シュピール・カルテ

まる太

太陽の大陸と月の大陸




 この世界を牛耳る主な種族が2つ存在する。
 人族と魔族である。
 人族は光・火・水・風・土の5つの魔法属性をもち、魔族は唯一闇の魔法属性を持った。
 遥か昔、彼らは同じ場所に生き、同じ時を生き、共存していた。
しかし、いつしか彼らはお互いに嫌悪し合うようになり、ぶつかり合うようになった。
 そして、2千年前、それは起こった。
 人族と魔族の戦争である。
互いに総力を挙げてぶつかり合った。
多くの人族と魔族が犠牲となり、接戦の末、人族に軍杯が挙がった。
 魔族は大陸の北に追いやられた。
 一続きの大陸は古の森を境に2つに分けられ、魔族の住まう北方を月の大陸、人族の住まう南方を太陽の大陸と呼ばれることとなった。





「ほっほっほっほっ!」
『ほっほっほっほっ!』

「わっせ! ほいせ!」
『わっせ! ほいせ!』


 太陽の大陸北地方辺境の村ノルド。
古の森に近く、月の大陸に最も近いこの村はすっかり過疎化が進んでいる。
周りを見渡すと大自然。そしてお年寄り。       
 大陸の隅っこにあるこの村のそのまた隅に、僕の家はある。


「じいちゃん! 薪、このくらいで足りる?」
『足りる〜?』


 家の中で昼食を作っているじいちゃんにむかって叫ぶ。
大量に森から採ってきたんだから足りないはずはないけど……、ちょっと採りすぎたかな?
 家と同じ高さに積み上げられた薪を見上げる。


「お前たちが手伝ってくれるっていうから、ちょっと頑張りすぎたね」
『頑張りすぎたね〜! とほほ〜』
『とほほ〜!!』


 こいつらは森に住んでる小人たち。
親指サイズのかわいいやつらである。
こんなに小さいのに浮遊魔法を使えるらしく、常に僕の周りを飛び回っている。
 

「なぁッ!? 採りすぎだ!!」


 薪を確認しにきたじいちゃんが目をカッと開いて怒鳴る。


「しばらく薪には困らないね」
『一件落着〜!』
「何が一件落着だぁ! チビ助が! オメェらの母ちゃんに怒鳴られるのはワシなんだからな!!」
『きゃー! ジジィがコワイー!』
『ルカー! 助けて〜!』
「こら! くすぐったいよ」


 僕の陰に隠れようと周りにいた2人が飛びついてくる。


「ルカ! しつけがなってねぇぞ!」
「僕のせい!?」
『キャハハッ! 楽しいねぇ〜』
『ねぇ〜』


 僕の周りを大柄なじいちゃんと親指サイズの小人たちがくるくる駆け回る。
 じいちゃんも楽しそうで何よりだ。


「じいちゃーん。そろそろお昼にしようよぉー」
「おっ、そうだったな!」


 かれこれ30分は追いかけっこをしていた3人を僕が制して、ようやく昼食となった。



 ︎   ︎



 すっかり日も暮れ、ロウソクの優しい光が部屋を照らす。
 ガタイのいいゴツイじいちゃんの顔がぼんやり照らされているのは少しホラーだけど。


「ルカ、明日は街に出るからな。留守番を頼む」
「剣を直しに行くの?」
「そうだ。ワシでは直せなんだ」
「真っ二つだもんね。狩は?」
「そうだな。飯分の肉があれば十分だ」
「分かった」


 あれは1週間ほど前のこと、森の中腹でじいちゃんと狩をしていたとき、大型魔獣と対峙した。
 そのときじいちゃんの愛刀(打打丸)が衝撃に耐えきれずバキッと折れてしまったのだ。
何十年もじいちゃんの愛刀として尽力してきたのだからよくここまで耐えてきたものだと思うが、じいちゃんのショックは大きく、放心するじいちゃんの代わりに僕1人で魔獣を狩る羽目になった。


「ちゃんと直るといいね」
「カスタムしてくるに決まっとるだろうが! 重量が足りんと思っとったとこだ!」
「……もう年なんだから、あんまり無理しちゃダメだよ?」
「ワシはまだ現役だ!」
「……そうだったね」


 ムキムキの筋肉を見せつけてくるじいちゃんに、まだまだ現役だったことを思い知らされる。
 曰く、じいちゃんは魔獣退治のスペシャリストらしい。確かに、僕もじいちゃんから魔獣退治を教わったし、かなり強いことは分かる。


