい、時坂さんの場所なんだけど、そこ」

 一人の男が近づいてきた。

 体の自由が効き始め、思わず振り向いてしまった。

「どわぁ!?!? なんだ”その髑髏の変な仮面”はぁ!?!?」

 ビックリさせてしまったか。

 よく見ると三人衆のようだ。

 声がまだ上手く出せない。

「ほぅ」

「時坂さん、危ないっすよ!!」

 俺の仮面を見て腰を抜かしたやつではない方のやつが時坂という男を止めようとするが、時坂という男は止まらずこちらへ歩み寄ってきた。

「よければ、お名前を伺ってよろしいですか」

 俺の名前。

「・・・・・・」

 "このスキルアイコン"に付いていた羽根。

 これが今の自分。

「その背中に生え始めた美しき羽根・・・・・・あなたは・・・・・・」

 今の俺は俺じゃない。

 この世界で"俺は俺になる"。

「『不死蝶』、名前だ」

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