転移したらダンジョンの下層だった

Gai

百二十七話モンスターから学べる事もある

同族の魔石を喰い終えてパワーアップを果たしたナイトスナイプビーと、ナイトスナイプビーが何をしているのかを確認し終えて脱力した態勢を取っているソウスケ。

ナイトスナイプビーの頭の中には目の前の人間を倒す事しか頭に入っていないが、ソウスケの頭の中には目の前のナイトスナイプビーの事以外が浮かんでいた。

(・・・・・・まだ出てきていないみたいだな。可能性としては無くは無さそうだから、戦いの最中・・・・・・特に次の攻撃で勝負が終わりそうだって時には気を付けていた方が良さそうだな)

未だ気配感知で引っかかっている大きな反応が動いていないのを感知しているソウスケは、半分はナイトスナイプビーの巣の方へ意識を向けておこうかと思ったが、ミレアナがいるのを思い出して自分がクイーンスナイプビーの攻撃に反応出来なくても、ミレアナが何とかしてくれるだろうと思って意識をナイトスナイプビーに集中させた。

殆ど音が無い時間が過ぎていく中、先に動き始めたのはナイトスナイプビーだった。

覚えたての身体強化を使い、毒付きの針には安定した魔力を纏わせていた。
狙いはソウスケの脳天でなく腹部。ノーフェイクからの虚を着いた一撃であり、Dランクでもナイトスナイプビーの速度に反応出来る者は少なく、この一撃で殺られても可笑しくはなかった。

だが、相手はランクがFとDよりも下であるが、実力はまるで違うリアル羊の皮を被った狼であるソウスケ。

ナイトスナイプビーの動きの予備動作は相変わらず見えなかったが、羽の音が大きくなったのを見逃さず、脱力した態勢から低空飛行で一気にナイトスナイプビーの下を通り過ぎた。

「っ! まだ上手くは出来ないな」

自分の動きに愚痴を零しながらも双剣で風の刃を放った。軌道的にそのまま直撃すれば両羽が切り落とされるが、ナイトスナイプビーは寸でのところで宙返りで風の斬撃を躱した。
そのまま魔力が纏われている針を宙返りの途中でソウスケに放った。

上から下に振り下ろす速度もプラスされ、若干だがスピードが速くなっていた。

その攻撃をソウスケはしゃがんで躱そうかと思ったが、右手の双剣の腹で針を弾き、左の双剣の腹で尖っていない反対の部分を捉え、ナイトスナイプビーにそのまま返した。

予想外の反撃を放たれたナイトスナイプビーは方向転換のため、後ろを振り向こうとした瞬間、自分の頬に針がスレスレで飛んできたという細かい事までは分からなかったが、自分の首筋に刃先が添えられたという事だけは本能的に理解できた。

「・・・・・・ちっ! やっぱり初めてやる事はそう簡単に上手くはいかないか」

自分の攻撃が決まらない事に苛立ちを感じながらも、ソウスケは攻撃を再開させた。
ナイトスナイプビーが縦横無尽に動き回る動作にソウスケの攻撃は、本気を出していないとはいえ中々決まらなかった。

だが、そんな人間からしたら反則的な動きでも、戦い続けていれば次第に目が慣れてくる。
次はおそらくこっちに動くだろう、こういった攻撃をしてくる可能性がある。ソウスケの予測が全て当たる訳では無いが、ナイトスナイプビーには着々と傷が増え始めてきた。

だが、ソウスケが戦いを優勢に進めている要因はそれだけではなかった。

(・・・・・・少しは慣れてきたな。まだまだ完全とは言えないけどな)

マックスのスピードを殺さずに動き回っているナイトスナイプビーを見て、自分も同じことが出来ないか模索していたのである。

そしてたどり着いた考えは、自分の体に掛かる負荷と力の移動を意識する事だった。

縦横無尽に動き回るナイトスナイプビーにだって動いている体に負荷が掛かっていない筈がない、もしかしたら自分に掛かる負荷と力を自在にコントロールしているから、あり得ない方向転換でもスピードを落とさずに済んでいると考え、戦いの最中にソウスケはずっとそれを意識しながらナイトスナイプビーと戦っていた。

結果的にソウスケの最高速度が変わった訳では無いが、ロスが減った分だけナイトスナイプビーの行動に追いつく、又は先回りするのが速くなった。

一人と一体が針と双剣で戦い始めてから約五分、どちらが勝つかは目に見えていた。

「よし、これでお前から学べる事はもう無いな。という訳で、次で終わりだ」



格闘技や人体の構造については素人なので、あまり深く考えないでもらえると嬉しいです。

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