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職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第七十四話 悪口

 「また来たのか……お前……」
 
 ティアと昔の優が知り合ってからおおよそ一か月がたった。
 その間優は、ただの一日も欠かさず彼女の姿を現しており、 ティアもそこまでされれば彼の気持ちが本気であることが本気であることは、 嫌でも感じさせられ、 そんな彼への抵抗も次第に弱まっていき、 今ではほとんどなくなっていた。

 「当たり前だろう。 なんたって俺は……」
 「私にエルフを導く存在になって欲しいのだろう?」
 「なんだ……わかってるじゃないか」
 
 彼がいじ悪く笑う。
 ただその笑顔には、 不思議と不快感が含まれない。
 例えるならば彼の笑顔は悪戯を楽しむ子供の様な物だったのだ。
 ティアは、 彼のこのような表情を一か月間関わるうちによく目にした。
 初めこそティアは、 彼への反抗心から彼の笑顔に不快感を滲ませていたものの今ではその様な物はなく、 むしろそんな子供らしい一面を持つ彼の事を口にはしないだけで少し可愛いとさえ思っていた。
  
 「当たり前です。 何せ貴方は飽きもせず、 一日十回以上この女を勧誘しているのですからいくらこの女がいくら馬鹿でも覚えますよ」

 そう言ったのは、 眉を不満げに釣り上げたミカであった。
 彼女もまた彼に付き従う様にしてこの一か月間毎日惜しげなく彼女の家に通っていたのだ。
 ただ彼とは違ってミカは、 明らかに不満げであり、 その様子が彼女のオーラにも滲み出ていた。
 にもかかわらず彼は、 ミカのその様な様子に微塵も気づかず、 ティアに声を掛け続けていた。
 この事にティアは、 初めの方はミカの事を彼に警告していたのだが、 彼はその事に全く耳を貸す様子はなく、 ティアにご執心であった為、 ティアはいつしか彼に忠告しないようになっていた。

 「それはティアが未だ俺の提案を受け入れてくれないからであって……」
 「当たり前だ。 私は死んでもお前の提案は受け入れん 」
 「ええ……そういわずさぁ……」
 「い・や・だ 」
 「一か月  お試しで一か月だけでいいから 」
 「たわけ  人を導く立場の人間が一か月程度ですむわけないだろう 」
 「あ、 その変の事きちんと理解しているんだな」
 「当たり前だ 」
 「この女もこういっていることですしいい加減諦めたらどうですか?」
 「それはない」
 「何故ですか? 本人は嫌がっているのですよ? 嫌がっている人間に何を言っても無駄ではありませんか」

 ティアはミカのこの言葉に内心応援し、 あわよくばそのまま彼の意志を捻じ曲げて欲しいと思っていた。
 ただその思いは次に彼の発した言葉によって大きく覆る。

 「そうは言うが俺は、 ティア以上にふさわしい存在を知らない。 それほどにまで俺はティアの事を買っていて、 そして何よりも認めているんだよ」
 
 ーな、 なななななな何を言っているのだこいつは…… 
 ティアの顔が恥ずかしさと嬉しさによって真っ赤に染まる。
 
「この一か月俺は、毎日ティアの家に通ってティアの人となりについては、 大体理解できたつもりだ。 それはお前も同じなんじゃないかミカ?」
 「それは……」
 「ティアはさ。 口では結構酷い事言ったり、 こちらの事傷つけるような事言うけど内心は、 とても優しい奴なんだよ。 だってティアは結局のところ唯の一度も俺達の事を無視したことはないだろう?」
 「……」
 
 その言葉は事実である。 ティアは、 彼が自身の家に訪れたその時から今の今まで彼に対して酷いことを何度も言ってきた。
 その中には当然彼の存在を貶めるようなものも含まれている。
 その様な事をし続けていたティアだが彼の事をただの一度も無視したり、 相手にしないといったことはしなかったのだ。
 好きの反対は、 嫌いではない。
 好きの反対は、 無視である。
 それをしなかった時点で彼女の中で少なくとも本気で彼の事を嫌っていないことが、 彼にはしっかりと伝わっていたのだ。
 そもそもティアが何故そのような対応になってしまったかと言えば彼女が、 今の今ままで人との交流をしてこなかったのに原因がある。
 ずばりいってしまえば彼女はどうやったら他者とうまくコミュニケーションが取れるかがわからないのだ。
 だから人を傷つけるような言葉を言う。 自分という存在を無視して欲しくないから、 見ていて欲しいから。
 つまり彼女の悪口は、 彼女なりの精一杯のコミュニケーションなのだ。

 「はぁ……貴方やっぱりおかしいですよ。 あれだけの事を言われておいて嫌いにならないなんて」
 「それを言ったらミカだって俺に悪口いうじゃないか」
 「私の悪口ではありません。 唯の事実です」
 「えぇ……」
 「まあ貴方のそんなところが私は好きなんですけどね」
 「え? なんか言ったか?」
 「何も」

 ミカはその言葉を最後に姿を晦ました。
 その事に彼はぶつくさと不満を漏らすが、 ティアは見逃さなかった。
 この時のミカの横顔が少しばかり朱に染まっていることを。