「さぁ、もう寝ろ」
「え!? もう!?」
「そうだ。寝ろ!」
「う、うん……」


 いつもより幾分か早い就寝。
まだ眠くないんだけどな……
と、いいつつ、目を閉じていればいつのまにか眠ってしまっていた。



 ︎   ︎



 洞穴の中の暗がりに目を凝らす。
 1、2、3……


「3匹か、十分だね」
『十分だね〜』
「しーっ! 小声小声!」
『小声小声!』


 ここの洞穴にはどういうわけか毎回違う種類の魔獣が出現する。
 今日は中型の魔獣が3匹だが、先日は小型魔獣1匹だったり、大型魔獣5匹だったりとまちまちである。
 近くに落ちていた小石を拾い、洞穴から出てきたところを目がけて指で弾く。
小石は見事、魔獣の眉間にヒットし、魔獣は声もあげずにその場に倒れた。
 異変を感じた残り2匹が慌て始めるが、


「逃がさないよ」


 両手で一気に小石を弾く。


「ぬぁっ!」


 右手で弾いた方は何事もなく地に臥せっている。
 しかしどうだ。左手で弾いた方は力加減を誤り、小石が貫通してしまった。
 地面に魔獣の血が流れて、染み込んで行く。


『ママに怒られちゃうね』
「……うん」


 僕は右利きだから……
なんて言い訳、通じるわけないか。
 がっくり肩を落とし、少しでも地面にしみる量を減らそうと止血を施す。
 小人たちのお母さん。彼女はこの森を管理している偉い人らしい。森の木を切りすぎたり、魔獣の血で汚したりするとすごく怒られるのだ。
 それがまた恐ろしくて恐ろしくて……
あのじいちゃんでさえ正座して肩を縮めるくらいだ。


「ここ、穴掘って持って行こうかな……」
『ダメだよ〜』
『ケガレはケガレを呼ぶのよ〜』
「だよねぇ〜」


 浅はかだった。
 がっくり肩を落とす。
 いつのまにか増える小人はいつものことだ。どこからともなく寄ってくるのである。


「よっこらしょ」
『どっこいしょ!』


 魔獣を担ぎ、のそのそと歩く。


「ダメだぁー。やっぱり来るよねー」
『来るよね〜』


 魔獣の流した血の臭いに、他の魔獣が集まってきている。
 これは本格的に雷が落ちる予感……


「はぁーーーーっ」


 これからを思いやって盛大にため息をついた。



 山積みの薪の隣にこれまた山積みの魔獣を見て俯く。
 ケガレを祓うための聖水は、家にしか置いてなかったから追ってきた魔獣を片っ端から撲殺し抱えてきた。
 家に着くと速攻で聖水で浄化したのだが……


「干し肉にするか……」


 こんなに肉食べれないし。
 2時間ほど時間をおけば魔獣を解体しても血は流れなくなる。ケガレもなくなるらしい。不思議だ。
 地に染み付いたケガレは浄化しない限り消えることはないらしいけど。
 とにかく、2時間はこの魔獣の山は放置である。


「……謝りに行こう」


 こういうのは先手必勝だよね!
 再び森に向かって駆け出した。
 小人のお母さんはこの森の中心にあるものすごく大きな木に住んでいる。
 多分、ツリーハウス的な家があるんだろうけど、何分木がデカ過ぎて僕にも見えない。そんなところに家を作る小人のお母さんって何者なんだろうって思ったこともあったなぁ。
じいちゃんが「鬼ババだ鬼ババ!」って言ったのを聞かれてて、その翌日に涙目で森から帰ってきたことがあった。


『ねぇルカー!』
『あっちに誰かいるのー!』
『来て来てー!』


 目の前に突然現れた小人たちに足を止める。
 この森に他に誰かいるなんて珍しい。というか、今まで見たことがない。


『早く早くー!』
『もうすぐなの!』
『そこにいるの!』


 小人たちが案内したのは、大きな洞窟の前だった。
ここは以前じいちゃんと来たことがあるけど、その時は絶対に洞窟の中には入るなって真剣な顔で言われたのを覚えている。
 まだ僕は小さかったからすごくビビったっけ。


『ルカー!』
『こっちこっちー!』


 茂みの奥に飛んで行く小人たちを追って茂みをかき分けた。




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