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じゃくまる

第2章 第20話 エレクトラの欲望とマタンガの試練


 迫りくるエレクトラから逃げ出したボクは、天狐の身体能力を使ってその攻撃(おさわり)をかわしていた。
 あんなエロ娘に触られたら何されるか分かったものじゃない。
 絶対に避けなければならなかった。

「なんで避けるのよ! 大人しく触られなさい!」
 そんなことを言ってくるエレクトラ。
 大人しく触られるわけにはいかない。

「触られたくないんだから仕方ないでしょ!? ほら、もう諦めてよ!」
 烏天狗の動きは天狐ほど俊敏ではない。
 今のボクには止まって見える動きなのだ。
 狐を甘く見ちゃいけないよ!

「はぁはぁ、なんて素早い……。そんなに触られたくないの?」
 エレクトラが息を切らせながらボクにそう言ってくる。

「そんな怪しい目つきした人に触ってほしい人も動物もいないよ!? 自分の顔を見直して来てよね!」
 今のエレクトラの目つきはまるで変質者のようだ。
 女の子が大好きなエレクトラだから興奮しているのだろう。
 それに、やたらと鼻息も荒いのでなおのこと嫌だった。

「ぐぬぬ、せっかくスピカが女の子になったから、これは!? と思ったのになぁ……」
 何がこれは!? だ。
 ボクだって好き好んでなったわけじゃないんだぞ!!

「エレクトラ! いい加減にして!!」
「ひぃ!?」
 少し離れた場所、つまりマイア達のいる場所から怒気を孕んだ声が飛んできた。
 声の主はケラエノだ。

「スピカの嫌がることはしないって約束したでしょ?」
 静かにそうエレクトラに問いかけるケラエノ。
 静かな怒気を孕んだその物言いに、ボクは思わず後ずさってしまった。

「うぅ、ごめんなさい」
 素直に謝るエレクトラ。
 妹が大好きな姉であるエレクトラは、ケラエノにはめっぽう弱かった。
 そして、ケラエノ自身も怒った時はかなり怖いのだ。
 静かな人は怒らせてはいけない、戒め。

「はぁ、普通になら触ってもいいから、変な気は起こさないでよね?」
 しょげてるエレクトラを見るのもなんなので、ボクも少しは譲歩することにした。
 とはいえ、ボクは常に警戒心は忘れない。

「おぉぉぉ……。女神様……」
 ボクの譲歩を聞いたエレクトラはおもむろに跪くと、ボクに向かってそう言いだし崇め始めるのだった。
 
「スピカもありがとう。もし変なことされたらすぐ言ってね? 真っ先に駆けつけて成敗するから!」
 ケラエノは拳を握りしめながらそう言う。

「あはは……。ありがと」
 マタンガのことなどきれいさっぱりに忘れたかのようなドタバタ騒ぎに、ボクは少しだけ疲れてしまった。

「ねぇ、三人とも? イチャイチャしてるところ悪いんだけど、マタンガが気を利かせて待ってくれてるよ?」
 マイアの声に、ボクは周囲を見回すと、マタンガがボク達を取り囲みながらじっと待っていた。
 どうやらボク達のドタバタ騒ぎを聞きつけ、集まってきたようだ。
 これはやばい……。

「ていうか、何で待ってくれてるの!?」
 一番の謎は準備が整うまで待ってくれているマタンガ達だ。
 どうして待ってくれているんだろう?

「えっとね、マタンガの掟で、戦闘準備が出来てない者に襲い掛かってはいけないというのがあるらしいんだ。たぶんそれ」
 マイアが近くのマタンガと何やら話しながらそう教えてくれた。
 ていうか、マタンガ話せるの!?

「マタンガ、話せるんだ……」
「うん、精霊種らしくて念話だけどね。ここはマタンガ達の修行場なんだってさ」
 まさかのマイアの特殊能力に、ボクは驚いていた。
 マタンガと話せるなんてなにそれすごい!

「マタンガの身体はいくらでもスペアがあるらしくて、倒されたら倒されたで本体の精霊体が別の身体に入り込むらしいんだよ。この場所でマタンガ種の精霊は、来るべき戦いに向けて日々鍛えているんだってさ」
 どうやらマタンガ達には目指すべき目標があるらしい。
 それで彼らは常にボク達に襲い掛かってくるようだ。

「え? うん、そうなんだ……。あっ、うん。わかった」
 隣にいた大きなマタンガに何やら話しかけているマイア。
 ひとしきり頷いた後、ボクの方に向かって口を開いた。

「えっとね、強者達よ、よくぞここまで同胞を打倒し辿り着いた。この先の攻撃はさらに苛烈を極めるだろうが、それを乗り越えたものに里への入里許可を与えるだってさ? もう一息だよ、がんばって!」
 まるで他人事のようにそう言うマイア。
 まさか今までの戦闘が全て試練だったって言うの!?

「マタンガ、ボク達が思っていたよりも賢いんだね。この先の里にはなにがあるんだろう」
 マタンガ達が試練を与えてまで里への立ち入りを制限する理由。
 一体里には、どんな秘密が隠されているんだろうか。

「それじゃ、私もそっちいくから、準備出来たら武器構えてほしいってさ。そうしたら攻撃開始だって」
 マイアはそう言い終わると、隣にいた大きなマタンガに一礼して手を振ってからこっちにやってきた。

「それじゃ、最後の戦闘がんばろう!」
 マイアがそう言い、エレクトラとケラエノが態勢を整える。
 ボクも戦いの準備を整えてから、マイアを見る。

「それじゃあ、いくよ」
 マイアはそう言うと、小さな手をすっと上げる。
 それを見たボク達は、とっさに武器を構えた。

「最終戦、スタートッ!!」
 マイアがそう言うと同時に、周囲のマタンガ達が一斉に襲い掛かってきた。

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