 「それでティア。 お前はいつになったら俺の提案を受け入れてくれるんだ?」

 彼の顔がティアの方へとグイっと近づく。

 「近い  離れろ  変態 」 
 「え、 ええ……それはいくら何でもあんまりなんじゃ……」
 「うるさい  大体お前はいつもなんなんだ  なんで私から離れない  離れようとしない  私は……私は化け物なんだぞ 」
 「ティアが化け物なわけないだろう 」
 「え……」

 ティアは、 この時驚愕を露わにした。
  何せ今の彼は、 彼女が見たことがないほど激しく怒り狂っていたのだ。
 別に自分が傷つけられたわけでもい貶められたわけでもない。 にも関わらず彼は怒っていた。
 その事がティアには理解できず、 困惑させた。

 「いいかティア  この際だからはっきり言っておくぞ 」
 「な、 なんだ 」
 「お前は化け物なんかじゃない。 唯の可愛い女の子だ」
 「な、 か、 かわ……そ、 そんなわけ……ない……だろう  だって私は……私は……」
 「いいから聞け 」
 「へ……!?」

  ティアが驚くのも無理はない。
  何せ彼はいきなりティアの事を抱きしめたのだ。
  何故彼が急にこのような事をしたのか当然ティアはわからない。
 いつもの彼女ならこの様な事をされれば罵倒しながら突き放すだろう。
 でも今はそうしなかった。 いや。 出来なかった。
 彼の体温が、 ぬくもりが彼女にとっては完全二未知の体験であり、 不思議と心が休まるような穏やかさを感じさせられていたのだ。
 そのぬくもりを永遠に感じたいと思わせるほど気持ちがよかったのだ。

 「ティア。 お前は唯の女の子だよ……未来が見える能力のせいで周りの人間から迫害されてきたかもしれない。 その時の痛みはきっと俺には理解できない。 理解できるなんて死んでも言えない」
 「……」
 
 この言葉にティアの固まった氷の心が少しずつ動き出す。
 ティアは今の今まで誰一人理解されてこなかった。
 その事が堪らなく、 苦しかった、 辛くて、 誰かに助けて欲しかった。
 でも誰も理解してくれない。 誰も手を差し伸べてくれない。
 その事がいつしか彼女に深い深い絶望を抱かせ、 性格の歪んだどこか不安定な彼女が出来上がった。

 「でもな。 今俺の眼に移るのは、 唯の女の子なんだよ。 誰にも自身の境遇を理解されなくて、 深く傷ついて、 誰かに助けて欲しかったそんな可哀そうな女の子なんだよ…… 」
 
 -ああ……これはダメだ……こんな事を言われてしまったら私は……
 ティアの中で恋に落ちる音が聞こえた。
 その音は、 彼女が今まで聞いてきたどのような音色よりも美しく、 綺麗な物だった。

 「お前は……私の事裏切らない……よな?」
 「当たり前だ  俺はお前の事を絶対に裏切らない  死んでも約束する  死んでも守る 」
 「な、 ならさ……ずっと私と一緒に……いてくれないか……? もう一人ボッチは……いやなんだ……一人は辛くて……苦しい……もうそんなのは嫌なんだ…… 」

 ティアは、 泣いていた。 今ままで我慢していた自身の気持ちを解き放ったのだ。
 彼はそんな彼女の事を慰めるように自身のぬくもりで少しでも彼女の心が安らぐようにと強く、 強く抱きしめる。
 そんな彼の胸の中でティアは、 泣き続けた。 自身の中に募り積もった怨嗟が消えていくその瞬間まで…… 

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コメント

  • サクえもん

    完結というよりは、打ち切りに近いですかね.......一応思い出として残してはおきますがこの作品が更新されるのはおそらくですがもうありません。あるとしてもキリがいいところまで進めて終わりといった感じです。

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  • AkatsukiSho

    わかりました。 次の作品では、頑張ってください。
    ところで、この作品は完結したと捉えてもよろしいのでしょうか?

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  • サクえもん

    コメントありがとうございます。ご指摘の点につきましては私自身大変痛感しておりますし、いかんせんこの話を書きはじめたのは今から一年以上前で、小説も書いたことがなく、何も知識がない状態で見切り発進で書いたので、どうしてもキャラの作り込みは甘く、話の展開はご都合主義になってしまいました。ですのでこれはいわば若気の至りと呼べる作品でして、そのうち別の作品としてこの作品自体を修正したものをあげようと考えておりますので、何卒その時をお待ちください。

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  • AkatsukiSho

    はじめは面白かったのに、途中から主人公の自分のことを思ってくれてる女の子たちに対しての言動がひどすぎて萎えてしまいました。主人公が嫁を作ったりするのはいいけど、鈍感キャラとご都合主義のやり過ぎ感があって、途中から読んでいてムカムカしてきました。そこら辺のどうにか改善することを検討してもらいたいです。中途半端に「愛してる」とか言っている割には、その相手との仲が一向に進まないのと、女の子との関係が完全に決着がついていないのに、ほかの子の所に行ってそういう関係になっていく姿を見ると、ただの女たらしの最低主人公に感じてしまいます。 要検討をお願いしたいです。

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  • ジブリーヌ

    何故だろう...最初は面白かったのに
    読み進めていくうちにノロケに変わったと思うのは俺だけ?

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