転移したらダンジョンの下層だった

Gai

七十二話垂らされたクモの糸

お爺ちゃんに金貨五十枚を預けた後、ソウスケは来た道を戻りセーレを待つためにギルドへ向かった。
ソウスケが店を出る時に店番の少年はソウスケを見た瞬間、少し前に殺されかけた事を思い出し足をカクカクさせながら震え上がっていたが、ソウスケはそれに気づかずに通り過ぎた。
そしてソウスケが店から出ていくと、一気に張り詰めていた緊張感と恐怖が解けて青年はその場にへたり込んでしまった。

ソウスケを見送ったお爺ちゃんは檻の中にいるハイエルフ、ミレアナに声を掛けた。

「あの少年が恐らくお主の主になる人間じゃ。お主に掛かっている呪いも恐らく解呪できるじゃろう。にしても、お主本当に運がいいのう。あの少年と一緒ならこれからは良し人生が送れるはずじゃ」

「・・・・・・あの少年は、お爺さんがそこまで言う程の方なんですか?」

「そうじゃな。意図的なのか、それとも外見のせいなのか、どちらなのかまでは分からんが上手い事実力を隠していおる。じゃが、どこか常識が抜けておる気もするがな。ま、そこら辺はお主が少年の奴隷になった時に何とかしてやれ」

「私の・・・・・・私にかかった呪いは本当に解けるのでしょうか」

ミレアナはクワトロカースにかかってから今までの生活が急転直下の勢いで変わり、奴隷となった時には二度と元の様な生活には戻れないと確信して絶望した。
自分にかけられた呪いを解ける人は殆どいないと思っており、下手な希望は持ちたくなかった。

「確実にとは言えんが、恐らくお主の呪いは解けるはずじゃ。儂の記憶が正しければ、この街に一人だけお主の呪いを解呪出来る者がおった筈だ。恐らくそ奴が少年が言う凄腕の魔術師じゃろう。いや、案外あの少年自身がお主の呪いを解くかもしれんのぅ。まぁ、お主は明日迎えに来る主人にどう尽くすかでも考えておれ」

お爺ちゃんはソウスケ預かった金貨五十枚を誰にも盗られない様、金庫に入れるために速足でその場から離れて行った。
ミレアナは普段人をそこまで褒めないお爺ちゃんが、先程の少年を大きく評価している事でもしかしたらと、持たないようにしていた希望を少しだけ持ち始めた。

それからお爺ちゃんが自分に言った言葉を思い出し、ミレアナはソウスケの奴隷として一緒に行動する時に役に立てる事を考えだし始めた。
その顔には奴隷になってから続く普通の生活を送る事を諦めた死んだような表情はなく、見れば誰もが癒されるような笑顔になっていた。

お爺ちゃんの奴隷店から表通りに出たソウスケはそろそろセーレの仕事が終わる時間だと思い、ギルドに鼻歌を歌いながら向かっていた。

途中に美味しそうな料理を売っている出店を見つけたが、それを食べてお腹いっぱいになりワイバーンの肉が食べられなくなるのは、ワイバーンの肉を料理してくれるセーレに悪いと思い我慢した。

「オークやリザードマンの肉だって前世で食べていた肉より数段美味かったんだ、ワイバーンの肉はもっと美味いんだろうな。それに、セーレさんみたいな綺麗な人が料理してくれるってのもまた良いよな」

セーレがエプロンを着けて料理する姿を思い浮かべ、ソウスケの顔は少しだらしなくなっていた。

「前世だったら全くもって考えられなかった事だな。女子の手料理を食べたのなんて、精々学校の授業での調理実習の時間ぐらいだったから。・・・・・・やばい、急に悲しくなってきたな。忘れよう」

勝手に自爆したソウスケは頭を横に振り、悲しい思い出を振り払った。
そして十数分後、ようやくギルドまでたどり着き中へと入った。

「時間は・・・・・・予定より少し早いけど、男はこういった時には早く来た方が良いって聞いた事があるから、丁度良い時間かな」

セーレと約束した時間より少し早いが、もしかしたらと思いソウスケは辺りを見回してセーレを探した。
すると、仕事を終えてカウンターの外へと出ているセーレとメイに絡んでいる冒険者をソウスケは見つけた。

(・・・・・・所々聞こえる会話の内容からして、食事を誘っているのか? でも、あんな綺麗で可愛い人達に声を掛けてるからだと思うけど、そのせいで表情がだらしなくなっていて誘っていると言うよりは、ナンパしているようにしか見えないな)

数人の冒険者から食事の誘い、もといナンパを受けている二人はどうにかして早くこの場を切り抜けたかった。
セーレはこういった事に慣れており、冷静に言葉を選びながら相手を怒らせないようにしながら誘いを断っていた。勿論、元冒険者のセーレからすれば目の前のひよっこを捻るくら訳はないが、万が一にメイに被害が及ぶかもしれないという理由で手は出していなかった。
メイはこういった時の対処法が分かっておらず、セーレの後ろに隠れていた。

二人の様子を見たソウスケは取りあえず助け舟を出そうと思い、手を振ってここにいるぞと二人に合図を送った。

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