漆黒王の英雄譚
第11話 秘密
エルヴィン達とアルベルトはその後順調に森を抜け街に戻ってきた。
「そう言えばどうやって外に出たんだ?門番は誰も知らなかったが……」
「ああ、それなら気配を消してどうどうと出ていったよ。」
「・・・それだけ?」
「うん。」
「そうか・・・」
エルヴィン達が街の入口に戻ってくると門番たちが近づいてきた。
「領主様!ご無事で何よりです!」
「ああ、息子も無事だったよ。アルベルト。こいつらも心配してたんだぞ?」
「皆さん迷惑かけてすみません。」
「いえいえ、アルベルト様が無事で良かったです。今度街を出る時はちゃんと一言お願いしますね」
「はい」
「それだけじゃダメだけどな」
「あははは」
「それじゃあ俺達は屋敷に戻る。引き続き警備を頼むぞ」
「「はっ!」」
エルヴィン達は街の門を通り抜け真っ直ぐと屋敷に向かう。
今は夜なので人通りは少なくボロボロの服を着たアルベルトでも大丈夫な程だ。
「アルト・・・」
「ん?何?母さん」
「帰ったらちゃんと話してね?」
「・・・うん。」
「秘密はなしだぞ?」
「正直今は言えないことはあるけど今言えることは全て話すよ」
「言えないこともあるのか・・・まあいい。とりあえず帰ったら風呂に入ろう。俺達もそんなにボロボロじゃ屋敷が汚れる。もう遅いし時間もないからゼーダ達も一緒に入るぞ」
「しかし・・・」
「いいったらいいんだよ。アイリス。先に入っていいぞ」
「そう?ありがとう」
歩いていると屋敷が見え始め入口には複数の人が立っているのが見えた。
「アルト様!!!」
こちらに気がついて駆け寄ってきたのはリリスだった。
リリスはアルベルトの側まで走って来ると膝をつきアルベルトに抱きつく。
「リリス。ごめんね?心配かけちゃって」
「本当です!なんで何も言ってくれなかったんですかぁ!!」
「ごめんなさい」
リリスの後からシルクがやってくる。
リリスはそれに気が付きサッとアルトから離れた。
「シルク母さん・・・」
シルクは黙って左手をあげる。
アルベルトは叩くつもりだろうとぎゅっと目をつぶった。
しかし次に来たのは優しく包み込むような抱擁。
「心配したのですよ?あなたは私の息子でもあるのですから。私に戦う力がなく屋敷に残っていなくては行けないことがどんなに辛いことだったか分かりますか?分かるのでしたらもうこんなことはしないでください」
「・・・はい。ごめんなさい」
アルベルトはシルクの背中に手を回し抱き返した。
一同は屋敷に入りアイリスが風呂に入っている間にアルトは着替え兄弟や屋敷の人達に謝罪をしていった。
その後エルヴィン達と一緒に風呂に入りあるひとつの部屋にエルヴィン、アイリス、シルク、ゼーダ、そしてアルベルトが集まった。
それ以外の兄弟達は既に自分の部屋に戻っていて屋敷で動いているのは使用人たちぐらいだ。
「さてアルト。話してくれるんだよな?」
「うん。けど、その前に俺の事を聞かせてくれない?」
「アルトのこと?」
「うん。どこで見つけたとか、どんな状況だったとか」
「そうねぇ。あれはアルヴィンを産んで身体が動けるようになったあと肩慣らしのために血霧の大森林の浅め所でエルヴィンと狩りをしていたときね」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁぁ!!」
エルヴィンの槍の1突きがグリーンウルフの眉間を貫通する。
グリーンウルフは即死した。
「お疲れ様、エル」
「ああ、魔法ありがとうアイリス。そろそろ日が暮れる頃だろう。戻るか?」
「そうね。アルもいるしシルクに怒られちゃうわ」
エルヴィンとアイリスが帰ろうと踏み出した時だった。
「おぎゃぁぁおぎゃぁぁ!」
森の中で1人の赤ちゃんがないている声が聞こえた。
「これは赤ん坊の声か?」
「人間の赤ちゃん?」
私達は互いに顔を見合わせ急いで声のした方に向かった。
向かった先には声を出したであろう赤ん坊が1人地面に寝かされていてそれ以外に何も無い。
「な!どうしてこんな所に赤ちゃんが?!」
