職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第五十八話 計画

 「なんじゃそんな鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をして? そうかわかったぞ! わらわのあまりの美しさに見惚れておるのじゃな?」
 「いや……それは……」
 「ふふふ、 照れてるそなたの顔も愛いのう」
 

 優は、 女王のその言葉に対し反論しようとしたのだが相手があまりにも子供の用に無邪気に笑っていたため強く言うに言えない状況に陥ってしまった。


 「それで俺への罰はなんなのか早く教えてくれ」
 「そう焦るではない。 何せ五百年ぶりの再会なのじゃからな」


 ーまた五百年前か……
 優は、 前にもミカに五百年前に会っていたと言われたがその時は所詮戯言と流していたがミカ以外にもその事を語り始める人間が出てきたため本格的に捜査していかねばならないと感じ、 女王に五百年前に何があったのかひとまず尋ねることにした。


 「五百年前とは、 一体どういう意味だ?」
 「なんじゃおぬし覚えておらぬのか?」
 「覚えているも何も俺はまだ十六年しか生きていないのだが?」


 その優の言葉に女王は、 顎に手を当て深く考えるような仕草をした。


 「おい……」
 「なるほどのう。 その言葉により今のおぬしの状況について大体理解したわい」
 「は? それは一体どういう……」
 「いや何。 ただ主が自身の“前世”の記憶を失っているという状況を理解しただけじゃ」


 この時優は、 動揺を隠せずにはいられなかった。
 何せ急に自身の前世の話が出てきたのだ。
 そんなわけのわからない話を聞かされ動揺しない人間などいない。
 だが動揺するとともにその仮に自身の前世の事を女王が知っているのなら知りたいという欲も現れた。
 

 「ふふふ。 その顔。 自分の前世のことについて知りたくて仕方がないと言った顔をしておるのう」
 「嘘をつくな。 今の俺は、 仮面をしていて顔の表情まで見られないはずだ」
 「お、 流石にそこまで馬鹿ではないか。 ははは!」


 女王は完全に優の事をからかっており、 その事に対し優は少し苛立ちを覚えた。


 「おい。 いい加減にしろよ?」
 「そんなに怒るでない。 ただからかっただけではないか」
 「別に怒ってない」
 「わらわにからかわれるとそう言うのは昔からかわっておらぬのう」
 「いい加減にしろ! 大体さっきからお前の言っていることはさっぱりわからない!」


 等々優は、 耐え切れなくなり怒鳴り声をあげたのだがそれでも尚女王の態度は、 変わることはなかった。


 「本当にそうなのかのう?」
 「それはどういう意味だ?」
 「実は、 お主もじつは大体勘づいているのではないか? おぬしの前世がこの世界にいたということは」
 「ハッ! そんなわけないだろう。 何せ俺は……」
 「元々この世界の住人ではないからか?」
 「お、 お前が何故それを……」
 「そんなの昔聞いたからに決まっておるに決まっているじゃろう」
 

 自分が召喚された存在という事実を知っている異世界人は、 今やシアしかおらず優はその事実を誰にも話してはいない。
 それなのにも関わらず女王は、 優が召喚された存在だとズバリ言い当てた。
 その事実に優は、 驚きと恐怖といった感情を感じずにはいられなかった。


 「ふふふ。 どうやら相当焦っておるようじゃのう」
 「そんなわけないだろう」
 「おぬしは昔から焦ると下唇を噛む癖があるのを知っておるか? 今のおぬし完全にその状況に当てはまっておるぞ? 鏡で確認してみるがよい。 おぬしお得意の“創造魔術”を使ってな」
 「そ、 創造魔術まで……」


