職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第六十八話 決闘(第一ラウンド)

 「かなり待たせたみたいで悪かったな」
 「いえ。 お気になさらないでください。 どうやら今の“あなた様”の様子を見るに何か重大なことがあったことは、 すぐに勘づきましたから」

 カンナのその対応はまさに優の考えている紳士そのものであった。
 その事から優の中でカンナに対する好感度がわずかばかりに上昇する。

 「カンナ。 そんな奴に敬語を使う必要はない」

 そんなカンナとは対照的にルドルフの対応は、 酷く冷たい物であった。。
 それだけではなく、 彼の額には誰の目にも明らかな程クッキリとした青筋が浮かんでおり、 彼が待たされたことに対してかなり御立腹なのは、 明らかな事実であった。

 「いや。 本当に悪かったと思っている。 この通りだ」
 
 そう言いながら優は、 自身の頭を二人の前に深々と下げた。
 優がここまでするのは、 これが彼なりのケジメであり、 誠意からくるものであった。
 そんな優の真摯な姿勢に周りのエルフたちの多くがどよめきだす。
 そもそも人間と異種族特に人間とエルフは、 あまり仲がよくない。
 その為互いにもめごとが発生した場合、 大抵の場合はどちらも自分の非を認めようとはしないのだ。
 その結果騒動は大ごとに発生し、 エルフと人間に限らず、 異種族間の溝は年々深まりつつあったのだ。
 優とてその事実は勿論知っている。
 だがだからとそのような理由が優がこの場で謝罪の言葉を口にしなくてよい理由にはならない、 そう優は考えていたのだ。
 そんな優の思いは、 肝心のルドルフには全く伝わってはいなかったものの彼のパートナーであるカンナや周りのエルフたちには、 深く伝わっていた。

 「頭をお上げになってください。 先程にも述べたように私は本当に気にしていませんから」
 「そうは言うがルドルフがまだ……」
 「そうだぞカンナ!! 私はまだこいつの事を許したわけではない!!」

 そのルドルフの不躾な言葉に先ほどまでは我慢する気でいたシルフィも我慢しきれなくなったのかルドルフに対し、 怒気をにじませた様子で詰め寄る。

 「ルドルフ!! これ以上お父さんを虐めると私本気で怒るよ!!」
 「ひ、 姫様。 そう言われましても……」
 「そもそも今回遅れたのは、 私がお父さんと“個人的”な話が合ったせいなわけなんだからお父さんは、悪くないの!! 悪いのは全部私なの!!」

 そのシルフィの言葉がルドルフには余程効いたのかこれ以上彼が優に対して、 何も言うことはなかった。
 けれどそれはあくまで表面上の事であり、 ルドルフの腹の内では優に対する怒りの炎は先程の物よりもはるかに大きくなっていた。

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 「では今からルールを説明いたします。 尚今回の決闘の段取りを取り仕切らせていただくのは、 シルフィード騎士団の……」
 「アレン。 余計なことはいい。 さっさとルールを説明しろ」

 騎士団長であるルドルフのぴしゃりとしたその物言いにアレンと言われた若者の体が恐怖からかわずかにこわばる。
  そんなアレンの様子を見て優は、 彼にわずかばかりの同情を感じつつも口をはさむことはなかった。

 「ルールは単純です。 団長側は、 冒険者ユウを。 冒険者ユウ側は、 騎士団長ルドルフ様と服騎士団長カンナ様両者に参ったと言わせるまたは気絶させるそれだけです」
 
 そのユウ側の圧倒的な不利なルールを聞いて、 シルフィはすかさず講義の声を上げようとするがそんなシルフィの様子をいち早く察したのか優は、 彼女が声を上げられぬようすかさず彼女の口を塞ぐ。

 「むむむむ!!(ちょっと!!) むむむむむむむぅ!! (お父さん何するの!!)」
 「シルフィがこのルールに不満なのはわかってる。 でもこの場合はこれでいいんだ」
 「むむむ? (なんで?)」
 「何でってそれは自分の娘を怪我させるわけにはいかないからだよ」
 
 その言葉が効いたのかシルフィの抵抗がみるみる弱まっていく。
 そんな様子を見てこれ以上彼女を拘束する必要はないと判断した優はすぐさま彼女の拘束を解除した。

 「尚今回の決闘で使用する武器は、 木刀のみとさせていただきます。 ただし魔法の使用は自由とします。 それでは両者準備は、 宜しいですか?」

 アレンのその言葉にルドルフ、 カムイ、 シルフィ、 そして優がゆっくりと頷く。
 
 「分かりました。 それでは……」

 尋常ではない程張り詰めた空気が闘技場内を覆う。
 そして……

 「はじめ!!」

 アレンが決闘の始まりを表す声を上げた。
 
 「行くぞカンナ!!」
 
 まずこの場で声を上げたのはルドルフであった。
 彼は、 試合開始の合図を聞いた瞬間隣にいたカレンにハンドサインを用いて指示を出す。
 このハンドサインは、 シルフィードの騎士団員ならば皆当然知っているものであり、 声をだすというラグを消せる分騎士団では、 有事の際いつも使われているものであった。
 カンナはルドルフからのサインに無言で頷くとフルプレートを身に着けているとは考えられないほどの速さで優の右半身目掛け迫っていた。
 
