美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい
ハルトくん、友達いないからね
「美味いッ! 革命的だッ!」
「ね~。しょちゅう安くなるからおすすめだよ、ここ」
全く噛み合っていないようで、しっかり成立している謎。
二人並ぶと、本当に同じグループの人間なのかと疑いたくなる。
数時間ほどのカラオケ大会を経て、フードコートに移動し軽食。
言うてもう晩飯だけど。クレープは甘いのよりお食事系が好き。
「……いい加減、機嫌直せって」
「お気になさらず」
「あれや、味があるっていう奴や、そう、それそれ」
「皆さん、いつも同じようなことを仰います。お世辞でも褒めてくれる方なんて誰も居ません」
めんどくせえ。
一向にテンションが下がったままの琴音であった。
いや、可哀そうと言えばそうだけど。
調子に乗った瑞希のせいで、3曲くらい続けて歌わされるし。全部童謡だし。
別に歌が下手だからって、どうということないだろうに。
俺は上手かったけど。偶々。そういうこともある。うん。
90点も取っちゃった。うふふ。
「良いじゃない、琴音ちゃんにもそういう一面があるんだなって、ギャップってやつ?」
「そうそう、愛莉の言う通りや。むしろあの領域に達したら個性と言っても過言やないで」
「…………はい、どうも」
必死のフォローもどこ吹く風。もう触れない方が優しさか。
「ハルーっ、これ食べてみなよっ。めちゃ美味しいからっ」
「何味?」
「あずき」
絶妙に裏切ってくるなコイツ。
「うん、まぁ、美味いわ」
「でしょーっ!」
「……なんか、意外やな」
「そう? こう見えて和風大好き人間だしっ。海外生活長かったから、その影響もあるかも」
確かに、クレープと言ったら迷わずバナナチョコスペシャルみたいなイメージはあったかもしれん。あとこういう奴はたいがいタピオカミルクティーを致死量レベルで飲むし、ス〇バで写真を撮りまくって激選の一枚をアップするし、誕生日にはやたらサプライズをしたがる。ド偏見。
「で、ハルはなに食べてんの?」
「ピザチーズ」
「わー、男っぽいなー」
「ぽいもなんも男だろ」
「いやほらっ、チョイスがさ。甘いの食べないの?」
「んなことねえけど、まぁ、敢えて選ぶことはないな」
「ほーん……ハルはやっぱりハルだな~」
勝手に納得されても困るんですけど。
でも、確かに、そうだな。
俺、コイツらの趣味とか趣向とか、なんも把握してない。
別に興味があるわけじゃないけど、最低限の情報も無いことに今更気付くのである。
そうか。友達って、こういうところからやんなきゃいけないのか。
どうしよう、面倒くさい。すげえどうでもいい。
「……んっ、瑞希」
「ふぁっ?」
「生クリーム、顔に付いてんぞ」
「へっ? どこどこ?」
「あぁ、そこじゃねえ。もっと上」
「んんー? どこ?」
「ほら、ジッとしてろ」
彼女の頬に指を伸ばし、サッとクリームを掬う。
食べ方が汚い。和風好きを自称するなら、その辺気を遣えってんだ。
「うえぇっっ!?」
そのままパクリ。うむ、実に美味。
甘いもの、もうちょっと食べてみようかな。節制しているわけでもないし。
「…………うん、たまにはいいな。こういうのも」
「あっ…………え、ハル、食べた?」
「え、あ、うん。なに、返して欲しかったのか?」
「い、いやいやっ……そこまで意地汚くねーしっ。ただ、そのっ」
珍しく歯切れの悪い瑞希。
え、なんだ。なんか悪いことしたか俺。
「…………ハルってさぁ。こないだの試合の時もあったけど……なんか、距離感がアレだよね」
「アレ?」
「もしかして、ゴールの後にギュッてしたやつ?」
「ちょっ……いっ、言わないでよっ! あれホントに恥ずかしかったんだからっっ!」
悪戯っぽく笑みを浮かべ呟いた比奈の言葉に、愛莉が慌てふためく。
確か、点取ったんだからもっと褒めろ言われて、抱擁を交わしたあれのことか?
まぁ、人前でやったのは悪いと思ってるけど……ん? なに? どういうこと?
「言わんとしていることは分かります。この方は、女性に対する気遣いが全くありません」
「あー……分かるわ。ハルトって、女心とか一切理解できないタイプよね」
「……は、はぁ」
この二人に言われるとすげえ違和感なんだけど、まぁ黙っておこう。
「ハルトくん、友達いないからね。そういうの分からないんだよっ」
「おい、失礼だぞ」
「でもホントのことだもんっ」
「いや、分らんて。なんで? 別にええやろ付いてたクリーム食べるくらい」
「ハァァァァァーー……はいっ、分かった。無自覚なんだね、ハル。じゃ、もういいっす」
「えぇ……」
だから、勝手に疑問持ち掛けて勝手に納得するの、辞めて貰えませんかね。
すごい引っ掛かるんだけど。なに、女心とか。
分かるはずねえだろ。教えろ。
「悔しいです」
「はっ?」
「ハル如きにドキドキさせられたことが、あたし、非常に悔しいです」
「いや、知らんて」
「この借りは、必ず返すっ! というわけで、次! どこ行くのっ! 決めて!」
「えぇ……また俺が決めんのかよ」
よく分からんが、とりあえずみんな食べ終わっているので移動するよう。
いや、そうは言っても、俺だって特に思い浮かばないのだ。
何度だって宣言するが、こういうそれらしい遊びをしたことがないのだから。
高校生の退屈しのぎ……なんだろう。ダメだ考えろ。
カラオケ、スイーツ。とりあえずこれはクリアしたわけだから、後は……。
「じゃあ、私が決めていいかな?」
思わぬところから助け舟が。珍しい、比奈から提案とは。
いや、まぁでもフットサル絡んでなかったら割と普通の女子高生だよな。
この面子で誰よりもスイーツ事情に詳しいとか意外性の塊だろ。
「琴音ちゃん。練習の成果、見せたくない?」
「…………と、言いますと」
「やだなぁ。ずっと練習してるでしょ? 今こそ見返すチャンスだよ」
「……なるほど」
そう呟いた彼女の見据える先は。
「……あぁ、懐かしいな」
結局、こういう流れになるんだよ。
やっぱり一日に一回くらい、ボール蹴っとかないと、ね。
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