 自身の経歴だけでがなく、 優のスキルや癖まで言い当てられたことに対し、 優はもしや自身の計画まで知られているかもしれないといったものを感じ始めていた。


 「お、 お前は……」
 「無論お主のの計画の全貌も知っているぞ?」
 

 女王は、 優の考えを全て見透かしたかのような顔でそう言った。
 だが優は自身の計画は、 ルー以外には話しておらず、 しかもルーの心の中で話していたのだ。
 その為この世に優の計画を知っている人間は、 ルー以外存在しない為、 女王の言葉は、 動揺させる為のブラフだと判断した。


 「お前のその言葉は、 嘘だな」
 「ほう。 その根拠は?」


 女王は、 この時初めて愉快そうにしていた顔を歪め、 目を細めた。
 

 「俺の計画と言うのは実質話したのは、 一回だけであり、 その会話の内容をお前が聞く事は、 100%不可能な場所で話したからだ」
 「ふむ。 それならば答え合わせをするとしようかのう」
 「ああ、 構わないぜ」


 優の態度は、 非情に強気であった。
 だが内心ではもしかしたら知っているのかもしれないという不安を拭いぎれず、 仮面の下では、 少し苦し気な表情をしていた。
 そんな優の態度まで見透かしたかのような態度で女王は、 優の考えた計画について語りだした。
 

 「おぬしの計画は単純じゃ。 まず初めに魔族以外の大陸を全て手に入れ、 法律などを全て自身の住んでいた世界のものに近い物に書き換え、 最後にはお主一人で魔王を倒し、 皆から好かれる英雄になってハッピーエンド」


 今女王はした話は、 ルーの心の中で優がルーに向けて話した内容そのままであった。
 だが優は、 自身の計画が言い当てられたにも関わらず動揺することはなかった。


 「ふふふ。 見事だよ。 お前の言う通り俺の計画の全貌を知っていたんだな」


 優のこの言葉は嘘である。
 実は優の真の計画は誰にも話していないのだ。
 今女王のした話は、 あくまでルーが協力してくれる内容にアレンジした物であり、 いわば偽の計画なのである。
 その為優は、 一切動揺することはなかったのだ。
 

 「お主は嘘が下手じゃのう」
 「嘘だと?」
 「そうじゃ。 何せ今わらわが話したのは、 主が契約している天使に協力させる為に話した嘘の内容何じゃからな」
 「な!?」


 優の動揺する姿を見て、 女王の口元を三日月のように開いた。
 そんな女王の様子を見て、 優は自身の足元が崩れていくような錯覚を感じ、 遂には地面に崩れ落ちてしまった。


 「なんじゃ地面に崩れ落ちて? 体調でも悪いのか?」
 「い、 いや。 な、 なんでもない……」
 「ふふふ。 そうか? それならば答え合わせの続きじゃ」


 優は、 今自身の置かれている状況が夢だと信じたかった。
 だがこれは、 紛れもない現実であり、 女王はいかにも愉快と言った口調で語り始めた。


 「おぬしの真の計画。 それは、 魔王を倒すと言った場所までは同じじゃがそこからが先ほどの物とは大きく異なる。 まず初めに英雄になったお主を殺す新たな魔王を作りだす。 無論その新たな魔王というのはお主自身のことじゃ。 殺されるお主の役は、 契約した天使にでも演じさせ、 お主が死んだという事実を周りの人間に強烈に印象付ける。 そして悲しみくれたお主の幼馴染や姉妹それにあの第二王女が魔王となったお主を屠ることで新たな英雄となる。 こういった筋書きじゃろう?」
 「ハハハハハハ! 何故俺がそんなことをしなければならないんだ?」


 優は、 壊れた人形のような声を上げ、 腰に下げた剣を引き抜き、 それを床に突き指すことで支えにし、 ゆらゆらと立ち上がった。


 「ふむ。 それはじゃな。 お主は自身の幼馴染や姉たちが魔王を倒した英雄になり、 一生安全な生活をして欲しいと願っておる。 そしてそれを実現する為には、 現魔王を倒すのでも問題はないのじゃがもし現魔王が強すぎた場合、 逆に三人が殺されてしまう可能性がある。 じゃからおぬしが成り代わる必要があるのじゃ。 どうじゃ間違っておるか?」
 「……間違っていない」


