漆黒王の英雄譚

黒鉄やまと

第28話 目覚め

変な夢を見ていた。

懐かしい場所にたっているかのように感じるが、全く覚えのない場所にたっていた。

目の前には真っ白な服を着た少女が1人。

見たことの無い子だった。

けれど俺は知っている気がした。

何故かは分からなかった。

けれどとても懐かしく、儚い気持ちになる。

「君は・・・・・・」

「ーーー、ーーーーー?」

「え?」

少女は何かを言ったようだが聞こえなかった。
少女は俺の真正面まで来るとトンっと俺の胸を押した。

「なにを・・・」

「ーーーーー」

何故か俺の身体はどんどんと後ろに引っ張られる。
意識がどんどんと薄くなりそこで記憶は途切れた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


目を覚ますと知らない天井だった。

「ここ・・・は?」

身体を起こすと激痛が走る。

「っぅぅ!」

なんとか身体を起こし、周りを見るが誰もいない。俺はベットに寝かされているようだった。

「確か俺は邪神の使徒と・・・そうだ。俺は勝ったのか?」

その時、部屋の扉が開いた。

入ってきたのはリリスだった。

「アルト様。おはようございます」

「ああ、おはようリリス」

「え?」

「ん?」

リリスは何度か俺の事を見るとだんだんと目に涙を溜めた。

「アルト・・・様?」

「うん。どうしたの?リリス」

「良かった・・・目が覚めたのですね?」

「うん。おはよう」

「うぅっ、うわぁぁぁぁ!!!」

リリスは急に泣きながら抱きついてきた。
普段なら受け止められるのだが・・・

「イッテェェェェェ!!」

身体に激痛が走る。

「あ!も、申し訳ございません!」

「だ、大丈夫だよ。」

「すみません。つい嬉しくて・・・だってアルト様1週間も昏睡状態だったんですよ?」

「え?1週間も?」

「はい。なんであんな無茶したんですか・・・」

「ごめん。それしか思いつかなくって・・・」

「そうは言っても・・・とりあえず皆様を呼んで参ります」

「あ、待って。ここはどこなの?この部屋も全く知らないんだけど」

「ここは王城です。」

「王城?」

「はい。王城は半壊してしまってるんですが、もう残っているお部屋をアルト様を第四騎士団の方々が治療してくださったあと使わせていただけたんです」

「王城が半壊って・・・あ、もしかして・・・」

「執事の方は恐らくアルト様の魔法のせいだって言ってました」

「やっちゃったな・・・」

「けれどアルト様がご無事で良かったです。もうこれからは1人でそんなことをしないでください。」

「うん。ごめん。もうしないよ」

「ならいいです。それでは1度失礼しますね」

「うん」

リリスが出ていったあと俺は何もすることがなくなってしまったため夢について考えることにした。

「なんだったんだ?なんかとても懐かしい夢を見た気がする。けど、どんな夢だったっけ?」

考えてと考えても出てこなかった。
ぼーっとしていると廊下を駆ける音が聞こえて部屋の扉が勢いよく開いた。

「みんな・・・」

そこにはシルク母さんやエルザ母さん。ヴァイス兄さんやフィーナ姉さん。ハドルフ間にリーシュ様、それにアシュレイ王女もいた。

「良かったです・・・目が覚めたんですね」

「心配かけてすみません。」

「お主が無事で何よりじゃ」

「ありがとうございます。」

「アルト君・・・」

「アシュレイ王女殿下・・・ご無事で何よりです。あの時かなり厳しいお顔をしておりましたので」

「っぅぅ!」

アシュレイ王女は悲しそうな顔をする。

「ごめんなさい。あの時私が一緒に立てていれば・・・」

「いえいえ、あれは俺の役目だったので当然のことをしたまでです。気負わないでください」

「でも・・・」

「それに、そんな悲しいお顔をしたら綺麗な顔が台無しですよ」

「〜〜〜〜!」

アシュレイ王女の顔はみるみる真っ赤になり俯いてしまった。

「こやつは女の扱いになれておるの。それでアルトよ。目覚めてすぐで悪いのだが・・・」

「あの時何があったのか・・・ということと俺についてですね?」

「うむ」

「そうですね。ってあれ?そう言えば親父とアイリス母さんは?」

俺がそう聞くとみんな目を背ける。

「え、なに?ちゃんと一緒に転移させたよね?なんでそんな顔するの?」

「2人は・・・自分は親失格だと言って引きこもってしまったんです」

「は?」

「どうやらお主に転移させられた後、直ぐにお主のところへ戻らずに他の家族を選んだ事、それにお主が命をかけて戦っているというのに親としても戦士としても何も出来なかったことで自分に失望してしまったらしい。アイリスも同じじゃ」

