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じゃくまる

閑話 昴の休日3


 前にも来たことのあるショッピングセンターの二階エリアに、今回立ち寄る水着を扱うファッションショップが存在している。
 一階エリアはエントランスも含んでいるので通路の両サイドに店舗があり、上部は吹き抜けとなっている。
 対して、二階より上のエリアはエントランスがないため、テラスのような形で出っ張っているのだ。

 温水プールも完備した温泉施設が近くにあるので、二階エリアのファッションショップでは、年中水着の販売も行われていたりする。

「温水プールもいいけど、とりあえず海だよね? お姉ちゃん」
 お店に入り、さっそく物色するミナ。
 でも、ボクはあまり乗り気ではない。

「ねぇ、ミナ。行かなきゃダメ?」
 ボクとしては海は苦手だったりする。
 海の幸は好きだけど、それとこれとは別なのだ。

「どうしても行きたくないなら仕方ないけど、行きたくない理由は水着になるのが恥ずかしいとか?」
 ミナは強引な所はあるけど、話は聞いてくれるのだ。

「水着はこの際我慢するよ。そんなことよりも、毛が痛むのが……」
 水着が見られるのは確かに恥ずかしいのだが、そんなことよりも何よりも、毛が痛むことの方がつらいのだ。
 他の人は知らないだろうけど、我が家には尻尾専用の浴槽が存在しているのだ。

 お風呂の縁に座り、尻尾をお湯に浸す。
 そして水気をたっぷり帯びた尾をマッサージするようにシャンプーとコンディショナーでしっかり手入れをするのだ。
 しっかり洗えば毛の抜ける量も減るので、人用浴槽に尻尾を入れても問題はなくなる。
 一日一回は必ず妖狐姿になり、このように手入れをするのだ。

 なお、この専用浴槽は、お父さんとボクだけが利用している。

「あぁ~。お姉ちゃん毛のお手入れだけはしっかりしてるよね。あれ? じゃあ何で今朝は髪の毛ぼさぼさだったの?」
 そういえばという感じで、ミナが問いかけてくる。

「あはは……。髪の毛まで気が回ってなくてさ。耳と尻尾のお手入れが最優先にしてたから……」
 ボクは素直に白状しました。
 髪の毛のことをすっかり忘れてました。
 耳と尻尾のお手入れは毎度のことなんだけど、髪は初めて長くなったので、手入れ方法がよく分からなかったのだ。

「ふぅん? そうなんだ。あっ、この水着いいかも」
 ボクの話を聞きながら、ミナが水着を選んでいく。
 自分の身体に当て、ボクの身体に当てを繰り返す。

「お姉ちゃん、いっそビキニに……」
「嫌だよ!?」
「だよね~。それじゃあ、普通にワンピースタイプで……」
 自分でも着ないビキニタイプを、なぜボクに勧めようとするのか。

「う~ん、色は~……。そういえば、向こうじゃ妖狐にならないんでしょ? 髪の毛が痛むだけも嫌なの?」
「うぐっ」
 たしかにおかしいと思うよね?
 手入れ方法が良く分かってなくてぼさぼさにさせてたのに、潮風での痛みを気にするなんてさ。

「う~ん。ぼさぼさにしてたのは完全にうっかりだったんだけど、潮風で髪の毛も痛むでしょ? 手触りが悪くなるし、なんか嫌だなって。まぁ、あとで良いお手入れ方法聞いてくるよ」
 毛が痛むから行きたくはないものの、無下に断るのも悪いので、露出は減らして行くことにする。
 あとは、潮風で傷んだ時の良いお手入れ方法かなぁ……。
 あっ、紫外線もか。
 やること多いなぁ。

「お姉ちゃん、なんだか楽しそうだよ? お手入れ方法でも考えてたの?」
 ミナがボクの顔を覗きこみながら、そう問いかける。

「やること多いなって思ってたよ。でも、手触りも戻るなら問題ないかな。お父さんたちもいるしさ」
 自分の毛並みには自信を持ちたい、ボクはいつもそう思っている。
 天狐種として性別が決まった後は、なおさら良い毛並みと心地よい手触りについて追及している。

「はい、じゃあこの水着試着してみて。これとこれとこれね。お姉ちゃんが好きそうなもの選んだから」
 いつのまにか、ボク用に水着が三着選ばれていた。
 それをボクに手渡し、ミナは自分用と思われる水着を三着手に取る。

「私はこれだから、ちゃんと着てね?」
 そう言うと、ミナは試着室へと入っていった。
 ここは女性専用なので、男性がいないので安心といえば安心だ。

「うぅ~。仕方ないか。……というか、水着ってどう着るの!?」
 思えばこの方、水着を着たことはなかったのだった。
 
 この後、水着を着たミナに着用を手伝ってもらうことになった。
 姉とは一体……。

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