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職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第六十話 エルフの女王の小さな夢

 家の中からは、 木の匂いがしていた。
 リビングと思わしき部分にが小さな机と椅子が三つ程度並べられており、 他にも皿を入れる棚や台所も完備しており、 どう見ても平民の住む家であり、 女王であるティアと王女のシルフィが住んでいる場所とは優には思えなかった。
 

 「なんじゃそんな驚いた顔をして?」
 「いや、 だってこの家何処からどう見ても普通の家じゃないか」
 「何を当たり前の事を言っておる。 そのような一目見た時点で気づくじゃろう。 それともお主はこの家の中にまでエルフの技術が使われておると思ったのか?」
 「……まあ否定はしない」


 その言葉にティアは一瞬寂しそうな顔を浮かべる。
 それはほんの一瞬の事であり、 常人ならば見逃してしまうのが当たり前なほどごく短時間な物であった。
 ただ優はそんなティアの一瞬の表情の変化さえ見逃さなかった。


 「どうかしたのか?」
 「別にどうもしておらんよ」
 「嘘をつくな。 お前今さびしそうな顔を浮かべただろう?」
 「……わらわもぬかったのう」
 「もしかしてこの家って……」
 「おぬしの想像しておる通りじゃよ。 この家の製作者はじゃ」
 

 優はその言葉に別段驚くことはなかった。
 何故ならこの家の家具は一見庶民の家にありそうな物にも関わらず、 その実すさまじいほど手が込んでいたのだ。
 机の角は子供が怪我しないよう丸く削られており、 床は全面バリアフリーで製作されていた。
 このほかにも様々な細部が子供の為を思って製作されていた。
 このことから導き出される結論としてこの家の製作者は、 余程子供の事を大事にしているようなことが考えられた。
 勿論王女の命令を受け職人が作ったというケースも考えられるがそれにしては、 仕事が丁寧すぎるのである。
 職人もプロであり、 依頼された事には完璧に答える主義の人間たちだがそのような人たちはどうしても依頼をお願いした人間のお願いを聞くことに躍起になり、 一体誰の視点から考えなければならないのかぬけがちなのである。
 その点この家からはその部分がまるで見受けられなかった。
 その事から優は必然的にこの家の製作者が過去の自分自身であり、 シルフィの父親であった自分であると導き出したのだ。
 

「昔のぬしがこの家を作ったのはシルフィがまだわらわのお腹におるころじゃった」


 ティアはどこか遠い目をしながら語り始める。
 優はそんな何処か儚げなティアの言葉を黙って聞き続ける。


 「わらわはな。 元々こういった温かみのある家で、 自分の愛する人とその者との間になした子供達と一緒に静かに過ごすことを夢見ておったのだ。 無論そんな事今の境遇から考えるとおとぎ話もいいところなのはわらわ自身理解もしておるよ。 でもなそんなわらわのささやかな夢も昔のお主はかなえてくれたのじゃ」
 

 そういうティアの表情はとても安らかな物であった。
 そんなティアの様子から優は、 いかにティアが昔の自身に対してどれほどの思いを向けていたのかがいやでも理解できた。
 そんなティアの様子を見ているうちに優は少しずつ彼女に同情の念を向けるようになっていた。
 

 「昔のぬしわな。 わらわのこんな話を聞いた時笑いながら二つ返事で頷いてくれたよ。 わらわはその時のお主の笑顔を今でも覚えておるよ。 まあおぬしはこの家を建てた後すぐさまわらわの前から姿を消したがのう」
 「……お前はその、 昔の俺がティアの事を捨てたと思ったのか?」
 「最初はそう思いもしたのう。 何せお主はわらわの小さな夢を聞いたとき叶えてやると言ったのだ。 そんな事をいっておいて突然姿を消すなどそうとしか思えんだろう?」
 「ティアは未来が見えるんじゃないのか?」
 

 その優の質問にティアは言葉を少し詰まらす。


「どうかしたのか?」
「別にどうもしておらんさ。 ただ昔のわらわはお主の未来を見ようとしなかったのじゃ」
「見ようとしない?」
「そうじゃ。 昔のわらわはとても臆病だったのじゃ。 わらわはおぬしがわらわの前から消えてしまうのがのじゃ。 だからわらわはお前との別れの日を知りたくないあまり見ようとしなかった。 本当に昔のわらわは愚かじゃろう? 何せ幸せの絶頂期に会った次の日には自分の愛する人は自分の目の前から消えておるのじゃからな」