「・・・・・・」

「アルト・・・」

「親父は今どこに?」

「恐らく屋敷にいるはずじゃ。そうじゃろ?エルザ」

「うん、エル君もアイリスちゃんも屋敷に居るはず」

「リリス。俺を親父のところに連れてってくれ」

「けど、今動いたらアルト様の身体が・・・」

「それは魔力でカバーすれば」

「やめた方がいいですよ」

そう声をかけたのはセバスさんだった。


 「セバスさん?それはどう言う」

「今あなたの魔力回路はかなりボロボロです。どうやったらああなるのか私にも分かりません。」

「・・・」

心当たりはある。雷神の戦鎧ゼウス・カウゼロスアルマしかない。あれは肉体自体を魔法に変える魔法だからな。

「私が言っている意味がわかりますか?」

「ああ、魔力回路がヤバいってことだろ?少しなら」

「その少しでも貴方の命は危険な状態になります。それほどあなたの魔力回路はボロボロなのです。もし貴方が今度魔法を使おうとすれば貴方は確実に・・・死にます」

「な・・・」

魔法が使えない・・・

「そっ・・・か」

皆が悲しそうな顔をする。

「それは・・・仕方が無いですね」

「もうひとつ言うと魔力による身体強化も危険です。貴方はもう戦える体ではない」

ははは身体強化も・・・か。

「その魔力回路は治るんですか?」

「分かりません。ある程度であったら魔法を使う時からなず傷を付けてしまっているので治るはずですが・・・」

「俺の場合は1度に傷つきすぎた・・・か。治る見込みは無いと・・・」

「すみません。あれから治す手段は探したのですが・・・・・・」

「いえ、分かりました。ありがとうございます。はあ、まだ暫くは動けないか。そう言えばあの後どうなったんですか?」

俺は気絶した後の事を聞いた。

暴れたドモロスは今隔離治療室で未だに眠っているとのこと。ドモロスの家族はドモロスがそんなものを持っていたなんて知らなく、初耳だったそうだ。
しかし暴れたのはペッパー子爵家のドモロスには代わりがないので子爵は男爵に爵位が下がる。

俺を助けてくれたのはセバスさんと第一騎士団長のアルペリーニ団長のふたりらしい。どうやら終わった後に着いたようだ。

食事会は中止。そんなことをしている場合じゃなくなったからだそうだ。それはそうだろう。訓練場は跡形もなくなり王城も半壊。その理由が俺の攻撃だから頭が上がらなかった。

死者は幸いいなかったそうだが、怪我人は何人かいたそうだ。もう治っている人も多いが。


そして今回のことに国王陛下は・・・・・・

「父上には私が説明したが、まずはアルト君に会ってみたいとのことだ。」

「そうですか。」

「判断はそれからするそうだ。」

「分かりました。けど、今は・・・」

「うん。父上も傷が癒えてからでいいと言っている」

「分かりました・・・あとは俺の事・・・ですよね」

「私もあの時なんとか意識を保っていたんだが・・・君は・・・・・・神の使徒なのか?」

さすがに今頃そんなわけないといってもダメだな・・・仕方が無いか。

「はい」

全員に緊張が走った。

「そうでしたか。これまでの無礼をお許しください」

「や、辞めてください。神の使徒といっても子供にはかわりないんです。それに今まで通り接して欲しいんです」

「そうです・・・いやそうか。わかった。ありがとう」

「いえ、実は相手も神の使徒だったんです」

『ええ?!』

「といっても邪神の使徒なんですがね。そうですね。俺の事を話すなら最初からの方がいいか。エルザ母さん、シルク母さん・・・」

「わかったわ」「いいわよ」

それから俺の事について話した。
領地で話した時に隠していたことも含め全てを。

俺が異世界からの転生者であることも
俺が神の使徒ではなく神々の神徒という特殊な使徒であることも
神々からはなんの使命も受けてないが、恐らくアイツらと戦うことになることを
そしてそれを俺は受け入れていることも

「そうなのね」

シルク母さんが心配そうにそういう。

「今まで隠しててごめんなさい。」

「確かに隠されていた事は悲しいけど、ちゃんと話してくれたからいいわ。」

エルザ母さんもそういった。

「アシュレイ王女殿下、私は恐らくこれから様々な危険に襲われると思います。それでも私と結ばれますか?」

「アルト君は私のことを舐めすぎよ。バカにしないで。私は貴方と一生を終えると決めているの。貴方が困難に見舞われるなら私も一緒に戦うわ。」

俺は少し呆気に取られた。

「あはは、これは1本取られましたね。わかりました・・・いや、分かったよ、これからよろしく頼むアシュレイ」

そう言うとアシュレイは顔を真っ赤にした。

「大丈夫か?」

「な、なんでもにゃい」

舌をかんだことでさらに顔を真っ赤にして後ろに下がってしまった。

「ハドルフ王太子殿下、リーシュ王太子妃殿下・・・・・・」

「わかっているよ。アシュレイがそう決めたのならば私は何も言わないさ」

「私もです。アルト君なら守ってくれると思いますしね。」

「ありがとうございます、」

「あ、私のことはお義母さんと呼んでください」

「えっと・・・リーシュ王太子妃様?」

「お義母さん」

「リー・・・」

「お、か、あ、さ、ん」

「リーシュ義母さん・・・」

「ふふふ、それでいいです」

リーシュ様は嬉しそうな顔でそういった。
よっぽどお義母さんと言われたかったらしい。

「私の事もお義父さんと呼んでいいからね」

「ありがとうございます、ハドルフさん。」

「お義父さんでいいのに・・・」

悲しそうにしないでおくれ・・・・・・




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