職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第二十話 昇格

 優は部屋の中に入るとそこには地面に倒れ、 死んだふりをしているアレックスを発見した。


 「お前何やってんだ?」
 「返事がない。 ただの屍のようだ」


 -死体のくせに返事してんじゃねぇよ。 てかなんでそのネタをお前が知ってるんだよ……
 アレックスが死体の真似事をしているのには当然理由がある。 
 それは唯純粋に優にお金を払いたくない。
 たったそれだけのくだらない理由であった。
 金を払うのをそこまで渋るアレックスを目撃した優は、 意地でもアレックスに金を払わせるため強硬手段に出ることにした。


 「そうかそうか。 ここに転がっていのはただの屍なのか。 それならちょうどよかった。 実は最近色々ストレスが溜まっててちょうどいいサンドバックが欲しかったんだよ」


 優のその言葉に早くも冷や汗をだしたアレックスではあったが結局は優の言葉は脅しに過ぎないと判断し、 その場から動かなかった。


 「さてまずは腹に一発!」


 優はアレックスの首を掴み、 持ち上げると全力のボディーブローをアレックスに叩き込んだ。
 



 「グホッ!」


 アレックスもこれにはたまらず痛みのあまり声を上げた。


 「全く。 そうやって約束を破ろうとするからそうなるんだよ」
 「あ……あう……こ……この……」
 

 アレックスは、 優に文句を言おうと何度も声を上げようとした。
 だが優の拳はアレックスに予想以上のダメージを与えており、 アレックスがまともに喋れるようになったのは、 それから五分後の事であった。


 「お前な! いくら俺が約束を破ろうとしたからってここまですることはないだろう! もっと老人をいたわれ!」


 アレックスは、 喋れるレベルまで回復すると開口一番で優の行いを批判しだした。


 「うるせぇ! 元々はお前が俺との約束を破ろうとしたのが悪いんだろうが! いいからさっさと金をよこせ!」
 「そ、 それを言われるとさすがに何も言えん」
 「ならさっさと金をよこせ!」


 優のその催促の言葉に遂にはアレックスも諦め項垂れたながら金貨の入った袋を優に手渡した。


 「毎度あり。 また依頼があったら俺に言ってくれよ。 適正価格の二倍はもらうが完璧にクエストをこなしてやるよ」
 「お前には、 もう二度と頼まん! この悪魔め!」
 「悪魔で結構。 それとお前カルシウムが少し足りてないんじゃないのか? 生い先短い人生なんだからもっと笑顔でいないとだめだぞ。 くそ爺」


 優のその言葉にアッレクスは、 元から真っ赤だった顔をさらに真っ赤にした。


 「誰のせいで怒ってると思ってるんだ! 本当に生意気なクソガキだなお前は!」
 「ハッ! ざまあないぜ!」


 その言葉にアレックスは不敵な笑みを浮かべた。
 そんなアレックスの笑みに優は一抹の不安を感じた。


 「な、 なんだよ。 その笑みは?」
 「ふふふ、 この俺が唯でやられると思うなよ」
 「それはどういう意味だ?」
 「それはこういう意味だ!」


 そう言ったアレックスは懐から一枚のギルドカードを取り出した。


 「おい。 これよく見ると俺の名前入ってないか?」
 「そうだ。 お前は今日の功績でF級からA級にまで俺の権限で特進させてやったのだ」
 

 だがそうは言われてもランクが上がることの何が嫌がらせに繋がるのか優にはあまりピンとこなかった。


 「なあ質問なんだがA級になるとなんか義務とか発生するのか?」
 「なんだ。 そんなことも知らんのか。 A級になると主に、 新人教育が仕事となる。 たまにクエストもやるが基本は毎日新人教育が仕事だ」
 「なんだ。 すごい楽そうじゃないか」
 「ふふふ。 A級の仕事がそれだけなわけないだろう?」
 「あ? それじゃあ後何があるんだよ」
 「それはな……モンスターが町を襲ってきた場合に強制的に最前線に送られるのだ!」
 「な、 なんだって!?」
 「おっと今更止めるとか言っても俺は認めるつもりはないからな?」
 「てめぇ! はめやがったな!」
 「ふははははは! ざまあみろ! 俺だけ不幸になるなんて死んでもゴメンだ! それとお前がオークの巣を壊滅させたことは、 今頃町中に伝わっているはずだろうな!」
 「クソ! あのクエストにそんな裏があったとは……」


 優はアッレクスに嵌められた悔しさのあまり下唇を少し噛んだ。


 「だ、 だがこれだけの金が入ったんだ。 だから今回は痛み分けにしといてやる」
 「ふん。 それはこっちのセリフだ! ようが終わったら、 さっさとこの部屋から出ていけ!」
 「ああ、 わかったよ」


 優は、 アッレクスに追い出されるように部屋をでると部屋の前では鬼の形相をした雪と詩織が立っていた。


 「ねぇ優君。 なんでさっきあの受付嬢の人をおんぶしていたのかな?  それに制服も貸していたみたいだし。 その事についてもちろん説明してくれるよね?」
 「優ちゃん。 嘘をつかないで正直に話してね。 じゃないとお姉ちゃん優ちゃんのこと殺しちゃうかもしれないわ……」
 「わ、 わかった」


