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じゃくまる

浄化実験

 浄化を行いながら探索を続けるボクたち一行。
 色々試してみたところ、どうやら一つの反転結界陣の稼働距離は、半径十メートル程度のようだった。
 そこから次のポイントにまた設置することで、さらに十メートル程度延長することができるので、移動して設置してという行動を繰り返す。
 正直、手作業の汚染処理はめんどくさすぎると思う。

「うにゃーーー!! 手作業浄化めんどくさいいいいい!!」
 聖堂騎士たちの詰め所から移動することおおよそ五十メートル。
 一週間程度保てるとはいえ、この五十メートルだけでもボクには重労働だった。
 MPよりSPを使う職業なだけあって、精神力も体力もどんどん削られていくのだ。
 若干鬱っぽくなってるような気もするし……。

「スピカにゃん、猫にでもなったかにゃ? 猫は良いにゃよ~?」
 お気楽猫娘は笑顔で顔を手で洗っている。
 この中で浄化できるのが、ボクとミアだけということを考えると、この先の探索が嫌になってくる……。
 汚染の中ではあまり役に立たない音緒に若干ムッとしつつも、ボクは妖力丸(ようりょくがん)を口に含んでSP回復に努めることにした。
 妖力丸、ものすっごく苦いんですけど……。

「うへぇ……。苦いんだよなぁ、この妖力丸……」
 せめて糖衣とかに包んでほしいとボクは思ってしまう。
 糖衣なんてものがこの世界にあるとは思えないけどね。

「妖力丸の製法は薬草を煮詰めることが重要なようですね。そこに霊芝と竹の炭の粉末を混ぜて、出来上がった薬草を煮詰めたものを少しずつ流し込みながらこねて作るようです。どう考えても苦味しかありませんね」
 ルーナは引き攣った顔をしながら、妖力丸の製法について解説してくれた。
 竹の炭のせいか、妖力丸の見た目は真っ黒だ。
 出来上がったものを乾燥させることで硬くさせ、見た目をきれいにしたらお手元にお届け!
 まだ青汁の方が飲めるような気さえしてくる。

「これ作った人、絶対嫌がらせの為に用意したよね!? 正直、もっとおいしく妖力の回復ができるような気がするんだ。もうほんと誰だよ、これ作った味音痴は……!!」
「スピカ、落ち着く。私はその製法知らないから作れない。スピカなら作れる可能性ある。美味しい妖力丸、一緒に作ろ?」
 激おこなボクをなだめるようにフィルさんがそう言ってくる。
 ぐぬぬ、確かに協力すればできるような気がしないでもないけど……。

「改良でしたら私も参加します。ご主人様、フィル様。共に美味しいものを目指しましょう」
 すかさずミアも参加の意思を示してきた。
 さすがご主人様想いの使い魔さんだよ。
 スライムの精霊だしテイム状態なんだから、使い魔で良いよね?

「なら、美味しい焼き魚味か美味しい鰹節味にするのもありかもしれないにゃ」
「やめて、ボクが吐いちゃう」
 ただでさえ、苦い妖力丸で精神的にも肉体的にも、そして味覚的にもダメージを受けているというのに、ここで魚風味なんて追加することを想像したら、見せられない状態になっちゃうよ……。

「ちぇっ。魚風味いけると思ったんだけどにゃ~」
「音緒の作ることがあったら、くさや風味にしてやる……」
「それは止めるにゃ。茹でたそら豆の匂いだって好きじゃないのにゃ……」
 ほら見たことか、音緒だって臭いの苦手じゃないか。
 少しはボクの気持ちになって反省してもらいたいものだよ。

「はぁ……。どうにか回復はしてくれてるよ。何でじっくり回復していくんだろうね、これ」
 ボクは掌の上でコロコロと妖力丸を転がしながらそう言った。
 一気に回復するなら、やっぱりポーション類なんだろうけど、妖力丸の風味そのままのポーションはどう考えてもまずいと思う。
 ハチミツでも入れるべきだろうか……?

「滋養という意味ならハチミツは効果的。でも、その妖力丸の効力を考えるとハチミツは意味ない」
 ボクの考えてることを見抜かれたのか、フィルさんがそう教えてくれた。
 むむぅ、やっぱりだめだよなぁ~……。

「でしたら、アマチャヅルとかはいかがでしょう?」
「アマチャヅル?」
「なるほど。それならある」
「なんにゃ?」
 ボクが意気消沈しているところに、ミアがそんなことを言いだした。
 アマチャヅル?
 ツルって言うくらいだから蔦系なのかな?