 「お覚悟!!」
 「おっとそうはいかないぜ」
 
 確かにカンナの速さはすさまじいものであった。
 だがそれでも化け物級の力を持つ優からすればまだまだ遅い物であり、 彼女の優の右半身目掛けて放った一撃を木刀ではなく杖を使って、 左に受け流す。
 その優の動きはまさに無駄のない動きであり、 受け流す際優の体には全く力が入っておらず、 ほぼカンナの放った一撃の重さのみを利用して受け流していた。
 
 「なんと!? 木刀をつかわれないのですか!!」
 「あいにくとこちらにも事情があってな。 木刀は使えないんだ。 それとそこ……!!」
 
 優がそう言った先には、 木刀を大きく振りかぶったルドルフが優の頭目掛け今にも振り下ろそうとしていた。
 優はそれを悟ると先ほどの攻撃を受け流され、 態勢を崩していたカンナに目を付けた。
 優は、 カンナの背中を蹴り飛ばすことによってルドルフの攻撃を妨害しようとしたのだ。
 だがそんな優の目論見は、 カンナには通用しなかった。
 カンナは自身が蹴り上げられた瞬間、 木刀を手離し優の足を咄嗟に両手を使ってつかんだのだ。
 そのせいで優は体制を崩し、 堪らず、 地面に倒れる。
 そして体制を崩した優にゆっくりとルドルフの木刀が迫る。

 「これで終わりだ人間!!」

 ルドルフの喜びに打ち震えた声が鳴り響く。
 だがそんなルドルフの木刀を阻むものがいた。
 その阻んだものというのは、 当然シルフィだ。

 「そうはさせないよ!!」

 シルフィは、 ルドルフの木刀を危うげなく受け止めるとそのまま彼の腹めがけ、 木刀を振るう。
 だがルドルフはそんな彼女の行動をも理解していたのか急速に後ろに飛びのき、 距離をとる。
 一方その横では、 カンナが優を気絶させるべく、 彼の脳天目掛け何度も拳を放っていた。

 「ハァッ!!!!!!!!!!!」
 「クッッ!」
 
 カンナが優の上にのっている体制上優は彼女の攻撃を防ぐしかできなかった。
 カンナの拳が一発一発と優のガードを崩していく。
 シルフィも優の事を助けに行こうとするがそのたびにルドルフが的確にシルフィの行く手を阻み、 思うよに動けないシルフィ。
 そして彼女が優に拳を放ち始めて十発目遂に優のガードが盛大に崩れた。

 「お父さん!!」
 「やれカンナぁぁぁぁぁ!!」
 「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 カンナの拳に優の骨が砕ける感触が伝わり、 実際優の骨の軋んでいるミシミシと下音が彼女の耳元で響いていた。
 この時カンナは、 自分の勝利を疑っていなかった。
 何せ顔の骨を完全に砕かれたのだ。
 普通なら脳震盪を起こし、 気絶しているのが当たり前なのである。
 仮に気絶していないにしても常人ならばその痛みに耐えられるわけがない。
 そう彼女は考えていた。
 だがその決めつけこそ彼女の間違いであった。

 「ま、 まだだぁぁぁぁぁぁ!!」
 「な!? 何故そんな体で動ける!! 」
  
 優は未だ戦意が変わらないそれどころか先ほどよりも増しているかのような目で彼女の事を見ていたのだ。
 その目に気圧されたのかカンナは、 咄嗟に後ろに下がろうとするが既に手遅れであり、 優の凄まじい殺気の乗った拳が彼女の額を捉え、 そのまま彼女を壁際まで殴り飛ばしていた。

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
 
 優の方向はまさに獣そのものであり、 その場にいた者すべてを圧倒していた。
 殴られたカンナはというと優に殴られた衝撃があまりに凄まじかったのか彼女が身に着けていたフルプレートすべてが完全に破壊されており、 今まで謎に包まれていた彼女の容姿も明らかになってしまっていた。
 だが今そのような事優にはどうでもよかった。
 優が今この場で考えていることそれは、 勝利への渇望のみ。
 それ以外の事は何もかもがどうでもよかった。
  
 「き、 貴様……!!」
 「さあ第二ラウンドと行こうか…...!!」

 その優の言葉を皮切りに決闘の第二ラウンドが幕を開けた。

「職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • サクえもん

    ご指摘ありがとうございます。まだ小説を書き初めて新参者ゆえこういう失敗が今後もあるかもしれませんがそんな時は遠慮なく指摘して頂けると幸いです。

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