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じゃくまる

遭遇! ゴブリン部隊


「いた、平原で見たゴブリンより少しだけまともな装備つけてるみたいだ」

 マタンガ集落を出発してしばらく歩くと、森の中を進む緑色の小鬼の一団を発見した。
 五体ほどが一塊となって歩いており、そのうち二名が堆く積まれた武具を担いでいる。
 そのどれもがガラクタのようなありさまだった。

「スピカちゃん。荷運びをしているのは二体。リーダーらしきゴブリンは少し大きめで剣を持ってる。他の二体は弓とスタッフを持っているから、たぶんゴブリンアーチャーとゴブリンメイジだと思う。荷運びのゴブリンが担いでるのはどこからか持ってきた壊れた鉄装備みたい」

 眼の良いコノハちゃんは、静かに相手を観察している。
 ゴブリンたちが装備を運んでいるということは、運ぶ先が存在するということで、それはつまり鍛治設備や倉庫のようなものがあるということになる。

「あのゴブリンたち、拠点を持ってるね」
「それしか考えられない。襲撃するにしても、遠距離二体だとちょっと辛いかも」

 ボクたちの戦闘力はそこまで高くない。
 とはいえ、二体相手に負けるかというとそうとも思っていない。
 一番怖いのは戦力を見誤ることだ。

「どうしようか。襲うなら今しかないよね。拠点を探るなら泳がせておく方がいいんだろうけど……」
「私たちが見てるってことは、相手も気が付いている可能性がある。たぶん着いていっても誘い込まれて終わり」

 ゴブリンが間抜けなのは最下級くらいだと言われている。
 拠点を持っているゴブリンたちは最低でも下級以上であり、知能が高いのは間違いないだろう。
 どうしようか……。

「最優先ゴブリンメイジ。次ゴブリンアーチャー。スピカちゃん、どうする?」
 
 コノハちゃんが敵を観察しながらボクに指示を仰いでいる。
 ボクは対処法を考えながら、インベントリを見つめていた。

「毒矢の場合に使える毒消しはある。ヒールポーションもある。うん、やれる」
「わかった。合図してくれればメイジから射抜く」

 コノハちゃんはそう言うと、さっと弓を構えた。
 コノハちゃんの腕なら、外すことはあまりないだろう。
 さて、それじゃボクは……。

「鉄扇は問題なし、符は雷にしよう。よし、それじゃ開始」
「ん。了解」

 短く返事をしたコノハちゃんは、すぐさま矢を放つ。
 コノハちゃんの弓は取り回しやすい短弓なので速射が可能だ。
 見るとすぐに二本目の矢を弓につがえていた。

「二射目。今」

 まるで仕事人のようなコノハちゃんだが、狙いは正確だ。
 一射目でゴブリンメイジの背中を射抜くと、二射目でゴブリンアーチャーをねらって撃つ。
 二射目は惜しくも、たまたま転倒したゴブリンアーチャーの頭上を抜けて行ってしまう。

「次からは援護。メイジの状態が分からないから油断しないで」
「了解。行ってくる」

 ボクは早速敵の一団へと突撃することにした。
 ボクの出現に気が付いたリーダーは荷物持ちのゴブリンに指示を出し、一団から離脱させ始めていた。
 なんて機転の利くやつだろう。

「ゴアァァァァ」

 他のゴブリンに比べると頑丈そうなアーマーを着ているリーダーのゴブリン。
 その手に持っているのはタルワールタイプの曲刀だった。
 一体どこから手に入れたんだろう。

「悪いけど、ボクだっていつまでも弱いままじゃないんだからね。お覚悟!」

 ボクが接近すると同時に曲刀を振り下ろすゴブリンリーダー。
 名前は知らないけど相当なつわもののようだ。
 ボクは落ち着いて攻撃を回避した。

「素早さならボクの方が上か。でも相手は硬そうだよなぁ」

 曲刀が接地すると同時にボクは相手の側面に回り込んで振り向きざまに刀で斬りつけた。

「ガアァァァァ」

 ボクの攻撃はやや軽いようで頑丈なアーマーに阻まれはしたものの、表面に切傷を付けることには成功した。
 刀の状態は問題ない、刀身は反り返ってもいないのでまだやれる。
 量産品の打刀ではあるけど、どうにかやれそうだ。
 ボクがそんなことを考えている間に、相手は姿勢を整えたようで曲刀を力任せにボクの方に水平に振るってきた。

「わっと、危ないなぁ。危うく首が飛ぶところだったよ」

 回避するだけでは間に合わないと見たボクは、打刀を地面に突き刺し鉄扇に持ち替えて曲刀の一撃をやりすごした。
 少しだけ刀身を押し上げ、力の方向を変えることで、鉄扇の表面をなでるように曲刀が滑りぬけていく。
 力の流れを変えるならやはり鉄扇が一番使いやすい。

「ぐるるるるる」

 うなりながらも再度姿勢を整えようとするゴブリンリーダー。
 そんなにほいほいと仕切り直しなんてさせるものですかってんだ。

「そのアーマー、脇の下ががら空きなんだね。助かったよ」

 大きく曲刀を振りぬいたために脇の下ががら空きになっており、ちょうどその部分だけアーマーの保護がなかったのだ。
 すきがあるなら狙うしかないよね?
 ボクは鉄扇を脇の下に突き出す。