 女王に全てを言い当てられてしまい、 今の優からは、 完全に余裕というものが消えていた。


 「そうじゃろ? それにお主は、 自身は幸せになってはいけないとも感じておる。 何せおぬしは他の国を手に入れる過程で沢山の人を殺すと理解しておるのじゃから。 だからこそお主は、 自分の愛した者に殺されるといった罰を望んでおる」
 「アハハ……」


 優は、 乾いた笑いを上げた。


 「……その事実を知ってお前は、 どうするんだ?」


 優が自身の計画がバレる事を恐れていた理由それは、 偏に雪達に自身の計画がバレる事である。
 雪達は、 確実に優の計画に賛同しない。
 それどころか自身の命を懸けて優の事を止めようとしてくるだろう。
 だからこそ優は、 四人にバレぬよう慎重に動いてきたのだ。
 だがそんな動きも女王が計画の事についてすべて知ってしまった全てが台無しになった。
 女王が一言でも四人にばらすと言っただけで優の計画は全てが崩れ去るだろう。
 口封じをしようにも相手は女王であり、 そんな相手を殺しては優という存在はどの道死んでしまう。
 その為今の優の状況はあまりにも終わっていて、 詰んでいた。
 ここから優ができることは何もなく、 ただ女王の言うことを聞く他ないのである。
 その為優は、 どのような無理難題を吹っ掛けられるか緊張した面持ちで待っていたが女王からの言葉は、 あまりに予想外の物であった。


 「別にどうもせんよ。 それどころかお主の計画。 わらわが叶えてやってもよいぞ?」
 「……なんだと?」


 なんと女王は、 優の計画をかなえてくれると言い出したのだ。
 先程からだが優は、 女王の思考を待ったく読めずにいた。


 「願いを叶えてやると言ったのじゃ。 ただしその場合お主は、 ここで一生わらわとシルフィと一緒に生きてもらうがな」


 要は女王は、 願いをかなえてやる代わりに一生自分のそばにいろと言ったものだったのだ。
 無論そんな条件優は、 呑むわけにはいかなかった。
 だが飲みたくなくても優は、 弱みを握られている。
 そんな優の葛藤を楽しむかのように女王は、 ずっと優の事を見つめており、 結局優には、 その条件を拒むことはできなかった。


 「……分かった」
 「ふふふ。 それは何よりじゃ」


 -この悪女め……
 優は、 腸が煮えくり返りそうな気分ではあったがそれを表に出さないよう必死に堪えた。


 「なあそう言えば先ほど名前が上がったシルフィって誰なんだ?」
 「わらわの娘じゃよ」
 「お前結婚していたのか?」
 「無論じゃ。 そしてその相手はお主じゃよ」
 「は?」
 「つまりシルフィはわらわとおぬし正確には前世のおぬしとの間に生まれた子じゃ」
 

 この瞬間ずっと混乱しっぱなしだった優の脳は、 限界を迎え、 頭から湯気が出そうな勢いであった。


 「もうわけわかんねぇ……」
 「そう重要なことでもないじゃろう。 そんな事よりもじゃ。 今のお主名をなんというんじゃ?」
 「……優だよ」
 「苗字は?」
 「時坂」
 「そうか。 うむ。 覚えたぞ」
 「そうかよ。 それでお前の名前はなんていうんだ?」
 「わらわか? わらわはティアじゃ」
 「苗字はないのか?」


 貴族社会において苗字がないことは基本ありえない。
 その為優は、 疑問に思わずにはいられなかった。


 「そうじゃ。 それにわらわには元々名前などなかったのじゃ」
 「そうなのか?」
 「皆わらわの事を女王としか呼ばぬ。 まあわらわも奴らのことは嫌いじゃからどうでもよいのじゃが……」


