二十六話セ――――フ

「今の声は・・・・・・女の悲鳴か？」


微かに聞こえた悲鳴に対して、ソウスケは嫌な予感がした。


「勘違いなら良いんだけど、もしかしたらって可能性が無いわけではないからな」


ソウスケは、自分の嫌な予感が当たっていない事を祈りながら、悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。


ソウスケが走り出してから数分が経っていた。


「もうそろそろだと思うんだけどな。気配感知を使ってみるか」


気配感知のスキルを使い、ソウスケは悲鳴が聞こえた方向にいる気配の数を探った。


「固まってる集団があるな。一方の動いてる数が八、もう一方の動いてる数がニに動いてない数がニ・・・・・・俺が動き出してから数分経っているのに、まだ生きてるってことは相手は遊んでるみたいだな。一気にスピードを上げるか」


足に魔力を纏わせ、脚力を強化して悲鳴が聞こえる方向に向かった。


「あれか、っておいおいちょっと待てや！」


動けない男女を守ろうと、もう一組の男女を守ろうと、ボロボロになりながら構えている。


その二人を二体のゴブリンがニヤニヤしながら止めを刺そうとしていた。


「お、らぁああ！！」


五メートル程離れた場所かジャンプし、ソウスケは二体のゴブリンに纏めてドロップキックをかました。


「「ギギャ！！？？」」


急いでその場に向かっていたため、かなり勢いがついた蹴りになっていた。
そのおかげで、ドロップキックを貰ったゴブリン二体はもの凄い速さで吹っ飛ばされ、木に激突し死屍累々になった。


ソウスケはまず、後ろの四人の安否の確認を取った。


「ギリギリセーフだな。おい、無事・・・・・・じゃなさそうけど、死んではいないな。後ろの二人も大丈夫か？」


いきなり自分達を殺そうとしていたゴブリンを、蹴り飛ばしたソウスケに驚きを隠せない四人だったが、何とか頷いて返事を返した。


「それじゃ、後ろでゴブリンが流れてこないかだけ警戒しておいてくれ」


そう言うと、ソウスケはゴブリン達に全く警戒することなく歩を進めた。
それを見た、ソウスケがたどり着くまで仲間を守っていた少年が叫んだ。


「ま、待て、後ろにいるのはゴブリンリーダーだ！！　お前が俺達より強いのはなんとなく分かるけど、そいつには敵わないぞ！！　それに数も向こうが上なんだ、だから・・・・・・」


上手く巻いて逃げようと、少年は言おうとしたがそれをソウスケが止めた。
確かにゴブリン達の後ろにいるゴブリンリーダーは他のゴブリンと比べ、体格が大きく、すべてにおいて上回る。
だが、そこそこ規模の大きかったダンジョンを踏破したソウスケにとっては、なんてことのない相手だった。


ただ、ソウスケの見た目が見た目なので少年たちには、自分よりは強いんだろうとは思っているが、それでもゴブリンリーダーには勝てないと感じていた。


「大丈夫だから、とりあえず言った通りに後ろに漏れるかもしれないゴブリンにだけ注意してくれ」


言い終わると、ソウスケはもう一度歩を進めた。
いきなり仲間を吹き飛ばしたソウスケが現れたソウスケに対して、驚き固まっていたゴブリン達がソウスケから明確な敵意を向けられ、ゴブリンリーダーの声と共に動き出した。


「グギャ、グギャギャギャ！！！」


ゴブリンリーダーが指示を出し、手下のゴブリン達が動き出した。すると、真っ直ぐソウスケに向かって来るのでは無く、左右に展開した。
その行動がどういう事なのか、なんとなく理解できたソウスケは舌打ちをした。


「ちっ。まぁ、ゴブリンなら考えそうなことだな。卑怯とは言わないけど、それを見逃す俺じゃないぞ」


ソウスケは近くに落ちていた大きめの石を数個拾うと、両端のゴブリンめがけて素早く投げつけた。
脳天、心臓、内臓等の急所を貫かれたゴブリン達は痛みの声を上げ、十秒と経たずに息絶えた。
その光景に後ろで見ていた四人は、ソウスケがそこら辺の石を投げただけでゴブリンを倒したことに、口を大きく開けて驚き、固まっていた。


自分を狙わずに後ろで疲労している四人を狙おうとしたゴブリン達をソウスケは睨み付けた。


「おい、お前ら相手は俺だろ。どこ見てんだよ」


ソウスケの威圧感に気圧されたゴブリン達は、ゴブリンリーダーの指示はないが、本能的に逃げ出したくなった。
そういった事を思っているであろうと、予測したソウスケは言葉が通じるのかは分からないが、逃がす気はないと言う事を伝えた。


「後、この場から逃げ切れるなんて甘いことは考えない方が良いぞ。お前らに逃げ道なんてないんだからな」


ソウスケの言葉は、ゴブリン達にとって死神の死刑宣告に等しかった。