「誰かが捨てたのかしら。それよりもここにいたら危ないわ。連れて帰りましょう」
「そうだな。」
その場では特に何もすることが出来なく仕方がなく連れて帰った。
アイリス達が赤ん坊を抱いて屋敷に戻ってきた。
「あら、おかえりなさい。エル、アイリスさん。」
「あ、シルク。ただいま」
「ただいま」
「どうだった・・・て、その子どうしたの?」
「森に居たのよ。」
「森って血霧の大森林に?」
「ああ、帰ろうとしていた所で泣き声が聞こえて行ってみたらこの子がいたんだ」
「ちょっと見せて?」
シルクは赤ん坊を抱いているアイリスに近づき赤ん坊の顔を覗く。
「すぅ…………すぅ…………」
赤ん坊は気持ちよさそうに寝ていた。
「可愛いわね」
「うふふ、ほんとよね。シルク、ちょっとこの子任せてもいい?私達着替えてくるわ」
「分かったわ。預かります」
アイリスはシルクに赤ん坊を渡すとエルヴィンと共に着替えに行った。
シルクは受け取った赤ん坊を起こさないように抱き、ゼーダを呼んだ。
「お呼びですか?シルク様」
「ゼーダ。私は部屋に行っています。エルとアイリスさんが着替え終わったら呼んでください。それとエルゼさんも呼んでおいてください」
「かしこまりました」
シルクは自分の部屋に戻ってくると椅子に座ってアイリス達がやってくるのを待った。
最初に来たのはエルゼだった。
「シルちゃん?入るよ」
「どうぞ」
扉が開いてエルゼが入ってくる。
エルゼはエルヴィン達と同い年だが、見た目は美女と言うよりも美少女のままだ。
「あれ?その子どうしたの?産んだの?」
「私がいつ妊娠したのよ?エルとアイリスさんが森で拾ってきたのよ」
「へぇ。捨てられちゃったのかな?男の子で黒い髪か、寝てるねえ」
「ええ、持ってみる?」
「持つわ!」
シルクはエルゼに赤ん坊を渡した。
「わあぁ!可愛い!」
「ちょっと起きちゃうでしょ?」
「あ、そうね。」
2人で話しているとアイリスとエルヴィンがやってきた。
「お、エルゼもいたのか。」
「あ、エル君。この子可愛いね」
「ああ、それでこの子どうしたらいいと思う?」
エルゼ「親を探してあげた方がいいのかな?」
シルク「森にいたなら捨てられたんでしょう?だったら親が見つかってもまた捨てられちゃうわよ?」
エル「そうなんだよなぁ」
エルゼ「じゃあ孤児院に預ける?」
エル「今のところそれくらいしか無いなぁ」
すると赤ん坊が目を覚ました。
赤ん坊はエルゼからエルヴィンに渡されていてエルヴィンの顔を見た赤ん坊はニッコリと笑うとエルヴィンの顔に手を伸ばした。
エル「お?こら!やめろ〜」
シルク「あら?目を覚ましたの?」
エルゼ「あ!ほんとだ!こんにちは〜」
アイリス「私にも見せて?!赤い目なのね!」
エルゼ「黒い髪に赤い眼!カッコイイわね!」
シルク「ほんとね、元気もいいわ」
4人は赤ん坊と遊んでいると赤ん坊は疲れたのか眠ってしまった。
エルゼ「寝ちゃったねぇ〜」
エル「元気だったなぁ」
アイリス「ねぇ?」
シルク「どうしたの?」
アイリス「この子うちで育てない?」
「「「!!!」」」
アイリス「この子も私達に懐いてくれたし、何より私はこの子を育てたい、守ってあげたいと思うの」
エルゼ「賛成!アイちゃんの意見に1票!私もこの子を育てたい!」
シルク「じゃあ私も、この子は人を惹きつける力があると感じた。それに孤児院で貧しく暮らすよりもここで暖かく育った方が幸せ」
エル「シルク、それはあまり言っちゃダメだが・・・・・・そうだな、我々はこの子に惹き付けられたのかもしれない・・・・・・よし!この子をクロスフィード家で引き取ろう!これからは私たちの4男だ!」
こうして赤ん坊はクロスフィード家に引き取られアルベルトと名付けられた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じね」
「そんなことがあったんだ。」
「そうだ。なのにお前は何を勘違いして・・・・・・」
エルヴィンが困ったように頭に手を置く。