 ティアのその言葉からは強烈な皮肉を感じられるが、 そんな醜い部分を見せてなおティアの美しさは損なわれることはなかった。


「……そうか」
「なんじゃ謝らないのか?」
「謝ったところで今は変わらないだろう? それともティアは俺に謝って欲しいのか?」
「馬鹿を言うでない。 お主の謝罪など今更聞いたところでなんとも思わぬわい。 それに昔のわらわも悪かったのじゃ。 お主を一概に責めることはできぬよ」
「流石女王様。 懐が大きいことで」
「よせよせ。 おぬしにそう言われると照れるじゃろう。 それに少々強引な手段を使ったとはいえおぬしとはこれから一緒におられるのじゃからな」
「……そうだな」 
 



 優は口ではそう答えるがその言葉はあからさまな嘘であった。
 優は未だ諦めてなどいなかったのだ。
 -俺はこれまで多くの命を奪った。 ティアの境遇には同情するが俺はここで止まるわけにはいかない
 その命を奪ったことに対する責任感がある限り優は止まることはできないのである。
 そんな優の覚悟は当然ティアにもばれていた。
 

 「おぬしは本当に嘘つきじゃのう」
 「さてそれはどういう意味だ?」
 「まあよい。 ここまでこればおぬしはどうあがいても逃げ出すことはできぬじゃろうしの」
 

 そう言うとティアは、 自身の腕と優の腕を結び付けていた手錠をあっさりと外した。
 

 「いいのか?」
 「む? どういう意味じゃ?」
 「こうもあっさり手錠を外すなんてもし俺が本気で逃げ出そうとしたらどうするつもりなんだ?」
 「なんじゃそんな事か」
 「そんな事って……」
 「おぬしは逃げ出せんよ。 お主は馬鹿じゃないからのう。 人質にとれるものを助ける確実な手段を見つけるまでは絶対に逃げ出さん。 まあ仮に策を思いついたとしてもわらわがすべて潰すのじゃがな」


 ティアはそういって挑戦的な笑みを浮かべる。
 その笑みが優の中の闘争心を掻き立てるとも知らずに。


 「まあそのような話は置いておいておぬしは自分の娘を見てどう感じた?」
 「は?」


 あまりのティアの変わり身の早さに優は少々間抜けな声を上げてしまう。
  ティアはそんな優の様子が面白いのかクスクスと声を漏らす。


 「じゃからシルフィの事についてじゃよ。 感想の一つくらいあるじゃろう?」
 

 ティアは優をからかうような質問の投げかけ方をする。
 優からすればどこか馬鹿にされているようで不満の一つでも言いたくなるがそこは流石に堪える。


 「……正直なことを言えばかなり困惑した。 だっていきなり自分の娘とか言われても普通理解できないだろう」
 「まあおぬしの言い分はごもっともなことじゃのう」


 ティアは満足げな表情で何度も頷く。
 優は、 ティアのその表情に唖然とする。
 だがそんな優をよそにティアは突然真面目な顔をする。
 その様子は自身の事を心配する母の顔であった。


「シルフィは、 今まで父からの愛情というものを知らずに育ってきた可哀そうな子じゃ。 無論わらわもシルフィが寂しくないよう愛情をできる限る注いできた。 じゃがな。 やっぱり片方の親から命一杯の愛情を受けるだけではだめなのじゃ。 だからこそおぬしにはシルフィに父親としての愛を注いでやって欲しいのじゃ」
 「……分かった」
 

 ーそのお願いの仕方は反則だろう……
 優の目から見てシルフィはとても幼い様に見えた。
 彼女の年齢は五百歳であり、 それだけの年月を過ごせばどんな人でも精神はかなり成熟するものである。
 だがシルフィは違った。
 彼女の精神年齢は、 未だ五歳児程度と変わらないように優の目からは見えた。
 要は彼女は父親からの愛情に飢えているのだ。
 優の事をあっさりと受け入れたのもそのせいだ。
 だからこそだれからも愛される五歳児程度の精神年齢になっているのだ。
 ティアは母親としてできる限りの愛情にシルフィに注いでいたが、 その愛情はどう頑張ってもや母としての愛であり、 父親としての愛ではない。
 そのせいでシルフィは歪んでしまったのだ。
 彼女がここまで歪んでしまったのは形はどうであれ昔の優の責任であると言えた。
 その事が優の事を苦しめ、 了承する以外優には選ぶことができなかった。
 優のその返事を聞いた時のティアは一筋の涙をこぼした。
 ティアの涙は優の脳裏に深く焼き付いていた。  

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