 女王は、 優と話していた楽しそうな表情とは打って変わり、 酷く嫌悪感を露わにした表情であった。
 そんな相手に深く関わると必ず地雷を踏むと理解していた優は、 その事に触れることはなかった。


 「それじゃあお前の名前って誰がつけたんだ?」
 「無論お主じゃよ。 確か名の由来はわらわの容姿があまりにも美しすぎ、 まるで妖精の女王のようじゃったからそこからとったとか言っておったのう」


 ーなるほど。 昔の俺は、 妖精の女王ティータニアから名前を取ったのか……
 確かにティアの容姿は、 非常に整っており、 妖精の女王と言われても可笑しさなどまるでなく、それどころか非常に似合っていると言えた


 「それで俺は、 これからどうすればいいんだ?」
 「お主にはこれから一生わらわの付き人として寄り添ってもらう。 そんな嫌そうな顔するでない。 欲しい物があったらわらわがなんでも与えてやる。 そう考えるとそう悪い生活でもないじゃろう?」
 「いや。 最悪の生活だ。 まるで家畜にでもなった気分だ」
 「全く昔のお主は、 そう口は悪くはなかったのにのう。 全く一体何があったのやら……」
 「うるさい。 俺にだって触れられたくない部分はあるんだ」
 「まあよい。 その事については後々聞かせてもらうからのう」
 「結局言わなくちゃいけないのかよ……」
 「無論じゃ。 それともしわらわから逃げたら……」
 

 その瞬間ティアの目が今ままで見たことがないほど細められ、 まさに女王というに相応しい雰囲気を放った。


 「に、 逃げたらどうなるんだ?」
 「お主の仲間を皆殺す。 無論お主の大事にしている幼馴染達も例外ではない。 それどころかアーククラフト事すべてを滅ぼす」
 

  女王のその言葉からは、 嘘偽りは感じられなかった。


 「わかった。 お前の言うことには従う。 だから……」
 「ふふふ、 やっとじゃ! やっとぬしを手に入れることができた!」
 

 優が肯定するとわかっていたのだろう。
 ティアは、 途中から優の話は聞いておらず、 自身の望みが叶った喜びに打ち震えていた。


 「お、 おい……」
 「さてそれではまず初めにお主の仮面を外してもらおうとするかのう」


 優はその言葉に肯定の意味合いを込め頷くとゆっくりと仮面を外した。


 「ああ、 久しぶりのぬしの顔じゃ。 ああ、 ああ……」


 ティアは、 優が仮面を外すや否や優に一目散に近づき、 慈しみを込めた目をしながら何度も顔に触れた。


 「感激してるとこ悪いがこの後俺は、 どうすればいいんだ?」
 「全く。 ぬしは昔からせっかちじゃのう。 そんなんじゃ女から嫌われるぞ? いや。 わらわ以外の女には嫌われた方がむしろ好都合じゃのう。 ハハハ!」
 

 ー俺はお前から一番嫌われたいよ……
  だがそんな優の本音にティアは、 全く気付く様子はなかった。


 「それじゃあこれをつけてもらおうか」


 ティアは、 胸の谷間から手錠を取り出すと片方を自分につけ、 もう片方を優につけた。


 「お前どんなところに物を隠してるんだよ……」
 「優は、 昔からエッチじゃのう」
 「何故そうなる!」
 「冗談じゃよ」
 「全く。 それでなんだこれは?」
 「手錠じゃ」
 「それは見ればわかる。 俺が聞きたいのは、 何故これを俺につけるのかだ」
 「そんなの決まっておろう。 おぬしが逃げぬためじゃ」
 「だから逃げないって言ってるだろう……」
 「そんなの口ではいくらでも言えるわい。 そんな事よりもそろそろ行くとするかのう」
 「どこに?」
 「それはまだ秘密じゃ」


 するとティアは、 優を引きずるようにどこかに向け歩き出した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品