「ごめんな?親父。」
「その親父っていうのも・・・話してみろ、何があったんだ?」
「うーん。話すとかなり長くなるけどいい?」
「まあ、いいぞ。夜は長いしな。ゼーダ、リリス、お前達の分も合わせてお茶を持ってこい。長くなるそうだからな」
「「かしこまりました」」
ゼーダとリリスが部屋を出てお茶を持って戻ってきて一息ついたあとアルベルトは話し始めた。
「まず、簡単に言ってしまえば、俺は前世の記憶を持って産まれてきた転生者なんだ。しかもこの世界とは違う世界の記憶を持ってる。」
それから神のことにあまり触れないで、自分に何があったのか話して行った。
「「「「……」」」」
話終わったあと少しの沈黙がこの場を支配する。
「まあ、そんな感じ」
「本当に簡単ね」
「けど、それがどうして私達と血が繋がってないってことを知るのに繋がるの?」
「正直まだ言えないこともあるんだけど、その世界で死んだ後に助けて貰った人達に教えてもらったって言えばいいのかな?」
「そうなのか。その人たちが誰なのかは言えないのか?」
「うん。まだ言えない。時期が来たら言うよ。それまで・・・ね?」
「・・・・・・はぁ、わかった。その時は必ず話してくれよ?」
「うん。それは絶対に話すと思う。」
「ああ」
「そう言えば、僕が養子だって知ってるのはここにいる人達だけなの?」
「いや?今王都にいるエルザとヴァイスとフィーナ、それにクロスフィード家に5年以上前から務めていた使用人と王太子と王太子妃、ローランド辺境伯、ベルファスト公爵、あと俺の友人何人かは知ってるぞ。」
「結構知ってるんだ。」
「ああ、ついでに言うとみんな会ったことあるからな?お前」
「へ?王太子様も?」
「ああ。王太子、ハドルフは俺の学園時代からの仲でな。最後に来たのはお前が3歳の頃かな、最近は忙しくて来れてない。それとハドルフにはお前と同い年の双子の子供がいて、大きくなったら友達にさせようって言ってたぞ。」
「3歳で俺が知らないってことは俺がまだ前世の記憶を取り戻す前の時だな」
「じゃあ3歳の頃に前世の記憶を思い出したの?」
「うん。階段から落ちて記憶があやふやだった時あったでしょ?あの時記憶が戻ってたんだ」
「ああ〜あの時か、確かななんか変な感じだなぁ〜なんて感じたな」
「そんな時からねぇ〜」
「で、まだこの世界のことを全く知らない俺は文字から世界のことまで猛勉強したんだ」
「だから、急に本が読みたいなんて言い出したんですね」
「もう書庫の本はほとんど読んだんじゃないかな」
「そんなにか?!俺でも読んでないのがあるかもしれないのに!ん?けど、ずっと屋敷にいたのにどうしてそんなに強いんだ?」
「そう言えばどうやってあの数の魔物を倒してあそこまで行ったの?それに最後のやつだって」
「アイリスさん?どういうことですか?」
アイリスはその場にいなかった人がいるため街を出てから何があったのか話した。
「そんなに強いの?アルト」
「うん。けど、どうやって授与の儀を受けたばかりの子供がそんなことを出来るんだろうって思って・・・アルト、やっぱり教えてくれない?」
「いいよ」
「やっぱりダメだよね・・・・・・っていいの?!」
「うん・・・と言ってもあまり言わないでね?俺には固有スキルがあるんだ。」
「固有スキルか・・・」
固有スキルは五百人に一人持つ人が現れると言われるスキルだ。通常は一人一つ。アルトの場合5つあるが。ついでに言うと神級スキルは世界に10人居ない。というか時代に1人と言った方が正しい。
「固有スキルについてはあまり言わない方がいいな。狙われるかもしれない」
「うん。」
皆が口を開けて動きを止めてしまった。
「まあ、こんな感じ。」
「こ、こんな感じ・・・?」
「そ、それだけで済ませてしまっていいのでしょうか」
「けど、これなんだから仕方が無いよ。」
「そ、そうか・・・」
それから全員が落ち着くのを待つとエルヴィンが喋り始めた。
「まあ、なるほど。そのステータスだったらあの魔物を倒してあそこまで行ったのはうなずけるな。」
