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じゃくまる

第28話 月天狐の力とモフモフと


『悪いワンコはお仕置きだよ』
(ボクは犬じゃない……)
 暗い闇の中、どこからか声が聞こえてくる。

『ボクに楯突くなんて悪いワンコだ、罪を償ってもらわなきゃね!』
(ボクは悪いことなんてしていない!)
 暗い闇の中、声が聞こえた方向を向く。
 しかし、そこには誰もいない。
 
 でも、聞こえてくるんだ。
 ひたひたと何かが近づいてくる音が……。
 誰かの足音が……。

『そんなところにいたんだね、悪いワンちゃん?』
 ボクの背後で止まった足音。
 振り向くと、紅い瞳のボクがボクを見つめていた。

『悪い子はお仕置きだよ?』
 暗闇の中のボクは狂気に満ちたような笑顔をしながらそう言った。

「ハッ」
 目を開けると、心配そうに覗きこむコノハちゃんとミアがいた。

「起きた、大丈夫?」
 コノハちゃんが心配そうにしながら、ボクの頭を撫でる。

「ご主人様、お加減はいかがですか?」
 ミアはボクのおでこから何かを下すと、水に浸してから再びボクのおでこにそれを乗せてきた。
 濡れたタオルのようだ。

「うん。ありがとう、ミア」
 いつの間にか、ミアと初めて出会った泉に来ていたようだ。
 あれからボクはどうしたんだっけ?

「スピカちゃんは急に気絶して倒れました。無事でよかった」
 年下の子に心配してもらうなんて情けない限りだ。
 少なくともボクはお姉さんなのにね……。

「お加減はどうですか?」
 世話焼きなミアは、心配そうにボクに尋ねてくる。
 身体に不調はないようだし、たぶん大丈夫だろう。

「うん、ありがとう。特に問題なさそうだよ」
 ボクは笑顔でミアにそう伝える。

「よかったです。しかし、その姿は変わりませんでしたね」
 ミアが頭とお尻を指さしながらそう言う。
 言われた場所を触ると、あった。

「あはは、仕方ないよ。これがボクだもん。でも、まだ夜なんだね」
 ボクは妖狐の姿は嫌いじゃない。
 なので、気にするほどのことでもないけど、まだ夜ってことは暴走に注意しなければいけないだろう。

「スピカちゃんの耳と尻尾、触り心地がいいから好き」
 そう言うと、コノハちゃんはボクの耳と尻尾を無遠慮に撫で繰り回す。

「わひゃぁっ! や、やめてよ~」
 いきなりの刺激に背筋がぞわぞわしてしまった。

「あっ、ごめん。そんなに反応するなんて思わなかったから」
 コノハちゃんは謝るものの、尻尾から手を放そうとはしない。
 撫でるのを止めただけで握ったままだ。

「うぅ……。いいけど、触るなら断りを入れてから、ゆっくり触って」
 撫でられて思ったことだけど、耳も尻尾も敏感な感覚器官のようだ。
 優しく撫でられると、何とも言えない感覚に背筋がゾクゾクしてくる。
 その上、お尻の辺りがむず痒いようなそんな変な感覚がする。

「ご主人様、尻尾を撫でられるたびにクネクネ動くのはおやめになられた方が……」
「ぼっ、ボクだって好きでやってるわけじゃないんだよ~!!」
 ボクは思わずそう叫んでしまった。
 この気持ちはきっと誰にも分らないだろう。


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「【風刃雷符】」
「ギャンッ」
 稲妻を帯びた風の刃でダンジョンブラウンウルフを切り裂く。
 風と雷の2種類の符を合わせることで生み出される攻撃は、結構えげつない威力がある。

「【雷刃炎符】」
「ギャウンギャウンッ」
 雷と炎を合わせて作り出した、炎を纏った雷の刃だ。
 切断面をきれいに焼き切ると同時に、その肉を炎で焦がす。
 主に内側から焼き尽くすような攻撃だ。

「その組み合わせ、結構えげつないから見てて辛くなる……」
 心優しいコノハちゃんは視線を反らして見ないようにしていた。

「あはは、確かに痛そうだよね」
 そうは言うものの、意外とボクはそう感じていなかった。
 暴走こそしないものの、気分はまだ高揚したままなのだ。
 きっと夜のうちはこうなのだろう。

「夜のご主人様は楽しそうです。背徳的なくらいに」
 ミアが敵を倒しつつそう言う。
 そんなことないと思うんだけどなぁ……。

「あっ、レベル上がった!」
 コノハちゃんは無事レベルが上がったようだ。
 ついでにボクも無事に上がってくれたので良しとしよう。

「ミアのレベルはどのくらいになった?」
「私は8ですね。ハイスピードで上がっています」
「8!? すごいね? 速すぎない!?」
 ミアのレベルアップ速度にはさすがにちょっと驚いた。
 とは言うものの、ボクもコノハちゃんも揃って今は14レベルなのだから、上がっててもおかしくはないかもしれない。

「スピカちゃん、魔力切れないの? さっきからずっと威力の高い魔術使ってるけど」
 コノハちゃんはボクの魔力残量が心配なようだ。
 でもご安心あれ、符術は符を媒体にしてるだけあって、思ったよりも燃費はいいのだよ。
 五行刻印だともっと大規模な範囲攻撃が出来るけど、その分燃費は悪化するので思ったよりも連発は出来ない。
 それに、夜だとMP回復速度もあがってるから加減しながらやれば休みなしで使用できるんだ。

「あっ、そろそろご飯に行かないと」
 コノハちゃんがそう言うと、ボクに時計を見るように合図を送ってくる。

「えっ、もう14時!? やばい」
 しまった、怒られる!

「それじゃ、さっきの場所に行って一旦ログアウトね。休憩所は長く持つタイプ設置しておくね」
 ボク達は安全地帯へと向かい、そこで落ちることにした。
 きっと休憩所のテントの中では、ボクとコノハちゃんのキャラが仲良く並んで寝ていることだろう。
 ミアも一緒に寝るのかな?


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「お姉ちゃん、ご飯だよ」
「あうう、ごめんよ~」
 コフィンから出ると、ミナが怒った顔をして待っていた。
 どうやらずっと待っていたようだ。

「もう食べた?」
 ボクがそう聞くと、ミナは首を横に振る。

「まだだよ。いこ」

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