職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第六十二話 王女との遊び?

 「やっと一人になれた……」


 優がティアに捕らえられてから既に一日が経っていた。
 その間優はティアから甲斐甲斐しく世話をされ、 ティアが女王として仕事に向かう今の今まで碌に一人になる時間がなかったのだ。
 

 「さてまずは……」
 

 優には、 検証したいことが二つあった。
 一つは自分の体の事について。
 もう一つはミカと連絡が取れるかだった。
 優はルーとの契約こそすれ無理やり、 解除させられたものの未だミカとの契約が生きていることは自身の左手を見る限り明らかであった。
 ミカとの契約が生きているということは、 優の状態が普通ならば不死性は未だ健在であり、 契約紋から連絡もできるはずなのだ。


 「ん……」


 優は初めに自分の不死性が今だ健在なのか検証する為、 試しに自身の腕にナイフを用いて小さな傷を作る。


 「クソ……‼」


 結果から言うと優の傷は一向に回復する傾向はみられなかった。
 その事実にたまらず舌打ちを漏らす。
 優にとって自身の不死性を失うということは死活事項であった。
 創造魔術は、 優の寿命を用いることによってはじめて発動される。
 その恩恵はいわば不死身であるからこそ生かされるものであり、 不死性を失った優には今までのような高い水準の武器を作ることが実質できなくなってしまったのだ。


 「ならこっちは……」


 (おいミカ。 おい。 頼むから何か返事をしてくれ‼)
 優の願いもむなしくミカとは一向に繋がる気配は見られなかった。
 その事実に優は、 ショックのあまり項垂れる。
  

 「ははは……右半身は動かなくて右目は見えず、 ミカとの連絡も取れない上にに生命線の創造魔術まで制限か。 全く持って積みだなこれは……」


 優は半場自嘲気味そう呟いた。
 そんな優を扉から見る者がいた。


 「あ……」


 優の事を見つめていたのはシルフィであった。
 ーなんでシルフィがここに?
 優はシルフィからの視線に気が付くと彼女が何故ここにいるのか尋ねずにはいられなかった。


 「どうかしたのか?」
 「ええと、 その……」
 

 シルフィは恥ずかしいのか足をもじもじさせていたが、 その実優の事を本当に心配している素振りも見受けられた。
 -もしかしてシルフィは俺の事を心配そているのか?
  優はシルフィの心配している素振りを見て、 自分で自分の事を情けなく思った。


 「すまないな。 心配させて」
 

 優は優しくシルフィの頭を撫でる。
 

 「ん……んん……」


 シルフィは気持ちよいのかたまらず声を漏らし、 もっとゆうに自分の頭を撫でるよう自分の頭をさらに近づける。
 そんなシルフィのあまり純真な姿に今までブルーだった気分もすぐさま吹き飛んで行ってしまった。
 

 「そういえばシルフィはなんで俺の部屋に来たんだ?」


 ここで優はようやく本題を思い出す。
 シルフィは正直に優に伝えるのが恥ずかしいのかどこか照れている様子であった。


 「うんとね。 お父さん昨日私と遊んでくれるって約束したよね? だから今から遊ぼうと思ってきたの‼」
 「ああ、 そう言えば……」


 シルフィの言う通り優は昨日シルフィと遊ぶ約束をしていた。
 優の脳内にシルフィとの約束が残らなかったのは、 今の今までの事案のインパクトが強すぎるのと理由で優は一睡もできていなかったからであった。
 

 「もしかしてお父さん忘れていたの?」


 シルフィ先ほどとは打って変わって表情を曇らす。
 そんな今にも泣きそうなシルフィの様子に優は焦りを露わにする。
 ー不味い不味い不味い……‼
 優は急いで自身の失言を取り消し、 シルフィの機嫌を取りにいく。


 「もちろん覚えているよ。 ああ。 覚えているさ‼」
 「本当?」
 「本当本当。 何して遊ぼうか?」
 「ええと。 ええとね。 それじゃあ……」


 ーふぅ。 なんとかごまかせたか……
 優はシルフィが泣きだすという最悪の事態に陥らずに済んだことにホッと胸をなでおろす。。
 ーまあシルフィは女の子だからおままごととかだろうなそれほど心配することないだろう……
 この時まで優はシルフィの事をの女の子だと思っていた。
 そんな優の考えだが、 次の瞬間根底から覆された。
 