「グギャァァァァ」

 鉄扇の先は鋭い刃になっている。
 深くこそ刺さらないものの、軸になる腕の脇の下を大きく傷つけたのだ。
 戦闘力低下は免れない。

「グギャッ」

 ふと、別の方向からゴブリンの声が聞こえたのでそっちを見ると、三本の矢が顔面に突き刺さったゴブリンアーチャーが吹き飛んだところだった。
 どうやら撃ち合いに勝ったらしい。

「スピカちゃん、逃げたゴブリンを追う。少し待ってて」
「わかった。もう少しはどうにかなるから無理しないで」
「ん。大丈夫。相手は荷物が大量で足が遅い。まだ遠くには逃げていない」

 そう言うと、コノハちゃんは素早く逃げた方向へと走っていった。
 その姿はトラか何かのようだ。

「ハンターコノハちゃん……」

 そんなくだらないことを言いながらも、ボクはゴブリンリーダーのことは忘れない。
 ゴブリンリーダーは大きく傷つけられた片腕をかばっているため、さっきまでの攻撃の威力も速さも失っていた。
 とはいっても、かなり力はあるようで精度は落ちるもののその攻撃速度はまだまだ速かった。

「よっ、はっ、ほっと。そこ!」

 幾度か打ちあい、曲刀を弾いては鉄扇で相手の体をえぐる。
 最近刀をまともに扱ってない気がするけど、鉄扇が便利なので仕方ない。
 リーチこそ短いものの、すきを突いた攻撃ができるのでかなり重宝するのだ。

「ガアァァァァ」

 幾度かかわし、弾き、突き刺すという動作を繰り返していると、しびれを切らしたのか一か八かの大味な攻撃を繰り出してきた。
 痛む腕なんてお構いなし、正真正銘の全力の一撃というやつだ。
 両手でしっかりつかみそのまま斜めに振り下ろす。
 さすがにこれは弾くことはできない。

「よっと、危ないなぁ。うわっ、地面がえぐれてる」

 すんでのところで後方に飛びのくと、さっきまで居た場所に深々と曲刀が突き刺さった。
 曲刀の刀身の先っぽが完全に埋まるくらいだから相当力を入れたに違いない。
 案の定簡単に抜けず、すきとしてあらわれていた。

「楽しかったけど、もう終わり。少しひやひやしたけど冷静じゃなくて助かったよ。ごめんね」

 ボクはいまだに曲刀を引き抜こうともがいているゴブリンリーダーの体に打刀で斬りつけた。
 そのままだと通るか怪しいので、ちょっとだけおまけをつけてだけどね。

「『符術:炎符』『符術付与:炎符打刀』」
 
 符を一枚取り出し炎の属性を付与する。
 そしてその炎の属性の宿った符を打刀に貼り付けて刀身に宿らせるという、セルフエンチャントウェポンだ。
 この方法は前に弁慶さんに教えてもらったものだ。
 ただし、熟練度が必要だったため、つい最近になって使えるようになったばかりなのだ。

「グギャァァァァ」

 炎の宿った刀身は赤みを帯び、そのままゴブリンリーダーのアーマーごと切り裂き、体を傷つけることに成功した。
 ついでに炎で肉を焼くというおまけ付きでだ。

 振り下ろし、返す刃で切り上げ、再び振り下ろす。
 刀による三連撃でゴブリンリーダーにダメージを与える。
 そして、最後の一撃は首を狙って振り下ろされた。
 炎を宿した刀身は追加効果の延焼だけでなく、刀自体にも鋭さを与える効果があった。
 そのため、量産品だけど一時的に業物に近い切れ味が備わったのだ。

「ゴブリンリーダーの討伐完了っと。このゴブリンはなんなんだろう? 鉄の認識票か。それと、武器はそのまま残ってる。やったね! 曲刀げっとー!!」

 魔物の持っている武器は誰かの武器を強奪して使っていない限りは、その魔物の魔力で生み出される。
 そのため、所有している魔物が死ぬとほとんどの場合武器が消えてしまうのだ。
 たまにそのまま残ることがあり、それがいわゆる武器ドロップということになる。
 今回のはどっちかはわからないけど、残っている以上はドロップ品だ。

「鑑定っと。所有者なし。遺品でもないってことか。ふふ、もうかった!」
「ただいま。二体仕留めてきた。戦利品が多くてうれしい。スピカちゃん、飛び跳ねてどうしたの?」
「うぇっ!?」

 どうやらボクは意識せずにうれしさのあまり飛び跳ねてしまっていたようだ。
 困ったような顔をしたコノハちゃんがこっちを見ている……。

「なっ、なんでもない……」
「わかった。とりあえずいったん帰ろ? 敵が強そうだしアイテムが必要になるかも」
「うん、そうだね。鉄の認識票も気になるし、戻ろう」

 ボクたちは報告と補給のため、マタンガ集落へと一度引き返すことにした。

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