アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。
第23話 日本昔話とお婆ちゃん
ボクの祖母、八坂ココノツはちょっと変わった女性だ。
息子が大好きで、その孫が大好きで仕方ないのだ。
その溺愛ぶりは、子でも孫でも変わらない上にとことん甘い。
祖父母というのは一般的に孫に甘い風潮があるけど、ココノツお婆ちゃんの場合はそれに輪をかけて甘いと言える。
その証拠に――――。
「よ~く似合うのぅ! 妾の見立てに狂いはなかったのぅ!!」
下手すればボクと姉妹にすら見えてしまう、そんなお婆ちゃんが喜び全開、満面の笑みを浮かべながらボクを見ている。
アルケニアオンラインにログインしたボクは、そのままお婆ちゃんの所に向かった。そしてものの見事にお婆ちゃんに捕まってしまったのだ。
「これって……、いわゆる十二単ってやつ……?」
何重にも重ね着された衣は自分出来ることは難しく、その上一度着用してしまうと慣れるまでまともに動けなかった。
しずしずと歩かなければすぐに裾を踏んでしまい、その度に転んでしまう。
ところで、何でこれを着ているのかというと……。
「のぅ、昴よ。妾は平安の世にそちらの世界で遊びまわっていた時期があるのじゃ」
部屋に招き入れたお婆ちゃんは、唐突に昔話をしだした。
遠い過去の大切な思い出を思い出すかのように、お婆ちゃんは語る。
「当時はのぅ、それはそれは公家屋敷だけは華やかであった。まぁその反面、市井はひどい場所も多かったわけじゃがのぅ」
授業で習ったことのある平安時代は、主に貴族文化についてのみ語られることが多い。
そのためか、一部の人は市井も華やかだったのでは? と勘違いする人もいた。
「妾とその知人の妖怪達はよく京へと赴き、様々ないたずらをしたものじゃ。あぁ、玉藻前等が有名なのは知っておるじゃろ? 妾は彼女らから影になるようにいたずらしておったから一度も表に出ることはなかったのじゃ」
お婆ちゃんが語る妖怪との一時、若い頃のお婆ちゃんは結構なお転婆だったようだ。
有名な妖怪の名前が出てきたときは、さすがに驚きはしたものの、お婆ちゃんのことじゃなくて良かったと安堵もした。
「そんな時じゃ、妾はとある陰陽師の男と恋に落ちた。燃え上がる炎のように愛し合い、やがてその男が寿命を迎えるまで共に傍に居たものじゃ。詠春はのぅ、その時の子なのじゃ。だからかのぅ、大切で愛しくてたまらぬのは。あやつの形見であるからこそ、女からは遠ざけておったのじゃがのぅ」
旦那さんとの馴れ初めを語るお婆ちゃんは、少女のようにキラキラしていた。
そしてその思い出を、恋する乙女のようにかみしめながら1つ1つじっくりと語っていった。
何が好きで、何をしたのか、どこをいじると喜ぶのか、どんな体位が好きなのか……って、ちょっとまって?
前半はいいけど、後半は一体どういうこと!?
「おぉ、すまぬすまぬ。つい余計なことまで語ってしまったのじゃ。孫娘に自分の性癖を一部始終ばらされたあやつは今頃、彼岸で涙しておるのじゃろうな」
コロコロと口元に袖口を当てながら笑うお婆ちゃん。
昔はと言っていたけれど、今でも十分いたずらが好きなようだ。
性分って変わらないものなんだねぇ。
「まぁ妾が言うのもなんじゃが、あやつは見た目に似合わず助平でのぅ。それはもうともすれば一日中「ちょっと待とうか、お婆ちゃん」なんじゃ、良いところじゃったのに」
良いところも何もないよ!?
何変な話ししようとしてるのさ!?
「昴もそのうち関係してくる話じゃぞ? 何せ妾の血を引くのじゃから「わー! わー! きこえな~い!!」なんじゃ、騒々しいのぅ」
「騒々しいのぅ」じゃないよ、まったく。
孫に聞かせるような話じゃなかったよね!?
「初心なのは美徳じゃが、男に対して壁を作りすぎても仕方ないのじゃがのぅ。とはいえども、手を出したら妾が承知しないのじゃがのぅ」
お婆ちゃんはそこまで言うと、また再び口元を抑えてコロコロと笑った。
「はぁ、まったく……。そもそも13歳なのにそんなこと考えるわけないでしょうに。お婆ちゃんじゃないんだから!!」
未だ着用している十二単の袖口をパタパタさせながら、ボクは抗議する。
自分じゃ脱げないんだからねっ!!
「洋服も良いのを集めて来ておるから、あとで着せ替えねばのぅ。ゴスロリと甘ロリもあるから、楽しみじゃのぅ」
十二単は手始めに着せられただけで、これで終わったわけではなかったのだ。
ついでに言うと、ボクは天狐姿になるように言われており、妖狐の十二単姿という合うのか合わないのかよくわからない姿になっていた。
ちょっと、誰かな? 寸胴だからよく似合うんだね! とか言った人は!?
「さてさて、次はゴスロリからじゃのぅ。くふふ、楽しみじゃのぅ」
両手の指をうねうねとさせながら、発情したような顔をして迫ってくるココノツお婆ちゃん。
なまじ少女のようにも見える姿であることから、大変卑猥に、そして背徳的に見えていた。
そう、いつものお婆ちゃんは大人の女性といった感じの出るところが出て引っ込むところが引っ込んだような体をしているのに、いつの間にか今は、発育の良い少し大人な少女のような姿になっていたのだ。
「くふふ、この姿、気になるのかのぅ? これはのぅ、あやつも大好きであった「もう! お婆ちゃん!!」なんじゃ、つまらんのぅ。また一つあやつの性癖が漏れてしまったのぅ」
もはやお婆ちゃんはわざとやっているとしか思えない。
見たこともないお爺ちゃん、死に恥を晒す気分は分かりませんが、せめて指を指されて笑われませんように。
ボクは迫る魔手から逃れつつ、そう祈るのだった。
ちなみに、ボクはこの後しっかり捕まった。
そして、ゴスロリから始まり甘ロリ、白ゴス、どこぞのお姫様のような衣装やベリーダンサーのような衣装、果てはスクール水着に至るまで、様々な服を着せられたのだった。
もちろん、お婆ちゃんの手にはカメラがあったのは言うまでもないことだろう。
その写真と映像は、どうするつもりなんですか? お婆ちゃん。
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