「あ、あそこまでは魔法は使ってないよ?」
「は?」
「俺がやってたのはこの固有スキルの覡神鳴流っていう武術を使ってたんだ。これは俺が前世でやっていた武術でこの世界でも通用するみたいだからね」
「じゃあ魔力無しであそこまで行ったのか?」
「そうだよ。」
「そ、そうか。」
それからしばらく静かーになった。
そしてやっぱり喋り始めるのはエルヴィンだった。
「とりあえず分かった。だが、俺達の気持ちは変わらん。お前を息子として愛している。誰も除け者になんかしないから、安心しろ」
「・・・ありがとう。正直化け物ぐらい言われるかと思ったよ、」
「それは無いわ。あなたがなんであろうと私達の息子のアルベルト・クロスフィードであることには変わりないのだから。それに神々の神徒様にそんなことは言えない」
「む?それはやめて欲しいな。俺はアルベルトなんだから神々の神徒だとしても同じように接してよね」
「当たり前よ。」
「よし!今日はもう寝るか!それとここで話したことは誰にも話すなよ?アルトが神々の神徒だと教国にバレると面倒なことになるしアルトがここに入れなくなる。絶対だからな」
「教国?」
「ああ、教国は教会の総本山の国だ。十二神を崇める国として教皇がトップに立つ国だ。」
「なるほど、教会の総本山か・・・それは面倒だな。」
「そういう事だ。これからはいつも通りに暮らすぞ。それと3ヶ月後に王都に行くからな?」
「王都?」
「ああ、ハドルフの子供達が約半年後に誕生日だから、その式典をやるんだ。その式典にその年5歳になったりこれからなる子供達を集めて友達作りの場にもするんだよ。俺達はハドルフに早めに呼ばれててアルトを紹介したいらしい。」
「はーい。」
「じゃあ解散するか。」
その日はその場でお開きになった。
それぞれが自分の部屋に戻っていく中アルベルトは新たに誓う。
俺はクロスフィード家の人間であることを。この世界で生きていくことをーーー
「そう言えばどうやって外に出たんだ?門番は誰も知らなかったが……」
「ああ、それなら気配を消してどうどうと出ていったよ。」
「・・・それだけ?」
「うん。」
「そうか・・・」
エルヴィン達が街の入口に戻ってくると門番たちが近づいてきた。
「領主様!ご無事で何よりです!」
「ああ、息子も無事だったよ。アルベルト。こいつらも心配してたんだぞ?」
「皆さん迷惑かけてすみません。」
「いえいえ、アルベルト様が無事で良かったです。今度街を出る時はちゃんと一言お願いしますね」
「はい」
「それだけじゃダメだけどな」
「あははは」
「それじゃあ俺達は屋敷に戻る。引き続き警備を頼むぞ」
「「はっ!」」
エルヴィン達は街の門を通り抜け真っ直ぐと屋敷に向かう。
今は夜なので人通りは少なくボロボロの服を着たアルベルトでも大丈夫な程だ。
「アルト・・・」
「ん?何?母さん」
「帰ったらちゃんと話してね?」
「・・・うん。」
「秘密はなしだぞ?」
「正直今は言えないことはあるけど今言えることは全て話すよ」
「言えないこともあるのか・・・まあいい。とりあえず帰ったら風呂に入ろう。俺達もそんなにボロボロじゃ屋敷が汚れる。もう遅いし時間もないからゼーダ達も一緒に入るぞ」
「しかし・・・」
「いいったらいいんだよ。アイリス。先に入っていいぞ」
「そう?ありがとう」
歩いていると屋敷が見え始め入口には複数の人が立っているのが見えた。
「アルト様!!!」
こちらに気がついて駆け寄ってきたのはリリスだった。
リリスはアルベルトの側まで走って来ると膝をつきアルベルトに抱きつく。
「リリス。ごめんね?心配かけちゃって」
「本当です!なんで何も言ってくれなかったんですかぁ!!」
「ごめんなさい」
リリスの後からシルクがやってくる。
リリスはそれに気が付きサッとアルトから離れた。
「シルク母さん・・・」
シルクは黙って左手をあげる。
アルベルトは叩くつもりだろうとぎゅっと目をつぶった。
しかし次に来たのは優しく包み込むような抱擁。
