漆黒王の英雄譚

黒鉄やまと

第36話 ポルキールの宝砂



翌日、アドルフも長年この地にいるが、珍しい、というような快晴であった。

大量の雪は積もっていて風は冷たいものの、太陽がかなり強く照っている。

「今しかないな。」

アルトはポルキール湖に潜ることを決めた。

「アシュレイ達は屋敷に戻っててもいいよ。取ったら勝手に戻ってくるから」

「わかったわ。アドルフ、戻りましょ」

「大丈夫なのですか?潜ると言っても湖は深さ1メートルくらいの氷に覆われてますし、氷の下に行ったとしてもかなり冷たいと思いますが・・・・・・」

アドルフが心配そうな顔をして言う。

「アルトくんなら大丈夫よ。あ、もし氷のことを心配してるなら大丈夫よ。彼もここの氷が特産品なのは知ってるし、無理矢理破壊することはないはずよ」

2人は話しながら去っていく。

「行ったか・・・それじゃあ入っていきましょうかね。」

アルトは氷の上に乗り、しばらく歩いたところで麒麟刀を取り出す。
そして一瞬手がぶれ、麒麟刀を足元に突き刺す。それをそのまま持ち上げると四角く切り出された氷がでてきた。

「結界はって・・・と」

自分の体ぴったりに結界を貼った。
そしてその穴の中に飛び込む。

湖の中は意外にも静かなもので悠々と魚が泳いでいる。陽の光が入りずらいので少し暗いが問題は無い。

ぐんぐんと底まで泳いでいく。
そして底に足を付けた。普通なら浮力で浮いてしまうが、魔法で浮力をゼロにしているので浮くことなく済んでいる。呼吸も問題ない。
俺は肺活量を鍛えている為、水の中でも10分以上空気無しでいられる。

湖の底を歩いて『宝砂』を探す。すると、ちょうど湖の真ん中辺りの底に変な円形のサークルのようなものが出来ていた。
その砂を手に取り鑑定すると『宝砂』であるということがすぐにわかった。

「なるほどな、浜に着くのは少ないが、底には随分と溜まってるじゃん」

このサークルはエルドが三体近く入れるくらいの広さがある。この全てが恐らく『宝砂』なのだ。

とりあえず『無限収納』にどんどんと砂をしまっていき、ある程度収納したところで辞めた。
取りすぎて自然と浜に来なくなってしまっても困るからだ。

そして開けた穴から地上に戻るのだった。





「帰ったぞー」

「あ、おかえりー。どうだった?採れた?」

「うん。けど、濡れてたから乾かさないとダメだな。まあ、それは王都帰ってからでもできるし、いいだろ。」

試しにアシュレイ達に『宝砂』を見せる。
そして微弱な炎魔法で乾燥させる。

「ほ、本当に『ポルキールの宝砂』です!」

管理人であるアドルフが声を上げて驚く。
当然だ、この屋敷の管理人でポルキール湖から採れる特産品を管理しているとはいえ、『宝砂』を見ることが出来るのは数少ない。

「確かに宝物庫にあるものと同じだわ。これをどれくらい持ってきたの?」

「とりあえず部屋ひとつ分くらいかな?」

「そんなに?!」

今度はアシュレイが驚く。
なぜなら宝物庫にも『宝砂』はあるが、今アルトの手に乗っている量の5倍程度しかない。理由は様々あるが、それを大幅に超えるとは思ってもみなかったのだろう。

「そんなにとって閉まっても大丈夫なのですか?数はかなり少ないと思いますが」

「いや、それがかなりの量があってな。多分部屋ひとつ分と言っても全体の1パーセントくらいしかないんじゃないのか?」

「そんなにあるの?ならどうして陸に上がってこないのかしら」

「不思議ですね。それほどあるならば大量に流れ着いてもおかしくないのに」

アシュレイの疑問にアドルフも聞いてくる。

「実は湖の底からは湧き水が出てる。そこから水と一緒に出てきてるのがこの砂なんだ。それで湖の水の流れは主に三段階に分かれていて、ひとつは上層の水の流れが激しい部分。ここに魚とか色んな生物なんかがいる。次に中層の水の動きがほぼ無い部分。ここで下層と上層が隔てられてるから下層の水が上層に上がって来ることが難しい。画像はもちろん湧き水による綺麗な水が溜まってる。」

「なるほど、真ん中の部分の水が静止しているから砂が上がってこないのですか。長年ここに住んでいますが初めて知りました」

「ポルキール湖は極寒過ぎて精密な調査ができなかったのよ。仕方が無いわ。」

『宝砂』を無限収納にしまう。

「それじゃあそろそろ帰るか」

「え?もう帰るの?」

「もう少しゆっくりされないのですか?」

アルトの言葉にアシュレイとアドルフが驚く。

「そんなに時間があるわけじゃないからね。3日後には式典とか学園の試験が始まるから。いろいろ準備しなきゃいけないんだよ。アシュレイだって準備があるだろ?」

「そうだけど……はぁそうね。それじゃあ、アドルフ。そろそろ帰るわ」

「かしこまりました。それでは馬車の準備を」

「いや、必要ない。荷物はもう収納してあるし。馬車よりも転移で帰ったほうが早いしな。」

「転移……ですか?」

「そそ、それじゃあ、アシュレイ。」

「はーい」

アシュレイがアルトの手を握る。

「あとでいろいろ遅らせてもらうから!じゃあな!」

「また来るわ」

そういうとアルトとアシュレイがその場から一瞬で消えた。

「き、きえた!………これが転移魔法。噂には聞いていましたがアルベルト・クロスフィード………規格外でしたね」

二人が去ったあとアドルフはそうつぶやくのであった。








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