「心と体を癒してくれるお茶にも使われる薬草の一種。ほとんどの場合茶葉として売られてる。魔力や精神力を使う職業にはうってつけ。普段扱わないから忘れていた」
 フィルさんが詳しく説明してくれたけど、そんな薬草があるんだね?
 甘いのかな?

「ねね、甘いの? 苦いの?」
 ボクの興味はただ一つ。
 甘いか苦いかだ。

「ほんのり甘みがある。抽出すれば甘みを引き出せるかもしれない」
「そうですね。もしかするとどこかに生えているかもしれません。汚染されていなければですが……」
「やたっ!! さっそく探そうよ!!」
 甘みを感じられる薬草なら、これほどうれしいことはない。
 さっそく探したいところだけど、残念ながらここは汚染地帯。
 汚染を免れているとは思えないのだ。

「どうせしばらくはここをうろうろするわけだしにゃ。浄化しながら探すにゃ」
「うぐぅ……。そうだよねぇ。とりあえずもう少し長くしてみようか」
 ボクはさっそく浄化の続きを行うことにした。
 しかし、すぐにボクはあることを思いついた。

「直線で十メートルの浄化ができるなら、そのまま五芒星の形を作って真ん中で反転結界陣を起動させたらどうなるんだろ? 意味あるのかな?」
 ボクは急に気になりだしたので、ちょっと試してみることにした。
 今まで引っ張った直線を出来るだけ綺麗に延長して、そこから曲げて三角形を作るように線を伸ばしていく。

「よ~し、まずはここっと。【反転結界陣】」
 一本目の編を作り出すことには成功。
 次は反対側にそのまままっすぐ引っ張る。

「うっし、ここっと。【反転結界陣】」
 さらにもう一つの辺を作ることに成功した。
 まぁここまでは浄化してる時と変わらないしね。

「スピカにゃん、何やってるにゃ?」
「どうしたんですか? ご主人様」
 ボクが急に一人で作業を始めたので、二人が心配して様子を見に来てくれたようだ。

「音緒、ミア。ボク考えたんだよ。このまま辺を作っていって、五芒星を形作ったらどうなるかなって」
 音緒とミアにそう説明しながら、ボクは自分の好奇心の赴くままに再び線を伸ばしていく。

 しばらく同じことを繰り返して、最後のポイントに辿りつく。

「うん、ここが最後か。【反転結界陣】」
 最後の頂点となる場所に陣を設置すると、繋がるように二本の線が伸びていった。

「スピカ、こっちにも線が来た。きれいにつながったみたい」
「えっ? ほんとう!? じゃああとは真ん中かな」
 はたして、ボクの試みは成功するのだろうか?
 こういう実験ってワクワクが止まらないよね。

「五芒星を描くって、そんなことして意味あるのかにゃ?」
「さぁ? でも最後の最後で二本線が伸びたんだし、一応五芒星は描けてるからね」
「なんだか光でお絵かきをしているみたいで面白いですね」
「スピカ様、なかなか面白いことしますね」
「実験には興味ある。無意味でも時間はあるし、チャレンジするべき」
 ボクの実験に、みんな興味津々なようだ。
 五行で五芒星を描いて属性防御陣を作り、その真ん中に黒い勾玉を設置することで反転結界陣が起動するなら、反転結界陣で描いた五芒星の真ん中で、黒い勾玉を設置したらどうなるだろうか?
 さぁ、実験だよ!!

「よっし、いっくぞ~」
 ボクは浄化された光の道を通りながら、中心部へと向かう。
 さすがに一辺が十メートルもある大きな五芒星だから、その真ん中もかなり広い感じになっている。
 こんな状態で、上手くいくんだろうか?

「兎にも角にも、試さなきゃだめだよね!!」
 そして、真ん中に五行属性防御陣を描いて真ん中に黒い勾玉を設置する。

「【反転結界陣】」
 ボクがそう言い、術を起動させる。
 すると、ドンっという大きな音が響き、五か所から光の柱が天へと向かって立ち上っていく。

「うわわ!? なにこれ……」
「スピカにゃん、大丈夫かにゃ!?」
「なんだかすごいことになってますね……」
「光の柱が私たちを囲んでいる」
「これは……。まさか本当にうまくいくなんて……」
 そんなボクたちの想いを無視し、光の柱は天空で五芒星を描き、そして各頂点を直線が経由して円を描いていく。
 そして次の瞬間――。

 大きな音と共に、ボクたちは再びまばゆい光の本流に飲み込まれてしまった。

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