漆黒王の英雄譚

黒鉄やまと

第20話 大罪復活

「さて、これで残りはお前だけだな」

アルトは最後に残った敵をみる。それは最初に殴ったカルロだ。

「まさか全員やられてしまうとは。さすが神の使徒と言った所でしょうか」

カルロは余裕の表情を見せる。

「随分と余裕そうじゃないか。」

「そうですね。あなたには感謝しますよ。これで手間が省けました」

そう言ってカルロは頭上に巨大な火の玉を展開する。
アルトは拳を構えた。

「行きなさい!」

カルロがそう命じると火の玉はアルトに向かって動き出した。

アルトは迎え撃つ構えをする。


しかしその攻撃はアルトには向かなかった。

「ぐ、ぐぁぁぁぁ!!」

「あづい!あづい!」

「なぜだァ!」

「うらぎりものめぇぇぇ!!」

攻撃が向かったのは先程アルトが戦闘不能にしたカルロの仲間だった!

「な、なにを!」

「なに、生贄ですよ。」

「生贄・・・だと!仲間じゃなかったのかよ!」

「ええ、仲間でしたよ?しかしあそこまで役に立たなかったとは思いもしませんでした。最後くらい役に立つべきですからね」

「てめぇぇ・・・!」

アルトは拳から血が出るほどおこっていた。

「ところで私が何に生贄を捧げたか・・・分かりますか?」


「なに?」

確かになんだ?何に生贄を捧げている?
奴らは邪神の手先だ。


「まさか邪神に・・・?いや、使徒でもないやつの命を捧げても復活するとは思えない・・・じゃあ一体誰に?」

「どうやら悩んでいるようですね。では、ヒントをあげましょう。私達の上司ですよ」

「お前達の上司・・・だと?ま、まさか!!」

「わかったようで何よりです。そう!私達が捧げるのは邪神の使徒にです!」

「く、くそっ!」

アルトは企みを阻止する為にカルロに向かって走り出す。しかし既に遅かった。


「おお!捧げます!我らの魂は貴方のものとなりて!今こそ復活せよ!解けろ!無垢なる呪い!」

カルロが懐から出した宝石を飲み込み自らの胸に剣を立てた。

その瞬間部屋全体に邪悪な瘴気が溢れ出る。そして結界すらも貫いて空へ向かって闇の塔が立った。


「不味い不味い不味い!アドミレア!」

「マスター!」

「今すぐ全員を転移させろ!この国のやつ全員もだ!」

「了解しました!」

アドミレアが思いっきり魔力を放出させ街全体を覆うと帝都から人が1人もいなくなった。

「出来ました。エルダ達も転移させました。」

「助かった。俺達も逃げるぞ」

「はい」

アルトとアドミレアはその場から転移した。


転移したのは連合軍が行軍している目と鼻の先。既にアドミレアによってそこには何万人もの帝都にいた住人がいた。


「旦那!」

どうやら転移した近くに【絶剣】のメンバーがいたようだ。直ぐに駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫かよ!何があったんだ?!」

「不味いことになった。大罪人が復活する!」

「な、なんだって!」

アルトはある程度仲間に教えていたので直ぐに驚いた顔になった。

「今すぐ親父達の所に行く!話が着いたらアドミレアとフィゼルはここにいる人達全員を転移させて欲しい。アドミレアには無理を言っていると思うが・・・」

「問題ありません。魔力はほとんど回復してますから」

「すまねぇ。」

「早く行きましょう。まだ復活しきれていないようですから」

どうやら連合軍は結構近くまで来ていたようだ。いや、闇の塔が高すぎる。小さいとはいえ山1つ超えたここでも見ることが出来る。

「そうだな」

アルト達はすぐさま連合軍と帝国人の境目に向かった。

境目では突如現れた帝国人に驚き敵意を剥き出しにしている連合軍と全く訳の分からない状況で転移させられとりあえず敵意を剥き出しにしてくる連合軍に反撃しようとする帝国人でかなり困惑した状況になっていた。
そこにアルト達が到着する。


「連合軍よ!俺はアルベルト・クロスフィード。ベルマーレ王国第一騎士団副団長エルヴィン・クロスフィードの息子だ!」

連合軍に動揺が走る。

「あ、アルト様ですか!!」

一人の兵士が声を上げる。この兵士は5年前エキューデ襲撃の際に助けられた近衛兵の1人で帰ってきてからも何度か話をしていた。

「ああ。突然済まない。親父達を連れてきてもらいたい。軍が止まってるってことは連絡は行ってるんだろ?」

「はい!分かりました!」

その兵士が慌てたように本陣に向かって行った。


「さて・・・帝国民よ!」

アルトは帝国人のいる方に向いた。

「俺はベルマーレ王国の人間だが、今は争っている場合ではない!お前達ガムストロの帝都に危険が迫っていた。あの闇の塔がその印だ!あのままではお前達は全員死んでいただろう!そのため俺と仲間がここまで転移させてきた。信じられないと思うが今は信じて欲しい!」