 「私お父さんと摸擬戦したい‼」
 「はい?」


 優はシルフィの発した言葉が自身の聞き間違いではないのかとたまらず素っ頓狂な声を上げる。
 

 「ん? シルフィ何かおかしな事言った?」


 ただ当のシルフィは自分が言った言葉に疑問を一切持っていなかった。


 「え、 だって摸擬戦って……シルフィは女の子なんだからもっとおしとやかな……」
 「ダメなの?」


 シルフィの瞳が潤みだす。
 その効果は覿面で、 優には彼女の提案を了承する以外の選択肢が浮かんでこなかった。
 

 「ああ。 うん。 大丈夫大丈夫。 うん。 やろうか摸擬戦」
 「わーい‼」
 「ははは……はぁ……」


 -どうしてこうなった……
 優は今まさに頭を抱えたい気分であった。
 そんな優とは対照的にティアは嬉しそうにその場を跳ねていた。


 「ほら‼ お父さん早く早く‼」
 「わ、 分かったから引っ張らないでくれ……」


 優は今朝ティアから貰った棒を支えにしてゆっくりと立ち上がるとそのままシルフィの勢いにおされるがまま部屋を後にした。


 ~~~~~~~~~~~


 「それじゃあお父さん行くよ‼」
 「ああ。 いいぞ」


 優とシルフィは一定の距離を保つと互いに武器を構えた。
 シルフィの武器は彼女の身の丈をゆうに超えるほど巨大なメイスであった。
 そのメイスの作りは相当な物で、 いかに相手に苦痛を与えながら叩き潰すかを最大限考えられている作りであった。
 ーあんなのでつぶされたら今の俺なら一撃で死ぬんじゃないか?
 優は内心冷や汗をかいていた。
 それも当然である。
 今の優は杖を支えにしなければ碌に動けはしない。
 その為相手の攻撃をよけるといった行動は不可能に近かった。
 それだけではない。
 優の左手は、 杖を持っている為現在ふさがている。
 その為今の優は、 剣を握ることすらできないのである。
 それだけではない。 
 優はミカとの契約時に得られた恩恵もシルフィの前では、 自分が今だ契約している天使がいるということがティアにバレかねない為使うことはできないのだ。
 ーまあ相手は子供だし、 いくら俺の武器が糸しか使えないといっても大丈夫だよな
 ただ肝心の優は先程油断して痛い目にあったばかりだというのに完全に油断しきっていた。
 優が油断するのも無理はない。 何せ相手は年齢こそ五百歳ではあるものの見た目は完全に子供なのだ。
 そんな優の今現在使える武器は、 糸。 しかも右手が使えない為左手のみといった使用であった。
 これは全盛期の優から比べれば圧倒的に弱体化しているが、 優は相手が子供だからと言ってその程度で十分だと思っていたのである。
 ただそのような驕りもシルフィのとっ次の行動によって瞬時に消し飛んだ。
 

 「ほい‼」
 「な!?」


 シルフィは自分の手に握っていた特大サイズのメイスをなんの躊躇いもなく優に向かって投げ付けたのである。
 その速さはかなりのもので普通の人間ならば反応すらできず、 肉塊になっているほどの速さであった。
 ークソがぁ‼
 間一髪でその攻撃に反応できた優は自身の糸を左手で巧みに操り無事受け止める事に成功するが、 その受け止めた際の衝撃はすさまじく優の左手に巻き付けてある糸が指にくい込み優に左手からは血が流れていた。
 そんな状態の優にもシルフィは容赦なく襲い掛かる。


 「じゃあこれでどう‼」


 その瞬間シルフィの背中から天使の翼が生える。
 ただその羽は左右に均等にあるわけでなくすべて右側に集中していた。
 -天使の羽!? しかも右側だけって一体どういうことだよ‼
 優が内心パニックに陥っている中、 シルフィは優の頭部目掛けて翼から発生させたレーザーのようなものを放っていた。
 ー不味い‼ あれをくらったら確実に死ぬ‼
  そうは思っても大幅に弱体化され能力の制限もされている優にシルフィの攻撃を正面から防ぐ手段は一つもない。
 シルフィは、 ティアのように未来視を持ってはいないもののその代わりに所持している並外れた直感によって、 優が自身の攻撃を防ぐ手段がないことを感じていた。
 -こんなところで俺は終わるのか? いや。 俺にはまだやるべきことがある‼
 優は瞬時に自身がこの状況を生き残るための最善解を導き出す。


 「ウォォォォォォ‼」


 優は全力で吼える。
 優は自身の左足に今の自分にできる最大限の力を籠めると躊躇いなくレーザーに向かって正面から突っ込む。
 ーまだまだぁぁぁぁ‼


 「アクセル‼」


 優は自身の十八番ともいえる魔法アクセルを発動させる。
 アクセルを使用した優の速さは例え六枚羽の天使と悪魔であるルーとミカですら反応できないほどの速さであった。

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