  優はそれから自分が何故リサの事をおんぶする経緯に至ったのか包み隠さず二人に話した。


 「そっか。 その理由なら、 仕方ないね」
 「うんうん。 お姉ちゃんは、 そこの女狐と違って最初から優君のことを信じていたわよ」


 二人の怒りは、 優の話を聞くと瞬時に収まった。


 「さっきまで俺を殺すとか言ってたくせに」
 「優ちゃん何か言った?」
 「い、 いえ。 なんでもありません。 お姉さま」
 「それは何よりよ。 さてもう結構遅いし、 そろそろ帰りましょうか」 
 「悪い。 俺まだ医務室に用事があるから。 だから二人は外で待っててくれ」
 「医務室に何の用があるの?」
 「ちょっとな」
 「ふ~ん」
 「なんだよどうかしたのか雪?」
 「別になんでもにないよ。 それじゃあ私外で待ってるからっできる限り早く来てね」
 「分かった」
 「お姉ちゃんは、 優ちゃんについていく!」
 「雪。 姉さんをお願いできるか?」
 「優君のお願いだもん。 もちろん私に任せて。 ほら詩織さん。 早く外に行きますよ」
 

 雪は詩織の服の襟首を掴むと床を引きずりながら外へと無理やり連れて行った。


 「さて俺も医務室に向かいますかね」


~~~~~~~~~
 

 「よう。 リサ。 足は大丈夫か?」


 優はリサの丁度治療を終えたという場面で、 医務室の中に入った。


 「ええ。 おかげさまでもう普通に歩けるようになりました。 それとここまで運んでくださって ありがとうございました」
 「お前が無事なのも確認できたことだし、 俺はもう行くわ。 ああ、 それとこいつをやるよ」


 優はリサ目掛け金貨2000枚が入った袋を投げ渡した。
 当初リサは優が自分に何を渡したのか理解できず困惑した表情を見せていたが中身を見たら驚きのあまり腰をぬかしてしまった。


 「おい。 大丈夫か? また漏らすなよ?」
 「漏らしませんよ! そんなことよりなんでこんな大金を私なんかにくれるんですか! この額私が十年働いてやっと稼げるくらいの額なんですよ! もしかして何か裏でもあるんですか? ハッ! まさか私に惚れ……」
 「バカ言うな。 誰がお漏らし嬢なんかに惚れるかよ。 それに俺には、 すでに奥さんがいるし」
 「あ、 そうなんですか」
 

 リサは優の最後の言葉がショックだったのか普段から直立している耳が今はしょんぼりとしていた。


 「あ、 やべぇ。 この話は言っちゃいけない奴だった。 いいかリサ。 絶対にこの話を俺の連れやほかの連中に話すなよ! もしばれたら確実に俺は殺される」
 「もしかしてこの話って二人だけの秘密ですか?」
 「ん? ああ、 そうだな。 二人だけの秘密だ」
 「そうですか。 でへへへへ」


 すると先ほどまでしぼんでいた耳は再びいつも通りになり、 顔は嬉しさの成果にやついていた。


 「それとお前にその金を渡したのは、 慰謝料みたいなもんだからあまり気にするな」
 「い、 慰謝料ってたかが捻挫ごときにここまで払う人普通いませんよ!」
 「まあまあ。 落ち着け。 とにかく俺はもう行くからじゃあな」
 「あ、 ちょっとユウさん! まだ話は終わっていませんよ!」
 「制服はお前にくれてやるよ。 それは俺にはもう不要な物だからさ」
 

 優はリサにそう捨て台詞を残すと部屋を後にした。


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 「悪い。 待たせたな」


 優が待ち合わせ場所につくころにはすでに全員集まっていた。


 「それで胡桃とシアの成果はどうだ?」
 「一応宿の方は、 無事とれましたよ。 食事つきで一泊銀貨800。 それと優さんのご要望通り 二部屋とってあります」
 「それはよかった。 胡桃の方はどうだ?」


 胡桃はあまり成果を上げられなかったのか顔は、 渋そうな表情をしていた。


 「ごめんねお兄ちゃんあんまりいい情報はなかったよ」
 「そうか。 でも一応夕食の時に話だけでも聞かせてくれないか?」
 「分かったよ」


 胡桃とシアノ話を聞き終えた優は、 先ほどからずっと放置している問題に突っ込むことにした。


 「なあ雪。 なんでさっきから姉さん機嫌悪そうなんだ?」


 今の詩織の頬は、 怒ったフグのように膨らんでいた。
 また腕も組んでおり、 先ほどからチラチラ優の事を睨んでいた。


 「優君って本当に色々鈍いよね」
 「そんな馬鹿な! 俺は直感のスキルだって持ってるんだぞ!」


 優のあまりの鈍感さに流石の雪も詩織の状況に少し同情してしまった。


 「はぁ……ねぇ皆優くんのことなんてもう放っておいてはやく宿屋に行こうか」


 詩織は呆れたように首を振ると一人歩き始めた。


 「なんだよ雪の奴……」
 「優さん。 さすがの私も今のは、 少しひどいと思います」
 「お兄ちゃんは、 昔からそうだもんね。 仕方ないよ」
 「優ちゃんのアホ」


 結局優の疑問に答えてくれるものは優のパーティーには誰一人いなかった。


 (本当に女性で理解しがたい生き物だよな。 ルーもそう思わないか?)
 (あの女殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……)


 -あ、 まだそう言ってたのね……
 その間にも優と四人の距離はどんどん離されており、 優はひとまず四人に追いつくことを優先することにした。

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