「心配したのですよ?あなたは私の息子でもあるのですから。私に戦う力がなく屋敷に残っていなくては行けないことがどんなに辛いことだったか分かりますか?分かるのでしたらもうこんなことはしないでください」
「・・・はい。ごめんなさい」
アルベルトはシルクの背中に手を回し抱き返した。
一同は屋敷に入りアイリスが風呂に入っている間にアルトは着替え兄弟や屋敷の人達に謝罪をしていった。
その後エルヴィン達と一緒に風呂に入りあるひとつの部屋にエルヴィン、アイリス、シルク、ゼーダ、そしてアルベルトが集まった。
それ以外の兄弟達は既に自分の部屋に戻っていて屋敷で動いているのは使用人たちぐらいだ。
「さてアルト。話してくれるんだよな?」
「うん。けど、その前に俺の事を聞かせてくれない?」
「アルトのこと?」
「うん。どこで見つけたとか、どんな状況だったとか」
「そうねぇ。あれはアルヴィンを産んで身体が動けるようになったあと肩慣らしのために血霧の大森林の浅め所でエルヴィンと狩りをしていたときね」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁぁ!!」
エルヴィンの槍の1突きがグリーンウルフの眉間を貫通する。
グリーンウルフは即死した。
「お疲れ様、エル」
「ああ、魔法ありがとうアイリス。そろそろ日が暮れる頃だろう。戻るか?」
「そうね。アルもいるしシルクに怒られちゃうわ」
エルヴィンとアイリスが帰ろうと踏み出した時だった。
「おぎゃぁぁおぎゃぁぁ!」
森の中で1人の赤ちゃんがないている声が聞こえた。
「これは赤ん坊の声か?」
「人間の赤ちゃん?」
私達は互いに顔を見合わせ急いで声のした方に向かった。
向かった先には声を出したであろう赤ん坊が1人地面に寝かされていてそれ以外に何も無い。
「な!どうしてこんな所に赤ちゃんが?!」
「誰かが捨てたのかしら。それよりもここにいたら危ないわ。連れて帰りましょう」
「そうだな。」
その場では特に何もすることが出来なく仕方がなく連れて帰った。
アイリス達が赤ん坊を抱いて屋敷に戻ってきた。
「あら、おかえりなさい。エル、アイリスさん。」
「あ、シルク。ただいま」
「ただいま」
「どうだった・・・て、その子どうしたの?」
「森に居たのよ。」
「森って血霧の大森林に?」
「ああ、帰ろうとしていた所で泣き声が聞こえて行ってみたらこの子がいたんだ」
「ちょっと見せて?」
シルクは赤ん坊を抱いているアイリスに近づき赤ん坊の顔を覗く。
「すぅ…………すぅ…………」
赤ん坊は気持ちよさそうに寝ていた。
「可愛いわね」
「うふふ、ほんとよね。シルク、ちょっとこの子任せてもいい?私達着替えてくるわ」
「分かったわ。預かります」
アイリスはシルクに赤ん坊を渡すとエルヴィンと共に着替えに行った。
シルクは受け取った赤ん坊を起こさないように抱き、ゼーダを呼んだ。
「お呼びですか?シルク様」
「ゼーダ。私は部屋に行っています。エルとアイリスさんが着替え終わったら呼んでください。それとエルゼさんも呼んでおいてください」
「かしこまりました」
シルクは自分の部屋に戻ってくると椅子に座ってアイリス達がやってくるのを待った。
最初に来たのはエルゼだった。
「シルちゃん?入るよ」
「どうぞ」
扉が開いてエルゼが入ってくる。
エルゼはエルヴィン達と同い年だが、見た目は美女と言うよりも美少女のままだ。
「あれ?その子どうしたの?産んだの?」
「私がいつ妊娠したのよ?エルとアイリスさんが森で拾ってきたのよ」
「へぇ。捨てられちゃったのかな?男の子で黒い髪か、寝てるねえ」
「ええ、持ってみる?」
「持つわ!」
シルクはエルゼに赤ん坊を渡した。
「わあぁ!可愛い!」
「ちょっと起きちゃうでしょ?」
「あ、そうね。」
2人で話しているとアイリスとエルヴィンがやってきた。
「お、エルゼもいたのか。」
「あ、エル君。この子可愛いね」
「ああ、それでこの子どうしたらいいと思う?」
エルゼ「親を探してあげた方がいいのかな?」
