少年期［２２１］真打登場

ゼルートは自分を襲って来るグレーウルフの上位種の攻撃を一撃も喰らわず、さっきの違和感を考えながらグレーウルフの上位種を観察する。

（スピードは・・・・・・上位種だから少しは速いな。力、顎の力もまぁまぁ。それと、攻撃が何となく躱しずらい・・・・・・違うな。グレーウルフの上位種がブレて、近くにいる筈なのに存在感が無いっていう感じだな。隠蔽のスキルか？　いや、違うな。存在感が薄れる・・・・・・分からん！！　くそ、とっと見るか）

グレーウルフの上位種の存在感の無さをゼルートは自分で暴きたかったが、どう考えても理由が分からなかったので、諦めて鑑定眼Sのスキルを使った。

（・・・・・・隠遁。初めて見るスキルだな。何々・・・・・・隠蔽の上位スキルと。なるほどな、納得がいった。隠蔽は動かなければ存在感が薄まる。でも動けばそれは解除される。けど、隠遁は動きながらも存在感を薄くすることが出来るのか）

スキルの内容にゼルートは納得はいったが、一つ分からないことがあった。

（何でこんなレアなスキルをグレーウルフの上位種が持っているんだ？　別にステータスは大した事は無いし、一番数値が高い速さでも三百半程だ。遅くはないけど速くもない）

グレーウルフの上位種の爪、牙、時々飛んでくる遠距離攻撃を躱しながらゼルートは考え続けた。

（というか・・・・・・こいつの動き、なんていうか・・・・・・戦い慣れていない気がするな。レベルはそこそこあるから、戦いの経験が少ないって事は無いと思うんだけどな。ん～～～～～～・・・・・・あっ、もしかしてコイツ、今まで不意打ちで殆どの魔物を倒してきたのか？　隠蔽で身を、息を潜めて一撃で終わらせてきたのか。それなら納得できるな。そういう戦い方ばかりをしていて隠蔽が隠遁に進化する、理にかなってる・・・・・・筈だ）

自信が無さげだがゼルートの考えは当たっており、隠遁のスキルを持っているグレーウルフの上位種のは、不意打ちばかりで魔物を倒して生き残り、殆ど真正面から戦った事がなかった。
それ故、攻撃の仕方が大振りばかりで予備動作が多く、ゼルートは正直目を瞑っていてでも避ける事が出来た。

「そのスキルは良いな。ちゃんと使いこなせればかなりの武器になるよ。でも、持ち主のお前がまるでなっちゃいない。というわけで、もう飽きた」

グレーウルフの上位種の爪による攻撃を躱したゼルートは何も工夫わせず、真正面から腹に蹴りを入れた。

「ギャフフウウ！！？？」

後ろに蹴り飛ばされたグレーウルフの上位種は、何体かの魔物を弾き飛ばしながら地面に落ち、その瞬間にオークの足が運悪く降りてきて、その命を散らした。
グレーウルフの上位種の死に方に、ゼルートは少しだけ同情した。

「うん・・・・・・まぁ、ご愁傷さま。同じ魔物に頭を踏みつぶされて死ぬってのは、流石に同情するわ。・・・・・・んで、真打登場か」

自分の方向に向かって来る魔物を見て、ゼルートはその魔物強さに期待を寄せた。

「リザードマンソルジャー・・・・・・いや、ナイトか？　というか・・・・・・いいな、それ」

ゼルートは、リザードマンナイトが持っている武器を見て、ますます期待が膨れ上がって来た。

「ははは、二刀流か・・・・・・飾り、って訳じゃ無さそうだな」

ゼルートは人差し指をリザードマンナイトに向け、ブレットを放つ。
だが、ブレットはリザードマンナイトの体を貫く事は無かった。

リザードマンナイトの剣によって魔力の弾丸、ブレットは弾き飛ばされる。

「良いぞ。久しぶりに・・・・・・燃えて来たな」

ゼルートは魔力で体を強化し、ダンジョンに入ってから初めて目の前の敵に、しっかりと意識を向けた。