アルトは焦る中何とか説得しようとするが帝国人は敵国の人間を信じなかった。


「ふざけるなぁ!」

「どうせお前の演技だろ!!」

「今すぐ家に帰して!」

そんな声があちらこちらで上がる。

「お前ら・・・!」

封印が破られるタイムリミットが迫っている。

「仕方が無い・・・か。」

アルトは魔力を思い切り放出した。


『・・・っ!!』

アルトの殺気に一般人は泡を吹きながら気絶したり失禁したりした。それでも5分の1くらいは何とか立っており敵意を剥き出ししてくる。

「いいかげんにしろぉぉぉ!!!」

アルトが吠えた。その魔力を使って上空に巨大な火の玉を出現させる。

「お前達の命は俺が握っている!優しく言っているうちに理解しろ!殺されたくなかったら指示に従え!!貴様らは全員捕虜だ!」

残った兵隊も直ぐに戦意喪失し、地に崩れた。将軍達もアルトの圧倒的な圧力によって戦意喪失していた。
アルトが魔法を消すとちょうどエルヴィンやアルペリーニ達がやってくる。


「アルトか!」


「親父!」

「アルト君がどうしてここへ?ガムスタシアに行っていたはずだったが?」

「はい。一応殲滅には成功したんですが、問題が発生しました」

「どうやらあの塔と関係があるようだな、一体何があったんだ?」

「ちゃんと説明したいけどそんな時間がねぇ。端的に言うと邪神の使徒が復活する!」

「な、なんだと・・・!」

「邪神の使徒・・・確かアルト君が5年前退けた大罪を冠する7人の邪神の使徒だったな。しかし一体どうして?」

「手下のやつがその場にいた他の仲間と自分自身を生贄にして封印を解いたんだ。まだ封印が解き切れてないからあの状態だけど、あと数分もしない内に完全に復活する。」

「そ、そんな・・・あれがまた・・・」

エルヴィンの顔に絶望の表情が浮かぶ。

「追い打ちをかけるようで悪いけど、5年前のは意識の欠片が身体を乗っ取ったから不完全だった。けど今回はほぼ完全復活に近い状態だ。あの時よりも圧倒的な力を持ってるはずだ。」

「そ、そんな・・・」

「みんなにはベルマーレに引き返してもらいたい。」

「しかしこれから移動していても遅すぎるぞ」

「それに関しては転移魔法を使う。場所はベルマーレ王都のすぐ近くだ。アドミレア、フィゼル頼むぞ」

「はい」「おう」

「あ、アルトはどうするんだ?」

「もちろん俺はここで迎え撃つ。奴は恐らく俺を追ってここまで来る。ここが戦場になると思う。」

「け、けど」

「大丈夫だ。まだ封印は残してあるし、あれからさらに強くなってる。5年前と同じレベルなら魔法を使わなくても勝てるくらいにはな。安心してくれ、絶対に帰るから。」

「信じていいんだな?」

「もちろんだ」

「・・・分かった。」

エルヴィンは仕方がなく納得した顔をして立ち上がった。

「よしアドミレア、フィゼル始めてくれ」

2人はお互いの魔力を全力でその場に流して充満させる。そして転移させる人全員が転移圏内に入った。

「よし!行け!」

「「転移!」」

その広大な土地から全ての人間が転移された。残ったのは【絶剣】のメンバーの9人だ。

「さすがにフィゼルにはキツかったか」

フィゼルは普段は有り余る魔力を全て使ったせいで魔力欠乏症を起こしていた。

「はぁ、はぁ、すまねぇな」

「いや、助かった。アドミレア、送ってやってくれ」

「はい」

アドミレアはエルヴィン達を転移させた場所と同じ場所にフィゼルを、転移させた。

「アドミレアは大丈夫か」

「ええ、消費した魔力の10%程はもう少しで回復します」

「そうか」

アルトは第4封印まで解除した。

「これでも太刀打ちできるかどうかだな。」

「仕方がありません。」

それと同時に闇の塔がぴしりと音を立てて砕け始めた。
そして広がる濃密な邪気。それは遠く離れたアルトにも伝わってきた。

「この感じ・・・まさか」

そして完全に砕け散った闇の塔の上空から一人の男が降りて来た。そしてその男はまるで黒い彗星のようにアルト達のいる場所に降りたった。

「ふむ、300年ぶりの外界ですね。いえ、何年ほど前でしょうか?5年前程でしたかね。少しだけ出た記憶があります」

その男はクイッとメガネを上げてアルトを見た。

「それにしても目覚めて直ぐに神の使徒がいるとは。お久しぶりですね。覚えていますか?」

「ああ、もちろんだ。5年ぶりだな。【強欲】のエキューデ・・・!!」

とかれた封印から出てきたのは5年前仮初の肉体を手に入れて暴れた【強欲】の大罪紋を冠する邪神の使徒。エキューデだった。

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