シルク「森にいたなら捨てられたんでしょう?だったら親が見つかってもまた捨てられちゃうわよ?」
エル「そうなんだよなぁ」
エルゼ「じゃあ孤児院に預ける?」
エル「今のところそれくらいしか無いなぁ」
すると赤ん坊が目を覚ました。
赤ん坊はエルゼからエルヴィンに渡されていてエルヴィンの顔を見た赤ん坊はニッコリと笑うとエルヴィンの顔に手を伸ばした。
エル「お?こら!やめろ〜」
シルク「あら?目を覚ましたの?」
エルゼ「あ!ほんとだ!こんにちは〜」
アイリス「私にも見せて?!赤い目なのね!」
エルゼ「黒い髪に赤い眼!カッコイイわね!」
シルク「ほんとね、元気もいいわ」
4人は赤ん坊と遊んでいると赤ん坊は疲れたのか眠ってしまった。
エルゼ「寝ちゃったねぇ〜」
エル「元気だったなぁ」
アイリス「ねぇ?」
シルク「どうしたの?」
アイリス「この子うちで育てない?」
「「「!!!」」」
アイリス「この子も私達に懐いてくれたし、何より私はこの子を育てたい、守ってあげたいと思うの」
エルゼ「賛成!アイちゃんの意見に1票!私もこの子を育てたい!」
シルク「じゃあ私も、この子は人を惹きつける力があると感じた。それに孤児院で貧しく暮らすよりもここで暖かく育った方が幸せ」
エル「シルク、それはあまり言っちゃダメだが・・・・・・そうだな、我々はこの子に惹き付けられたのかもしれない・・・・・・よし!この子をクロスフィード家で引き取ろう!これからは私たちの4男だ!」
こうして赤ん坊はクロスフィード家に引き取られアルベルトと名付けられた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じね」
「そんなことがあったんだ。」
「そうだ。なのにお前は何を勘違いして・・・・・・」
エルヴィンが困ったように頭に手を置く。
「ごめんな?親父。」
「その親父っていうのも・・・話してみろ、何があったんだ?」
「うーん。話すとかなり長くなるけどいい?」
「まあ、いいぞ。夜は長いしな。ゼーダ、リリス、お前達の分も合わせてお茶を持ってこい。長くなるそうだからな」
「「かしこまりました」」
ゼーダとリリスが部屋を出てお茶を持って戻ってきて一息ついたあとアルベルトは話し始めた。
「まず、簡単に言ってしまえば、俺は前世の記憶を持って産まれてきた転生者なんだ。しかもこの世界とは違う世界の記憶を持ってる。」
それから神のことにあまり触れないで、自分に何があったのか話して行った。
「「「「……」」」」
話終わったあと少しの沈黙がこの場を支配する。
「まあ、そんな感じ」
「本当に簡単ね」
「けど、それがどうして私達と血が繋がってないってことを知るのに繋がるの?」
「正直まだ言えないこともあるんだけど、その世界で死んだ後に助けて貰った人達に教えてもらったって言えばいいのかな?」
「そうなのか。その人たちが誰なのかは言えないのか?」
「うん。まだ言えない。時期が来たら言うよ。それまで・・・ね?」
「・・・・・・はぁ、わかった。その時は必ず話してくれよ?」
「うん。それは絶対に話すと思う。」
「ああ」
「そう言えば、僕が養子だって知ってるのはここにいる人達だけなの?」
「いや?今王都にいるエルザとヴァイスとフィーナ、それにクロスフィード家に5年以上前から務めていた使用人と王太子と王太子妃、ローランド辺境伯、ベルファスト公爵、あと俺の友人何人かは知ってるぞ。」
「結構知ってるんだ。」
「ああ、ついでに言うとみんな会ったことあるからな?お前」
「へ?王太子様も?」
「ああ。王太子、ハドルフは俺の学園時代からの仲でな。最後に来たのはお前が3歳の頃かな、最近は忙しくて来れてない。それとハドルフにはお前と同い年の双子の子供がいて、大きくなったら友達にさせようって言ってたぞ。」
「3歳で俺が知らないってことは俺がまだ前世の記憶を取り戻す前の時だな」
「じゃあ3歳の頃に前世の記憶を思い出したの?」
「うん。階段から落ちて記憶があやふやだった時あったでしょ?あの時記憶が戻ってたんだ」
