シュピール・カルテ

まる太

理由



「オラアアァァ!!!!」
「きゃーーーーッ!!!!」
「次おれ! おれ!」
「ほら来い! オルアアァァ!!!!」
「あはははははッ!!!!」


 何が何だか分からない。
 目の前に広がる光景に、僕はただただ立ち尽くした。

 遊び疲れて3人で狭いベッドにギュウギュウになって眠ったところまではいい。
 問題は僕が目覚めた後だ。
 両サイドに2人がいないため、外で遊んでいるのかと扉を開けたらこれである。


「も一回! も一回!」
「仕方ねぇな……ほら来「「あー!! ルカ起きたー!!」」
「……チィッ、クソガキがッ」


 こちらに駆け寄ってくる双子に振られ、じいちゃんが悪態を吐く。
 飛びついてくる2人を左右の腕で片方ずつ受け止め、抱き寄せると、擦れんばかりの頬ずりを浴びた。


「おはよう、クロ、ロゼ」
「「おはよぉ〜!!」」


 くっ……
かわいい……!!
 正確にはもうおやつタイムだが。そんなことより今日も僕の弟と妹がかわいい。
 ギュッともう一度2人を抱きしめ、そのままじいちゃんに顔を向ける。


「おかえり、じいちゃん!」


 2ヶ月もの間、じいちゃんと離れたことなんてなかった。
 おばさんや小人たちはもちろん、双子に出会えたおかげで昼間は1人きりではなかったが、1人になる夜は必ずじいちゃんのことを考えた。
 13歳にもなって恥ずかしいものがあるが、やっぱり寂しかったのだ。


「うぅっ……ルカアアアァァァッ!!!! ワシは!! ワシは寂しかったぞおぉぉおお!!!!」
「「「ぐぇっ」」」


 号泣しながら僕に突っ込んできたじいちゃんは、双子もろとも僕を抱きしめた。
 じいちゃんも寂しかったのなら、相思相愛というやつだ。家族だから当たり前だろうけど。


『退け。次はわしじゃ』
「ノワァアッ!?」


 じいちゃんはおばさんに吹き飛ばされ、森の木に頭から突っ込んだ。
 おばさんはそんなじいちゃんに目もくれずに僕たち3人を優しく抱きしめる。


「何しやがるババアッ!! てめぇは毎日会えてただろうが!!」
『うるさいのぉ。何時でもかわいい孫を愛でたいのが祖母のさがというものじゃ』
「誰が祖母だ!! さっさと離してワシに変われ!!」
『嫌じゃ』
「ゥオオアアアッ!!!!」


 ズンズンと僕たちに近づいて来たじいちゃんは、再び大木に向かって吹っ飛ぶ。
 いつも思うが、おばさんの魔法はすごい。巨体のじいちゃんが軽く吹き飛ばされるのだから。
 そしてじいちゃんもじいちゃんですごい。あんなに派手に吹き飛び、あんなにも激しく大木に突っ込んでいるのに怪我ひとつなくピンピンしている。さすが、魔獣退治のスペシャリストというところか。
 っと、そうではなく!
 僕には気になることがあったのだった!


「それより! じいちゃんと2人はいつの間に仲良くなったの?」
「「さっき!!」」
「さっきだな」
「……え」


 全く分からない。
いつの間にと言ったのが悪かったのか。
 どうやって、と言えばよかっただろうか。


『好いたものが同じであったのじゃ』
「好いたもの?」


 おばさんの声に顔を上げる。
 好いたもの、か……
シチューか、いやぼちゃのスープか。
んー。でも、じいちゃんはどちらかといえば肉が好きだし……


「シチューだな」
『……』


 おばさんの微妙な顔は何だろう。
違うのか?


「えっと、違った?」
『……いや、違わなんだが……』


 おばさんのはぎれがいまいち悪いけど、まぁいいか! 
 やっぱり美味しい食べ物は偉大だ! 
 僕と2人が仲良くなったのもシチューのおかげだったし。僕のシチューも偉大なのかな! なんてね!


「今日の夕飯はシチューにするよ!」
「「やったぁー!!」」
「くぅ……っ、やっと孫の手料理が食える……!!」
『……まぁ、そういうところも良いところではあるがの』


 その日の夕食はいつにも増して賑やかだった。


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