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じゃくまる

第2章 第1話 メルヴェイユフェスティバル準備1


 八月十三日、今日はメルヴェイユの街のフェスティバルが行われている。
 現実では夏休みも折り返しに入ってきているし、八月十五日にはお祭りもある。
 それに、泳ぎに行く予定もある……。

「いらっしゃいませ! お席へどうぞ」
 今日行われているフェスティバルは二重の意味で大賑わいしている。
 
 まず一つは、異世界人冒険者がこの世界に来たお祝いのフェスティバル。
 世界の解放に期待を込められていると言っても過言ではないと思う。

 二つ目はハイオーク集落の解放と開放が行われ、交流が盛んになったこと。
 そしてハイオークが持っていた鉱山から大量の鉄が産出し、それがメルヴェイユに流入したことだ。
 マーサさん曰く、ハイオークの軍勢は勇猛果敢で前線の壁であるとのこと。
 つまり、戦力的に大幅アップとなるのだ。

 そしてボク達にとっても嬉しいこと、それは、絆の要塞の位置が判明したことだ。
 現在その場所は、黒い闇に覆われており、内部の確認が出来ないという。
 闇を払う呪術を完成させるためには時間がかかるため、しばらく待ってほしいと村長さんがそう言いに来ていた。

 ケイアン君はあれ以来、ボクの付近にはあまり近寄らない。
 理由は知らないけど、ボクを見ると隠れるのだ。
 ちょっと悲しい。

「あれは照れてるんだよ。子供らしいじゃないか」
 アーク兄はニコニコしながらケイアン君の行動を見てそう言う。

「ふぅん? まぁそれはそれとして。結局やるの?」
 ボクがそう問いかけると、アーク兄は嬉しそうにしながら。

「当たり前だろ? 『ハートブレイク』の連中に相談して場所とかテントも用意したんだ。やらなきゃ損だって!」
 アーク兄は興奮した様子でそう語る。
 
 ボク達が何をしようとしているのかって?
 それはボク達がこれから――。

「あらぁん? アークちゃんにスピカちゃんじゃないのぉ? お店の準備どう? うふっ。アタシ達はお隣だから遠慮なく相談してくれていいのよぉ?」
 この不思議な話し方をするスキンヘッドの大柄な男性は『レイン』さんだ。
 同じパーティーメンバーでメルヴェイユの街でテント式のお店を経営している。
 人気な食べ物は、『メキシカンジャンバラヤ』『チリコンカーン』などの中南米系の料理だ。
 スパイシーさが癖になると、現地の人に大人気なのだ。

「あれ? 『アリス』ちゃんと『ドロシー』ちゃんは?」
 アーク兄が辺りを見まわしたながら、レインさんにそう尋ねる。

「アリスちゃんとドロシーちゃんは買い出しよ。市場で香辛料などを買い込んでるのよ」
 アリスさんとドロシーさん、二人とも男性だ。
 ちょっと高めな声の男性がアリスさん。
 少しハスキーな声がドロシーさんだ。

 アリスさんは少し小柄な女装系男子で、思ったよりも女性に見える。
 たまに女性に見えるのは、努力のたまものなのか、自然の動作なのかはわからない。
 男性陣人気ナンバーワンだ。
 
 ドロシーさんは爽やかなイケメンだ。
 背も高く、クールな表情が人気だ。
 元々は会社を経営していたそうだけど、部下に譲って悠々自適な生活をし、趣味とバーの経営をしているらしい。
 資産は相当な額があるらしい。
 当然女性陣人気ナンバーワンだ。

「色物揃いの『ハートブレイク』だけど、その実態はハイスペック超人的変態だからなぁ」
「アーク兄、言い方」
「あら、いいのよぉ? アタシ達は全員変だということを理解しているから」
 そんな色物メンバーをまとめるのが、リーダーのレインさんだ。
 レインさんの経歴だけは謎なんだけどね……。

「それにしてもいいお店ねぇ? スピカちゃんとアニスちゃんがよく利用してるって聞いたけど」
「あはは……」
 レインさんがきょろきょろと辺りを見まわす。
 
 今いる場所はアニスさんのオススメの喫茶店だ。
 数少ない流通ルートから紅茶の茶葉やコーヒー豆を仕入れ、提供している。
 ショートケーキが美味しいと評判のお店なのだ。
 ケーキに関しては、試行錯誤して作り上げたらしいけど、詳しいところは知らない。
 お値段はそれなりにするのだが、人気ゆえにすぐになくなってしまう。

「あの店主の男性、イケメンねぇ。あんな中年男性に抱かれてみたいわぁ」
 店主さんを見て「ほぅ」っとため息を漏らすレインさん。
 店主さんは、ナイスミドルと言われるタイプの中年男性だ。
 すらりとした体躯、引き締まった体。
 髪の色は白髪混じりでグレーで、店主さんには大変よくあっていると思う。
 いわゆるロマンスグレーというやつだ。

「スピカちゃんの熱い眼差しをあの男性に感じるわぁ。これは恋ね」
「ぶほっ」
「アーク兄、汚い」
 レインさんの言葉を否定するよりも先に、思わず噴き出したアーク兄に注意をする。
 
「残念ながら、ボクには恋とかそう言うのはわからないんですよね。でも、ああいう人は見ていて落ち着きます」
 今のボクにはそういうことはわからない。
 でも、安心できそうな人とそうじゃない人の区別くらいは出来る。

「はぁ、スピカが恋かぁ。お兄ちゃん悲しい」
 どこかを遠くを見つめながら、アーク兄がそう漏らす。
 まるでお父さんみたいだ。

「そういえば、マイアは?」
 合流予定のマイアがまだ来ていないので、連絡を受けているはずのアーク兄に尋ねる。

「お昼過ぎに来るって言ってたから、もう少しかな? 今日友達と午前中出掛けるって言ってたしな」
 ちなみにボクは朝遅く起きたため、妹とすれ違うことは出来なかった。
 なので、ボクだけが事情を知らないのだ。

「まだ小学生だもんね。楽しく遊んでほしいよ」
 妹はまだまだ幼い小学生だ。
 伸び伸びと育ってほしいと思う。

「いや、女子グループで買い物らしいぞ? 自分達のも買うようだけど、寝てるスピカの写真撮ってたからスピカの服も買ってくるんじゃないか?」
「えぇ!? いつのまに!」
 ボクが知らないうちにボクの服がどんどん決まっていくことに、軽く恐怖を感じざるおえなかった。
 ボクの意思はいつ反映されるのだろうか?

「まぁ、どんまい! マイアは世話焼きだからな。そのうち専用クローゼットが出来るぞ」
 アーク兄がさわやかな笑顔でそう言い切る。
 いたずらする時だけは、嬉しそうに言うんだから……。

「さて、そろそろ屋台の下見をしますかね」
「はーい」
 アーク兄は残っていたコーヒーを飲み干すと、立ち上がって会計を済ませに向かう。

「ごちそうさまです、アーク兄」
「アークちゃん、アタシにもありがとね」
「あいよ~」
 出来る男は会計もスマートに済ませるのだった。

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