「ああ〜あの時か、確かななんか変な感じだなぁ〜なんて感じたな」
「そんな時からねぇ〜」
「で、まだこの世界のことを全く知らない俺は文字から世界のことまで猛勉強したんだ」
「だから、急に本が読みたいなんて言い出したんですね」
「もう書庫の本はほとんど読んだんじゃないかな」
「そんなにか?!俺でも読んでないのがあるかもしれないのに!ん?けど、ずっと屋敷にいたのにどうしてそんなに強いんだ?」
「そう言えばどうやってあの数の魔物を倒してあそこまで行ったの?それに最後のやつだって」
「アイリスさん?どういうことですか?」
アイリスはその場にいなかった人がいるため街を出てから何があったのか話した。
「そんなに強いの?アルト」
「うん。けど、どうやって授与の儀を受けたばかりの子供がそんなことを出来るんだろうって思って・・・アルト、やっぱり教えてくれない?」
「いいよ」
「やっぱりダメだよね・・・・・・っていいの?!」
「うん・・・と言ってもあまり言わないでね?俺には固有スキルがあるんだ。」
「固有スキルか・・・」
固有スキルは五百人に一人持つ人が現れると言われるスキルだ。通常は一人一つ。アルトの場合5つあるが。ついでに言うと神級スキルは世界に10人居ない。というか時代に1人と言った方が正しい。
「固有スキルについてはあまり言わない方がいいな。狙われるかもしれない」
「うん。」
皆が口を開けて動きを止めてしまった。
「まあ、こんな感じ。」
「こ、こんな感じ・・・?」
「そ、それだけで済ませてしまっていいのでしょうか」
「けど、これなんだから仕方が無いよ。」
「そ、そうか・・・」
それから全員が落ち着くのを待つとエルヴィンが喋り始めた。
「まあ、なるほど。そのステータスだったらあの魔物を倒してあそこまで行ったのはうなずけるな。」
「あ、あそこまでは魔法は使ってないよ?」
「は?」
「俺がやってたのはこの固有スキルの覡神鳴流っていう武術を使ってたんだ。これは俺が前世でやっていた武術でこの世界でも通用するみたいだからね」
「じゃあ魔力無しであそこまで行ったのか?」
「そうだよ。」
「そ、そうか。」
それからしばらく静かーになった。
そしてやっぱり喋り始めるのはエルヴィンだった。
「とりあえず分かった。だが、俺達の気持ちは変わらん。お前を息子として愛している。誰も除け者になんかしないから、安心しろ」
「・・・ありがとう。正直化け物ぐらい言われるかと思ったよ、」
「それは無いわ。あなたがなんであろうと私達の息子のアルベルト・クロスフィードであることには変わりないのだから。それに神々の神徒様にそんなことは言えない」
「む?それはやめて欲しいな。俺はアルベルトなんだから神々の神徒だとしても同じように接してよね」
「当たり前よ。」
「よし!今日はもう寝るか!それとここで話したことは誰にも話すなよ?アルトが神々の神徒だと教国にバレると面倒なことになるしアルトがここに入れなくなる。絶対だからな」
「教国?」
「ああ、教国は教会の総本山の国だ。十二神を崇める国として教皇がトップに立つ国だ。」
「なるほど、教会の総本山か・・・それは面倒だな。」
「そういう事だ。これからはいつも通りに暮らすぞ。それと3ヶ月後に王都に行くからな?」
「王都?」
「ああ、ハドルフの子供達が約半年後に誕生日だから、その式典をやるんだ。その式典にその年5歳になったりこれからなる子供達を集めて友達作りの場にもするんだよ。俺達はハドルフに早めに呼ばれててアルトを紹介したいらしい。」
「はーい。」
「じゃあ解散するか。」
その日はその場でお開きになった。
それぞれが自分の部屋に戻っていく中アルベルトは新たに誓う。
俺はクロスフィード家の人間であることを。この世界で生きていくことをーーー
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コメント
華羅朱
一番最初、青い目ではなかったの
ではないだろうか